第62回全日本鍼灸学会学術大会 九州大会

太古丸で博多へ
太古丸で博多へ
学会は2日目より参加
学会は2日目より参加
特別講演をする島田先生
特別講演をする島田先生

67日~9日の3日間、博多のアクロス福岡で第62回全日本鍼灸学会学術大会 九州大会が開催された。私も太古丸で博多入りし、学会には2日目の朝から参加。今回は首藤先生による「若者に向けるランチョンセミナー」と、「超旋刺」の実技講演があり、塾長を応援するつもりで参加を決めたが、学会の充実した演題の数々に勉強意欲が高まり、とても充実した2日間となった。

 

教育講演は久留米大学医学部教授・内村直尚先生による「ストレスや睡眠とからだやこころの疲労」。寝不足はストレスを解放できず、血圧がコレステロールの値が上がり、糖尿病のリスクが高まることや、睡眠時間が6時間を切るとこころの病をおこし、反対に9時間以上寝ると睡眠の質が低下して早死にする。質の良い睡眠をとるためには、まず早起きをすることが早寝につながること、そして脳の疲れを取るためには睡眠しかないという。質の良い睡眠をとれば成長ホルモンが分泌され、頭が良くなり、肥満にならず、肌がきれいになるそうだ。やはり古典に書いてあるように、自然界に同調して生きるのが正しいのだと納得。

 

特別講演Ⅰは大分大学医学部 名誉教授の島田達生先生による「電子顕微鏡が捉えた皮膚の不思議な世界」。鍼灸が皮膚を刺激することによって、体にどのような影響を与えているのかということを細胞の世界から解説された。スライドには「超旋刺の謎に迫る」とあり、浅い鍼を高速回旋させる首藤先生の鍼がなぜ効くのかということを、極小の世界から観察した画期的な発表だった。超旋刺の刺激が、表皮内にあるランゲルハンス細胞やTリンパ球を活性化させて免疫力を高め、真皮にある自由神経終末、マイスネル触覚小体等の刺激が脳幹を通じて間脳や大脳皮質に通じ、それは自律神経系の調節や体知覚にも関与していることが予想されるそうだ。経絡との関連では表皮直下の密な網目の細網繊維板が体全域に広がり、消化管、気道系、尿路系ともつながっているのだという。とすれば、証によって経絡を使い分ける意味とどんな関連があるのかという興味が湧く。島田先生の今後の研究を期待したい。

 

首藤先生の講演は大人気
首藤先生の講演は大人気
首藤先生のランチョンセミナー
首藤先生のランチョンセミナー
サインの求めに応じる首藤先生
サインの求めに応じる首藤先生

実技セッションでは、山崎浩一郎先生の「太極治療の基礎と実技」、朝日山一男先生による「スポーツ現場における鍼施術」を受講、朝日山先生の治療は解剖学だけでなく経絡も考えたもので、病態に合わせて局所への強刺激からパイオネクス(円皮鍼)の添付までおこなう。現代医学と古典医学のどちらにも偏らない柔軟な姿勢は理想的であり、スマートな講演に感銘を受けた。

 

そして実技セッションの最後は首藤傳明先生の「超旋刺」。今回の実技セッションはビデオによる実技の閲覧であり、特に首藤先生の実技はぜひとも生で見ていただきたいので少々残念だったが、81歳になられた先生の手技はとても素早く、私が見学していた10数年前と全く変わっておらず、動画からもその迫力は充分に伝わってきた。隣に座っていた若い女性鍼灸師、暗い部屋の中で熱心にメモを取っていたのは感心したが、曲池、肩井、足三里などとツボの名前ばかり書き込んでいて、肝心の取穴をする場面や刺鍼をする様子は見ていなかった。「そこが大切なのに」とも思ったけど、おせっかいオヤジは嫌われるので黙っていました。

 

それにしても、81歳という年齢で全日本学会の講演を2コマ(2時間)こなしたうえに、2日目の夜は経絡治療学会の馬場先生らと1時頃まで飲んでいたというのだから驚きだ。弟子が言うのも何だけど、こんなすごい先生は他にいない。首藤先生は今学会の目玉だったと思います。

 

実技セッション・超旋刺~私の臨床
実技セッション・超旋刺~私の臨床
   首藤先生と弦躋塾生
   首藤先生と弦躋塾生
ポスター発表をする伴先生
ポスター発表をする伴先生

ポスター発表では、伴尚志先生の「難経は仏教の身体観を包含していた」が興味深かった。難経の脈診における思想配分は22難中に黄老18難、仏教3難、讖緯説1難とし、「『難経』は黄老的な身体観を基本としながら、仏教の身体観を多く取り入れてると言える」という内容の発表で、とても勉強になった。残念だったのは質疑応答のとき、この学会の特徴なのか、単に頭の良い先生が自分の知識をひけらかしたいのか、発表に対して否定的と感じる質問・意見があったことだ。物の言い方ひとつで随分と印象が変わるのだから、聴講者は発表者に対して敬意を表しつつ質問するべきであると思う。インテリの嫌な部分を見たようで不快だった。伴先生は『難経鉄鑑』を始め様々な古典を訳して、ネットで(無料で)提供されている奇特な方である。我々後学の味方であり、その度量の大きさに心から敬意を表したい。私も(レベルは全然違うけど)そういう姿勢で鍼灸界に貢献していきたい。

 

仕方がないことだが、学会は複数の演題が同時進行するため、全ての発表を聞くことはできない。会頭講演の「がんの患者さんと共に歩んできた日々」や、シンポジウム「緩和ケアと鍼灸」など、聞きたいのに聞けない講演や発表も少なからずあったが、それは贅沢な悩みかもしれない。久々に参加した全日本大会、とても勉強になりました。

 

翌朝五島に着く頃、巻網船が出航していった
翌朝五島に着く頃、巻網船が出航していった
網上にある鍼灸院です
網上にある鍼灸院です