2018年

12月

28日

お知らせ

明倫堂のブログを引越しします。

引越し先はこちらです。

0 コメント

2018年

12月

15日

北米東洋医学誌NAJOM25周年記念大会のお知らせ

2019年4月27日(土)~29日(月)の3日間、カナダ・バンクーバーにてNAJOM創刊25周年記念大会が開催されます。海外で日本式鍼灸を実践されている先生方と交流できる良い機会です。現在は講演活動をされていない首藤傳明先生がスカイプで出演もします。短い時間ですが患者さんの治療が見られるそうです。その他、色々な流派やスタイルの鍼灸が学べます。詳細は下記をご覧ください。私もスタッフとして参加します。鍼灸師の皆さん、バンクーバーで一緒に勉強しませんか?主催の水谷潤治先生によりますと、「お祭りだから気楽にワイワイ勉強してほしい」とのことです。参加を希望の方はNAJOMまで連絡してください。

 

0 コメント

2018年

6月

15日

第67回全日本鍼灸学会大阪大会

6月2日~3日に大阪で開催された、第67回全日本鍼灸学会学術大会に参加しました。大会テーマは「健康・長寿を支える鍼灸学」-新たなるエビデンスとナラティブへの挑戦-です。

今回も沢山の学びがありました。講演から印象に残ったキーワードを記します。

 

超高齢社会における高齢者医療の課題 萩原俊男先生

・2025年頃には団塊の世代が75歳以上となり、超高齢化対策が急務である。

・高齢者のQOLを低下させる主な疾病は認知症・脳血管障害後遺症・老年症候群であり、

 その予備軍としてフレイル(高齢者の虚弱・老衰・脆弱)やサルコペニア(筋肉量の減

 少で身体機能が低下)という概念が注目されている。高齢者の介護予防や終末期緩和医

 療に対して鍼灸療法の積極的応用が期待されている。

・サルコペニアに対するマウス実験では、鍼だけよりも通電を加えたほうが効果的で

 あり、骨格筋の萎縮予防が期待できる。

・認知症の周辺症状(妄想・抑うつ・睡眠障害など)には、鍼灸の効果が認められる。

・アルツハイマー型に対しては、中国の報告だと薬よりも針のほうが良い結果が出ている。

 配穴は膻中・中脘・気海・足三里・血海。

・血管性認知症には、上記のツボに百会・神庭を加える。

・高齢者総合的機能評価(CGA)は「生活機能」、「精神・心理」、「社会・環境」の

 3つの面から高齢者を評価する指標である。(※1)

・高血圧に対しては、降圧薬と針を併用すると効果的である。配穴は太衝・足三里・曲池・

 風池・豊隆・三陰交・内関・太谿・合谷。

 

ホスピスケアのこころ 柏木哲夫先生

・生命は有限性であり、いのちは無限性である。生命は生きる力であり、いのちは生きて

 いく力である。これからの医学はいのちも診ていく必要がある。

・末期患者の共通の願いはふたつある。

 ①苦痛をとってほしい(生命を診るという視点)。

  そして、痛みが取れると...

 ②気持ちがわかってほしい(いのちを診るという視点)

・緩和医療の要素には、生命を診る・いのちを診る・家族を診る・予期悲嘆のケア・死の

 受容への援助・死別後の悲嘆への援助などが含まれる。さらに、いのちを診るには、

 存在の意味・価値観の尊重・平等意識・親切なもてなしが必要となる。

・がん末期の三大苦は、痛み・全身倦怠感・呼吸困難である。痛みに対してはモルヒネ合

 成麻薬や神経ブロック、硬膜外注射等が用いられているが、コントロールの難しい全身

 倦怠感や呼吸困難に対する新しい緩和法の開発も必要である。

・安易な励ましは会話を遮断するだけで、何の役にも立たない。

・気持ちの理解をするためには、陰性感情を表現する言葉を会話の中に入れ(悲しい・

 はかない・寂しい・つらい・苦しい)、わかろうとしていることを伝えることが大切で

 ある。(「それはつらいですね」、「そうですか、悲しいですね」、「ほんとうに、や

 るせないですね」)

・しっかりと患者の言葉に耳を傾ける=傾聴する

・聴くということは、心をもって、目と目を合わせて、しっかりと聞くということである。

・ベッドサイドに座るときの距離が大切である。目線の高さを合わせて(平行にして)、

 近すぎず、遠すぎずにする。患者にはその日その日の距離がある。

・ユーモアが効く人と効かない人がいる。

・魂の痛みはこころの問題をこえる。

・バチが当たったというのは、人間以外の何者かが当てたのである。どこに当たったのかと

 いうと、魂に当たったのである。

 

シンポジウム1【EBM・NBMと鍼灸】 山下仁先生・高梨知揚先生・鶴岡浩樹先生

・EBMは最善のエビデンスを臨床の環境と患者の価値観と統合したもの。

・術者と患者との対話を通じて、新しい物語を共同構成していくのがNBMの概念。

・客観的な科学というモノサシと主観的な患者のモノサシがあり、両者に橋をかけるために

 生まれた概念がNBM(物語に基づいた医療)であり、患者の病の物語を傾聴し、その意

 味を理解し、対応すること。

・ナラティブアプローチによって過去の評価も未来も変わる。散りばめられた現場の情報

 を一つの物語に構成する能力が必要。

・鍼灸師がステップアップするためには、読む・書く・共有するという作業を繰り返して、

 内省・ふりかえりを行ない、目の前のことに対してどうして上手くいったのか、あるい

 は上手くいかなかったのか、多角的にものを見る目をつけること。その都度、立ち止まっ

 てリフレクションをすること。

・どんな患者に(patient)、何をすると(intervention)、何と比べて(conparison)、

   どうなるか(outcome)、PICOにナラティブを入れ込むことで、多様化する患者の価値

 観に対応できる。

・VBP(価値に基づいた診療 :Values Based Practice)とは患者と術者の間に生じる

 「すれ違い」を解決に導く10のプロセスである。①価値への気づき②推論③知識

 ④コミュニケーション技法⑤当人中心の診療⑥多種職チームワーク⑦二本足の原則

 ⑧軋む車輪の原則⑨科学主導の原則⑩パートナーシップ(※2)

 

鍼灸は科学である-医学概論の遡及的考察 武田時昌先生

・鍼灸は医学である。東洋的な立場からの医学概論の構築が必要である。

・科学的検証重視の「エビデンスの踏み絵」によって、優れた技能者による治療実績や施術

 の効能に目を向けないのは本末転倒である。

・灸中心の治療から、鍼という道具をメインに理論化した時から、中国医学は飛躍した。

・『肘後備急方』を参考に、キニーネに耐性を持つマラリアに糞ニンジンが抑制すること

 を突き止めた屠呦呦(と・ようよう)氏の功績(過熱せずに低温でアルテミシニンを抽

 出した~しかも文革時!)は素晴らしい。我が国でも『東亜医学』にマラリアに対す

 る漢方や鍼灸の研究論文が書かれているが、蔵書している大学がどれだけあるだろ

 うか?。(※3)

・伝統医学の素晴らしさは、色々な症状があるのに検査では異常が出ない「虚労」という

 病を、複合的な症状をいち早く察知して治めるということにある。

・生活習慣病、婦人病、小児病といった病を馬王堆の時代から理論的に分類していた。

・六君子湯には長寿遺伝子を活性する力があると発表されたり、ミトコンドリアの卵子注

 入による不妊治療が注目されるようになった。ミトコンドリアの「若返り」に効果的と

 されるミトコンウォークなどは、卵子のアンチエイジングという手法によって人々に広

 まっているが、昔から導引としてある知恵である。

 

医療におけるナラティブとエビデンスの統合的活用 齋藤清二先生

・EBMの定義ははっきりしているが、エビデンスの定義は無い。エビデンスは臨床判断の

 ために用いられる科学的な研究成果についての情報であり、情報とはあくまでもそれを

 知って利用するためのものである。

・サケットによるEBMの定義とは、①個々の患者のケアにおける意思決定のために、最新

 かつ最良のエビデンスを一貫性を持って明示的に思慮深く用いること。②EBMとは特定

 の臨床状況において入手可能な最良のエビデンス、患者の価値観、医療者の臨床技能を

 統合すること。

・エビデンスには階層がある。

・エビデンスのハイジャックとは、学術領域の権威者や利益の争いなど、エビデンス至上

 主義が形を変えて忍び込むこと。現在もエビデンスのハイジャックは解決されていない。

・ガイドラインはだいたい無難なものに落ち着く。確率論であり、突飛なことは否定される

 傾向にある。たとえば急性腰痛に対するエビデンスは、特別な方法でも、安静でもなく

 、「日常的な活動を無理のない範囲で続けるようにすすめる」というのが最も効果的な

 エビデンスがでている。

・エビデンスとは統計的な実験デザインであり、目の前の患者さんに出来るだけ良いこと

 をしようというのはエビデンスの実験にならない。しかしこの方法は本当に良いことな

 のか?というのは研究になるので実験を続ければよい。その実験はRCTがベストという

 のが現在のコンセンサスになっている。現実のデザインで結果が出たら論文化する。論

 文は情報になるので利用することが出来る。その際、エビデンスを評価するプロセスと

 個人の実践における批判的吟味をするプロセスに共通点があるというのがEBMの特徴で

 ある。方法が正しかったかという方法論と、臨床的有用性はあるのかというのは認識論

 が異なるが、どちらも必要となる。

・EBMは①疫学の原則・理論に従う②目の前の患者にどう利用するかの2段階で考える。

・心理療法のエビデンスはまだまだあやふやな段階である。

・EBMには正統派、ガイドライン派、伝統科学派の3つの考え方がある。

・NBMとは、患者のある出来事(個人の経験)を語ってもらい、それを記述して意味付け

 をし、未来に向けてよりよい方向に一緒に修復していくこと。患者の人生という一冊の

 本の中で、今を生きている(病気になっている)という部分は重要な一章となる。いま

 起きている痛み・苦しみが人生(その人の物語)においてどのような意味を持っている

 かを考える。語り手である患者が主人公であり、決して医療者の治療対象だけではない。

 治療をするとしても、お手伝いをするという姿勢を持つ。

・NBMには複数の物語が共存することが許される。たとえば鬱症状を説明するときに、東

 洋医学の物語では「気のうっ滞」と考え、西洋医学の物語では「脳の中のセロトニンが

 足りない」と考え、心理療法の物語では「考え方の問題」と考えるが、いずれの方法で

 も効果が出ている。これらは対話による合意によって選択される。

・「未来は不確定だし、過去は取り返しがつかないから、いくら考えても解消しない。人

 間は考えれば考えるほど鬱になる。そういう思考パターンを変えると楽になりますよ」

 というのが認知療法の考え方で、これは抗うつ剤よりも良い効果があるというエビデン

 スが出ている。

 

伝統鍼灸のあり方 北辰会からの提言 藤本新風先生

・経穴に正気を集めて祛邪→正気を分散させず治療効果を最大に上げる。

・中医学の理論と用語を基本とする。

・日本伝統鍼灸古流派の技術を用いる。

・夢分流腹診、原穴診、背候診、舌診、空間診、胃の気脈診など多面的な病態把握をする。

・少数配穴による治療。

・衛気を意識した撓入鍼法,打鍼、古代鍼を用いる。

・臨床に合うように古典を読む。

・検査等で異常が無くても、生体のひずみを各側面に見出すことは少なくない。

 

感想

シンポジウム1【EBM・NBMと鍼灸】の質疑応答にて、よく質問をされている高齢の先生が「鍼灸はテーラーメイドであり、補瀉という、術者の技術レベルも違えば、患者一人一人の病態も異なるようなものをRCTで評価できるはずがない」というような趣旨のことを言われました。この質問に対する山下仁先生の応答が実に紳士的で、相手の意見を尊重しつつ、補瀉についてのRCTもあること、証とか偽鍼なしでの比較試験や、プラグマティックトライアルという方法もあることを述べておられました。そして最後に「EBMやRCTを実践することで、鍼灸は孤立する道を捨てることになるんです」と言われたのが印象的でした。やっぱ頭のいい人たちは違うと感動しました。こういうレベルの高い先生方のやり取りを聞けるだけでも、学会に参加する価値があると思います。EBMは西洋医学(医師)が主体となって行われる医療にとって欠かせないものなのだと思います。チーム医療や病院と連携できる鍼灸師及び団体、教職員、研究者の方のお陰で鍼灸の科学化が進むことでしょう。

 

しかし、EBMの考え方にも派閥があったり、EBMだけでは現場の問題を解決できないからNBMで補完したりするという未完全な側面も知りました。また薬と違い、いくら鍼にエビデンスがあると認められても、実際に効果が出せるかどうかは個人の技量によりますし、英国人のモノサシに合わせようとすればするほど、仏教思想と融合して発展した日本鍼灸の価値や魅力が薄らいでしまうような気がします。そのような意味で、武田時昌先生のメッセージは胸に響きました。

 

藤本新風先生は北辰会方式の解説と、撓入鍼法と打鍼の実技を行いました。北辰会方式は他の流派とも現代鍼灸とも違います。鍼は気を動かす道具であり、ツボは1穴か2穴しか使いません。これは一般の鍼灸治療から考えたらすごいことです。手技は一瞬のことですが、それによって何が変わるのかを目の前で見ることができました。藤本先生に関しては、昨年金沢で行われた日本伝統鍼灸学会の実技の印象が強烈に残っています。あらかじめ他流派の先生方がそれぞれ脈診や腹診をしたあとで、古代鍼を刺鍼(近づけただけ?)し、再び確認してもらったのですが、その変化に対する他流派の先生の驚きの表情が印象的でした。そして前世代とは違い、若い先生方は異なる流派やスタイルを受容し合える柔軟性を持っていることを知り、日本の鍼灸界にパラダイムシフトがおきたと感じました。優れた技術・学術を皆が共有し、さらに高めあう環境になると期待しています。

 

(※1)CGAについては、日本老年医学会のサイトからダウンロードできる『高齢者総合的機能評価入門』『健康長寿 診療ハンドブック』のPDF資料も参考になりました。

(※2)VBPの10プロセスの詳細は 、VBP的臨床推論のサイトの「基本:VBPプロセスの10要素」が参考になりました。

(※3)『東亜医学』については、電脳資料庫 - 東亜医学協会のサイトからPDF資料が読めます。「1939年(昭和14年04月15日)-第03号」に大塚敬節先生や柳谷素霊先生がマラリアについて執筆されています。

0 コメント

2018年

3月

30日

第22回弦躋塾セミナー動画

2007年9月に行われた、第22回弦躋塾セミナーの動画(全6巻)をYouTubeにアップしました。特別講師は兵頭明先生です。「やさしい中医学の総て」というテーマで、経穴の主治法則や、色々な選穴方法と配穴、基本的な病理の解説等を分かりやすく解説していただきました。また、統合リハビリテーションに鍼灸を用いてマヒや震顫の治療をしている動画や、転倒予防や誤嚥の予防に有効な配穴の紹介もありました。「やさしい…」とありますが非常に濃い内容で、私なら一度聞いただけではとても覚えきれない情報量です。また迫力のある実技も披露されており、兵頭先生の人柄と熱意の伝わる講演でした。また、この動画で使用したスライドや、その他参考となるPDF資料等が兵頭先生のサイトから閲覧できますので、それらを活用すれば理解がより深まると思います。セミナー動画の公開を快諾して下さった兵頭先生に感謝いたします。

第1巻

第2巻

第3巻

第4巻

兵頭先生の講演からメモ

・榮兪は外形を治す~経絡病証や経筋病証の場合、榮穴・兪穴の反応が強く出ている所を

 使うと治しやすい。

・瘀血、臓腑が絡むと循経だけでは治らない。臓腑病証は原穴、背部兪穴、募穴、下合穴

 の虚実反応を診る。

・五臓の反応は原穴や背部兪穴に、六腑の反応は募穴や下合穴に現れやすい。

・気血津液病証が現れやすい経穴は上・中・下焦と分けた場合、気機の問題なら膻中・

 中脘・気海。血の問題なら三陰交・血海・膈兪。水湿の問題なら陰陵泉・委陽・中極。

 痰の問題なら豊隆・足三里・中脘。水や血の問題は舌所見も合わせて、多面的にとらえ

 ること。

・水分代謝が悪いとき、委陽や陰陵泉や舌の反応には相関性がある。治療後に舌所見を

 みて、効果があったかどうかの判定もできる。

・どこで(病位)何が(気や血や津液が)どうなっているか(症状)を把握することで弁証

 結果が出てくる。たとえば息切れ・倦怠・無力感といった症状から気虚と確認されたもの

 に、病位(たとえば肺と脾)の情報が加われば、脾肺の気虚という弁証になる。治療は、

 気虚に対しては補気の要穴(合谷、足三里、気海など)、脾と肺という病位に対しては、

 その臓腑経絡と関連する原穴、背兪穴、募穴、母穴の中から補気を目的に選穴する。

・細脈は陰虚と血虚にあらわれる。陰虚では虚熱のために細数で舌質紅。血虚の細脈は舌質

 が淡となる。

・陰液は循環しない。舌所見にひび割れとして現われていれば陰虚である。地図舌や無苔も

 陰虚の所見である。

・補陰に優れているのは復溜。どんな陰虚にも使える。補陰+虚熱が強ければ照海を使う。

・血証の要穴は三陰交、膈兪、血海。虚実を問わず用いられる。

・実熱には榮穴や清熱の要穴(合谷、曲池、内庭など)を用いる。

・豊隆は全身の痰を去る。

・陰陵泉は全身の水湿を治療する。

・太谿は腎気と腎陰を補う。

・太衝は肝実証、肝虚証、寒滞肝脈に有効である。

第5巻

第6巻

首藤塾長は鍼の刺激量についての講義と、肝虚証の実技をされています。講義では、その人に合った刺激量をどう決めるべきか、色々な条件から見極める方法を解説されています。また瞑眩現象については「無いほうがよい」と述べ、治そうと思うあまり刺激過多に陥って失敗しないように諫めています。首藤先生の言葉はすべて経験から語られています。その時は何となくしか分からなくても、ある時期になって自分が同じ状況に遭遇すると、ハッとその意味が理解できます。臨床経験を積むほど、首藤先生の教えが心に響いて来るのだと思います。私は当セミナーには不参加だったので、今回の編集作業で初めて映像を見ました。とても11年前とは思えないほど新鮮な気持ちです。新しい発見があり、自分の至らない部分に気づかされます。講義と実技、特に触診や取穴の様子を繰り返し見て勉強しようと思います。なお、全体を通してカメラの手振れで見にくい部分は削除または静止画像にしてありますが、刺鍼のシーンはそのままにしました。

2 コメント

2018年

2月

15日

第26回全日本鍼灸学会九州支部認定講習会

2月4日に博多で行われた、第26回全日本鍼灸学会九州支部認定講習会を受講しました。今回の講演内容は「病理学の概要」、「刺す鍼と刺さない鍼の効果の検討」、「男性不妊症について」です。印象に残ったキーワードを記します。

 

講演1 古くて新しい人体病理学 ー診断病理学の煌めきー 恒吉正澄先生

・病理学は病気の基本的な概念を理解し、各臓器の種々の病気の枠付けを明確にし、そ

 の病気の本態を明らかにする学問である。がん(悪性腫瘍)かどうかを見分け、臨床医

 の治療の方向付けをする責任の重い仕事である。

・腫瘍の形態には個性があり、良性なのに悪性に見えたり、一見すると良性に見えても

 実は悪性だったり、両者の境界病変もある。また良性腫瘍が悪性化することもある。

・がんには癌腫と肉腫がある。肉腫は骨組織、筋肉、脂肪組織などの骨軟部組織におこる

 悪性腫瘍で経過が悪い。子供に多く発生する。

・アポトーシス(核の断片化)はDNAに組み込まれた細胞の死で、オタマジャクシがカエ

 ルになるときに尻尾が消えるなどの現象であるが、がん・ウイルス・薬物・熱・放射線

 などによっても起きる。

・遺伝子がワンプッシュ、ツープッシュ、スリープッシュされることで、良性から悪性化

 する。

・大腸がんの早期は治る。早めに対応をすることが大切である。

・膵がんの5年生存率は7%と低く、甲状腺がん、前立腺がんは高い。

・癌は自然退縮することがある。DNAを分けていくと、予後が良いのと悪いのとがわか

 るが、悪性であっても理屈ではわからないことで治ることもある。

 

講演2 刺さない鍼によるメカニカル・ドーピング?!   ~最新データが示す筋疲労の抑制・回復効果~ 有馬義貴先生

・20代以上の鍼灸経験者は6~7%だけである。

・鍼灸の社会認知について、2011年にマンガ1015題(10421冊)を調査した結果、鍼灸

 に関するものは1.3%であった。武術やスポーツ、経穴に神秘性を持たせた描写が比較的

 多く、最近では女性職としての職イメージが強まる傾向がみられた。これらのことか

 ら、現在の鍼灸に対する社会ニーズのキーワードはスポーツ、ツボ、女性(+美容)にある

 と考えられる。

・刺す鍼、刺さない鍼、微小突起皮膚刺激など物理的な刺激による効果の検討では、置鍼

 は筋疲労しにくい。パルスは筋疲労しやすく、20Hzに比べて、60Hz、100Hzと上げる

 につれて筋疲労しやすくなる。

・20分以内での実験では、刺入パイオでは筋疲労が回復するが、刺入しないタイプでは効

 かない(20分以上必要ということ)。またツボじゃないところに貼っても変化はない。

・鍼をしてから指圧をするほうがコリが取れる。(筋疲労にもよい)

・指圧をしてから鍼をするほうが発揮効力を維持する。(パフォーマンス前によい)

・スポーツ選手は、刺す鍼でパフォーマンスが変わることを恐れる。

・鍼灸は患者に対する一つの手段にすぎない。

 

講演3 男性不妊症と鍼灸治療 角谷英治先生

・不妊症は「生殖可能な年齢の異性のカップルが通常の性行為を継続しているにも関わら

 ず、1年が過ぎても妊娠に至らないもの」と定義される。現在、6組に1組は不妊治療を

 経験しており、その約半数は男性に問題があるとされている。

・男性不妊症の83%は造精機能障害で、そのうちの56%は原因不明で治療法の確立ができ

 ていない。精液所見が不良で精索静脈瘤がある場合には手術、また低ゴナドトロピン性性

 腺機能低下症には内分泌療法が有効だが、その他の原因には有効な治療法がない。現状

 では経済的負担や侵襲性の高い人工授精や高度生殖補助医療を行うケースが多く、新た

 な治療法が求められている。

・EDは性交に至らないので、不妊症にはあてはまらない。

・精液は前立腺液、精漿、精子よりなる。また前立腺から精漿中にたんぱく質分解酵素

 (PSA)が分泌され、精漿中のゼリー化成分を分解して精子の運動性を高める。

・勃起は副交感神経性の骨盤神経の作用(S2~4)、射精は主に交感神経性の下腹神経

 (Th10~S2)の作用による。また体外への精液の射出は陰部神経の作用による会陰筋群

 の収縮による。

・テストステロン量は30代から減少していく。

・精子の質を上げるためには睾丸を温めないことや、喫煙や飲酒を控えるのがよい。

・仙骨部骨膜(中髎穴から上に向けて斜刺)への鍼刺激によって、精漿中PSA濃度の増加

 に伴う精子運動率の上昇が認められ、交感神経遮断薬によって消失した。交感神経が作

 用して前立腺に影響を与え、精液の液状化を促進することで精子運動が活性化したと考

 えられる。

感想

今回も色々なことを学びました。心に残ったことを記します。

恒吉先生の講演では、遺伝子が何度もダメージを受けることによって良性も悪性化するということと、理屈はわからないが悪性であっても自然退縮することがあるということです。前者の場合も後者の場合も、これまで診てきた患者さんや自分の家族の闘病の記憶と重なり、病とは何なのか、生命とは何なのかを考えさせられました。また、顕微鏡で見る小さな世界では、悪いものほど綺麗な形をしているという話も印象的でした。

有馬先生の講演では、刺激の質と量について考えさせられました。わずか0.6mmの貼付鍼でも、刺入しないタイプとは筋疲労回復の効果に差が出る。たとえ貼付された本人が気づかない程度の刺激量であっても、皮膚はその差をしっかり感じ取っているということがわかります。だからこそ正しい場所(反応点)と正しい刺激量が大切なのでしょう。名人といわれる先生方の治療が効く理由はこれにつきると思います。また「鍼灸は患者に対するひとつの手段に過ぎない」という言葉も、鍼灸師が自分本位の目線にならぬよう、患者にとって何が良いのかを客観的に考えなくてはならないと気づかされました。

角谷先生の講演では「中髎穴に対する刺鍼でPSA量が上昇して精子の動きが活発になった」という話の中で、筋・靱帯に刺すよりも骨膜に達する刺鍼(+10分間の徒手刺激)のほうが効果が高かったことに興味がわきました。「交感神経を賦活させることで前立腺に影響を与え、精液の液状化を促進させたと考えられる」ということです。骨膜まで刺鍼した被験者の全員が治療後も得気感覚が半日続いたということから、かなりの刺激量だったと思います。

そういえばTPの黒岩共一先生の書籍にも、殿筋とその深部の凝りをとれば精子を作る能力や射精の勢いが改善されるとありました。首藤先生も胞肓の刺鍼(3~4寸)の際に「得気が陰部のほうに響くと突起する」と話されたことがあります。普段、自分の臨床では刺さない鍼が多いのですが、ケースによっては深い鍼も必要であるし、鍼灸師は刺す技術を怠ってはならないと自省しました。角谷先生の講演では射精に至るまでのメカニズムや勃起機能についての解説もあり、ED治療へ対する参考にもなりました。コピーをレジュメで配布していただいたので、復習して理解が深まりました。今回学んだことを臨床に生かしたいと思います。

 

2 コメント

2018年

1月

01日

新年を迎えて

 

明けましておめでとうございます。昨年は当たり前でいられることの有り難さと、幸せに生きるためには健康が欠かせないことをひしひしと感じた1年でした。治療家として一人一人の患者さんに精一杯の治療ができるよう、自身の鍛錬を重ねていきます。本年もよろしくお願いいたします。

2 コメント

2017年

7月

09日

第20回弦躋塾セミナー動画(3~4巻)をアップしました

このたび、第20回弦躋塾セミナー後半(3~4巻)の動画をYouTubeにアップロードしました。第3巻は首藤塾長による講義「婦人科疾患の鍼灸治療」、第4巻は実技(女性4名)が収録されています。第3巻の講義にはテーマ別にチャプタを打ちました。『首藤傳明症例集』(医道の日本社)の第13章(p392からp413)を参照すると、より勉強になると思います。

第3巻

第4巻

実技からのメモ

第4巻の実技は、もともと3名のモデルを予定していましたが、少し時間があったので急遽もう1名治療しています。4名ともに肝虚証で治療をしていますが、各モデルの主訴や反応の出かたによって治療のポイントが異なっています。私は以下の点が参考になりました。

・モデル1は甲状腺の症状に対して肺兪の置鍼や、兪府、缺盆、大杼などの刺鍼、風門への

 円皮鍼など。

・モデル2は子宮内膜症の症状に対し、大巨の刺鍼や、仙骨部周辺の反応(次膠や上仙の

 やや下)を診て刺鍼。胆経を寫すときに陽輔と陽陵泉の反応を比べて選穴。また、本治

 法では左右の曲泉に刺鍼しても脈が変わりにくく、太衝を追加したが、治療後の検脈では

 あまり好転が見られず、継続した鍼灸治療が必要と思われた。

・モデル3は動悸の症状に対して内関の移動穴を取穴。耳鳴りに患側の関衝に刺鍼。また

 翳風の硬結や頬車付近の反応も診ること。但し耳の周囲は刺激しすぎると耳鳴りが悪化

 することがあるので注意する。耳閉感には耳めまい点に皮内鍼がよい。肺兪付近の硬結

 があると同側の上肢の関節が悪くなるので普段から鍼治療や円皮鍼などで軟らかくして

 おくこと。治療後の検脈で脈が戻っていたため、再び曲泉に本治法を行った。

・モデル4は不問診で、時間にして3分半ほどで必要最低限の治療を行った。

 

モデル4の治療では、曲池に刺鍼しながら目の硬さを確かめたり、一瞬ですが膝の具合を確認したり、伏臥位になったときに素早く督脈~背部兪穴~腰部~仙骨部を触診して取穴・刺鍼されています。時間は短いですが、最も臨床時の首藤先生に近い雰囲気でした。実技にもチャプタを打ってあるので活用して下さい。

 

編集後記

今回の編集作業で感じたことは、経験を積むことによって見えるものも多くなるということです。首藤先生の治療スタイルはシンプルでわかりやすいと思われがちですが、やってみると実はとても難しいです。私も当時、一生懸命学んで分かったつもりになっていましたが、今思えば「つもり」になっていただけで、ほとんど見えていませんでした。12年前のセミナー当時には気づきもしなかった多くのことが、今回の動画から見えてきて大変勉強になりました。特に講義の中に出てくる「治験例」は、よく似た症状の患者さんを診る機会が増えているので参考になりました。塾長のコメントからは、高齢者の患者に対する気づかい、優しい言葉など、初心に返って取り組まねばと思うことがありました。「看板が汚れているのは駄目」というのもそうです。私も離島に移住して7年が過ぎ、うちの看板も風雨に晒されてきました。塾長の話を聞いてハッとし、早速新しい看板を注文したところです。

 

最近は目が悪くなりやすいため、あまり動画作成に時間をかけていません。前回の樋口先生の動画から4か月近くかかってしまいましたが、これで第20回弦躋塾セミナーの動画が完了しました。今後もボチボチと動画作成をしていきます。

0 コメント

2017年

6月

19日

第66回 全日本鍼灸学会学術大会 東京大会

 2017年6月10~11の2日間、東京大学本郷キャンパスにて第66回全日本鍼灸学会・東京大会が開催されました。大会テーマは、世界に誇る日本鍼灸~「東京宣言」確立のためのプログレスです。一言でいえばTCMおよび海外で行われている鍼灸に対して、日本鍼灸の何が優れているのかを検証し、さらに進歩・発展させるための大会です。懇親会時の発表によると、約2400名の参加者があったそうです。私が聴講したのは、ips細胞を用いた再生医療、ゲノム治療、先制医療、体性感覚の研究、触れることの意義など7つの講演です。今回

も自分の臨床の糧となる学びが沢山ありました。

 

会頭講演「東洋医学と西洋医学どちらが本質治療に近いのか」

・画像診断はあてにならない→陽性であっても痛みを感じず、また陰性であるにも関わら

 ず痛みを感じるケースが多々ある。痛みや軟部組織といったものは客観的に見ることが

 できない。デカルト科学は近代合理主義・要素還元主義であり、理論的・客観的である

 ことが求められ、対象を分析・細分化していく特徴があるが、人間のように複雑な対象

 は苦手である。

・病因論からみても、原因=症状だけではなく、その人の体力や環境が関わってくる。た

 とえば腰痛の原因は単一的ではない。

・西洋医学の治療はアロパチー(症状と反対のことを薬で行う)であるが、そもそも発熱

 は生体が自らおこなっていることで、ウイルスがさせているわけではない。消炎剤は治

 療を先延ばしにしている。対して東洋医学では生体の働きを促すようにする。たとえば

 風邪の場合、漢方では発熱を促進させ、鍼灸では血行を促進させるように治療する。

・高血圧の理由は全身に血液を送るためであり病気ではない。高血圧は脳出血のリスクで

 ある。

・筋緊張と心の不安は相関する。鍼灸治療は病態説明により病気への不安を解消し、傾聴

 的な態度で悩みや苦痛を受けとめ、悪いところに触れる。より本質的治療に近い。

・生活習慣を改善するのが本態的治療である。

シンポジウム1「難治性神経疾患に対する鍼灸治療の現状と課題」

・書痙に対しては上肢区(頭針)の治療が有効である。筋緊張を抑制させたい場合には反

 対側に治療し、興奮させたい場合には両側に治療する。

 

これはあくまでも頭針治療のみにあてはまる理論なのかもしれませんが、ふと本治法に対する考え方にも応用できないかなと思いました。片方刺し、両方刺し、患側刺し、健側刺し等、流派やスタイルによって色々な考え方がありますが、たとえば虚証の場合は両側に、実証の場合は健側を取穴してみるなど、選択肢のひとつとして試してみるのも良いかもしれませんね。刺鍼方法が異なってもそれぞれの鍼灸師が患者さんを治しているという事実があります。興味深いことです。

シンポジウム2「がんと鍼灸ーがん患者に対する鍼灸治療の現状と新たなる展開」

・抗がん剤などの治療法の進歩によって5年相対生存率は上昇傾向にあるが、治療に伴う副

 作用・合併症・後遺症に苦しむ患者は多く、その中でも薬物療法に関連した悩みが著明

 に増加している。

・「統合医療」とは、西洋医学を前提として、補完代替療法や伝統医学等を組み合わせ、

 QOLのさらなる向上を目的とするものである。「統合医療」情報発信サイト(eJIM)

 の統合医療エビデンスには、コクランレビューなど様々な論文が掲載されている。

 ・緩和医療(緩和ケア)はチーム医療によって行われ、患者の症状や、家族も含めた不安や

 辛さにアプローチし、その予後にまで寄与する。

・生存期間の延長にはアドバンスケアプランニング(ACP)が大きく関わってくる。末期

 であっても希望を捨てず、生きる力を与える。

・歩くことで発症・死亡リスクが減少する。

・鍼灸のエビデンス構築と医療連携の充実が望まれる。

・在宅医療には多職種との連携が不可欠であり、患者と家族の心理的負担の軽減に役立つ。

・鍼灸とは何なのか? これからは量的ではなく質的研究をしていくべきである。

・鍼灸治療を続けているがん患者に、壮絶な苦痛は無い。

・最終的にQOLは必ず下がっていくものである。その中で患者に何か安堵を与えるものを

 提供できないか。人間味や共感が求められる。発言は大事である。

特別講演2「個人差と遺伝子発現の多様性」・特別講演3「ips細胞技術の神経系の再生医療および疾患研究への応用」

・ヒトは違って当たりまえ。一卵性双生児でも必ず異なった部分(指紋など)がある。

・どのような環境因子や医学的介入が、遺伝子の発現をどのように変化させるかは、まだ

 研究途上である。

・2100年には日本の人口は3770万人、平均寿命は93歳と推定されている。

・再生医療→ips細胞など再生した臓器移植により、心不全やパーキンソン病に期待される。

・先制医療→ゲノム解析など科学技術の進歩により、発症前に予測して予防的な治療を行

 なう。早期検出→早期治療介入。(BRCA1遺伝子変異~アンジェリーナ・ジョリーの例)

・アルツハイマー型認知症は発症する20年前から進行していく。MCI(経度認知障害)の

 段階で対策をすることが大切である。次世代シーケンサーによる遺伝子解析と病態研究

 が進められている。

・イメージングセンターにより研究されていることは、ヒトの発生生物学的研究・チンパ

 ンジーからヒトの大脳皮質・ネアンデルタール人の知性・異種間キメラ(スタンフォー

 ド大学)・ヒト生殖生物学(不妊のおこる機序)などで、生命倫理をしっかり考えて研

 究が行われている。

 

総合討論「これからの医療は -鍼灸の未来は-

・科学技術の急速な進歩により、医学医療のパラダイムシフトが起きる可能性が大きい。

 技術革新により必要なくなる職業が増える中で、鍼灸の未来はどうか。すでに現在、直

 接灸を行なっている鍼灸師は2割強である。患者の意識も以前とは異なり、「たとえ効果

 があっても痛くて熱いのは絶対に嫌だ」という認識になっている。

・AIの進歩は得意分野で人間を超える。将棋の例ではコンピュータが、人間の気づかなか

 った新しい手を出した。これは記憶したビッグデータの蓄積から計算して出したもので

 ある。つまり人間の理論を超えた新しい理論の発掘、たとえば新しい経穴の発掘なども

 ありうる。

・看護の仕事が作業とすると、AIの役割がはっきりする。薬剤師の場合も、調合はコンピ

 ュータがやったほうが良く、人間は統合職をすることになるだろう。リハや鍼灸師にお

 いてもデータ分析はコンピュータにまかせれば、要素還元主義以外の考え方を生み出し

 てくれるのではないか。

・遺伝医学の研究ではパラダイムシフトは起きるだろう。画像診断、病理診断の分野では

 急速に進歩する。がん個別医療、ゲノム医療は一般化する。

・鍼灸がどのように効いているのかAIを使って計測し、それをしっかりした臨床医(やぶ

 医者じゃダメ)が行ない、データを覚えさせる。Human to humanは変わらない。どう

 いうデータをインプットするか。生体、社会は一つのルールだけでは決められない。治療

 は最終的には臨床医の役割である。機械にはバグがある。

・ipsは個体レベル(多くても臓器レベル)であり、機能回復は複合的なものなので、ipsだ

 けでは無理である。メカニズムがわかれば機序・部位がはっきりするだろうし、それを

 鍼灸師が活用できるだろう。 

・BRCA1は予防なので、保険は使えない。遺伝子検査・予防的切除ともに高額である。

・脊髄再生には一人1億円かかるが、技術が進歩すれば1500万円ほどになると予測される。

・2030年になると、日本の他にもアジア諸国が高齢化に追いつく。病院から在宅へ、治療

 から、話し支える治療へとなっていく。病院にかかるのではなく、地域において色々な

 方々の助けを借りて一生を生きるようになるだろう。→ QOD(クオリティ・オブ・デス)    いかに満足して死を迎えるか。

・人間は忘れることの良さがある。

 

これからの医療は科学技術の進歩によって、病気になる前に予防的治療を行い、悪くなった部位(臓器など)は再生するという時代になっていくようです。今は何でもなくても、将来的にリスクが高ければ切除するという考え方は、その人の人生観によって賛否が分かれるでしょう。しかし乳房と卵巣と卵管を切除した後のアンジーの不健康そうな様子を見ると、切除したことによる弊害も大きいことが伺え、精神と肉体はまさしく相関関係にあるということを感じます。ともあれ人間は100%の確率で全員死にます。私はこれからの人生を、どうすれば長く生き延びるかよりも、どうすれば悔いなく死ねるかと考えて生きて行こうと思います。

 シンポジウム3「あなたは患者さんに触れていますか?~日本鍼灸の特徴である”触れる”を科学する」

・触れる意義~中医学では触れないが、古典には書いてある。(例:霊枢75)

 鍼を用いる者は必ず先ず其の経絡の実虚を察す。切して之に循い、按じて之を弾く。其の応じて

 動く者を視て乃ち後之を取って之を下す。~『霊枢訳注』家本誠一著・医道の日本社より引用

 

・触診・脈診・16難以外の腹診・圧痛・硬結・押手・軟らかい鍼を使うなど、日本の9割の

 鍼灸師は反応をみて治療をしている。

・STRICTAでは刺鍼に対する考えがない。

・中国では針は細く繊細な傾向にある。

・アメリカでは軟鍼灸・硬鍼灸という区別がある。

・触れるということには3つの意義がある。ひとつは感覚を与えるということであり、患者

 が施術者を評価する情報となること。もう一つはツボを探すための情報が得られること。

 もうひとつは一方的ではなく相互に影響しあい、一体感が形成されることである。

・ツボは形体的なものではなく機能的なものである。反応とは術者の感覚+患者の感覚。

・トリガーポイントとツボの関連が高い。圧痛・硬結・トゥイッチ。

・押すという情報からツボのある深さを得ている。

・ツボは索状硬結上に存在している。筋膜部位に刺入するのが最も効果的である。

・触れることでオキシトシンが分泌される。末梢器官では乳汁分泌や子宮収縮、中枢神経

 では偏桃体など社会脳に影響し、愛情や伝教を築く。オキシトシンには成長・養育行動(子宮で)・血圧や心拍を下げる・不安や抑うつを下げる・痛みの閾値を上げる(感じに

 くくする)・短期的記憶を高める・子供の情緒を育てる(目のあたりに注目して相手の

 感情を読み取りやすくさせる)などの働きがある。

・オキシトシンの出る量は個人差がある。

・マッサージ施術中に施術者のオキシトシン分泌量も増えることがわかった。

・相手の体に触れるということは相手の心に触れることである。相手のことを思いながら

 触れるとオキシトシンが大量に出る。つまり心が大事ということである。日本鍼灸は心

 身一如であり、そこが客観的にみる西洋医学との違いである。

・オキシトシンを自分で出す方法は①スキンシップ②人に親切にする(ボランティア)

 ③感情を発散させる④五感の快(音楽や視覚の楽しみ)⑤鍼灸(TENS)

・触覚には知覚(識別)機能と感情喚起機能(C触覚繊維)の二つの機構があり、C繊維は

 受容器を持たず、毛の振動を感じる。前腕と口の周りに多くある。

・C繊維は速度に依存する。1秒に3~10センチ、特に5センチ程度のスピードに最も反応

 し、感情や自己の意識に届く。

・但し、触れるという行為は、先に患者と充分なコミュニケーションをとってからでない

 と逆効果になる恐れがある。

首藤先生を囲んで
首藤先生を囲んで

大会全体を通して感じたのは、講演される先生方、そして参加者ともに真摯な態度で臨まれていて、非常に雰囲気が良かったことです。また東大という場所柄もあるのでしょう。キャンパス内にはそよ風が吹いて木々の葉が揺れ、爽やかな気持ちになりました。勉強意欲も自然と湧いて、充実した2日間を過ごすことが出来ました。

 

西洋医学を前提とした考えに基づいているからか、医師の指示によるチーム医療、医療連携の重要性を説く先生が多かったことも印象的でした。それが現代医学的には最も合理的で最新の医療の下に鍼灸治療を患者に提供できるということもわかります。しかし、開業鍼灸師は自分で考えて治療することが出来ます。一人一人の患者と時間をかけて信頼関係を築いて、相手の苦痛に共感しつつ、患者の問題を解決していくという開業鍼灸師としての役割が必要だと私は思います。個人的にはオキシトシンの話しが最も興味深かったです。首藤先生をはじめ、ベテランの先生方が施術中にどのように「触れて」いるのか注目しながら、youtubeの動画を見て学ぼうと思います。

 

0 コメント

2017年

4月

04日

第32回経絡治療学会 学術大会 長崎大会

長崎大会のポスター
長崎大会のポスター

 

3月25~26日の2日間、長崎新聞文化ホール アストピアにて開催された「第32回経絡治療学会学術大会 長崎大会」に参加しました。今回は実技が池田政一先生のみだったので、全体的には「学」に比重のかかった大会だったと感じました。

 

一般口演では、脳脊髄液減少症、無月経、尿漏れ、耳閉感などの興味深い発表がありました。脳脊髄液の減少を津液虚と捉えて治療できるのは、病理考察ができているからこそですし、池田先生の流れをくむと思われる三名の先生の症例発表では、それぞれ瘀血の概念がポイントになっていることも印象的でした。また、増田先生の「知的障害者施設における鍼灸と脉状診の意義」では、脾虚陽虚が多い理由の考察が興味深く、制限のある中で真摯に患者と向きあう姿が伝わってきました。痰飲・水滞に至る内因・外因・不内外因の説明と、施術部位の意味づけがされていて理解しやすかったです。

 

椛島先生の「九鍼十二減原に学ぶ鍼法」のように「術」の部分に関する発表は、私のような臨床鍼灸師にとってとても参考になります。たとえば手技の補瀉で、皮膚を開きながらゆっくりと抜鍼する開閉の瀉法について考えてみました。寫と瀉について、これまで私はダニエル・ベンスキー先生のいうようにサンズイのついた「瀉」は体外に血をもらすもの(刺絡など)と考えていましたが、充満した邪実(熱)が汗とともに毛穴から抜けてくれたらそれもサンズイの「瀉」になるのだなと思いました。池田先生の『難経真義』を読むと、「瀉法は、主に陽経の熱の多い経絡に対して用いることが多い。経に逆らって刺し、鍼孔は開く」とあります。これは流注に対する迎随の補瀉と開閉の補瀉の二つの要素が合わさった手技だと考えられます。せっかくの発表なのに、パワポの不具合で口演時間が短くなってしまったのは残念でした。

 

橋本先生の講演でも述べられたように、経絡治療学会はひとつの流派ではありません。鍼の手技は各先生によって千差万別だし、同じ目的を目指していても色々なスタイルがあります。後述しますが、樋口秀吉先生の瀉法は押手に加圧を加えて鍼を抜くものです。また、首藤先生はあまり細かいことを言いません。鍼孔を閉じなければ瀉というシンプルな考え方です。おそらく他の先生方も、それぞれの考えを持っているはずです。どれが正しいとかではなく、私たちは各々が追試して自分に合ったやり方、より鍼が効くやり方を選んでいけばよいのだと思います。ついでながら、私は鍼がより効きやすい角度や方向性はあると感じていますが、経に沿うのが補で、逆らうのが瀉になるとは思っていません。霊枢の『九鍼十二原』や『終始』を読んでも迎随という意味が経に沿わせる云々でないことは明らかです。経に沿うかどうかよりも、樋口先生のいわれる鍼のベクトルのほうが実践的で重要だと思います。井上雅文先生も、藤本蓮風先生も、首藤先生も迎随の補瀉についてはこだわらなくていいと述べています。

田中保郎 医師による特別講演「西洋医学と東洋医学の違い、ツボとは」では、黄帝内経に書かれているように(治病必求於本)、病名や症状にこだわらずに人間の本質に向かって治療することの大切さを説かれました。本質とは、植物の場合は根で、人間では腸管にあたります。そして腸管が変化したものが臓器だそうです。人間の本質である腸管の仕事は免疫機能を司り、水分調節や温度調節をするだけでなく、「考えている」のであり、当身を受けて気を失うのは脳震盪ならぬ腸震盪をおこすからだそうです。その中でも小腸は全摘したら生きていけない、特に大事な場所であるそうです。藤田恒夫先生によると、全身に分布する「基底顆粒細胞」が人間の考えをしているそうですが、その基底顆粒細胞が体壁に多く集まっている場所が「ツボ」であると田中先生は考えています。基底顆粒細胞は3歳ぐらいまでに完成するため、この時期の子育てがいかに大事かというのを「三つ子の魂」と表現したのだそうです。「3歳頃までに受けた教育によって形成された人格は歳をとっても変わらない」という意味だけでなく、その時期までに腸内細菌が完成し、腸内フローラでの過程が上手く行われることで、その子は健康に生きていけるということです。小腸の働きが悪くなると老化や癌化がおこります。便秘は根腐れの状態です。酒びたりの腸内細菌もアウトだそうです。小腸に特効薬はありません。漢方薬は腸管を治すために開発された薬ですが、現代では使い方が間違っていることが多いそうです。散は吸収して効くもの、飲は冷やして飲むなど、正しい服用をしなければならないこと等々、多くのことを田中先生の講演から学びました。

池田政一先生の実技では、四診から証を決めるまでと、本治法によって脈がどのように変化したかという過程が大変勉強になりました。モデル1の女性は主訴が左股関節痛で、次のような理由から肝虚寒証として証を立てました。

 

・股関節は胆経が関与していること。

・腹診では季肋部の下がり方から肝癪がみられた。

・腹診をしながらの問診で、「あなたは物事をキチッとしないと気が済まないやろ?」と

 聞いて、肝虚タイプであることを確認した。

・脈診では肝腎が虚しており、胆と胃の脈もわかりにくい。これは肝血が不足して発散

 が悪いことと、胃の気が少なく太陰経の発散も悪いことを推察した。

・顔のシミが多いことから、よほどの血虚があると推察。『霊枢・経脈』の胆経の是動病

 から「甚則面微有塵体體無膏澤」を引用し、胆経の悪い人は顔に少し汚れがついている

 という表現があることを指摘した。

・脈診と腹診では肝胆に問題があることがわかり、さらに脾の脈が渋っていることから、

 太陰経が発散されていなければ気分も発散されないと推察し、モデルに鬱っぽいか、落ち

 込みやすいか、生理の時に特にそうなりやすいかを確認して、最終的に肝虚寒証とした。

 

治療は腹部に散鍼をして本治法をしたあと、左股関節痛に対して左丘墟に単刺をしました。腰部に対しては仙腸関節付近に出ているグリグリを強めに揉みながら、反応点に灸頭鍼をすると良いというアドバイスをしました。伏臥位になり、肩外兪、肩中兪あたりのコリを揉みながら、ここは置鍼をするか外向きに横刺をするとよいとアドバイスをし、大杼から縦にゴリゴリと筋張った部位に対して長柄鍼で散鍼(衛気の補法)を行いました。また、督脈上の圧痛が多いことから、モデルが神経質すぎることを指摘し、鍼灸師は繊細な中に大胆さが必要であること、そしてこのコリは運動で取るようにと述べて治療は終了しました。使用した鍼は日進医療器の寸3の0番で(普段は青木の銀の2番鍼)、背部には1寸0番の中国鍼も用いていました。また、本治法の際には大竹野先生が脈を診ながら、刺鍼による変化を伝えていました。以下は主だった刺鍼部位です。

 

腹部に散鍼

太谿(腎がひきしまって、肝の脈が出てきた)

太衝(ツボの横のキョロキョロに2ミリほど刺す)

隠白(胆の脈が出てきた)

   そのあと下腿脾経上を強めにさすり、圧痛とグリグリを確認する。肝虚証なのに脾経

   に圧痛が出ているので、どっちを補ってもいいかもしれないと池田先生。

三陰交(だいぶ脈が出てきた)三陰交で脈が出たんやねと池田先生。

左丘墟(寸6の5番鍼を用い、関節の中に全部入れる)

背部に散鍼(衛気の補法)

 

率直な感想としては、本治法と脈状の変化に関しては十分な解説をされて、大変分かりやすかったです。モデルは血虚があり、太陰経の発散もしにくい(沈んで胃の脈もわかりにくい)ことから脈が出にくく、本治法に用いる要穴に加え、三陰交を補うことで全体的な脈がようやく出てきたという一連の流れを、その場で受講者に説明できるのは池田先生ならではだと思います。ただ、主訴である股関節痛がどう変化したのかはわかりませんでした。治療前と治療後の比較も無かったです。また、腰部の反応には揉むだけで刺鍼をしなかった点や、肝虚寒証の人に太い鍼(寸6の5番)で丘墟に深刺しする必要があったのかも疑問に思いましたが、おそらくデモだからなのでしょう。池田先生はこの後も数名のモデルに実技をされました。モデル2の肺虚体質で潰瘍性大腸炎の男性(沈渋細で肺虚の気滞)には、太淵・商丘を補って、背部に接触鍼を行いました。モデル3の鼻水と咳が3日前から出ている男性(脈は腎心が弱く、相対的に肺脾が強く、硬い)には、膻中の圧痛と、期門付近の食塊と、両側の天枢に張りを認め、温病型で太陰経と陽明経に気が停滞していると推測し、散鍼のあと、商丘・中衝を瀉法し、攅竹と四白に軽く置鍼しました。そのあと伏臥位で魄戸、膈兪、腎兪と刺鍼(よく見えませんでしたが、たぶん軽く単刺)し、天柱のゴリゴリを強く揉み(モデルは声を出して痛がっていた)、崑崙に刺鍼したあと、背部に散鍼をして治療を終えました。

懇親会にて

この数か月間、第20回弦躋塾セミナーの樋口秀吉先生のビデオ作製をしていたので、樋口先生の美しい手技に魅了されていました。どうすればあんなに華麗に鍼が打てるのだろうかと。もちろん、長年の修行によって獲得された技術でありますし、樋口先生も動画の中で「家が建つほどの金をかけて勉強した」と述べられていますから、形だけ真似をしようと思っても上手くいくわけがありません。それを承知の上で、何かアドバイスが頂けないかと、懇親会で樋口先生にお話しをさせていただきました。樋口先生はYoutubeの動画でも、「力を抜くこと」を強調されています。触診も弾入も力が入っていません。押手もそうです。力が入っていたら気が満ちてきたときの体表の変化が読み取れないそうです。ところが力を抜くのは簡単ではありません。力を抜こうと思うと却って力が入り、樋口先生のように軽やかな鍼が打てません。では、どうすれば力を抜いた治療ができるのでしょうか?

その答えは「意識」にありました。

 

私が弾入の姿勢をとると、「指先に意識が集まりすぎているから重いんだ」と樋口先生。「指先の力を抜くためには、手首に意識を持っていけばよい。さらに、その意識を肘まで持っていけば、指先と手首の力が抜ける」。「ほら、いい弾入になったじゃない」と言われて見ると、なるほど力が抜けた弾入ができました。そして、「今度は肘から肩に意識を持っていき、最後は首と背中で体をコントロールすれば、指先や手は自由自在になる」とのことでした。これは野球などのスポーツ選手でも同じことが言え、良い選手は力みが無く、みな首がしっかりしているそうです。また、樋口先生の押手は皮膚表面の弾力を感じ取れるぐらいの軽さです。さらに押手の3圧では左右圧が大切ということですが、左右圧はどれくらいの強さかというと、親指と人差し指がしっかり密着されているのに、これもほとんど力が入っていませんでした。樋口先生は押手の瀉法をする場合、その位置から下圧をかけてゆっくり鍼を抜きますが、この下圧も皮膚をググッと押し込むのではなく、じわっと体重がかかるような感覚でした。

 

「意識」というキーワードに関連して、樋口先生から取穴のコツについても教えていただきました。それは「探す」と「うかがう」の違いです。これは実際に肌に触れられて初めて分かる感覚ですが、「探す」というのは本来行っている取穴のことで、虚している場所なり、凹んでいるエリアなりを探す行為です。ところが「うかがう」の触れ方はもっと軽くて柔らかく、施術者と患者が一体化するような感覚でした。実際、樋口先生から「うかがう」のやり方で太淵を取穴されたとき、気がジワーンと響いていき、すでにそれ自体が治療になっていることがわかりました。大変失礼な言い方ですが、このとき「この先生は本物だ」と改めて思いました。この感覚をここまで強烈に感じたのは、首藤先生の他これまで数名の先生だけです。また、「うかがう」という意識の持ち方は、小林詔司先生のいわれる「意識」の意味ともリンクするのではないかと感じました。理論だけ豊富でも患者は治せませんし、基礎的な手技がおろそかになっては論外ですが、鍼灸が気の医療であるならば、本来はこのような方面の研修もあっていいのではないかと思います。

 

樋口秀吉先生と
樋口秀吉先生と

樋口先生からはまた、治療には2種類あることを教えていただきました。それは攻めの治療と待つ治療です。首藤先生は攻めの治療だそうです。そして攻めの治療は誰にでも出来るものではないということでした。そういえば池田先生も度々、「あれは首藤先生だから出来るのであって、君らが真似したら駄目ですよ」という発言をされています。その一方で、待つ治療ならば誰でもできるとのことです。この話を聞いて、納得することが多々ありました。こういう実践的な勉強は教科書では決して学べません。今回、樋口先生からは貴重なことを色々と教えて頂き、大変感謝しています。

首藤先生、馬場道敬先生と
首藤先生、馬場道敬先生と

首藤先生とは昨年のWFAS以来にお会いしました。最近は体調も良好で、数年前よりも若くなられた印象がありました。大分から4時間のバス移動も疲れなかったそうで、懇親会でも首藤スタイル(ビール・日本酒・ワイン・焼酎・etc)で楽しく飲まれていました。そういえば、今回の懇親会は料理が美味しかったです。旨い肴と鍼灸談義とで、実りある時間を過ごすことができました。学会・懇親会ともに、長崎大会で得た収穫は多かったです。今回学んだことを、明日からの臨床に活かします。

6 コメント

2017年

3月

20日

第20回弦躋塾セミナー動画(1~2巻)をアップしました

本日、2005年9月に開催された「第20回弦躋塾セミナー」動画の前半をYoutubeにアップロードしました。特別講師は樋口秀吉先生(宮城県鍼灸師会会長・経絡治療学会副会長、東北支部長)です。

第1巻では刺鍼技術の基礎となる押手や刺手、刺鍼方法について詳しく講演されました。 ただ漠然と鍼をするのではなく、なぜそうするのかといった目的意識をしっかり持って鍼をすることの大切さを強調されています。接触鍼では、皮膚の状態によって鍼の角度や手技を変えて刺鍼したり、雀啄や旋撚をする意味は何なのかといったことを学ぶことができました。先生の華麗な手技には見とれるばかりですが、繰り返し強調されていたのは「できるだけ力を抜く」ということでした。意外にも先生自身は手が硬いそうですが、それを柔らかく使うように訓練したそうです。鍼を弾入する際、皮膚の弾力度によって刺鍼の深さを調整したり、狙った深度まで正確に弾入できなければプロとはいえず、そうなるためには訓練して感覚を養うしかないとのことでした。第2巻では実技を中心に刺鍼技術の実際を披露されています。4名のモデルに対する治療、もぐさのひねり方、また食養生についての解説や野菜スープの作り方などについても詳しく述べられています。大変貴重な講演だと思います。Youtubeのページにチャプターを細かく打ちましたので参考にして頂ければと思います。

(チャプターが隠れて見えない場合は、もっと見るを押して解説欄を広げて下さい)

 

第1巻

第2巻

樋口先生の講演からメモ

・鍼灸治療で効果を出すためにはツボを的確にとらえることと、必要な手技を加えること。

・体表の変化はどこで捉えるか? それは押手である。たとえば雀啄をする場合、刺手で

 鍼を操作し、その変化を捉えるのは押手である。

・押手には上下圧・左右圧・周囲圧の3つがあるが、大切なのは左右圧である。

・押手をする際、母指と示指に隙間ができないようにする。左右圧がしっかりかかれば、

 上下圧の力は必要なくなる。

・押手はできるだけ力を抜くことである。押手は鍼を支えるだけではなく、体表の変化を

 把握する役目もある。押手が軽ければ、皮膚に気が満ちてきたとき(気が集まってきた

 とき)の、ふっくらしてくる感覚が読み取れるようになる。押手が強いとそれがわから

 ない。

・押手の形はどうであれ、力を抜いて10円玉をつまんでテーブルに立て、少しだけ内側に

 引くと指がしまる。これが正しい押手である。臨床をしていると自分の癖がついてしま

 うものだが、たまに10円玉をつまんで練習するとよい。

・鍼を回旋(旋撚)する際、その角度は左右均等にすること。鍼柄をポケットに入れて、

 電車の中でもどこでも回旋の練習をするとよい。

・刺し手も押手も軽くするべきである。また鍼を回旋する際も力を抜く。

・雀啄は硬結を緩める目的で使う。

・硬結に当てたらスッと引く。鳥が餌を啄ばむように、当てて引く。

・棘突起の上など皮膚が薄いところで雀啄の練習をする。そうすると微妙な鍼の当たり具

 合、引き具合がわかる。

・押手に鍼管をねじ込むのではなく、指と指の合わせ目に鍼管を入れて、反時計回りに回

 すように管を立てる。

・気を動かすときは接触鍼を使い、血を動かすときは刺入鍼を使う。刺入(の度合い)は

 ツボの現れている状態に合わせる。

・接触鍼はポイント(ツボ)として使う場合と、面(エリア)として使う場合がある。

 また、皮膚に出ている症状の深さを考えて治療をする。たとえば気鬱のばあい、刺入し

 ても皮膚の浅い部分は変化しない。浅い部分には浅い部分に対する処置をしなければな

 らない。そのところを使い分けて処理することが必要である。

・臓腑でいえば、腎は深いけども気である。坐骨神経痛は気の病である。

・まず置鍼をして、最後に脈を診て、足りないところは単刺で補ったり、瀉法をしたり

 する。補法でやって変化しないときに瀉法をやる。瀉法は最後にやる。

 

・置鍼は浅くする。鍼が抜けても構わない。場所によっては竜頭が鍼管に隠れるぐらいま

 で刺すこともあるが、経絡の深さよりも刺す必要はない。

 

講演中の樋口先生
講演中の樋口先生

この他にも心に残るフレーズが沢山ありました。繰り返し動画を見て学ぼうと思います。そして、この動画の公開を快くお許し下さった樋口先生に感謝いたします。今回の動画は、撮影時のミスによる画面の乱れや音声の不具合が多く、静止画像で補ったり、カットしたシーンが多くありました。また、アップロード後にキャプションの誤字(旋撚を旋然など)を見つけましたが、そのままにさせていただきます。

 

セミナー後半(3~4巻)の動画は、当分休んでから作成します。

 

0 コメント

2017年

2月

26日

モクサアフリカ代表 マーリン・ヤング氏 来日記念講演の動画をアップしました

このたび北米東洋医学誌(najom)主幹の水谷潤治先生から、モクサアフリカ(moxafrica)代表マーリン・ヤング氏による来日公演(2016年11月・東京衛生学園にて収録)の動画作成を依頼されました。本日、編集作業が終了し、youtubeにアップロードしました。前編と後編の全2巻です。撮影者は水谷先生で、通訳は伊田屋 幸子先生です。昨年のWFASや、それに続くマーリン・ヤング氏の講演を見逃した方は、ぜひこの機会にご覧ください。心が温かくなる講演です。

 

北米東洋医学誌も、モクサアフリカもボランティアで運営されています。そしてモクサアフリカの提唱している灸治療が日本独自の点灸(直接灸)であるということも、素晴らしいですね。ヤング氏とモクサアフリカのメンバーの方々は、お灸の可能性を探求されているだけでなく、我々に日本式の灸の価値を再認識させてくれた恩人でもあります。このことに感謝し、両団体の益々の活躍・発展をお祈りします。

 

モクサアフリカの活動についてはオフィシャルサイトをご覧ください。

前編

後編

水谷先生、ヴォルフガング先生、そしてヤング先生と、海外の先生方が日本式の灸の素晴らしさを伝えてくれています。残念ながら現在の日本では、「跡が残るから」、「熱いのは嫌だから」、「火傷をさせるのは野蛮だ」等々の理由で直接灸が嫌われる傾向にあります。患者としっかり意思疎通が出来ていなければトラブルの元になりかねません。一方で、患者の体質(体格・性格・年齢なども)を考えて、小さく、軽く、工夫してすえれば跡が残らないようにもできるし、心地良い熱さだと感じてもらえるものです。私たち臨床家はできるだけ直接灸を実践し、この素晴らしい日本の医療文化を絶やすことなく後世に伝えていかなければならないという思いを強くしました。

 

2 コメント

2017年

1月

02日

第28回弦躋塾セミナー動画(3~6巻)をアップしました

 

新年、明けましておめでとうございます。

昨年は健康の大切さや、人との出会い、日本という素晴らしい国の国民であることに感謝する1年でした。今年は自分に何ができるのかを熟慮し、鍼灸師としての向上に努めます。

 

本日、第28回弦躋塾セミナーの後半(第3~6巻)をYou Tubeにアップロードしました。第3巻は中田光亮先生(東洋はり医学会 会長)の講義「補瀉について」、第4巻は中田先生の実技(2名)、第5巻は首藤塾長の講義「脳梗塞の鍼灸治療」、第6巻は首藤塾長の実技(1名)が収録されています。前回に続き、中田先生の実技にはチャプターを打ってあります。私のように東洋はり方式を知らない方でも、繰り返し見れば理解が進むと思います。

 

今回の動画を作成していて、中田先生と首藤先生の治療はよく似ていると感じました。もちろん、どちらも経絡治療の名人ですから当然といえば当然なのですが、私は長いあいだ手技や方法論の違いに惑わされて、その本質が見抜けませんでした。やはり流派やスタイルにこだわらず、いいものはドンドン取り入れるべきですね。中田先生も講演の中で、「なんでんかんでんよかもんは使う。誰の本でも、よく読んで研究すること」と述べています。今回のビデオを全部通して見ると、補完し合えるポイントがつかみやすいと思います。また、両先生ともに実践して得られたことだけ話されているので、経絡治療や古典系を敬遠している鍼灸師の方にもきっと参考になるはずです。

 

第3巻

 

第4巻

 

第5巻

 

第6巻

 

中田先生の講演からメモ

・経絡治療の強みは、原因がわからなくても、現れている病証に対して経絡の変動を見て

 補瀉すれば必ず良い方向にいく。たとえ時間がかかっても良い方向にいく。誤治しない

 限りは。

・一番大事なのは補法、その次が瀉法。補法は難しい。経の流れに随い、そっと切経する。

 何でもかんでも太淵・太白ではいけない。

・薬の副作用で自分の精神のコントロールができない場合は厥陰肝経、気が狂うのは胃経

 に邪がある。暴言を吐くのは胃経の実、肝・腎・胃をうまく処理すると落ち着く。

 電車の中を見回すと、5人に1人は気鬱になっている。

・気の変化なのか血の変化なのかを見分けないといけない。体質によっても違う。表の虚

 を補うか、中の実まで刺して動かせばいいのか、色々ある。肺虚は気がもれやすいので

 表面の気を軽く補うと、あとが良い。

・肝はちょっと曲者で、ぶすっと刺していい場合と、そうでない場合とある。肝体質でつ

 るっとした艶のある人は曲者。腎虚は気の巡りがわるいから、ちょっと刺して置鍼をし

 たほうが良い。沈遅で冷えている人は鍼を留めなくてはならない。反対に、熱を帯びた

 脈の人に置鍼は向かない。

・浮沈遅数虚実は、鍼のやり方の判定法である。バセドウ病など、熱が無くても数脈にな

 ることもあるので、勘違いしないよう病証をよくきくこと。

・風邪薬を飲んでいる人は脈が沈んでいる。鍼をすると好転反応として一時的に熱が上が

 るが、陽に邪を浮かせて発汗させて治す。

・肺虚の人が飲み過ぎると、鼻水が出始め、最後は泣き出す。泣き上戸は肺虚。

・陰の病は陽でとる。胸苦しい場合に胸に治療をすると悪化するので、その場合は背部を

 使って治す。

・胃痙攣は脾虚で、内関と公孫。

・便秘でなかなか治らない。左公孫をよく補うか、お灸をする。左大巨、左鼠径のあたり

 を表面から調整する。浅く気を流す。左大巨は便秘を止め、右大巨は下痢を止める。

・脾経の郄穴の地機は大事。どんな下痢でも止める名穴。糸状灸で10壮。

・右手と左足は気を下げる。

・陰部掻痒に肝経の蠡溝のお灸。

・灸もただすえるのではなく、経絡的に弁別をして経絡治療に合った施灸をすること。

・打撲は瀉的にお灸すると綺麗に治る。青タンの周りに知熱灸をどんどんすえる。瀉的散

 鍼をしてから知熱灸をするとなおよい。冷やすと気血を止めて色が残る。それが瘀血に

 なる。

・冷え性は臍と八膠穴を挟み撃ちにして温める。浅く置鍼して知熱灸をすると、灸頭鍼を

 しなくても温まる。不妊症やインポの治療にもなる。

・急性の脱肛には鍼が一番。孔最、太谿など。慢性の痔。

・子宮は肝経、腎経。不妊は子宮が冷えているから。

・朝シャンは駄目。頭の冷えが陰陽関係で下のほうに影響する。男も5人に一人は子供がで

 きない。電磁波などが精子に影響する。心肝腎。

・慢性の腰の場合、鍼だけで気を回してもなかなか治らないのは血鬱があるので灸をすえ

 る。表面の気を回しても、どうも血の動きが悪い。古くなればなるほど血が回らない。

・手首の痛みは貫抜きの灸。外関と内関を同時に施灸する。

・顔面の湿疹は陽明経。陽明経を結ぶとよい。左右の圧痛を調べて合谷に5壮、反対側の

 陥谷に3壮、毎日すえる。

・大腸に熱があるとアレルギーになる。アレルギー性喘息、花粉症などは腹を治療する。

 中脘・天枢など蠕動運動を高めるような鍼をする。子供は鍉鍼か超旋刺で中脘、水分の

 あたりに鍼をする。腸に便が溜まると大腸癌や湿疹のもとになる。下痢、便秘は水分、

 中脘、天枢が重要。

・肝の脈が硬い場合、肝実があるか、胆に邪実がある。

・肝実の鍼は経の流れに逆らって瀉法。接皮→切皮→肝経は動きにくいので2~3ミリ入

 れる→抵抗に当たったらゆっくり雀啄→抵抗が取れたら加圧を下にかけてグーッと抜く。

・胃の脈の邪が強いが、上から押すと無くなる(虚性の邪・気の変化)場合は、補中の寫

 (枯)で処置をする。下腿、胃経を切経すると左が強い。左の胃経を経に逆らい、指先

 に邪が感じるところに取穴し、ゆっくり刺入、当たったら2呼吸補い、1ミリ幅でゆっく

 り雀啄する。正気と邪気が分かれて鍼が緩んできたら、鍼先に押手を密着させ、ゆっく

 り鍼を抜く。このとき、スッと鍼を抜いたら邪は取れない。ゆっくり引いて、20センチ

 ~30センチぐらいのところから脈状がピッと締まる。邪を遠くへ飛ばすというイメージ

 をしなくてはならない。

・大腸に少し塵がある場合は、補中の瀉(塵)で、右の大腸経を切経し、温溜あたりに鍼

 を接触し、ちょっと押し気味にして、そのままスーッと抜く。

・胆経に実があるので、右の胆経、光明から抜く。うまく寫すと目が明るくなる。補中の

 瀉(枯)で、少し抜き差しして、正気と邪気が分かれたら、密着して、そのままスーッ

 と抜く。

・中脘、上脘が張っている場合、張っている所に鍼をするとかえって悪くなるので、下の

 ほうの虚している水分、下脘を補うとバランスが整う。気が入ると呼吸が深くなるので、

 そこで抜く。

・天柱、風池は上方に向けて刺入したほうが効果がある。人によっては反対側に向けて刺

 す。右の天柱から反対側の目に向けてやるやり方もある。瘂門でも右斜めにに向けて刺

 すと、右側の肩凝りが取れる。それでも取れない場合は附分、魄戸、膏肓の硬結をとる

 こと。臑兪を上向きに押して圧痛をみると、コリの左右差がわかる。血圧を下げる場合

 には灸をする。

・慢性の腰痛で、鍼で気を回してもなかなか治らない場合は血鬱があるので、灸をすると

 よい。後谿・申脈を自分で施灸すること。うまくいけば背骨がまっすぐ伸びてくる。

・血の変化の場合には灸が効く。常にやると腰痛予防にもなる。

・後谿・申脈(あるいは申脈・後谿)の治療で、ボケ防止、脳梗塞、パーキンソンには

 後谿を主穴にして施灸する。

 

編集後記

昨年は目の調子を悪くしたために動画編集が捗らず、今回の動画もやっと完成しました。素晴らしい内容ですし、私も気合入れて撮影&編集したので、本日アップできて嬉しいです。先日はイタリアの医師からお便りがありました。これからも、動画を通じて日本鍼灸の素晴らしさが世界に広まれば幸いです。

 

2 コメント

2016年

11月

10日

WFAS(世界鍼灸学会連合会学術大会) 東京/つくば2016

WFAS世界鍼灸学会連合会学術大会(東京/つくば)2016
WFAS世界鍼灸学会連合会学術大会(東京/つくば)2016

11月5~6日につくば国際会議場で行われた、WFAS(世界鍼灸学会連合会学術大会)東京/つくば 2016に参加してきました。日本の鍼灸界にとって今年最大のイベントであり、32か国から1733名の参加者があったそうです。抄録だけでも1.2㎏という圧倒的なボリューム感があり、各講演やポスター発表など、とても2日間では全体の内容把握ができないほど盛大な学会でした。会場も素晴らしく、ホテルへも直結という、快適な環境の中で学ぶことができました。

メイン会場の様子
メイン会場の様子

ランチョン実技セミナーについて

今回は首藤傳明先生のランチョン実技セミナーがあるため、元弦躋塾生や、首藤先生を慕う先生方が各地から集まりました。おそらく表舞台で先生の実技を見ることができる最後のチャンスであり、私も客席からじっくり見て学ぶつもりでいました。ところが私も実技モデルをすることになったため、ここでは実際に首藤先生から鍼を受けた感想を述べてみます。先生からは常に「俺のことを持ち上げるようなことは書くな」と言われているので、客観的に述べます。

首藤傳明先生
首藤傳明先生

私が先生の鍼を受けて感じたことは、まず手が温かくて柔らかかったことです。腹診は軽く浅く探り、背候診はときに強めの圧を感じました。刺鍼はごく軽く、ほとんど刺激がありません。刺鍼部位がふわーっと気持ちよくなる感じです。ただ、本治法の左曲泉は内ももに沿って心地良さが上がっていく感覚がはっきりあり、脈が変化したのを自分でも感じ取れました。もうひとつ、左の柳谷風池は刺入しての回旋で、ジワーンという響きが局所から目のほうに広がりました。この頃から眠気を感じてしまい、背部の鍼はどこに刺鍼しているのかよくわからなくなり、下肢膀胱経の鍼は押手の圧はわかっても、鍼をされているという感覚はありませんでした。実技が終わった後は体がホワーンとして、視界が明るくなりスッキリしました。以上が鍼を受けた感想です。

 

もし客席から見ていたら、解説をしながら実技を行っているという印象だったと思うのですが、モデルの立場からいえば、最初から最後までが全て実際の治療でした。私は左目の調子を悪くしていますが、そのことは首藤先生には伝えていません。治療の流れの中で、触診によって異常部位を発見し、正しい取穴と刺鍼を行ったということになります。大勢の観客が見ている舞台の上で、テーマに沿った話をしながら、そのように的確な治療ができるのは、やはり名人のなせる業だと思います。弟子の分際で言うのも僭越ですが、首藤先生の技にはさらに磨きがかかり、円熟さが増していると思います。たとえばYouTubeにアップしている臨床動画(12年前)と比較しても、より軽く、より優しく、よりシンプルになっている印象を受けました。そして、一見簡単に見えるものほど、実は奥深くて難しいということも再認識しました。

 

脈の変化を捉える
脈の変化を捉える
超旋刺
超旋刺

今回、実技モデルになって得たものは少なくありませんが、最も衝撃的だったのは、ふだん自分がわかったつもりでいながら全然わかっていなかったということです。もう、取穴も刺鍼も、配穴の取捨選択もリズムも全く違う。「俺は今まで何をやっていたんだろう」と、少々凹みました。たとえば攅竹の取穴はかなり外側にずれていたり、柳谷風池の刺鍼はずいぶん乱暴に回旋していたり、体の力を抜かずに治療をしていること等々、気づかされることが多かったです。この経験を無駄にせぬよう、基本的なものを学びなおし、日々の臨床に活かしていきたいです。

懇親会にて

首藤先生を囲んで
首藤先生を囲んで
ステファン・ブラウン氏と
ステファン・ブラウン氏と

懇親会では元弦躋塾生の方々と久々に酒を酌み交わしました。また、首藤先生や積聚会などで通訳をされているステファン・ブラウン氏とも久しぶりに再会しました。彼は6年前に夫人と一緒に五島に遊びに来たことがあります。今回、弦躋塾動画(第30回のパート3)の英語翻訳をしていただきました。これからも協力していただけるということで感謝しています。そして、先日発刊されたばかりの『北米東洋医学誌(NAJOM)』最新号(68号)でも、私の書いた原稿「鍼灸とCSTにおける一考察」の翻訳をしていただきました。重ねてお礼申し上げます。

鍼灸界の偉人たち

今回のように大きな学会には鍼灸界のオールスター達が集まるため、憧れの先生方に会える絶好の機会でもあります。実際に面と向かって話しをすると、著作や講演するイメージとは全然違ったということはよくあります。一言でも二言でも話をしてみて、その先生の人柄に触れるのは楽しいし、臨床家として為になる話が聞けるものです。懇親会ではもちろんのこと、会場のロビーなどでも声をかけ、その手に触らせていただきました。名人クラスの先生になると、首藤先生と同様に赤ちゃんのような柔らかい手をしていました。スタイルや流派が違っても、優れた臨床家は似たような手になるんですね。筋トレで豆をこさえた自分の手が情けなかったです。近寄りがたい雰囲気の先生に思い切って話しかけてみると、意外にお茶目だったり、反対にいつもは親切そうなイメージの先生が結構素っ気なかったりして、やっぱり人とは実際に会って話してみないとわからないなと思いました。

 

小林詔司先生
小林詔司先生
中田光亮先生
中田光亮先生
兵頭明先生・石原克己先生
兵頭明先生・石原克己先生

弦躋塾アーカイブスの動画に登場された、小林詔司先生と中田光亮先生とも話をすることができました。小林先生はセミナー動画に対して、「よくぞ、やってくれたね!」と言って、力強く握手をしてくれました。その手がもうマシュマロか、つきたての餅のような感触で温かかったです。小林先生が言われる「意識」については、私も感銘を受けて自分なりに臨床に取り入れているのですが、小林先生は「このことを言う人は私の他にいないよ」と語っておられました。とても情熱を感じる先生でした。

 

中田先生からも、「あの動画はよく出来てますよ、どうもありがとう」と声をかけていただきました。実技のときの迫力ある中田先生とは違って、実に朴訥としたお人柄です。きっとオンオフを使い分けられているのでしょう。でないと疲れてしまうはずです。それぐらい、鍼をしているときの中田先生には圧倒的なものを感じます。これは聞き忘れてしまったのですが、先生が本治法をするときに立禅のような姿勢になるのは意識してそうしているのか、自然になのか、興味があります。ご存知の方がいたら教えて下さい。

 

兵頭明先生は第22回弦躋塾セミナーで講演していただきました。実はこのセミナーに私は不参加で、兵頭先生とお話しさせていただくのは今日が初めてでした。弦躋塾セミナー講演の動画公開をお願いしたところ、「どんどん、やってください」と快諾をしていただきました。非常に気さくな先生で、文革中に中国留学をされた経験から貴重なエピソードもいくつか聞かせていただきました。まだかなり先になってしまいそうですが、弦躋塾セミナーで披露していただいた老中医直伝の技、ネットで公開させていただきます。ありがとうございました。石原克己先生からはオーラというか、明るさを感じました。手を触らせてもらうと、やはり柔らかくて温かかったです。各先生とも団体の代表なのに、威張ったところがなくて気さくな方たちでした。やっぱ大物は違います。一緒に写真も撮らせていただき、貴重な時間を過ごすことができました。

つくばの夕陽
つくばの夕陽

開催を心待ちにしていたWFAS学会も、あっという間に終わってしまいました。気がつけば、いつもの臨床生活ですが、今学会で学んだことを追試して、治療技術の向上につなげたいです。今回は自分自身に変革をもたらす出来事もありました。毎日、目の前の患者さんに対して慢心の無いよう、真摯に向き合っていきたいと思います。

 

5 コメント

2016年

10月

25日

第28回弦躋塾セミナーの動画(初日分・1~2巻)をアップしました

2013年9月に行われた、第28回弦躋塾セミナー(初日分・1~2巻)の動画を、本日YouTubeにアップロードしました。特別講師は東洋はり医学会 会長の中田光亮先生です。動画は全6巻で、1~4は中田先生の講義と実技、5~6は首藤塾長の講義と実技が収録される予定です。中田先生の講演は非常に評判が良く、セミナー当時多くの弦躋塾生から「講演のビデオを見たい」と要望がありました。この動画では中田先生のテクニックをしっかり勉強できると思います。

 

東洋はり医学会には専門的な用語や手技も多いため、実技に関して重要と思われる部分にチャプターや簡単な解説を入れました。私自身が東洋はり方式をよく知らないため、キャプションの表記には誤りがあるかもしれません。しかし、中田先生の素晴らしい講演によって、経絡治療の魅力が存分に伝わると思います。東洋はり医学会で学ばれている先生方や、その他の経絡治療をしている方々、また経絡治療をしていない鍼灸師の皆さんにも見ていただきたいです。そして、日本鍼灸を世界に広めるために、この動画が役立てば幸いです。

第1巻

第2巻

中田先生の講演より

中田先生の講演で感じたことは、まず情報量が多いことと、その情報がすべて長年の臨床経験より語られているということです。講義ではレジュメも使われずに話されるのに、次から次へとエピソードが沸いて出てきて、まるでジョニーウインターのギターフレーズのような迫力でした。仮説的な話は一切無く、実際にベッドサイドに立った話なので、臨床をしている鍼灸師にはとても勉強になります。日本鍼灸は流派によって専門的な用語や手技があったり、解釈の違いが生じることもありますが、どれが正しくて、どれが間違いというのではなく、どっちも知っておけばよいのではないでしょうか。各々が自分で追試して、結果が良ければ、自然とそれが自分の臨床に加味されていくのだと思います。

 

中田先生は講義、実技ともに駄洒落を飛ばしますが、技術の勘所を記憶する際に駄洒落とセットだと覚えやすいと思いました。そして、おそらく東洋はり医学会には盲人の先生方が多いからかもしれませんが、実技の際の、中田先生の状況説明がとてもわかりやすいのです。脈診では、今どんな脈をしていて、どのような鍼をするべきであるか、鍼をして脈がどのように変わったか等、刺鍼をしながら実況中継のように解説されます。鍼を打つときも、目的の深さまで刺入していく過程や、抵抗のある部分で手技を施している状況を説明されるので、とても臨場感がありました。補的散鍼や瀉的散鍼の手技もわかりやすく指導されています。

 

動画は繰り返し見ることができるので、何度も見て勉強し、映像の中の宝物をひとつひとつ自分のものにしていきたいです。講演動画の公開を快くお許し下さった中田先生に感謝いたします。有難うございました。

 

講演中の中田光亮先生
講演中の中田光亮先生

 

中田先生の実技から心に残った言葉

・若いわりに中脈が硬いのは、寝ても疲れが取れていないから。

・腹が弱いというわりには、よく食べるでしょう? 脈と腹は腎虚で脾実になっている。

・下痢っぽいのは陰陵泉に反応が現れやすい。補中の瀉法を行う

・ナソ治療は側臥位で完骨、風池、天柱に。目とか頭には下から上方に向けて刺鍼する。

・声が出ない、高音が出ないのは、C3~4のコリをとる。甲状腺、咽頭炎、喉頭炎にも効く。

・肩外兪や肩井は、1ミリでも2ミリでも刺して、当たったところで静かに抜き差しをして

 抵抗をゆるめ、静かに抜いて軽く蓋をする。バシッと閉じると眩暈をおこすことがある。

・胃と胆に邪がある場合、左豊隆と右飛陽に補中の瀉法。

・頚椎症と言われて、けん引しても手のしびれや浮腫みが取れない場合や、五十肩にも

 缺盆が著効を表す。

・陰陽の脈を整えた後、散鍼をすることで和緩(柔らかくて丸みのある)を帯びた脈に

 なる。なめらかで、のたりのたりと、細く締まった、春の松島の穏やかな海のような脈。

・脈を診ずに、病証だけで証を決めてはならない。

・左は気のこり、右は血のこり。

・膏肓を緩めると天柱がゆるむ。

・背部は接触ぐらいで補いながら皮膚のツヤを診ていく。脊柱を挟んで両側の肌のバランス

 を診る。

・膈は上焦と中焦の間、腎は中焦と下焦の間、ここの反応は証にかかわらず診ること。

・胃腸病証は左に反応が出やすい。

・石門の陥下は浅く刺す。または鍉鍼で補う。

・気の巡りのいい人には鍉鍼を触れるか触れない程度でよい。強く押さえつけると瀉に

 なってしまう。

太白を取穴する
太白を取穴する

 

最後に、実技の撮影中、中田先生から気がビンビン出ているのを感じたことを記しておきます。

0 コメント

2016年

8月

25日

第58回鍼灸経絡治療夏期大学

8月19日~21日に東京・有明で開催された経絡治療学会の夏期大学に参加しました。3日間にわたり「学術」を学びましたが、今回は特に「術」から得るものが多かったです。最近、目の調子を悪くしたこともあり、積極的に実技モデルになりました。3日間で3人の先生から治療を受けたのですが、経絡治療といっても三者ともに全く違う治療スタイルであることや、それぞれの先生に持ち味があり、それがその先生の魅力となっていることがよくわかりました。これは実際に自分が鍼を受けてみて初めて感じ得ることで、側で見ているだけでは、なかなか気がつきません。誤魔化しや手抜きがあればバレてしまう、真剣勝負の世界です。そして首藤先生が言われる「鍼は人なり」という言葉が、とても重くて厳しいものだということを再認識しました。自分自身はどうなのか、患者に対して慢心はないか、自省して臨床に向かおうと思います。このことに気付けたことが一番の収穫でした。

 

私が治療を受けたのは、田畑幸子先生市川みつ代先生今野正弘先生です。現病歴は左目の痛み・充血で、眼科医から強膜炎の恐れがあると言われたことを伝えました。田畑先生と市川先生は肝虚証として、今野先生は肝虚証から脈の変化を診て脾虚証で本治法を行いました。ただし、田畑先生は肝脾腎の3経を使い、市川先生も色々な経や穴を使用したので、どこまでが本治法でどこからが標治法なのかはよく分かりませんでした。腹部の硬結や圧痛などの反応がどう処理されたかを確認しつつ治療を進めるのは実戦的で、ベテランの臨床家ならではの迫力がありました。また鍼数が多いことや、置鍼が中心であることも私にとっては新鮮な経験でした。3先生とも鍼は浅刺ですが、鍼を打たれた感覚は違います。

 

田畑先生の刺鍼は柔らかく無痛で、手技をかけたときにジワっと響きを感じました。一言でいえば優しさが伝わる鍼という感じです。最後まで残った腹部の硬結を雀啄して、ゆるまったのを確認し、「ああ、取れて良かった」と呟かれたときも、その人柄が伝わってきました。こういう先生から治療を受けていれば、たとえ難しい疾患であっても、自然と気のめぐりが良くなって治ってしまうのではないかと思います。また、頚まわりをよく触れてゆるめることや、心包経を触ってから脈診をしていたのが印象に残りました。それから、研修科には臨床歴何十年のベテラン鍼灸師も参加しています。モデルになると色々な人から体を触られたり、脈を診られたりするわけですが、周りの人と比べて明らかに「良い手」を持っている先生がいるのです。これも、実際にモデルになってみないと分からないことです。今回は観察力や触診力、手の温かさなどに長けた先生がいて、その方に指でツボを触れられただけで効いてしまうのです。これは驚きの経験でした。こんなすごい人が、なんで教える立場にいないのかと不思議でしたが、とにかくそういう人達に出会えるのも、夏期大の魅力だと思います。

 

市川先生は豪快で実直で愛情を感じる鍼でした。特に、尖端が鈍角になっている三稜鍼を使った手技はそれまで経験したことないほどの衝撃がありました。ドラマーでいえばボンゾのようなパワフルさでした。私の前のモデルだった青年が身をよじって痛がっているのを見て、少々引いたのも事実ですが、「怖くなった?どうする?」と市川先生からニコニコ顔で言われると、なぜか妙に安心しました。そして実際に刺鍼を受けてみると、かなり痛いけども不快ではなく、我慢の限界の一歩手前ぐらいの刺激量によって自律神経がリセットされるだろうという予感がありました。部位によって少し出血はありました。また、まぶたをひっくり返して鍼でコシコシする手技も初体験でした。そしてオリジナルの点眼水?をして目をパチパチしたあと、2分くらい涙が大量に出続けたのにも驚きました。足裏にもたっぷり灸をしていただきました。そして「上焦にある熱を下すためにも、足裏に毎日お灸をしなさい」と言われました。また、背部兪穴は胃兪のあたり?から腸骨稜まで4つの高さに分けて圧痛を調べ、上部(1番)なら食べ過ぎや飲み過ぎ、下部(4番)なら婦人科系の反応が出やすいとのことでした。実技の時間とはいえ、汗をかきながら全身全霊で治療をする市川先生の姿に感動しました。治療から4日経った今も、下肢には脾経や膀胱経上に三稜鍼の跡が残っていて、取穴の勉強になります。良い土産をもらいました。

 

今野先生の鍼はとても浅いですが、しっかり刺鍼されているという感覚がありました。そしてどんどん身体がゆるんでいくのがわかりました。全科共通実技だったので会場はにぎやかなのですが、とにかく眠くなって仕方がありません。鍼が全身に効いているという実感がありました。勉強なので頑張って起きていましたが、途中からどこに鍼を打たれたか全く覚えていません。目は開けていたものの、脳は眠っていたのかもしれないです。治療が終わる頃には背部の硬さも取れて、とてもスッキリしました。そして、日頃から左懸顱付近の硬結に点灸をすることや、脾をよく補うようにと指導していただきました。先生には伝えなかったのですが、夏期大の期間中、朝と昼はプロテインとサラダ程度しか摂取していなかったために脾虚になっていたことも考えられます。目だから肝虚ではなく、今野先生は脈や体表観察から脾虚証としたのでしょう。あくまでも「総合的に判断して証を決めることが大切」だと改めて思いました。

 

これまで経絡治療はひとつのジャンルだと考えていましたが、名称やスタイルにはさほど意味はなく、あくまでも先達の教えを吸収しつつ自分の技を構築するのが臨床家の共通した姿なのだと感じました。

その他、浦山久嗣先生の臨床講座「咳嗽・胸背部痛」、真鍋立夫先生の「鍼灸療法で治せる不安障害」、樋口秀吉先生の「疼痛の疾患」、黒岩弦矢先生の「経絡治療の運気」、角谷明彦先生の「天の医療 全の医療」などを受講し、休憩時間を利用して池田ゼミを少しだけ見に行くこともできました。以下に講義のメモから抜粋したものを記します。

 

浦山先生の講座より

・胸背部疾患は場合によって死亡に至る危険性があるため、鑑別が重要であり、

 そのためには西洋医学的な知識が不可欠である。

・感染はあるか? 上気道の炎症があるか?

・咳嗽は、空咳は「咳」、痰飲と一緒になったものが「嗽」。

・急性か慢性か? 急性は、ほぼ感染によるものである。急性で感染でない場合、

 アレルギー性が考えられる。

・逆流性食道炎、百日咳、うっ血性心不全、心因性の咳。

・空咳が慢性になると、慢性閉塞性肺疾患や間質性肺炎を起こしている場合がある。また

 肺癌や肺結核のこともある。

・腎虚タイプの人は誤嚥しやすい→老人 (咳反射がおこらずに誤嚥になっていることも)

・ラ音は、音の性質では聞き分けにくい。

・連続性ラ音で、ストライダーは吸気時のみ(ヒューヒュー)、スクウォークは気管支

 から一瞬だけ発生する(ピッ、キュッ)。

・急性の喉頭蓋は喉の奥にある腫れなので分かりにくく、窒息の危険性があるのですぐに

 救急車を呼ぶ。

・扁桃腺炎は2寸ぐらいの鍼で、患部をツンツンする。同時にオエッとなるので、シンク

 の前でつついて、うがいをさせる。発熱なども考慮して、治療すべきか病院に送るべき

 か判断すること。

・気管支喘息などの発作がおきても、鍼灸で対応できることもある。硬いものを柔らかく、

 本治法の精神は大切である。

・片方の足がむくんでいる→肺塞栓。両足がむくんでいる→心臓の問題。

・咳の場合、初期の段階は病理的には寒証で表実。裏に入っていく段階が陽明実熱証。

 ほぼ腎虚証だが、熱がメインなので肺虚陰虚熱証とする。さらに進むと肺虚寒証、陽虚

 なので自汗、寒気がある。

 

真鍋先生の講義より

・傷寒論には、表虚で風寒があたって病となり、陽明経病から陽明病となることが書いて

 ある。金匱要略には、腎虚や肝虚などから始まった病が書いてある。

・ノイローゼと精神病の中間にある状態の患者が増えている。薬が効かずに却ってやる気

 が出なくなってしまうこともある。薬の副作用で意欲障害がおきる。本格的な鬱病や

 統合失調に薬を使うのは仕方がないが、患者が気軽に病院を訪れ、安易にSSRIを使った

 ために不安障害が増えている。同様にパニック障害、広場恐怖、全般性不安障害、社会

 恐怖、強迫性障害、潔癖症、外傷性ストレス障害、身体表現性障害なども増加している。

・砂糖は悪いが、塩は悪くない。マスコミでは塩分を控えろというが、湿気の多い日本で

 は水を飲んでも汗がなかなか出ない。水を出すために塩は必要である。昔の日本人は

 塩気があるから元気があった。今の日本人に不安障害が増えた原因として塩気が足り

 ないことが考えられる。

・臍に動悸を打つ、舌に歯形がついている、目袋ができる、これらは腎が弱っているから

 おきる。下着や靴下の跡ができるのは、皮膚の下に水がいっぱい溜まっているから。水

 が溜まると気の巡りが悪くなる。

・倦怠感、虚脱感、疲れやすさが前面に出るのは、脾虚陽虚証、痰飲病のことが多い。

・身体化障害は、ヒステリーと心身症の中間型で、自分を守ってくれる人がいると大げさに

 なる。あくびをよくする人、字を書くときに小指を立てる人はヒステリータイプである。

・疼痛性障害では、線維筋痛症は多くなっている。どんな強い鎮痛剤でも効かない。心が

 癒されないと、その人の痛みは取れない。本治法をして、五臓六腑のバランスを整えて、

 体を温める。そして、人間はなぜ生きているのか、どう生きていくべきかという根源的

 な問題を考えさせ、自分で答えを見つけさせることで、不安感は消えていく。

・心気障害は、メンタルな部分で痛みを感じ、自分は病気かもしれないと心配になる。自

 分の症状に対して執拗に訴える。

・転換性障害(ヒステリー)は、精神的要因によるストレスや葛藤が、身体の症状として

 現れる。ドキドキ、梅核気(喉がつまる)、手のひらや全身に汗をかく、手足や体の

 震え、皮膚に虫が這っている感覚、現実感の消失、吐き気や眩暈、ふらつき、気が遠く

 なる等の症状が現れる。これらは病理的には水の停滞が考えられ、水気が上逆すると心悸

 などが現れる水気凌心の状態(疑似狭心症)になる。『金匱要略』に水気病篇がある。

・現代型鬱病といわれているものは、怠け病や逃避と思われがちである。このような人は

 胸鎖乳突筋や帯脈を触るとガチガチになっている。

・脾虚陽虚証や脾腎陽虚証レベルの高齢者は薬の服用により、意欲障害といわれるような

 薬害がおきやすい。

・ボーダーライン人格障害は若い人に多い。摂食障害、薬物やセックスや恋愛への依存、

 自傷行為、不適切で激しい怒りを制御できない、一過性の妄想観念などがある。

・2~3歳期に母親が適切な対応をしなかったのも要因で、かまわなかった、あるいは

 かまい過ぎでも発生する。

・肉体の問題だけでなく、拝金主義など、金があれば幸福だと勝手に思っている。そのく

 せ家族で朝の挨拶さえできない人が多い。東洋医学的な自然哲学によるアプローチは

 患者の心と親和性がある。蔵象に基づいた弁証による独自のカウンセリングを行い、

 相手の立場を尊重させるという態度を身につけさせることが必要である。

・肝陰虚は、イライラ、完璧主義、リーダー的で、他人の仕事が気に入らず自分でやり直し

 たりする。血中の水が足りなくなって虚熱が発生した状態。

・肝陽虚は、恐れやすい。レーダー人間で、人の目を気にする。体力のある人間が肝陰虚に

 なって頑張りすぎると、陽気がもれて陰陽両虚となる。肝の血虚。引きこもり。

・心陰虚は、よく喋り、笑う。誇大妄想的でオーバーな行動をする。

・心陽虚は、精神が無感動となり、ぼやっとしている。何も楽しまない。高齢者。

・脾陰虚は、唇が赤い。落ち着きがない。狂騒状態。無責任。計画性がない。

・脾陽虚は、意志薄弱。思慮過多。石橋を叩いても渡らない。不安障害はここから。

・肺陰虚は、肺に熱がこもった感じで、騒がしい。躁状態。色が白くて毛深い。

・肺陽虚は、憂鬱。消極的。もの悲しい。脾の陽虚と重なると悲しさの感情が増す。

・腎陰虚は、驚きやすい。これは虚熱が侵入するためで、心の虚熱状態とよく似た精神

 状態になる。不眠。よくいえば大人的。

・腎陽虚は、子供っぽい。すぐにばれる嘘をつく。自己中心的で辛抱ができない。怖がり。

・不眠の状態を病理的に鑑別すると、肝虚は頭が冴えて眠れない。腎虚は眠りが浅く、

 固摂ができないので汗もかく。脾陽虚は目に陽気が巡って来ないので、なかなか目が覚

 めず、体がだるい。

・脾腎の虚になると神気が少なく重症で、頭に汗をかく。陽気が少ないので風呂に入ると

 グターッと疲れてしまう→風呂に入らなくなり、臭い。陽気が抜けてしまうのでボソ

 ボソとものを言う。

・糖質の取り過ぎは脳をやられる。

・水分の過剰摂取は痰飲をつくり、脾の働きを弱める。

・欲張る現代人は気滞になりやすい。

 

樋口先生の実技より

・脈で寒熱が分からないときには舌を診る。舌苔が濃いか、薄いか。歯形がついていれば

 水滞がある。

・五十肩は、大腸経や三焦経上に痛みが出やすいが、患部はあまりいじらない。患部には

 知熱灸がよい。紫雲膏は使わず、水をつけてもぐさをのせる。

・頚部痛は、僧帽筋外縁でC5~C6の高さの部位や、風池に接触程度の鍼。皮膚をしめた

 ければ回旋をかける。

・膝痛は、膝の動きを観察し、大腿筋の張りを診る。大腿周径を測るとよい。膝を屈曲さ

 せて、内側の筋を指でしごいて圧痛を確認する。腫れや水が溜まっていても、大腿+関節

 の鍼と知熱灸で治る。膝間の部分は、皮膚をつまみながら関節面に刺鍼する。置鍼の際、

 鍼を打ち終えた後に足を少しゆすり、痛い鍼があれば打ちなおす。伏臥位では、委中と

 その内外、合陽、大腿のつっぱりを診る。治療後に、仰臥位で股関節の屈曲運動を20回

 行う。このとき反対の足は膝を曲げておくこと。また、座位で膝の屈曲を20回行う。力

 がついて来たら家でもやらせる。 膝はカバーする筋肉が少ないので治療に時間がかかる。

 屈曲運動をさせることは、治療の継続にもつながる。

 

樋口先生の実技では、弾入の際にツボの状況に応じて、微妙に打ち方の強弱や硬軟を変えているのが印象的でした。その手技は軽妙で美しく、見とれてしまいました。

 

会期中、東京は九州よりも湿度が低く、暑いながらも快適に過ごすことができました。いつもは会場から国際展示場のホテルまで歩くと汗が吹き出るほどですが、今回は違いました。ナイトセミナーの帰りなどは夜風が心地よかったです。

台風が接近中
台風が接近中

夏期大終了後、ホテルにもう一泊するつもりだったのですが、台風が関東に直撃しそうなので急遽予定を早めて長崎へ飛ぶことにしました。台風が原因とのことで、当日なのにホテルはキャンセル料がかからず、飛行機もフライト変更が無料でした。日本は本当に素晴らしい国だと思います。

余談ですが、ホテルの近くに区営のトレーニングジムがあり、講義が終わったあと、ここにも3日間通いました。勉強ばかりだと頭に気が上ってしまいますが、運動することで気の巡りも良くなり、夜もぐっすり眠ることができました。勉強の効率もアップしたようです。夜遅くまでやっているし料金も安いので、また夏期大に参加するときは利用しようと思います。

有明スポーツセンター
有明スポーツセンター
0 コメント

2016年

8月

06日

第30回弦躋塾セミナー【3】に字幕を追加しました

本日、「第30回弦躋塾セミナー」の第3巻に英語字幕と日本語字幕を追加しました。この企画はアメリカの翻訳家スティーブン・ブラウン氏との共同作業により完成しました。今年の4月にブラウン氏から、「首藤先生の動画に英語字幕をつけられないか」とメールがあり、これまで撮影した中で最も見やすいと思われる第30回セミナーから首藤先生の講義と実技を選びました。一連の作業は、まず私が動画の音声から日本語の文字起こしをして、それをブラウン氏が英語に翻訳し、再び私がその英文を動画の音声に同期させて貼り付けるということを行いました。また、せっかく日本語も作ったので、これも字幕にしました。

 

英語字幕によって、海外の鍼灸師や治療家の方々に首藤先生の技術をより理解していただければと思っています。そして無償で翻訳作業をして下さったブラウン氏に感謝します。ありがとうございました。

英語字幕&日本語字幕

続けて第4巻の英語字幕に取り掛かろうと思っていたのですが、先月から眼の調子が悪くなってしまい、作業を中断することにしました。自己治療をしていますが、目を酷使し続けていればなかなか治りません。動画編集ばかりしていたのが原因なので、しばらく「弦躋塾アーカイブス」の制作は休むことにします。

2 コメント

2016年

7月

25日

第19回弦躋塾セミナーの動画をアップしました

本日、2004年の9月に行なわれた「第19回弦躋塾セミナー」の動画が完成し、YouTubeにアップロードしました。特別講師は、広島県鍼灸師会元会長、経絡治療学会夏期大学特別講師などを歴任された時本 忠(すなお)先生です。全5巻の構成で、1~3は時本先生による講義と実技、4と5は首藤塾長による講義と実技が収録されています。

 

時本先生は柳谷素霊の弟子であり、「子午流注鍼法」の使い手で、まさに名人です。その治療はシンプルで即効性があります。首藤先生と同じく、理屈よりも実践を重んじる臨床家であることが映像からも伝わってきます。実技では26人(うち2人は治療せず)も診ていただいたのですが、この動画でも、どんどん主訴が取れていく様子を見ることができます。当時、私は撮影しながら、なんであんな簡単に痛みが取れてしまうのかと不思議でなりませんでした。でも動画を何度も見ていると、温かい手・正確な取穴・気至る鍼・経絡の運用といった臨床に不可欠な要素がはっきりと浮かんできます。そして小林詔司先生や吉川正子先生にも通じる反対側の治療といったことも、今後の研究材料にしたいと考えています。また、講義では心腎の交流、心包絡の概要といった病理についても話されており、古典を学ぶ方の参考になると思います。時本先生を知らない若い鍼灸師や学生の方にも、ぜひこの動画を見て頂きたいです。そして、動画公開を快くお許しくださった時本忠先生、時本哲弥先生に感謝いたします。ありがとうございました。




首藤塾長の講演は、講義:内臓疾患の鍼灸治療(含む症例発表)・取穴論(取穴手順と曲池の取穴)・実技(脈診のコツと肝虚証の治療)が収録されています。また、時本先生の治療に関する考察も述べています。YouTubeのページにはチャプターを記してあるので参考にして下さい。

 

時本先生の講演「心臓疾患の鍼灸治療」から、大切だと感じた点をまとめました。

 

子午法について

子午法というのは、相対するという意味がある。心臓の病が胆経にあらわれる。12時は胆経が旺気する時間だが、これが旺気せず、相対する少陰心経の病があらわれる。

心痛と真心痛

古典では心臓疾患を心痛と真心痛に区別している。

心痛というのは心包絡、君火と相火の病、消化器系や腎臓系、つまり機能的疾患、器質的疾患をいう。

真心痛は君火の病で、手のひらを返すが如く死んでしまう。現代で言う狭心症とか心筋梗塞にあたる。君火の病には虫痛、疰痛、風痛、悸痛、食痛、飲痛、寒痛、熱痛、去来痛の9種類がある。

五臓と陰陽の交流

陽臓の心(神)と陰臓の腎(精)の交流が生命全体の軸となり、五臓の中でも主として大事なものを「精神」と表現する。心と腎の交流が上手く行けば健康が保たれる。

腎臓が弱ると胃気が上に上がらなくなる。それで心臓に影響する。相火をもらって腎臓は動いているが、それが足りないと心腎の交流が上手く行かなくなる。

心包絡の概要

君火 上焦の心臓そのもの。心筋を主として指したもの。

相火 君火と下焦の水腎を結ぶ連合系。大動脈、腹大動脈。

   上焦においては心臓を包む血管網(冠状動脈、中心静脈)

   下焦においては腎間の動気として腎気と交流(腎動脈)

心包絡の作用は上中下の三焦にわたる。足(小心)の状態にも反応があらわれる。

だから心包経に鍼をすると腎経、肝経、脾経にも効果がある。一番効くのは腎経。

難経三十六難の説

 左腎(後天の気舎)は脾胃でつくられた栄養物質(気血)を貯蔵、右腎(先天の気舎)は生命力の根元、生殖能力の源。

水虚は火の旺気実を招く。腎虚によって心と腎間の動気の旺気実を招くため、動悸や発作が起きたりする。

脈診

脈診では左寸口部が洪・滑・緊などの実脈(強い脈状)は重症。

         細・弱など虚脈(特に弱い脈状)は重症。

         滑数は要注意。

         滑遅は心配なし。

         緊数は要注意。

         細脈は狭心症・心筋梗塞・胸痛。

         弱脈は、循環器が弱って、腹部・下肢の血行障害。

心疾患における胸腹部の圧痛点

一番多く出るのは巨闕。巨闕に圧痛がある場合は気海にも圧痛が出る。気海や関元の刺鍼で巨闕の圧痛が取れることが往々にしてある。背部では膈兪、志室に良く出る。膈兪は更年期障害や消化器疾患、不眠症等でも反応が出る。心兪や神道にも反応が出るが、ここには強刺激をしてはいけない。

治療

治療の基本は、少陰腎経と心包経を組み合わせる。然谷(火穴)と内関(絡穴)を使う。発作時は内関ではなく郄門を使う。

 

以下は時本先生の「実技」からのまとめです。

 

・「子午流注鍼法」を使う場合は、脈証に関係なく疾患部位と経脈の走行に従う。治療は

 疾患部位、または病症経に対応する経脈の「健側」に行ない、原則として絡穴を用いる。

 軽い重圧感を生じ、気持ちよい響きが流れるのが最も著効を奏す。電撃様の強刺激は駄

 目。1~3分程度の置鍼もよい。

・支正の取穴は肘を曲げて取穴すること。小腸経は手を伸ばすと正確な取穴ができない。 『十四経発揮』では腕関節から肘関節までが1尺2寸、支正は腕関節から5寸に取る。

・支正の刺鍼は小腸経のほうへ、骨の下に向けた角度で刺入する。

・鍼の刺入は経脈を通り過ぎないように少しずつ弾入すること。気の至りを感じなくては

 ならない。腰痛は肝の病とみる。

・耳鳴りは患側の照海(腎経)、右側の偏歴(大腸経)。合谷の位置で手を交差させて、

 人差し指の部分が列缺、中指が偏歴となる。偏歴は子午の法則である。耳鳴りは腎だけ

 である。10分ぐらい置鍼するとよい。補足的な治療をするとすれば腎兪や三焦経など

 を使うが、即効的には照海と偏歴だけでよい。抜鍼するときに気が抜けないよう押さえ

 ること。刺鍼の際、ツボが深い場合は慢性である。

・たとえば五十肩の患者に、肩をいじってから子午治療をしても効かない。子午だけやる

 こと。

・五十肩は肺経・三焦経・小腸経の3通りしかない。まず肺経の雲門付近の圧痛を調べ、

 尺沢の圧痛を調べる。尺沢は2ヶ所ある。慢性は外側、急性は内側(心包経寄り)に出

 る。五十肩は肺経の病が多い。大腸経もあるが、肺経を治療すれば大腸経も治る。同様

 に肩膠(三焦経)に圧痛があれば、外関や上四瀆の圧痛を診る。また肩貞や天宗(小腸

 経)に圧痛があれば支正の圧痛を診る。肺経の治療は足三里、三焦経は太衝、小腸経は

 太谿、いずれも健側に刺鍼を行なう。五十肩を診る際は、どの経絡に痛みが出ているか

 を把握すること。

・寝違えの場合、子午治療では患側の養老にマグレインを貼る。取穴は手を伸ばしたまま

 茎状突起から一山越えたところに取穴する。

・対症療法とすれば、寝違えでも五十肩でも胸椎4~5あたりを治療すればよい。子午治

 療が効かない場合にするとよい。ただし深い鍼は駄目。切皮程度でよい。

・鍼を刺すとき、急激な刺鍼はいけない。気をやぶらずに少しずつ刺入する。捻鍼が良い

 というのはそういうこと。そうして鍼を刺すうちに気の至りが分かってくる。そこが鍼

 のコツ。

・虫垂点(右下腹部)に圧痛がある場合、同側の支正に刺鍼すると虫垂点が柔らかくなる。

 膵点(水分のやや外側)に圧痛がある場合は側臥位で圧痛を再確認する。左公孫

(子午治療ではない)に刺鍼すると膵点の圧痛が軽くなる。小腹は肝とみる。

・胃が痛いのは右の内関。内関に刺す場合は鍼管をしっかり押さえ、軽く刺す。鍼管より

 も深く刺さないこと。その際、押手をちょっとつまむと、うんと補法になる。お腹が温

 かくなる。

・右肘の痛み(曲池の外方)は三焦経の病。おそらく骨頭炎をおこしている。肘を曲げて

 お灸をするのが一番よい。左公孫の補法で肘の痛みが取れる。

・手首のガングリオンに子午治療は効かない。お灸を3壮ずつすると徐々に楽になる。

・弾発指で右魚際付近の痛み、これは肺経の病だから膀胱経で取る。左飛陽に補法。

・生きたツボを使う。迎随は関係ない。

・膝痛のモデル、曲泉は膝を曲げて横紋に仮点をつけ、膝を伸ばして、その5ミリほど上

 の圧痛点に取穴する。その2センチ上にも圧痛があり、これは脾経。つまり肝と脾が悪

 い。左支正に刺鍼。鍼柄を弾いて催気をする。

・腹部手術後の癒着痛で、左志室に圧痛のモデル。これは左へその横が悪い。右支正で痛

 みが消失。

 

・股関節痛のモデル(2名)は反対側の支正で痛みが消失。

・十四経発揮の然谷から一山越えたところが「時ちゃん然谷」。湧泉のほうにスッと響く。

・心臓に発作が出た場合は、右然谷と左内関を使う。巨闕を少し押さえて痛みが出るのは

 軽症。深く押さえて苦しいのは重症。

・脈を診たときに心経・脾経・腎経が弱くても、心包絡がしっかり打っていれば気にする

 ことはない。遠慮なしに治療すればよい。

・不整脈は「時ちゃん然谷」で治す。高血圧で下の数値が高い場合も然谷でよく治る。

・たとえば太谿などに置鍼する場合、左右の鍼柄が触れると、気が他所にながれてしまう

 ので鍼が効かない。鍼治療というのは気の問題、気の流れである。

・最近は手の冷たい鍼灸師が多い。掌が冷たいというのは、普段から下腹に力が入ってい

 ないから。丹田を鍛えること。そうすると掌が温かくなって患者さんが喜ぶ手になる。

・三里は腎経の合穴。腎経の治療をしながら、半表半裏ぐらいで抜刺寸前に寫すと脾経の

 治療ができる。つまり腎経と脾経をいっぺんに治療できる。

・腰が伸びない、伸ばすときに痛いのは膀胱経がつっぱっているから。もし両側が痛いと

 言うときは左右の太衝を圧して痛みの強いほうが患側である。健側の列缺に刺鍼する。

・刺鍼の際、心包経だけは先に鍼管をしっかりあてて、それから押手をそえる。心包経で

 も肺経でも深く刺す必要は無い。接触鍼だけで上等。押手をちょっとつまむと補が倍に

 も3倍にもなる。

・「うちでは肺経とか心包経とかは、ぜんぶ捻鍼です」。

・「解剖学に随った治療をしたら駄目ですよ。私らは経絡を相手にしているんだから」。

・「鍼はね、沢山したからよく治るんじゃないよ。鍼は少ないほどよく効くんだよ」。

・頚痛で、マグレインを貼る場合は同側の養老に。瞬時に楽になる。

・肩痛は健側の太衝か太谿、圧痛のあるほうに取ればよい。これが生きたツボの使い方で

 ある。必ずしも指定されたツボにする必要は無い。

・「現代医学的な訴えをそのまま聞いたのでは駄目なんです。それを経絡の変動として聞

 き込まんと」。

・耳鳴りは患側の照海と健側の偏歴。その場で取れなくても、あくる日にはずっと楽にな

 る。「経絡の運用はホンマに微妙なんですよ」。

・鍼は刺すのも大切だが、抜くときも大切。瀉はいいが、補は抜鍼時にしっかり閉じる。

 気をもらすと鍼は効かない。刺したときと同じ方向角度で抜くこと。

・足裏痛は支正と偏歴。支正の鍼がだるいと(術者が指で)感じるようになるまで稽古を

 しなければならない。

・足の先が痛いというのは、患側の支正で取れる。巻き爪も肝の病だから支正で取れる。

 足指の裏側の痛みも取れる。

・「痺れというのは難しいんだ、どんな病気だって」。

・「支正を使う患者さんは多いんです。痛みがあるのはね、多分に肝経が関係しているん

 ですよ」。

・「気を入れてやる。治るも治らないも、治しますゆうてやってみい」。

・「私は鼻茸があるが、マグレインを手三里に貼ると、スーッと引っ込んじゃう」。

 

時本先生の刺鍼
時本先生の刺鍼

編集後記

今回の動画は昨年の10月から編集し始めたのですが、映像・音声ともに修正箇所が多くて作業がなかなか進みませんでした。ようやく完成してホッとしています。そして、この動画が日本鍼灸を広めるために役立つことを願っています。

4 コメント

2016年

6月

16日

第65回 全日本鍼灸学会学術大会 北海道大会

札幌コンベンションセンター
札幌コンベンションセンター
大会ポスター
大会ポスター
弦躋塾生も九州から参加
弦躋塾生も九州から参加

 

2016年6月10日~12日の3日間、札幌コンベンションセンターにて開催された、「第65回(公社)全日本鍼灸学会学術大会 北海道大会」に参加しました。札幌の初夏は爽やかで、街を歩いていると小さな綿毛がふわふわ飛んでいるのが印象的でした。

 

今学会のテーマは「これからの日本の医療を担う鍼灸~鍼灸治療と医療連携」です。3日間の勉強を通して心に残ったキーワードは、脳・皮膚・診断技術です。中でも教育セミナー「鍼灸師がうつ病患者を診るために」で講演された中村元昭・奈良雅之・山崎翼の3先生、そして実技セッション5「小児鍼」の谷岡賢徳先生、同じく実技セッション6「傷寒論鍼灸配穴選注より学ぶ陰陽太極鍼」の吉川正子先生には感銘を受けました。以下、要点のみ記します。 

中村元昭先生は精神科医の立場から、鍼灸師とどのように連携すべきであるかということや、鬱病患者に対して鍼灸師に知っておいて欲しいことを述べた。

 

・鬱状態は、ほとんどの精神疾患で出てくる症状であり、鬱状態イコール鬱病ではない。

・発病年齢で見ると、鬱病は30代前半から60代に多く、躁鬱病は10代から30代に多い。

・ASDなど発達障害との関与も推測する必要がある。

・初老期から老年期には器質性や激越性うつ病がみられ、思考の障害が初老期に起こると、

 認知証と間違えられやすい。

・高齢者の3Dとは、認知症(dementia)・鬱病(depression)、せん妄(delirium)。

・単極性と双極性は(治療法が異なるため)区別しなくてはならない。

・視床下部の機能失調によって自律神経や内分泌の障害がおきている。これを根本的に解決

 する薬はない。

に働けば角が立つ     新皮質  思考・認知

 にほだされれば流される  辺縁系  気分・感情

 地を通せば窮屈だ     前頭前野 意欲・行動

 そして、体       (仮面うつ病では主に身体症状が現れる)

 これらの4つのものが数ヶ月単位で推移し、気分障害、思考の障害、意欲・行動障害など

 をもたらす。躁鬱混合状態において、病相がシフトするときに、智と情が下がっているの

   に、意と体が下がっていない場合は誤診されやすい。

・感情には4種類ある。

 感覚的感情 痛み・過大な感覚刺激・快不快。

 身体的感情 特定な感覚や、身体部位に局在しない全体的な感情・活気・疲労・緊張。

 心的感情  喜怒哀楽。

 精神的感情 宗教や芸術等にともなう感情。

・心的エネルギーが低下することにより、(過去の過ちなど)葛藤の2次的露呈が現れて影響

 を及ぼす。葛藤に対する直面は自殺に繋がるため、問題は先送りして推移の変化をみる。

・ライフイベントの状態によって、休息的環境治療・傾聴・心理療法を使い分ける。

 

うつ病に対する化合物は1950年代に始まったが、現在も患者数は激増している。病院でも、症状を聞きながら逃げ回っている状態である。薬物療法だけではマネージできない。鍼灸師は患者と接する時間が長い。西洋医学の手の届かないところに鍼灸治療は有効である。

奈良雅之先生は心理士の立場から、患者に触れることの出来る鍼灸師のメリットは大きいとし、鍼灸師が臨床で鬱病患者と良好な関係を構築するためのテクニックを語った。

 

・医療面接は重要である。

・患者理解の情報収集をする。

・良好な関係は第一印象でほぼ決まる。

・患者のペースで答えられるような質問を心がける。

・気持ちに寄り添う。共感的態度で傾聴する。

・本人のネガティブな側面にたいして光をあてる。但し、ネガティブな反応や行動には同意

 しない。

・面接のポイントは空間・時間・強度の3つ。鬱病患者には遠くから(空間)、ゆっくりと(時間)、ソフトに(強度)接する。

・あいずち、うなずき支持、要約、言い換え等を用いる。

・出来事や認知、気分、行動の関連に重点を置き、可能性を示して概念化する。

・鍼や灸の刺激量は個人差や体調を考えて適切な量になるように配慮する。

 

奈良先生は東洋はり方式の経絡治療も実践されており、月経前症候群と鬱病(パニック・暴れる)の2症例を発表されたのですが、当学会らしく東洋医学的見地からの解説は無きに等しいのが残念でした。そこで、講演直後に奈良先生に「治療を重ねるにつれて証を変えていった経緯や、どのように脈や体表が変化したのか」などを質問したところ、「脈にたよって治療した結果が思わしくないこともあり、それは月経周期のある時期に起きた」という回答を頂きました。つまり海に潮の満ち引きがあるように、女性の身体も月経の周期によって虚になったり実になったりする傾向があり、それが必ずしも脈と一致するものではないというふうに解釈しました。パキシルの服用によってイライラが増したようであり、それを肝実とみて治療をしたら上手くいったとのことです。つまり脈は重要な診断方法ですが、あくまでも評価するための一つの要素に過ぎず、それだけにとらわれては失敗する恐れがあるということを教わった思いがしました。なぜ火穴でなくて太衝を寫したのかは聞き忘れましたが、むしろそういう話が一番勉強になります。

山崎翼(たすく)先生は、エビデンスとは何か、そしてその仕組みについて話された。科学的根拠とは研究者の主観が入らない複数のランダム化比較試験を集めて、統計から導かれた信頼性の高いデータのことであり、最も権威のある物差しに認められるために論文の蓄積が必要であることがわかった。エビデンスの弱点として、新しいものが正しいという弱点があり、去年まで正しかったことが覆ることがある。山崎先生は今後の課題として、まず論文の数を増やすこと。細かいことを問わずに論文にする必要があることを訴えた。また、「薬物療法について批判的な患者や家族には、どのように接したらよいか」というフロアからの質問に対して、短く手紙をしたためてはどうか。箇条書きでよいので主治医に渡せばいい。それで(鍼灸治療との)併用に導けたケースは多いと答えた。

 

西洋医学は正しいことがコロコロかわります。私が小学生の頃は予防接種で注射器を使いまわすのが常識でしたが、今は感染の恐れがあるので非常識であるというのもエビデンスです。しかし、こいつは厄介でもあります。何でもかんでも現代医学の視点から物を見るからです。そもそも2000年も前に論文の蓄積としてまとめられた素問や霊枢の世界を、わざわざ西洋医学のフィルターを通して理解しようとする必要があるのかという思いがします。現代医療と連携するためには避けて通れない道だということも分かりますが、なんか悲しい。

谷岡賢徳先生の実技では、ステージに赤子から子供までを並べて治療する様子を見ることができた。まず望診の段階で「キーキー顔は後回し」、「この子はきれいに治る」、「顔を見る子は警戒している」など、一瞬でタイプを把握し、その子との信頼関係を構築するために風船や赤ちゃん言葉などを用いていく。広い会場やビデオ撮影をする人物を怖がって泣く子供もいたが、拒否はしていなかった。「本当に嫌だったら子供はじっとしていない」と谷岡先生は述べた。大師流小児鍼の歴史や刺鍼技術についての解説や、スタッフによる小児鍼の体験もさせてもらえた。薬指をセンサーにしながら、ラグビーボールのような軌道で皮膚を軽やかに引きながら撫でる谷岡先生の手技は美しく、名人技であることが見て取れた。

 

質疑応答で、私は「夜尿症だけでなく、昼も失敗する子」の治療について質問をしました。谷岡先生は「そのタイプはひとつのことに集中し過ぎる子で、肩や首をよく緩めて、のぼせた気を下げてあげる必要がある。百会・大椎・列缺・身柱、もし腰部の奥に硬いものがあれば長くかかる」との回答を頂きました。

 

谷岡先生の講演から心に残ったフレーズを記します。

・子供は柔らかいと思っているうちは皮膚が読めていない。

・わずかな幅の中に硬さも柔らかさもある。

・さする・叩く・押し付ける・線香を近づける。

・過緊張部を施術、弛緩部は施術しない。

・正常になった点でやめる。

・心地よい施術はドーパミンやオキシトシンを産生させる。

・大人は点・慢性、子供は面・急性。

・うるさい親は放っておいて、子供と接する。

・失敗のしっぱなしではいけない。ちゃんと結論を出す。

・子供に不快を与えないのが大前提。

・どんなときに喜ぶか、怒るか、表情観察をする。

・子供の対応を最優先し、子供の言葉を使って話す。

・親は先生と子供の接し方を見ている。

・いかに治療を続けられるか。7~8割は上手くいく。

・低学年は治りにくい。

・遺伝性もある。

・夜尿症は、グラフをつけて量を測るとよい。

・塾に通うと治りにくいなと(術者が)独り言をいう。現代の子は遊び場がないから塾が楽

 しい。そういう背景がある。体鍛えて、やんちゃするほうが将来は役に立つ人になる。

吉川正子先生の実技では、卓越した診断技術と、シンプルで即効性のある治療を目にすることができた。鍼を置くだけで症状が改善するという「陰陽太極鍼」は、正に古典理論の実践そのものであり、吉川先生は鍼を置くだけでも効く理由を、 脳と皮膚は同じ外胚葉由来であることや、「皮膚表層に存在するケラチノサイトに情報伝達物質の受容体があり、軽い刺激でも即遠隔に伝達されて局所が正しく処理される」と現代医学の立場からも解説された。「自己治療で治ればよろしい」という先生の治療姿勢も素晴らしいし、何より「この優れた治療法を皆に知ってほしい」という意気込みが伝わって来て、大いに啓蒙を受けた。

 

吉川先生の講演で心に残った言葉

・解剖や生理では答えは出ない。左右、上下、表裏の陰陽が効く。

・まずは寫して邪気を抜く。陰経だから寫さないというのはウソ。

・臀部の圧痛は胃から来る。

・慢性化するとツボは横にずれていく。3行線でも7行線でも。

・そのとき、その日に反応するツボがある。

・腹診は募穴診がよい。

・太陽病→膀胱経→小腸経といったように意識をもってみる。

・翳風の圧痛は厲兌が効く。

・脾兪の陥下は反対側の大腸兪をゆるめる。

・天枢の圧痛は上巨虚でとる。

・太谿は肓兪でとる。

・背部は飛陽でとる。

・ふくらはぎ、下から肝・腎・脾とみる。

・右照海を寫の向きに皮内鍼で右後頭部痛が治る。

・歯並びが悪いのは腎虚。

・頚椎は反対側の太谿でとる。

・ソケイの痛みは秉風。

・夕方悪いのは腎。

・皮内鍼は気持ちいい方向に向けて貼る。

・腎経の寫、隠白の寫など、陰経の寫は必要。

・どんな疾患でも胃腸を治すこと。

 

吉川先生の実技を見て、古典のエビデンスに基づいた治療の大切さがよく分かりました。先生の推薦された『傷寒論鍼灸配穴選注』と『驚きの脳』も早速読んでみることにします。

北海道大会では学ぶことが多く、3日間のスケジュールもあっという間に過ぎました。ちょうど、YOSAKOIソーラン祭りと会期が重なり、すすきのでは祭りを少しだけ見ることが出来ました。太鼓を叩きながら、楽しそうに踊る若者たちの姿は生き生きしており、そのエネルギーを分けてもらった気がします。おかげで元気に帰路につくことができました。

0 コメント

2016年

4月

23日

第18回弦躋塾セミナーの動画

九州では熊本地震の余震が今も続いています。被災された方々にお見舞い申し上げます。

 

このたび第18回弦躋塾セミナー(2003年開催)の動画が完成し、YouTubeにアップロードしました。特別講師は積聚会会長の小林詔司先生です。全3巻で、パート1は小林先生の講義、パート2は小林先生の実技、パート3は首藤先生の講義と実技が収録されています。私個人のビデオカメラで撮ったもので映りが悪いですが、講演内容は素晴らしいです。パート1の小林先生の講義は、音声が聞きづらいために字幕をつけました。また実技には、『続・積聚治療』を参考にしてキャプションを入れました。小林先生には動画公開のお許しを頂いただけでなく、『続・積聚治療』を贈呈して頂き、感謝しております。 

小林先生の講演について

今回、編集作業をしていて、積聚治療はシンプルでわかりやすく、非常に魅力的な治療法だと改めて感じました。脈診でさえも指標のひとつとして考えますし、脈の調整は太淵か大陵で行ない、その評価も孔最の反応によって確認できます。これならば初心者でも臨床で活用できるでしょう。健側に刺鍼をするということも積聚治療の特徴です。これも患部を問題とするのではなく、精気の虚によって患部に指標が表れていると考えます。鍼灸師としては硬結に鍼を当てたいところですが、私も先日、腰痛患者に対して、あえて健側の志室のみに刺鍼したところ、患側の硬結が緩んでしまいました。しかも、一週間後に再来院した際、「あれから腰が楽になってねえ」と患者に言われ、「いつもの鍼より効いてるかも?」と内心驚きました。そして、その際に必要になるのが意識です。小林先生の講演で最も印象に残った言葉であり、これは「気至る鍼」をするための具体的な方法であると思いました。

 

実技では、積聚治療の初心者にわかりやすいように、4人のモデルともに第一方式で治療を行なっています。背部兪穴を治療する際に、4つの領域すべてをやる前に指標が取れてしまうケースが多く、小林先生の治療技術の高さが伺えました。腹診では剣状突起、臍、恥骨付近をよく触診していたので、澤田流の影響もあるのかなと感じました。患者の汗をよく拭くことも、そこまで汗が出ることも印象的でした。

 

ただ、経絡治療をしている人は用語の意味の違いに混乱するかもしれません。たとえば陰虚は内熱ですが、積聚治療では身体の下位から始まる冷え病症のことをいいます。心虚証という言葉もしかりです。 それから、この動画を撮影した2003年当時と現在では解釈が異なっている部分(痛積・牢積の場合、肝積は肺虚証など)もあると思いますので、ぜひ『続・積聚治療』を読まれることをお勧めします。また現在、北米東洋医学誌(NAJOM)に高橋大希先生が積聚治療入門を連載されているので、そちらも参考になります。

 

首藤先生の講演について

実技を見ると、取穴や刺鍼の手の動きがとても速くて驚きました。動画を撮っていて本当に良かったです。もう弦躋塾では学べませんが、動画は繰り返し見て学べるので、記録としても教材としても貴重だと思います。ぜひ若い鍼灸師や学生の方に見ていただきたいです。

最後にお願いがあります。

 

私がYouTubeにアップした弦躋塾セミナーの動画について、首藤鍼灸院に問い合わせをする人がいるようですが、大変迷惑がかかりますので止めてください。同様に特別講師の先生にも問い合わせをしないよう、よろしくお願いします。

 

4 コメント

2016年

4月

03日

第31回 経絡治療学会学術大会 東北大会

2016年3月26日(土)~27日(日)の2日間、宮城県仙台市のTKPガーデンシティ仙台にて第31回経絡治療学会学術大会 東北大会が開催されました。仙台駅のすぐ隣でアクセスが良く、会場はビルの21階で窓からの眺めが素晴らしかったです。また、会場には大きな机も用意されていて勉強がしやすく、運営側による参加者への配慮が感じられました。

大会ポスター
大会ポスター
会場は地上21階
会場は地上21階
会場から見た仙台市街
会場から見た仙台市街

 

今学会で私が一番楽しみにしていたのは、浦山久嗣先生の教育講演1『日本鍼灸の歴史』です。実は昨年の夏期大でも同様の講演があったのですが、夏期大参加が3回目の私は研修科の講義が受けられないという、無慈悲な夏期大ルールに阻まれて涙を呑んだので、今回は運が良かったです。講演内容の一部を記します。

 

21世紀になってから多くの資料が発掘され、それまで富士川游の資料のみだった日本の

 医学史の既成概念を見直さなければならない状況になってきた。本来、日本の医学は仏

 教文化との関わりが大きかった。後に幕府などで朱子学が盛んになるに伴い、中国医学

 が主流となるが、西洋医学が入るとそちらに一辺倒になり、現在に至る。

 

・飛鳥時代に渡来人(呉の智聡の末裔の一族)によって仏教書とともに医学書(薬書・

 明堂図)が持ち込まれ、仏教医学として僧侶が治療を行なっていた。大宝令(701年)

 によって医博士・鍼博士などが制定され、さらに養老令(757年)では女医制度も追加

 され、それが按腹法につながっていった。

 

・日本最古の医学書である『医心方』(984)では、病理の基礎理論がアーユルヴェーダ

 や仏教医学であり、その上に治療の各論として中国の処方や治療法が載せてあるという

 二階建てだった。これを浦山先生は「仏魂漢才」医学と表現した。

 

『医心方』の22巻のみ経絡や経穴・臓腑の図が描かれているが、他では一切排除されて

 いる。胎児を養うのは経絡だったので仕方なく胎教出産篇には経絡を載せたけども、

 本当は入れたくなかったのではないかと推測できる。

 

・平安時代末期には真言宗僧侶の覚鑁(かくばん)が大日如来の真言(ア・ヴァ・ラ・カ・

 キャ)と五輪(=五大  地・水・火・風・空)を結びつけ、さらに五臓と結びつけて仏教

 医学と中国医学を融合したために、その後の日本人は五行と五大の区別がつかなくなって

 しまった。

 

・僧侶でも治せない業病も「五臓の根焼」をすることで前世の宿運を断ち切ることができ

 るということから、背部兪穴の灸が日本では深く浸透していった。

 

・立川流円覚経→和名図法師→福田方(五輪塔型臓腑図)→鍼聞書(腹の虫)→

 多賀法印流→打鍼術という、僧侶らによる鍼灸の普及があった。管鍼術は入江流→

 杉山流と続いていくが、現在も行なわれているのは石坂流の管鍼スタイルである。

 

・田代三喜は明に行っておらず、横浜沖に漂着した中国船から大量の書物を金沢文庫に運

 び、最新の中国医学の知識を得た。そして弟子の曲直瀬道三へと続いていく。彼等は日

 本的弁証論治である察証弁治を行なった。

 

・WHOで制定されている骨度や経穴の多くは江戸期の日本の文献が元になっている。

 

・後藤艮山は肝気鬱結を最初に唱えた。その頃の中国医学にそういう概念は無かった。

 

・江戸期後半から刺絡と西洋医学の流行があり、神経学説と経穴を合わせようとした

 結果、本来のツボのとり方が失われてしまった。

 

他にも貴重な話が色々あったのですが、集中力が途切れてメモが追いつきませんでした。感想を一言で述べると、日本人は昔から新しいもの好きな民族で、しかも異文化を上手に取り入れて活用することに長けていたということや、その基礎になっているのが仏教文化だったということです。たとえば熱さを我慢できるように艾炷を小さくしたり、痛くない鍼を打つために細い鍼や鍼管が用いられたのは、相手を思いやるという慈悲の心があったからでしょうし、そのような仏教思想は現在の日本人および日本鍼灸の中にも脈々と受け継がれていると思います。

岡田明三先生の会長講演「随証療法について」では、1972年に中国の鍼麻酔の報道が入ってから、日本の鍼灸は痛みの治療に変わってしまったことを指摘し、全身の調整がいかに大切なことであるかということを述べました。そして経絡治療の初心者や学生にも分かりやすいように、随証療法とは何かを解説しました。

 

・経絡治療で最も大事なことは診断して証を立てること。蔵府から発生した色々な症状に

 よって肌の色が変わったり、頭と手足の温度差が出るといった気血変動がおきる。その

 結果、力が衰えていくものを虚、外邪や内なるストレスと戦って発生する熱などを実と

 し、虚実証としてとらえる。それに対して本治法と標治法の二つを組み合わせることで

 しっかりとした治療ができる。

 

・脈診だけではなく、身体のあちこちに出る症状の変化を細かく集めて揃える。五行陰陽

 はグループに分けていくと分かりやすい。それが診断である。難しく考えずに、顔が赤

 い、足が冷えるなどと書いておけばいい。それを後で本を見て、黒いのは腎だと分かっ

 ていけばいい。

 

・本治法とは、木でいえば根っこから下の見えない部分を治療することである。消耗して

 いる状態を虚証という。家に帰って寝なさいとか、身体を温めなさいというのは補法。

 汗をかいて熱を下げましょうというのは寫法。人間は仕事や生活で消耗していくから、

 95%ぐらいが虚証の治療をする。

 

・標治法とは、表に出ている症状を治療することである。患部の虚実と、熱か冷えかを

 しっかりと確かめる。熱があるときは冷やすと熱は治る。膝が腫れている人が温泉に湯

 治に行って悪化することがある。日本人は温めるのが好きだが、虚証であっても局所に

 は冷やすことが必要となる。

 

・本治法だけでなく、標治法も証に随うことが大切である。

弦躋塾の先生方と乾杯
弦躋塾の先生方と乾杯

一般口演では11人の各支部・部会の先生方が症例報告や失敗例、比較例などを発表しました。それぞれ診断や治療の方針には主宰する先生の影響が濃く表れており、同じ経絡治療学会内でも様々なスタイルが存在しますが、地方会に属さない鍼灸師(本部会員)や学生にはその違いがわかりにくいという一面もあります。そういう意味で横山奨先生の「経絡治療学会における鍼施術の実態調査」は興味深い発表でした。次回は是非、本治法における選穴とその理由、また同様に手技の補寫に対する傾向についても調査に加えていただきたいです。会員数4000名-地方会員=本部会員とするならば大多数は本部会員になるので、このような統計調査はとても有益だと思います。

 

米沢利一先生の「『医学切要指南』との出会い」は大変勉強になりました。「三焦経は短いのに、なぜ全身を調整できるのか」という発想から研究をされたそうですが、そういう臨床的な動機づけがないと、ただ本を読んだり講義を聴いたりしてもなかなか実になりません。私も早速読んでみました。難経25難に書かれた「有名無形」について、馬玄台や虞搏、張介賓といった錚々たる面々が「それは脂膜のことで、難経は誤りだ」と唱えたことに対し、岡本一抱は行燈から出る光を腎間の動気の別使にたとえて三焦が無形であることを説明し、張景岳らを「皆ナ彼ノ光ニ氣ガツカズシテ只行燈ニノミ目ガツイテ有形トスル也」とバッサリ切り捨てています。また米沢先生が感じたのと同じ疑問を、一抱の門人も質問しており、「諸経諸絡ハ皆三焦ニ通スル者也。故八難ニ諸十二経脈者皆ナ生気之原ニ係ルト云ヒ、六十六難ニ臍下腎間ノ動気ハ十二経脈之根本也ト云。然バ則手ノ少陽経短シト云不審ニモ不及コト也。」と一抱は答えています。私の感想としては、張景岳ら中国の医師はより解剖学的なアプローチをすることで医学を高めようとし、岡本一抱は気の効能という面を深く掘り下げて解釈したのではないかと思いました。そのような中国人と日本人の考え方の違いは、浦山先生の講演にあった仏教思想との関連があるのかもしれません。それは現代における日本鍼灸と中医学の違いにも表れている気がします。そして、単に使用する経穴や手技の違いにこだわるのではなく、古典に書かれている病理を自分自身で考察することの大切さを改めて認識しました。

 

『医学切要指南』を含む岡本一抱の著書は、京都大学附属図書館のサイトから無料で読めます。なんと幸せな時代でしょう!

会頭講演は樋口秀吉先生による、「日本鍼灸医学・経絡経穴篇の解説」では、6年間という時間をかけて完成した本書について、その特徴や苦労話などを紹介しました。取穴をする際にわかりやすいよう図版は平面ではなく、術者がベッドサイドに立った角度になっていることや、大震災の影響によって作業が長期にわたって中断したこと、その後、第30回記念大会(2015年)に間に合わせるために2年で編集作業を仕上げたことなどを述べました。まさに「経絡経穴篇」は東北支部の先生方による努力の賜物だと思います。

 

また、今回は実技が首藤先生のみだったのですが、できれば樋口先生にも実技を披露していただきたかったです。11年前、弦躋塾に特別講師として来て頂いたとき、その手技の美しさに魅了されました。また昨年の東京大会の実技では、樋口先生の担当は大人のモデルを小児に見立てての小児喘息だったので、ぜひともホームである仙台で樋口先生の実技を見たかったです。

そして首藤傳明先生ですが、84歳という年齢や、寒さに弱いといった体調面の心配を吹き飛ばすような、気力のある実技でした。手技が速いので学生や初学者の方には分かりにくかったかもしれませんが、磁石の様に手が勝手にツボに行ってしまうような取穴や、ツボの取捨選択、刺激量の加減などが瞬時に行なわれていました。これは理屈ではなく、実践でしかたどり着けない境地なのだと思います。

教育講演2は野坂篤司先生(三沢市議会副議長)による「笑売人のひとりごと」で、私たち人間がどう生きるべきか、またどのようにすれば失敗しないのかということを、笑いを交えながら講演されました。社会においても天地自然の法則は生きており、「水が低いところに流れる」ように、威張った人や傲慢な者からは人は離れ、腰の低い者には人が集まるといった現実的でわかりやすい話が聞けました。野坂先生は孔子が中庸の大切さを説いた「宥座之器」を用いて、「たとえ成功した人であっても、いつまでもその座に居座ってはいけない。全てを失うことになる」と述べました。講演からいくつかのエピソードを記します。

 

・謙虚でなければならない。

・強さでなく、知性でなく、変化に対応できるものが強い。

・成功してから全てを失う危険がある。

・女性を大事にできない男は駄目。

・人を育てることに金を使うべき。

・知らないことは知っている人から聞け。

・応援する気になると競争しない。

・どんな学問も人から教わった。

・粗末にしたもので、人は苦しむ。

・人間から出るもので一番汚いものは言葉。言葉で人も殺せる。

・全部自分のためにやっている。好きだからやっている。人のためではない。

 

最後の文は「忘己利他」と反するようで、決して反してはいないと思います。現実的で説得力のある言葉だと感じました。

長崎・孔子廟
長崎・孔子廟
宥座之器
宥座之器
中庸の大切さを学ぶ
中庸の大切さを学ぶ

 

仙台からの帰りは弦躋塾の先生方と同じ飛行機だったのですが、たまたま私の座席の後ろに馬場道敬先生が座っていました。福岡空港に着陸して窓の外を眺めていたら、後ろからチョンチョンと肩を叩かれ、「小倉回りで帰るの?」と聞かれたので、「いえ、私は大分じゃなくて五島なんです」と答えると、「ほお、まだ遠いな。じゃあ帰りは明日?」、「はい、今日は長崎に泊まります」といった会話をしました。そして最後に「今回は勉強になった?」と聞かれたので、「はい、とても勉強になりました」と答えると、「一つか二つでいい。大事なことはね、一つ持って帰ればいいよ。あまり欲張っちゃいかん」と笑顔で言われました。特に面識も無い私にも気軽に話しかけてくれて、フランクで魅力のある先生だと改めて感じました。

 

翌日の朝、長崎の孔子廟に行って宥座之器を試してみました。空の器は傾いていますが、水を入れると段々と真っ直ぐになり安定します。さらに水を入れてもしばらくは安定したままですが、満杯に近くなると、器は逆さになって水が全部こぼれてしまいました。この丁度よい水の量という感覚と、馬場先生の「あまり欲張っちゃいかん」という言葉が重なり、「うぬぼれず、欲張らず、身の丈にあった生き方をしていこう」と考えました。

0 コメント

2016年

2月

03日

第30回弦躋塾セミナーの動画が完成

本日、第30回弦躋塾セミナーの動画(2日目分・5巻)をyoutubeにアップロードしました。これでセミナー内容が全て(9巻)揃ったことになります。鍼灸師の皆さん、どんどん見て学びましょう。私も当日は撮影に集中していたので、これらの動画を見てしっかり復習したいと思います。

5

6

7

8

9

これからも弦躋塾アーカイブスとして、これまでに記録した動画を編集・公開していきます。動画は原則的に首藤塾長と、(ネットでの公開をお許しいただいた)特別講師の講演のみとさせていただきます。次回は2003年の第18回弦躋塾セミナー(特別講師は小林詔司先生)を予定しています。

 

 

5 コメント

2016年

1月

02日

弦躋塾アーカイブス

明けましておめでとうございます。

本日、「第30回弦躋塾セミナー」の動画(初日分・4本)をyoutubeにアップロードしました。残りの分も完成次第アップします。全部で9本になる予定です。また当サイトでも動画の整理がしやすいように「弦躋塾アーカイブス」のコーナーを設けました。今後、動画が増えたら、年度別に掲載しようと考えています。

 



このたびの動画作成にあたり、首藤先生と水谷先生から資料を提供していただきました。また、首藤先生のパワーポイントの文章は、サブカメラの記録から私が作り直したものを、動画内に組み込みました。セミナー当日は、実技の際にスクリーンを見て酔ってしまった方もいたと聞きました。撮影も機材も音響もすべてぶっつけ本番のうえ、照明を暗くしないとならないのでこちらも厳しかったです。今回は川瀬先生の協力で固定カメラからの映像も加え、できるだけ見やすくなるように編集しました。セミナーに参加した方には復習に、参加しなかった方にもわかりやすく勉強できると思います。youtubeの解説欄にはチャプターもつけたので参考にして下さい。

作業中の図
作業中の図

この数ヶ月間、毎日深夜まで編集作業を続けていたのですが、年末までに終わらず、本日(1月2日の夕方)やっとセミナー前半(初日)が完成しました。もうほとんどゾンビ状態です。それでも、首藤先生、水谷先生の気迫に満ちた講義・実技を記録に残すことができてホッとしています。しばらく休んでから、後半の編集作業を始めようと思います。

4 コメント

2015年

11月

13日

日本伝統鍼灸学会 第43回学術大会in東京 3

学会の帰り、羽田にて
学会の帰り、羽田にて

 第43回日本伝統鍼灸学会の感想を続けます。実技講演は大浦慈観先生・石原克己先生(解説:浦山久嗣先生)・藤本蓮風先生の3名が行ないました。テーマは「杉山流の管鍼術」、「江戸期における刺絡・員利鍼の変遷と実技」、「打鍼と古代鍼の発掘と臨床応用」と江戸時代の鍼灸に関連したもので、時代とともに忘れられつつあった優れた技術を研究・継承されています。それぞれの先生から学ぶところは多く、大変貴重な講演でした。

 

大浦慈観先生の実技では杉山流の「管鍼術」を紹介し、金属製の鍼管を用いて打鍼のように皮膚を叩く技を披露しました。そして「過剰な衛生至上主義が蔓延し、ディスポ鍼のプラスチック鍼管が一般的になった現在、伝統的な手技が廃れてしまうことが無いように、管鍼術を実践できる臨床家が積極的に発信するべきである」と語りました。鍼を弾入し、そのまま鍼管を叩き続ければ結構な刺激量となりますし、方向や深さを考えて叩けば、硬結や水滞、瘀血など色々な目的に活かすことができるかもしれないと思いました。

 

過剰な衛生至上主義については、私も学生時代に指サックをはめ、イソプロでびしょびしょになるほど消毒をするやり方に疑問を抱いていました。また、学校の付属施術所には「遠隔治療禁止」と張り紙が貼ってあり、実技研修で、たとえば肩こりで曲泉に鍼をすると、そこの主任の先生から叱られたものです。同様に脈診も否定されました。学校全体が西洋医学寄りの風潮で、東概を教える古株の教員には熱意が感じられず、授業内容も粗末なものでした。伝統的な鍼灸が廃れる原因の一端は、そういう教育者にあると思います。今はどうか知りませんが。

石原克己先生は員利鍼による刺絡を行ない、浦山久嗣先生が解説を行いました。浦山先生は、「鍼治療はミクロレベルで考えれば出血を避けることは不可能である。刺絡の目的は気血を巡らせる手技のひとつであって、血液を大量に出すことではない。鍼が開発される以前から砭石治療が行なわれており、金属製の鍼が使われるようになってからも出血を伴う治療は継続され、黄帝内経では主たる治療法として確立されている。刺絡法は歴史的にも文化的にも鍼灸治療の範囲内に含まれており、両者を切り離すことは出来ない」と述べて、鋒鍼と員利鍼の使い方を説明しました。

 

石原先生はモデルの腹診をして食滞と瘀血塊を確認し、痞根、志室、陽陵泉などから刺絡をしました。石原先生の観察力と技術レベルの高さや、刺絡をする際には意識で気の調整をしつつ行なうことがわかりました。実技の様子を以下にまとめます。

 

○痞根に対し員利鍼(太さ65番)を用いて、母指で皮膚を圧迫し、上がる瞬間に刺す方法

 と、皮膚を緊張させて刺す方法を実演した。また大巨周辺の瘀血塊をゆるめるために、

 志室のやや下の部位にも刺絡を行なった。鍼の痛さはかなりのもので、その効き目とは

 うらはらである。

○陽陵泉から刺絡。腹部の瘀血塊から陽陵泉に意識で邪気を引き、刺絡ともに出す。

○復溜から刺絡。気つけの為に使う。瞬間的に神経に当てるため、電撃様の刺激がある。

○井穴刺絡。母指の横紋を紐でしばり、荻野元凱方式で少商に刺し、血をしぼり出す。

○左右の膈兪に対し、韮葉鍼と三稜鍼(こっちが痛い)で刺絡し、吸い玉をかけた。

○背部に鈹鍼を使って出血をさせた(かなりの量)。

○解説のみだが、尺沢から静脈刺絡をする方法、陰部の疾患に対し、陰茎の根元を紐で縛

 り、尖端を三稜鍼で刺す(!)方法、皮膚疾患に、大腿部をつまみながら鈹鍼でひっか

 いて出血させる方法を紹介した。


石原先生の実技は、よく通る声で、的確な状況解説をしていただき、大変分かりやすかったです。

藤本蓮風先生は、打鍼と夢分流腹診、古代鍼について解説したのち、会場からモデル希望者4名に対して実技を行ないました。以下に藤本先生が述べたことを要約します。

 

○藤本先生は夢分流打鍼を発掘・研究し、現代人に対応できるように改良した。鍼灸医学

 は臨床が全てであり、効かない鍼は意味がない。打鍼は様々な難病にも効果的である。

○打鍼があったからこそ体表観察の面白さに気がつき、難しい病気も治せるようになった。

○グリグリを探すのは体表観察ではない。多くは触れるだけでもわかる。そういう鍼をや

 ると、びっくりするような病気が治っていく。

○現在使う打鍼は刺さない。現代人には刺す必要が無いからである。押手の形も変えてい

 る。伝統医学の何を継承しているかといえば、その本質である。腹部という場所に限定

 して、特殊な刺激を与えることである。

○伝統を固定的にみるのではなく、常に今、その伝統が生きるかどうかが大切である。そ

 れが伝統の継承であり、伝統医学とは、今この時代に苦しんでいる患者治す医学でなく

 てはならない。

○夢分流の腹診は、蔵の配当と同時に身体の縮図でもある。たとえば、みぞおちは心であ

 るが、頭でもある。

○ついこないだ、右の母指と次指がしびれて動かなくなった患者は、右期門に反応があっ

 た。よく調べると肝鬱をおこして、疲れすぎて、肩が悪い。空間の理論に従って百会に

 1本、たった一回で指が動き出した。こういうことが自在に出来る。だから夢分流の打

 鍼術をやるやらないは別として、診断法としても非常に優れたやり方である。

○古代鍼は、1990年に北京の医史博物館で購入した「漢代の鍼のレプリカ」を元に、

 現代でも使えるように作られた鍼である。横向きに当てて気を集める。かざしているだ

 けである。私はかざすだけの鍼で先天性の癲癇を治している。

○あなた方が大事なことは事実を知ることです。本当に知りたかったら、知るように見れ

 ばいい。この鍼灸界の悪いところは、見もしないでなんだかんだ言う評論家が多い。事

 実を見ないと。私はそれが一番今日言いたい。事実を知ってほしい。そうすると、私の

 言うことが真実だとわかります。

 

藤本先生の実技は圧巻でした。右肩の水平内転と屈曲ができない男性モデルは腹診をすると、身体の縮図にも右肩の部分に反応が出ており、右の季肋部、不容のあたりに打鍼を行いました。その音から、圧の加減を微妙に変えていることがわかります。太くて先の丸い鍼を、木槌でコンコン、ココココココン、カンカン、カカカ、カン、カンと叩くと直後に肩が動くようになりました。「これは事実ですよ」と藤本先生。会場からは大きな拍手が起こりました。

学会に参加すると、毎回多くのことを知ることができ、同時に自分の知らないことの多さに気がつきます。今学会で学んだことを復習して吸収し、明日の臨床に活かしたいと思います。

首藤先生を囲んで
首藤先生を囲んで
神田古本まつり
神田古本まつり
懐かしのホープ軒
懐かしのホープ軒

今回、首藤傳明先生がビデオ撮りのために数日前から上京されていました。良い映像が撮れたそうです。学会中は酒の席をご一緒させていただきました。

 

余談ですが、いつもは伝統鍼灸学会に参加する際は現地に2泊し、長崎か佐世保で1泊して島に帰りますが、今回は東京3泊コースにしました。滞在時間に余裕ができたので、神保町や新宿などで買い物をし、ついでに吉祥寺でラーメンを食べてきました。東京を離れて5年半になりますが、歩くスピードは遅いし、人酔いしそうになっている自分に驚きました。環境の変化とは恐ろしいものです。そして五島に着いて船を下りるとき、何ともいえない安堵感に包まれます。もう都会には住めません。すっかり五島もんです。

鯛の浦港にて
鯛の浦港にて
6 コメント

2015年

11月

10日

日本伝統鍼灸学会第43回学術大会in東京 2

第43回日本伝統鍼灸学会の感想を続けます。会場のロビーには小林健二先生の製作による、「昭和先達の記憶ー日本経絡学会・日本伝統鍼灸学会歴代の会長・副会長」と題したパネル展示がありました。中にはこれまで名前しか知らなかった先生もいたのですが、プロフィールを読んで様々なエピソードを知ることが出来ました。写真も良い表情のものが使われていて、小林先生のセンスを感じました。

パネル展示 昭和の先達の記憶
パネル展示 昭和の先達の記憶

澤口博先生による「中神琴渓の診てきた病」では、江戸時代後期に活躍した医家・中神琴渓の症例から、症状別に使用穴とその傾向を解説を行ないました。琴渓は吉益東洞や張仲景に影響を受けた実践主義者で、「本に書いてあることを全て信用するな。読んで試して効果のあったものだけ採用しろ」といったように、技術は手取り足取り伝えなければならないという立場をとっており、門下生は3000人もいたそうです。琴渓の治療は鈹鍼を用いた刺絡や、下剤・吐剤などの瀉法を多用するもので、梅毒の治療には水銀を使いました。その理由は「治るから」であり、「素問・霊枢などは利用できるところは少ない」とか、「王叔和は天才だから脉がわかったのであって、脈経を読んでも二十四脉はわからない」などと発言したそうです。急性脳疾患に地倉、心臓や精神疾患に膏肓、慢性的な下肢疾患や心臓疾患に委中、上半身の激痛に尺沢、おできや外傷による腫れには血や膿を排出させていたということです。

琴渓は本を書かなかったそうですが、口授を弟子が記録しています。幸いにも、その記録である「生生堂養生論」「生生堂雑記」「生生堂医譚」「生々堂論語説」「生生堂傷寒約言」はデジタルライブラリで読むことができます。こんな貴重な資料を誰もが無料で勉強できるのですから、日本は本当に素晴らしい国だと思います。試しに「生生堂養生論」を読んでみると、これがとても面白いです。いきなり『二十四孝』の登場人物批判から始まります。母のために魚を捕ろうと、凍った河に裸で伏して体温で氷を溶かした王祥に対しては、「愚ノ至リナリ」。家が貧しく、3歳の孫に食事を分け与えていた自分の母親の健康を案じ、わが子を埋めて母親を養おうとした郭巨については、「恩愛ノ情ナシト云ヘシ、愚ノ至リ、大不孝」。盗賊に遭って食べられそうになった弟が、母に食事を与えてから戻ってくると約束し、それを聞いた兄も盗賊のところへ行き、どうか私のほうを食べてくださいと言って弟と死を争った張孝兄弟については、「コノ兄弟ハ最モ馬鹿者ナル哉、誠ニ比類ナキ馬鹿者ナリ」とバッサリ斬っています。しかし、養生について琴渓が述べていることは至極真っ当であり、「草取りは親指と人差し指で引けるうちに引き抜いておけ」とか、「糞水二十貫目持てる人は十七貫目にしておけ」など、実生活で生かせるような具体的アドバイスをしています。そして、私たちはどのような心持でいれば健康でいられるのかということについて、琴渓は次のように述べています。

 

夫(ソレ)親ニ孝ナル者ハ上ヲ犯サズ、上ヲ犯サザレバ身體髪膚に刑戮(ケイリク)ヲ受ルコトナシ。上ノ咎ナケレバ心安ク意楽ム。孝アルモノハ必ズ信アリ。故ニカリニモ虚誕(ウソ)ヲ發(イハ)ズ、人ヲ欺キ侮ルコトナシ。蓋罪ヲ侵シテ辱メラルレハ、則是不孝ナルコトヲ知レバナリ。人ニ辱シメラレザル故ニ自ズカラ悲怒ノ情興ラズ。悲怒ノ情興ラザルガ故ニ自ズカラ百疾ヲ生ズルコトナシ。君ニ事(ツカエ)テ忠ヲ竭シ、父母ニ事ヘテ孝ヲ盡シ、長者ヲ敬ヒ、幼者ヲ恵(アハレ)ミ、朋友ニハ信ヲ以テ交リ、夙(ツト)ニ起、夜ニ寐(イネ)、ソノ生業ニ怠ラズ、冨メドモ驕(オコラ)ズ、貧シケレドモ諂(ヘツ)ラハズ、奢リヲ長セズ、欲ヲ恣(ホシイママ)ニセズ、身ノ分限ヲ知テ天命ニ安ンジ、正ト不正トヲ辨別シテ正ヲ行フトキハ心ニ憂苦ナシ。心ニ憂苦ナケレバ、氣血ヨク回リテ疾病オコラズ、身體安佚ナリ。サレドモ顔子伯牛ガ如キ賢人ノ短命ナリシハ、亦天ニゾ自ラマネケルノ疾ニハアラザルナリ。夫世間ノ疾病(ヤマヒ)十ニ七八ハミナ自ラ招ルモノニテ、大抵不孝ノ不養生ヨリ發ルト知ベシ。

 

それって、素問に書いてあることじゃないすか?とツッコミを入れたくなりますが、少し読んだだけでも琴渓先生の魅力がビンビン伝わってきます。澤口先生の講演のおかげで琴渓先生のファンになりました。この冬は生生堂シリーズをじっくり読もうと思います。

宮川浩也先生の会頭講演は「陥下について」で、『霊枢』の邪気蔵府病形篇や禁服篇、経脈篇などの記載から、陥下とはなにか、そしてそれを視て探すとはどういうことかをテーマに解説されました。以下にまとめます。

 

○陥下には灸をする。(陥下則灸之:経脈篇)

○陥下は血が滞って冷えているので灸がよい。陥下者、脈血結于中、中有著血、血寒。

 故宜灸之:禁服篇)

○陥下を視て探し、灸をする(亦視其脈之陷下者灸之:邪気蔵府病形篇)

○つまり血が流れずに冷えて皮膚が凹んだところを「陥下」といい、それを目で視て探す。

○臨床では、単に凹んでいるだけでは陥下とせずに、凹み+圧痛、凹み+硬結、凹み+冷え

 などが有る場合を陥下とする。

○重力の法則を使って陥下を探す。腰痛の場合、立位で見ると陥下がわかりやすい。

○また、陥下は水平に見ると見つけやすく、照明を斜めから当てると陥下の影が出やすい。

○腕や足などは動かして角度をかえると陥下が見つけやすい。

○たとえば腰痛なら、立位で陥下を確認し、伏臥位になったときに圧痛や硬結が認められ

 れば治療穴として採用する。

○陥下のある経脈上には疎滞があることを疑い、その部位から症状を推察して問診につな

 げることもできる。等等。

 

伝統鍼灸学会に参加すると、毎回必ず自分の糧となるものが得られます。もちろん身になるかどうかはそこから先の努力次第ですが、講演を聞いて消化吸収しやすいのは「分かりやすい話」です。長野仁先生も講演の中で、歌舞伎はファッションショーであるとのたとえ話を引用し、難しいことを分かりやすく、鍼灸の世界を伝える大切さを述べていました。宮川先生の講演は大変分かりやすく、そして実践的に古典の世界を学ぶことが出来ました。これから腰痛の患者さんには立位で陥下を探してみるなど、色々試してみようと思います。

次回は実技について感想を書きます。


0 コメント

2015年

11月

04日

日本伝統鍼灸学会第43回学術大会in東京 1

2015年10月24~25日の二日間、東京・タワーホール船堀にて「日本伝統鍼灸学会 第43回学術大会in東京」が開催されました。大会テーマは「日本伝統鍼灸の確立 よみがえる江戸」です。江戸時代に活躍した治療家や流派の研究発表、迫力のある実技講演など、多くのことを学ぶことができました。

奥村裕一先生の課題研究発表「江戸期鍼灸諸流派における膏の源・肓の源」では、江戸時代の治療家たちが臍を中心とした腹部を重要視していたことや、気一元論の思想を持っていたこと、江戸時代以前から漢学の研究が高水準で行なわれていたことなどを講演されました。

 

膏の源・肓の源について

・鍼灸諸流派が腹部の穴処を重視した~意斎流・夢分流の存在があった。

『針道秘訣集』二十八 亡心之針にて、心気を失ったときに鳩尾や神闕に深く刺鍼することが記載されている。※原文を引用します

※亡針トハ一切ノ煩ヒ、大食傷、頓死等ニ心氣ヲトリ亡(ウシナ)フヲ云フ。右ニ書スル如ク先(マヅ)神闕ノ動脉ヲ診(ウカガヒ)、脉無(ナク)ハ不✓針(ハリセズ)。脉少ニテモ有ラバ鳩尾同ク兩傍ニ深(フカク)針ス。是針ニテ不✓利(リセズンバ)神闕ニ深(フカク)立ヘシ。是ニテ不✓生(イキズハ)定業ト可✓知(シルベシ)。是當流之大事也。亡心ノ証ハ皆以テ邪氣心包絡ニ紛(ミダレ)入テ、心氣ヲ奪(フバフ)ガ故ニ如✓斯(カクノゴトシ)。因テ鳩尾并ニ兩傍ニ深(フカク)針ノ心邪ヲ退ケヌル時ハ本心に歸スル也。諸病ノ心持、實積テ邪ト變(カハリ)シ正ヲ失フ。其邪ヲ退クル節(トキ)ハ元(ハジメ)ノ正ニテ病無ト可✓悟(サトルベキ)也。

 

○匹地流では、鳩尾から神闕のあいだの反応を目当てに、心気にかかわる治療をする秘伝

 を伝えており、太極を中心として、その周囲に病の変異があらわれるとしている。

○沢庵『刺鍼要致』一巻:「悦が刺す所は、経脈の処を除き、柔膜を刺すの一徳のみ、

 扁鵲の抓膜の儀、これに幾(ちか)きのみ」とある。

○『史記』扁鵲伝で抓膜という文章がでてくる。室町時代の幻雲という学僧は、『扁鵲倉

 公列伝』の注釈において膏肓との関わりを記している。

○当時すでに李朱医学が道三以前から研究されていた。五山時代の学僧は、日本の漢学研究

 において最高水準であった。

○先ほどの巻物に肓膜という記載があり、その膜外に垢やススが積もるがごとくに原気の道

 を断ち、気が留滞して諸病をおこすとする、いわゆる一気留滞説をすでに提唱しており、

 無心のこころが気をコントロールしていることが望ましいとする。

○朱子学の林羅山の初期は理気合一で気一元論、貝原益軒も同様である。

○伊藤仁斎の影響を受けて後藤艮山(湯熊灸庵)が一気留滞説を提唱した。

○『格致余論』では、腎は閉蔵、肝は疏泄、それぞれ相火を含み、君火の運化に繋がって

 おり、心が動ずれば相火もまた動く。よって心をおさめ、心を養うことが重要としてい

 る。また色欲の戒めでは、放心を乃ち収めることが大事とする。これは孟子の立場であ

 り、それに対して沢庵和尚は宋代の儒学者、邵雍(しょう・よう)の立場から、心をと

 どめない、とらわれない、かたよらないということを重視している。

 

脖胦については、一般には気海穴(出典は『鍼灸甲乙経』)と認識されているが、考証学派の医家には神闕穴とするものが多く、脖はヘタに通じ、胦は中央に通じる。臍を中心として、その周囲に病の変異があらわれ、それに基づいて刺鍼するということは多くの流派にみられる。『針道秘訣集』では三焦の腑として臍をみており、中心と周囲とがひとつとなる姿という捉えかたが重要となる、と話されました。

 

奥村先生の講演はとても貴重な話でしたが、私には内容が難しく、またパワーポイントを読む時間も無いほど進み方が速かったので、途中で集中力が途切れてしまい、後半の話はついて行けませんでした。脳みそのスペック不足を痛感します。

 

林弘観・大浦慈観先生「雲海士流から日本の古典を臨床に生かす(1)」は、日本の伝統的な鍼灸を実践するうえで大変参考となる、そして、その伝統とは何かについて少々考えさせられた講演でした。

 

雲海士流の特徴は、「保神と保心」「出内の補寫」「揺転の補寫」「気血にあてない」「実には遠隔治療、通常の痛みは阿是穴を多用」「人体を4分割し、単純な配穴に補寫」「難経に基づく気血巡行を重視」と7つあり、その中でも「気血にあてない」という表現で痛みを与えない工夫を行なっていることや、「保神と保心」として、患者と術者の精神状態を安寧に保つことが、気血を乱さぬ刺鍼には大切であるとしていたことに興味を惹かれました。雲海士流では、病は滞ることで発生すると考えていたため、実した患部に鉄鍼を直接刺すのを好まず、四総穴などを使ってその滞りを動かすことを目標としていたそうです。また一方で、患者や術者が「ここだ」と思った処も大事にしたということです。このあたりは、術者が一方的に治療するのではなく、患者と心を通い合わせることの大切さが伝わってきます。刺鍼の際は刺すタイミングや深さを相手に合わせて変えるなど、繊細な技術を追求していたそうです。そして鍼の働きは天地の徳と同じであり、鍼柄を天、鍼尖を地として、「その天地の働きに思いを合わせなければ病治は治らない」といった姿勢や、「自然の師を尋ね無尽蔵の我が心にて熟慮し、道を窮めよ」という教えから、非常に高い精神性を感じます。相手への思いやりを忘れず、自分の治療技術を磨いてゆくというプロセスは、現代でも全く変わらず、我々にとって必要とされていることです。単にどこの経穴を使えば治るとか、○○療法は効く等といった短絡的なものに流されず、治療家として必要な気構えを忘れてはならないと思いました。

 

ひとつ気になったのは、雲海士流の高い精神性はどこから来たのかということです。それは雲海士流の礎となった朝鮮の医師、金得拝がそなえていた徳なのか、あるいは金得拝から学んだ先進の鍼灸技術と、桑名将監と孫の玄徳による日本的な心の融合なのか。我々は日本人の思想は素晴らしかったはずだと勝手に思いがちですが、当時から儲け主義に走る医者や偽医者が横行していたというのが現実だそうですし、悪党だって大勢いたはずです。ただ、朝鮮から連行されてきた医師が、敵である日本人に奥義を伝授したわけですから、互いに認め合える人物であったことは間違いないと思います。鍼の技術的なことはもちろん、そのへんの思想的な背景がどうだったのか、また後の諸流派にどのような影響を与えていったのか考えると興味深いです。林先生・大浦先生のさらなる研究発表に期待しています。


斉藤宗則先生による「WFAS(世界鍼灸学会連合会)の動向と学術大会の魅力」では、この組織が日本の発案により発足したことや、特に中国の視点や戦略が反映されていること、来年はつくばで東京大会が開催されること等の紹介がありました。また、2014年の学術大会では、中国の浮針療法、中医筋骨三針法、経絡激通療法などが発表されて話題になっていたという話を聞き、早速ネットで各療法の動画を見てみました。

 

浮針療法は、点滴針ぐらいの太さの専用針をバネ式の器具を用いて、あるいはそのまま手で5センチほど水平に刺し、そのあと扇形にグリグリと針を動かします。限局性疼痛に著効があるそうです。プラスチックの鍼管を留置して置鍼することもできます。見た目は痛そうですが、実際はそれほどでもないそうです。中医筋骨三針法は、日本では鍼灸というよりも外科処置に属すものと思われます。注射器でオゾンの気体を椎間に注入したり、いろいろな種類の針を関節や骨膜、筋膜に刺鍼してグリグリしていました。また頚椎のスラストも行なっていました。経絡激通療法は、『素問』繆刺篇にあるように「左の病を右に取る」といった方法を用い、たとえば右膝が悪ければ左肘に刺激をします。特徴的なのは経絡を生物電波と捉えて、それを調整するために「経絡激活儀」という、先が員針のように丸くなった電気器具を使用することです。反射区は番号によって図に示されており、誰でも簡単に経絡を調整できるそうです。動画では3名の患者に治療を行なっています。背中を肘でゴリゴリして、腹部に経絡激活儀を当てると、肩痛や腰痛に著効がみられました。治療後のおばあさん、杖を放り投げて大喜びです。下記の文字をコピペしてgoogleの動画検索をすると、すぐに見つかります。

针疗

刀筋骨三

经络激通

 

また、現代中国人と日本人との鍼灸に対する考え方や感覚の違いがよくわかる動画がありました。おそらく、日本の鍼灸しか知らない人にとっては肝をつぶすかもしれません。治療方法が良いとか悪いとかではなく、患者の女性に注目すると、貝原益軒が日本人と中国人の違いを指摘した理由が納得できます。

银质针疗视频 病人篇 病人1


では、中国人には微細な日本の鍼灸は適さないのでしょうか? そんなことは無いと思います。私は雲南省や四川省の少数民族の友人(イ族・プーラン族・蒙古族)を訪ねた際に超旋刺と八分灸、台座灸で治療をしましたが、それぞれ効果がありました。来年のWFAS東京大会で、日本の鍼灸が海外の治療家からどのように評価、理解されるのか関心があります。また、世界の鍼灸事情がどうなっているのかを知る良い機会であり、ぜひ大会に参加したいと思いました。

 次回も伝統鍼灸学会のレポートをします。


0 コメント

2015年

10月

30日

第30回弦躋塾セミナー(163回例会)その3

実技をする首藤先生
実技をする首藤先生

第30回弦躋塾セミナーの3回目です。今回は実技についてレポートします。首藤先生は2日間で10名のモデル患者に実技を行ないました。主訴は以下のとおりです。

 

モデル1男性:足の痺れ、腰痛。

モデル2男性:右膝痛。

モデル3女性:顎関節症・左耳閉感。

モデル4男性:左腰の痺れ・左わき腹がつる。

モデル5男性:疲労感・気分が悪い。

モデル6女性:肩こり。

モデル7男性:背部痛・動悸・不眠症。

モデル8男性:視力低下・背腰痛。

モデル9女性:頭痛・肩こり。

モデル10女性:咳。

モデル1
モデル1
モデル2
モデル2
モデル3
モデル3
モデル4
モデル4
モデル5
モデル5


モデル6
モデル6
モデル7
モデル7
モデル8
モデル8
モデル9
モデル9
モデル10
モデル10

 

首藤先生はモデルに対して、基本的には1寸02番の鍼を単刺で用い、ケースによっては鍉鍼を使いました。また耳めまい点、腋下点、内膝眼などには皮内鍼を保定しました。先生の手技はとても速く、あっという間に治療が進んでしまいます。初めて弦躋塾に参加された方や学生の方には、そのスピードに追いつけず、細かな治療ポイントが分からなかったかもしれません。ここではモデル1の治療について、写真を見ながら詳しく復習してみます。以下の写真はクリックすると大きくなります。


モデル1の治療

はじめに仰臥位で足背動脈、後脛骨動脈の拍動を触診する(写真1~2)。どちらも陰性である。次にSLR、PTRテストを行なう(写真3~4)。ともに陰性である。腹診では腎の部位である石門が虚して陥凹しており(写真5)、脾の部位である左梁門をつまむと少し皮膚が厚く(写真6)、押さえると少し硬い(写真7)。こういう人は飲みすぎの傾向がある。同様に肝の部位である不容、心の部位である巨闕、肺の部位である中府に腹診をするが問題はない(写真8~10)。

1 足背動脈・後脛骨動脈
1 足背動脈・後脛骨動脈
2 母指背屈・低屈テスト
2 母指背屈・低屈テスト
3 SLR
3 SLR
4 PTR
4 PTR

5 石門に陥下
5 石門に陥下
6 左梁門に撮診痛
6 左梁門に撮診痛
7 左梁門に硬結
7 左梁門に硬結
8 不容
8 不容

脈診では腎虚証か肝虚証のどちらかが疑われた(写真11)。切経では左の曲泉が虚しており、復溜や太白に反応は出ていない(写真12)。そこで脈をはっきりさせるために、※石門・中脘・左梁門に超旋刺を行なう(写真13~15)。※石門は長めに(約20秒)、中脘と左梁門は短く(約0.5秒)補った。腹部の鍼をしてから、もう一度脈診をする。証決定は肝虚証とする(写真16)。

9 巨闕
9 巨闕
10 中府
10 中府
11 脈診
11 脈診
12 切経
12 切経

13 石門に刺鍼
13 石門に刺鍼
14 中脘に刺鍼
14 中脘に刺鍼
15 左梁門に刺鍼
15 左梁門に刺鍼
16 再び脈診
16 再び脈診

左の曲泉付近を軽くさすり、最も凹んだところに取穴する(写真17)。本治法は時間をかけて入念に行なう(写真18)。片側の1本が大切である。初心者は鍉鍼を使ってもよい。気が至り(約20秒)、さらに回旋を続ける(着地から抜鍼まで1分ほど)。脈を診て、虚が補えたのを確認する(写真19)。あとは力を抜いて治療をする。左陰谷、右曲泉、右陰谷(写真20~22)を補い(0.5~1秒ほど)、相克経を補う意味で足三里、曲池(写真23~26)に刺鍼(0.5秒以下)する。脈を確認して(写真27)、石門と右足三里に灸点をつける(写真28~29)。大腿部の胃経と胆経に触れ、叩打痛を調べ(写真30)、胆経側(風市付近)に圧痛が強いことを確認する(写真31)。右上側臥位になる。左足は伸ばし、右股関節は屈曲して右膝をベッドにつける。このときに痛みを訴えれば股関節の異常を疑う(写真32)。

17 曲泉の取穴
17 曲泉の取穴
18 曲泉に本治法
18 曲泉に本治法
19 脈を確認
19 脈を確認
20 左陰谷
20 左陰谷

21 右曲泉
21 右曲泉
22 右陰谷
22 右陰谷
23 右足三里
23 右足三里
24 左足三里
24 左足三里

25 右曲池
25 右曲池
26 左曲池
26 左曲池
27 脈を確認
27 脈を確認
28 石門に灸点
28 石門に灸点

29 右足三里に灸点
29 右足三里に灸点
30 叩打痛を調べる
30 叩打痛を調べる
31 胆経の圧痛を確認
31 胆経の圧痛を確認
32 右上側臥位
32 右上側臥位

臀部の叩打痛と圧痛を診て、殿頂を取穴する(写真33~34)。ここは非常に大事なツボになる。殿頂を刺鍼する(写真35)。この姿勢だと深く入れなくてよい。1cm少々。置鍼をしてもよい。ちょっと置鍼をする間に、今の人は頭を使い過ぎるので、後頭部の鍼をする。柳谷風池、風池と触診し、風池(硬い)に刺鍼する(写真36)。肩井に刺鍼(写真37)。殿頂に灸点(写真38)。胆経の痛み・痺れがあるので、環跳に1cm刺入し、雀啄を5回する(写真38~39)。環跳は足の痙攣によく効く。

33 叩打痛を診る
33 叩打痛を診る
34 殿頂の取穴
34 殿頂の取穴
35 殿頂
35 殿頂
36 風池
36 風池

37 肩井
37 肩井
38 殿頂に灸点
38 殿頂に灸点
38 環跳の取穴
38 環跳の取穴
39 環跳
39 環跳

伏臥位になり、右大腸兪(硬い)、跗陽、飛陽、至陽、左肝兪を取穴する(写真40~44)。督脈も診て、反応のある人は必ず使う。超旋刺でよい。大腸兪に1.5cm刺入、回旋をする(写真45)。右跗陽に刺鍼(写真46)。跗陽はかなり有用なツボで、足の痛み、背中、頚、頭、目など膀胱経の症状を取るのにいい。場所は腓骨の骨際にとる。置鍼をしてもよい。右飛陽に刺鍼する(写真47)。

40 右大腸兪の取穴
40 右大腸兪の取穴
41 右跗陽の取穴
41 右跗陽の取穴
42 右飛陽の取穴
42 右飛陽の取穴
43 至陽の取穴
43 至陽の取穴

44 左肝兪の取穴
44 左肝兪の取穴
45 右大腸兪
45 右大腸兪
46 右跗陽
46 右跗陽
47 右飛陽
47 右飛陽

至陽に刺鍼(写真48)。左肝兪は鍼柄を弾いて、やや入念に補う(写真49~50)。左大腸兪、右肝兪、左右の心兪付近に一瞬だけ刺鍼(写真51~52)。座位になり、素早く斜角筋や僧帽筋の反応を探り、肩井、天膠に刺鍼し、散鍼して終了(写真53~55)する。

48 至陽
48 至陽
49 左肝兪
49 左肝兪
50 左大腸兪
50 左大腸兪
51 右肝兪
51 右肝兪

52 心兪
52 心兪
53 肩井
53 肩井
54 天膠
54 天膠
55 散鍼
55 散鍼


首藤先生は、「これが腰痛、ヘルニアの治療。あとは反応を診てツボを決めるが、これが標準の形です」と述べた。

治療の解説をする首藤先生
治療の解説をする首藤先生

以上、モデル1の治療から、取穴や刺鍼のポイントを復習してみました。写真で見るとツボの位置、刺鍼の角度、手の形といったことが理解しやすいと思います。また、実際は流れるように治療が進んでいきますが、手技をひとつひとつ分割すると、実はこれだけ正確な取穴と刺鍼を繰り返していたということも分かります。もちろん治療の舵取りは観察力や診断力であり、正確な四診ができるからこそ、治療がスムーズに進むわけです。首藤先生は瞬間的な見極めができるので動作に無駄がなく、素早い治療ができるのでしょう。これが56年の臨床で培われた「技」なのだと思います。

ライブを撮るのは難しい・・・
ライブを撮るのは難しい・・・

今セミナーは首藤先生の技術をしっかりと学べる最後の機会であり、何とか良い記録を残したいと思いました。いつも先生の手技を撮影する際は手元のアップが多いのですが、同時に少し引いたアングルがあれば、刺鍼時の姿勢など全体的な状況を把握しやすいと考え、超広角で撮れるアクションカメラを併用しました。何しろ買ったばかりでぶっつけ本番でしたが、フリープレートや一脚、自由雲台などを使い、どうにか上手くいきました(水谷先生のアイデアで小型ライトも使いました)。ここに載せた写真の多くもアクションカメラの映像から切り出したものです。セミナーに参加した人のおさらいに、また参加しなかった人にも、首藤先生の技術を学ぶ参考になれば幸いです。


 

また今回、第30回弦躋塾セミナー記念として、首藤先生から参加者全員に『鍼灸治療銘銘』という小冊子がプレゼントされました。先生曰く、「私の秘伝が全部書いてある。これだけやれば7割~8割は治る。治らないところは皆さんが工夫すればよろしい」とのことです。読み込んで、実践あるのみです。

0 コメント

2015年

10月

15日

第30回弦躋塾セミナー(163回例会)その2

実技中の首藤傳明先生
実技中の首藤傳明先生

 

第30回弦躋塾セミナーの続きです。今回は首藤先生の講義についてレポートをします。


講義「私の腹診  五蔵の診断治療点」

腹部における五蔵の診断・治療点はどこかというと、場所は必ずしも一定していません。そこで、古典の記載から現代の先生方までの腹診を比較対照し、あわせて首藤先生が長年の臨床から暫定したポイントを紹介しました。

 

募穴:もっとも標準的で、あばらに沿って

   五蔵の診断点があるのが特徴。


   肝募 期門

   心募 巨闕

   脾募 章門

   肺募 中府

   腎募 京門

募穴
募穴

難経:臍を中心として囲む配置。

   図式的な感じがしないでもない。

 

  肝脉 其内證.齊左有

  心脉 其内證.齊上有動氣.

  脾脉 其内證.當齊有動氣.

  肺脉 其内證.齊右有動氣.

  腎脉 其内證.齊下有動氣.

難経十六難
難経十六難

脉経:募穴と比べると、腎が下腹部の

   両側に位置している。

 

  肝部 太倉の左右3寸

  心部 鳩尾の下5分

  脾部 季肋の下前1寸半

  肺部 雲門  

  腎部 関元の右に在り。左は腎に属し、

     右は子戸に属す。

脉経 巻一 両手六脉所主五蔵六府陰陽逆順第七
脉経 巻一 両手六脉所主五蔵六府陰陽逆順第七

夢分流:肺があばらに配置されている。

 

 肝蔵 両章門ならびに章門の上下 肝相火

 心蔵 鳩尾俗に水落という

 脾蔵 鳩尾の両傍を脾募と号す

 肺蔵 肺先は脾募の両傍なり

 腎蔵 左腎水 右腎相火

夢分流『鍼道秘訣集』
夢分流『鍼道秘訣集』

本間祥白:経絡治療家としては、はじめて

     明確なポイントを示す。

             

 肝は両脇下(期門)

 心は心下部(巨闕)

 脾胃は臍の上上中下三脘及び水分(中脘)

 肺は左右肋骨の上(中府)

 腎は臍下(石門) 

※()は首藤先生による。

本間祥白『経絡治療講話』
本間祥白『経絡治療講話』


歴代の腹診における五蔵の配当をみると、心蔵だけがほぼ同じで、他の四蔵は確定されていません。また柳谷素霊・岡部素道先生は夢分流に、小野文恵・西澤道允先生は難経に準じた腹診をされていたようです。次に首藤先生の臨床から導かれた診断点を記します。


肝蔵 右季肋部に反応が多く現れる。

   右不容が最たるもの。8肋軟骨付着

   部、乳中の下2肋間も反応部位。

心蔵 巨闕。膻中は心臓の反映よりも胃や

   食道の症状が、また心臓関係では

   心臓実質よりも自律神経の症状が

         現れる。心包の応点とみると納得。

脾蔵 中脘から左にかけての部分。

   左梁門、膵臓の反応点である。

肺蔵 前胸部の陥凹または硬結圧痛の

   ある部位。範囲を外・下に広げて

   みる。中府がよい。

腎蔵 下腹部任脈、関元・石門・気海付近

   に顕著に現れる。『明堂経』では

   関元の主治が18項目、石門が27

   項目、気海が4項目と、石門を最

   重要視していたことを伺わせる。

首藤先生の「五蔵の診断治療点」
首藤先生の「五蔵の診断治療点」

 ※首藤先生は肝蔵の反応を詳しく診るときに、患者の右側から触診します。

肝蔵の触診
肝蔵の触診

講義「鍉鍼の使い方」

首藤先生によると、最近の患者さんは刺激に対して敏感な人が多いそうです。刺入鍼では効かない時に超旋刺を用いて上手くいくことがあるように、超旋刺で上手くいかないときに大型鍉鍼に替えてみると上手くいく。そして大型鍉鍼で上手くないときは小型の鍉鍼で軽くおさえるようにすると良くなるそうです。今回は霊枢の記載を参考にしながら、鍉鍼についての解釈と、首藤先生の臨床での応用について解説がありました。以下に要約します。

 

鍉鍼の歴史は古く、中国古代では早くに使われていたそうです。『霊枢・九鍼十二原第一』に、鍉鍼は九鍼のうちの3つめで、長さは3寸半(漢代の1寸は2.3cmなので8cm)、「鋒如黍粟之鋭.主按脉.勿陷以致其氣」とあります。丸山昌朗先生の訳(『小林健二古典資料庫』)では、「先端が黍や粟粒の先のように小さく、やや丸くとがった感じで、血脈を圧迫するのが目的であるが、その場合に脈や其の他の組織を傷めるほど強く圧迫しないように気をつけなければならない。鍉鍼で動脈を圧迫してから離すと、それまで滞っていた気血の流れがよくなり、正気を充実させることができる」と解説されています。また家本誠一先生の『霊枢訳注』では、「鍉鍼は鍼先が黍や粟の実の尖の様に鋭利である。経脈にそって按摩し(減弱していた)精気を招き寄せ、気血の流通を良くするのに使う。その際、脈に刺入してはいけない」と訳されており、鍉鍼とは尖っているけど刺入はせず、皮膚を圧して気血の流れを改善させるための鍼ということがわかります。

 

『霊枢・九鍼論第七十八』では、天地自然の数理に基づく法則から、三は人であり、人を育成し全身に気血を供給するために必要なのは血脈であり、その血脈が病になったときに用いるのが鍉鍼であることや、血脈を按摩して血気の流通をよくするために鍼尖を員(まるい・円形)にし、鍼が脈に落ち込んで傷つけることなく、邪気だけ排除されるようにすることが記されています。

鍼先が丸いのかと思ったら、すぐ後ろの鍼の長さについての記述のところでは「法を黍粟の鋭に取る」とあります。いったい丸いのか鋭いのかはっきりしませんが、人民衛生出版社の『霊枢経 講釈』には「員而微尖」と、丸山先生と同じような解釈がされています。黍や粟の実か籾かによっても鋭さは違ってくるでしょう。黍の籾などはけっこう尖っているので、鍉鍼が「気をつけないと脈まで陥る」ほど鋭いというのも納得できます。あるいは、それぐらい神経を集中して血脈を圧しなければ、気血の流れを良くすることはできないのだという教えなのかもしれません。「手に虎を握るが如し」ではないですが、読んでてそんな気になってくるのです。今回、鍉鍼に関連して『素問』の寶命全形論篇や八正神明論篇などを読み、宇宙と人の生命との間に流れている深遠な哲理と、気至る鍼を打つためにはどのような気構えであるべきかを思い知らされました。新卒のころ、ただ読んで勉強したときは何も気がつかなかったのですが、臨床を重ねてから読むと古典の凄みに圧倒されてしまいます。それにしても、遥か古代に「世も末となった今の治療ときたら、理論も考えずに虚を補し、実を瀉してるだけだ」と著者が嘆いているのに、数千年後の自分も似たような治療をしていて反省しました。

『霊枢・官鍼第七』では、「病在脉氣少.當補之者.取之鍉鍼于井分輸」と、病変が脈にあって気が少なく、補法を行なうべき場合は、鍉鍼で井穴や滎穴、その他の兪穴に治療すること書かれています。また『霊枢・熱病第二十三』では、「熱病頭痛.顳目(疒挈)脉痛善衄.厥熱病也.取之以第三鍼.視有餘不足.寒熱痔」と、熱病で頭が痛み、こめかみと目が痙攣して脈(胆経)が痛み、鼻血がでるのは厥熱(肝経)の病であり、このときは第三の針である鍉鍼で補寫を行なうと書かれています。(寒熱痔は衍文のようです)

 

本間祥白先生は鍉鍼について、「員鍼と共に他の鍼とは違い刺入せず、皮膚上を按じて治療効果を挙げる為のものである」とし、「補法を行なうことを目的とし、その症候は虚証であって、血虚および気虚いずれにも使用される」と言っています。

 

首藤先生は自身の臨床的な立場から、「鍉鍼の種類は色々あるが、自分の使いやすいものでよい」と述べました。これまでに鍼のメーカーに注文して寸3・10番の金鍼の先を丸くしたものや、1寸の長さにしたものなどを使ったそうですが、現在は八木素萌先生が考案した汎用太鍼を使用しているとのことです。

汎用太鍼
汎用太鍼

 

本治法

取穴は毫鍼と同じ。皮膚に鍼先を当てる角度は30度ぐらいで軽く按圧し、超浅刺のつもりで軽く回旋する。刺激ではなく補うという意識で行うこと。うまくいくと1本で調う。鍉鍼で気至るを感じるのは難しいので、脉の変化で判断すればよい。上手くない場合は、本治法、標治法を続けていくと、最後は「いい脈」になる。鍉鍼が適応する患者は虚証なので、ごくごく控えめに、腹八分にすること。あまり脈状にこだわると刺激過剰になりやすい。

 

標治法

自由に使ってよい。毫鍼による散鍼のように軽く広く使う。硬結があれば少し按圧する。太鍼で押せばかなり強烈な指圧効果となる。もともと指圧のルーツは太目の鍉鍼であるから、もっともなことである。小児鍼として使う場合は、なるべく寝かせるようにして擦過する。

鍉鍼は使いやすいだけに刺激過剰(瀉)にならぬよう注意が必要である。

 

以上で、首藤先生の講義レポートを終わります。次回は実技について書きます。

 

2 コメント

2015年

10月

05日

第30回弦躋塾セミナー(163回例会)その1

最後の弦躋塾
最後の弦躋塾

 

2015年9月20~21日の2日間、別府市の亀の井ホテルにて「第30回弦躋塾セミナー」が開催され、全国から160名を超える参加者がありました。今回が最後の弦躋塾ということで、皆さんそれぞれの思いで会場に足を運ばれたことと思います。私も、「ついにこの日が来た」という気持ちで参加しました。前の晩は頭が冴えてしまい、眠ることができなかったです。

 

首藤傳明先生
首藤傳明先生
水谷潤治先生
水谷潤治先生

 

今回の特別講師は『北米東洋医学誌』主幹で、カナダ・バンクーバー在住の水谷潤治先生です。世界中で日本式灸療法の講演をされており、日本よりも海外で有名な鍼灸師かもしれません。Junji Mizutaniと検索すると、各国でのモクサ・ワークショップの記事を見ることができます。深谷灸や澤田流をベースに独自のスタイルを確立されており、クールな外見の内側に情熱を秘めている先生です。今回は弟子の大西真由先生と二人で、竹筒を使った灸療法の実際を講演していただきました。

 

塾長の首藤傳明先生は「腹診」と「鍉鍼」についての講義と、10人に及ぶ実技を行ないました。無駄をそぎ落とした配穴、素早く正確な取穴と刺鍼、治療全体の流れにおけるリズムやアクセントといったことが存分に学べたと思います。私もビデオ撮影をしていて、とても83歳とは思えぬ気迫と、海外セミナーのときのような緊張感が先生から伝わってきました。首藤先生、水谷先生ともに内容のぎっしり詰まった講演で、弦躋塾31年間のフィナーレを飾る素晴らしいセミナーでした。

水谷潤治先生 竹筒灸ワークショップ

直接灸といえば、熱い、灸痕が残る、という印象がありますが、水谷先生の治療原則は患者の症状を楽にさせることであり、「熱くない、痛くない、気持ちのいいお灸」を実践されています。そのための道具として、竹筒・紫雲膏・(モグサをひねる)板などが使われます。

今回、水谷先生からセミナー参加者に竹筒と板と紫雲膏がプレゼントされました。写真の右から2番目が水谷先生の竹筒です。右端は深谷灸の竹筒ですが、それより短く、節によって浅い側と深い側に分かれています。浅い側は火が早く消えやすいため補法・虚証に、深い側は寫法・実証に用いるほか、皮切り(1壮目)には浅い側を使い、2壮目から深い側にするなど、熱さの調整がしやすいです。その隣がモグサをひねる板です。モグサをのせて2枚の板を軽くすり合わせると、簡単にひも状の灸が作れます。これが思った以上に便利で、一定した品質のものが米粒大から糸状灸まで自由自在に作り出せます。もちろん鍼灸師ならば指で捻れなくてはならないわけですが、竹筒を使う場合は、ひも状の灸のほうが長くすえ続けることができるのと、竹筒を持ち替えずに済むので好都合です。また、このやり方なら外国人でも簡単に灸をすえることができるので、日本式の灸を世界に普及させるためにも有利だと思いました。このへんは型にとらわれない水谷先生ならではの発想ではないでしょうか。左端は水谷先生の自作した紫雲膏です。ごま油のかわりにオリーブ油を使っているのでベトベトせず、臭みもありません。市販品よりも使いやすいです。この他、ガムテープの筒と炭化モグサを使った遠赤効果の灸(温暖ヒーター)や、塩灸の紹介もありました。

 

板を軽くすり合わせる
板を軽くすり合わせる
ひも状の灸
ひも状の灸
竹筒の持ち方
竹筒の持ち方


竹筒は基本的に左手の3~5指で持ち、母指と2指で(ひも状にした)モグサを送り出します。右手は線香を持ちます。竹筒の持ち方にはバリエーションとして、5指を竹筒の裏側にずらして4指と挟む持ち方もあります。この持ち方だと(たとえば座位などで)横向きや斜め上の部位でも押さえやすいです。同様に線香の持ち方についても解説がありました。右手の2指と3指に線香を挟む持ち方よりも、母指と他の指全体で持つほうが色々な角度に対応できるとのことです。


竹筒の持ち方のバリエーション
竹筒の持ち方のバリエーション
一般的な線香の持ち方
一般的な線香の持ち方
全角度に対応できる線香の持ち方
全角度に対応できる線香の持ち方

身体をコントロールする3要素

灸熱刺激によって自律神経・ホルモン・免疫系を賦活させることができます。この3つが「気の本体」であると水谷先生は言います。構造的なゆがみを整えるには指圧や操体法が向いており、冷えや熱、虚実など陰陽のバランスをとるには経絡治療が適しているそうです。そうやって熱や冷え、湿、痛み、凝りをとります。凝りがとれれば病気は治るとのことです。患者で来る人は、もともと交感神経が高ぶっていることが多いため、基本的に交感神経を刺激する治療はしません。もちろん副交感神経が高くなって病気になっている人もいますが、

それは陰陽(補寫)を考えて治療すればよいとのことです。

 

鍼は気を流しますが、灸は熱とやけどなので、血液と津液が直接変わります。お灸は確かに焼くと効きますが、患者には日焼け程度にします。そのくらいでも皮膚下では異種蛋白ができるそうです。竹筒を使うと、透熱灸と8分灸の中間ぐらいの刺激量になります。皮膚を圧迫して沈めたところで燃焼するため、熱感は深く入ります。その際、圧迫した竹筒を少し捻ると、より熱さが緩和されます。竹筒を柔らかく押すこと、そして押しているリズムによって副交感神経を引きだします。人間の温度に対するレセプターには幅があり、低温でも、あるいは脳が痛いと感じなくても皮膚はちゃんと区別ができているそうです。超旋刺や接触鍼なども皮膚のレセプターを刺激していて、すぐに免疫細胞(Th1・Th2・インターフェロン・インターロイキンなど)が活性化するのだと水谷先生は述べました。


腹部の灸
腹部の灸
タイミングよく竹筒を押していく
タイミングよく竹筒を押していく
すじかえの灸(胃の六つ灸)
すじかえの灸(胃の六つ灸)

急性症と慢性症

実際の灸治療では急性症と慢性症に分けて考えます。急性症は対症療法で瀉法、慢性症は補法で全身治療を行います。急性の場合は痛みや熱を頓挫させるため、虚証の人でも瀉法をします。お灸には特効穴・名灸穴といった「必ず効くツボ」が存在し、深谷灸が優れています。しかし、深谷伊三郎先生が言うように「経穴は効くものではなく効かすもの」であり、よく触診する必要があります。また経穴は移動するので、地ならしをして2段階で効かすようにします。少穴でやる場合は、局所ではなくエリアとして考え、指先のレーダーでツボを探します。これが上手いのは首藤先生で、撫でているだけで気が動いてしまうとのこと。しかし、ただ撫でているだけでなく、魚群探知機で魚がいるところを追いかけて撫でているのだと水谷先生は解説しました。


慢性症は虚証になっているので、全身治療が基本となります。消化機能、排泄機能を良くして全身の力をつけることが大切で、これには澤田流(太極療法)がベストだそうです。また、体力がある患者には鍼治療+太極療法+対症療法(置鍼や多壮灸)などを組み合わせますが、がんの末期など虚証の患者には灸のみにします。慢性の場合は少なくても6週間は治療をして再検討を行います。長期にわたって薬(ホルモン剤や鎮痛剤)を飲んでいる患者は、鍼灸治療による反応が出にくいそうです。


二人で同時に施灸
二人で同時に施灸
手早く灸をすえていく
手早く灸をすえていく

実技では腹部の灸、背部の灸、座位での灸などをデモンストレーションしていただきました。左右から二人がかりで灸をすえるのは初めて見ましたが、連続で素早くすえていく技術は圧巻でした。私も早速自分で試してみたのですが、ふだん8分灸などを右手で消すくせがついているので、連続してすえていると、つい竹筒を右手に持ち替えたくなってしまいます。また連続して2~3ヶ所に火をつけながらタイミングよく竹筒で押していくという動作は、見るのは簡単ですが、実際にやると難しいです。特に左手は竹筒を保持しつつモグサを送り出すという二つの動作を一緒にしないとならないので、急ぐと竹筒を持つ手に力が入って重心がずれたり、タイミングが間に合わず右手の指で火を消したりしてしまいました。初めは艾炷を長めにして、リズムよくすえられるように練習あるのみです。


肩痛が発生してピンチ
肩痛が発生してピンチ
大西先生の施灸
大西先生の施灸
リズム感と一定した熱量
リズム感と一定した熱量
無事に復活できました
無事に復活できました

今回、ビデオを撮っていたら肩が痛くなってしまい、2日目の昼休みに大西先生から治療していただきました。竹筒灸は自分が思っていたよりも熱くなく、ジーンとした刺激で心地良いものでした。竹筒の押し方もグイグイ押すのではなく、軽く指圧されている程度の感覚です。施術後、少ししてからヒリヒリ感が現れましたが、程なくして消えました。おかげで痛みも楽になり、無事にビデオを撮り続けることができました。

感想

水谷先生の灸法は、日本式お灸の良い部分と現代人のニーズに合った理論・柔軟性を兼ね備えていると感じました。だからこそ、灸をすえる習慣のない外国の人々からも受け入れられているのでしょう。その一方で、日本では時代とともに灸が嫌厭されつつあるのが現状であり、点灸をしない鍼灸師も増えています。このままでは貴重な日本の伝統医療技術が廃れてしまう恐れすらあります。熱いから、火傷になるから、痕が残るから嫌われるのであれば、そうならないように工夫しつつ、本来の効能をできるだけ出せるようにするしかありません。水谷先生の竹筒灸はそれに対する有力な回答であり、日本の鍼灸界にとって福音になると思います。

 

私は水谷先生を人間として、鍼灸師として尊敬しています。日本人にありがちな、枠にはまって、その中で大きい顔をするような人物とは違い、独自に己の道を追求している人だからです。世界中で活躍している先生なのに、先輩面をせず、威張った態度も見たことがありません。(日本ではそういう小物の鍼灸師が多いです)また竹筒や板、紫雲膏だってオリジナル品であり、儲け主義のガメツイ鍼灸師ならば高い値段をつけて会場で売っているところです。しかし、水谷先生はセミナー参加者全員のために、カナダから別府まで持参して、皆に無料で配ってくれたのです。一体、全て作成するのにどれくらいの時間が費やされたことでしょう? そしてそのコストは? そういう見えない部分の苦労や配慮は、他人からわかりにくいものです。私は水谷先生のそういうところに憧れ、見習わなくてはと思っています。

 

水谷先生に初めてお会いしたのは2004年のシアトルセミナーの時でした。塾長から海外セミナーの撮影を命じられて同行したのですが、現地で色々あってそれが叶いませんでした。自分にとっては情けないやら屈辱やらで散々な思いをしたのですが、そのとき水谷先生が励ましてくれたのです。そして、2009年のサンフランシスコセミナーの際には、「高嶋さんがビデオ撮影してくれないか」と声をかけて頂きました。そしてサンフランシスコセミナー最終日のこと、深夜2時過ぎにビデオテープのダビング作業を終えて、ホテルの水谷先生の部屋までマスターテープを返しにいきました。時間が遅いので、ドアの取っ手に吊るしておくという約束だったのですが、窓から部屋の明かりがもれており、『鍼灸真髄』を真剣に読む水谷先生の姿が見えたのです。とっくに寝ているはずと思っていたのですが、「飛行機が朝早いからさ、寝ないで勉強することにしたよ」という先生。以来、私は水谷先生の心配りと、治療家としての探究心に敬意を抱いています。


モクサアフリカの紹介をする水谷先生
モクサアフリカの紹介をする水谷先生

 

最後になりましたが、水谷先生から北米東洋医学誌(NAJOM)とMoxafrica(モクサアフリカ)についての紹介がありました。どちらもボランティアによる運営です。皆さん、ぜひ参加してください。

 

北米東洋医学誌

http://www.najom.org/


モクサアフリカ

http://www.moxafrica.org/

 


※次回は首藤先生の講演について書きます。

 

4 コメント

2015年

8月

12日

第57回経絡治療学会夏期大学

 2015年8月8日~10日の3日間、東京有明医療大学にて開催された「第57回経絡治療夏期大学」に参加しました。今年は研究科で、脈状と病理病症を理解し、手技(選経・選穴・補寫)によって脈状や体表などがどのように変化するかを学びました。

 

 大上勝行先生の講義(総論・各論)はスライドを用いて、脈状の分類から選経・選穴・補寫に至るまでの解説をされました。気血津液がどの部分でどのような状況になっているのか、可視化をすることで寒熱の偏在や脈状の構成要素について理解しやすかったです。また山口誓己先生は肝虚証と肺虚証の病理病症を担当しました。両先生ともに池田政一先生の理論をより噛み砕いて講義されていると感じました。

 

 実技の担当は渡部一雄先生でした。渡部先生は3日間で班の全員に治療を行ない、受講者はそれを見学するというスタイルで勉強しました。はじめの脈状が刺鍼によってどのように変化したかを皆で確認しつつ、刺鍼や体表観察のポイントを学びました。渡部先生の鍼は単刺でしばらく保持し、気が至れば抜くという手技で、顔面の鍼もよく用いていました。また、鍼管に入れたままの散鍼もします。どのようなタイプのモデルであれ、自然体のまま相手に同調し、患者との共同作業としての土台を作る技術に長けている先生だと思いました。雑談をしてるようでも、さりげなく問診に結びつけ、他の診断項目と照らし合わせて証を立てるというベッドサイドでのテクニックを学ばせていただきました。理論を振りかざすわけでもなく、受講生を萎縮させるような言動(残念ですがベテラン講師でもいます)をするわけでもなく、淡々と鍼の効果を出して見せてもらえたことは素晴らしい経験でした。

 

 個人的には肝実の把握と治療について勉強になりました。左関上の沈実で子宮筋腫がある方に、脾虚肝実として手三里・太白・曲泉・陽輔と鍼をすると、ややくすんだ暗い顔に赤みが出て、目が大きく輝きを増し、沈んだ硬い脈に丸みと柔らかさが現れました。同じ肝実でも曲泉の寫法は瘀血、行間の寫法は肝実熱と使い分けるとのこと。また、倦怠感・肩こり・目の疲れが主訴で沈弦の脈を打っているモデルで、私なら肝虚でとったであろうケースを、渡部先生は尺沢・復溜と本治法をされたので質問をしたところ、関元のへこみが決め手になって腎虚にしたとのことでした。このへんの匙加減は臨床経験を重ねないとなかなか難しいのでしょうが、自分はもっと体表観察をしっかり行なわなくてはならないと実感しました。

 10代の頃から難病や潰瘍に苦しめられてきた方の場合は数脈が顕著で、脾虚肝実で治療をしました。太白を長めにしっかりと補い、行間を寫(経に逆らうが手技は補法)し、下腿膀胱経に鍼をしてから背部へ鍼をし、少し時間を置いてから頚肩、特に頚を丁寧に刺鍼しました。頚をするまえに胆経や膀胱経の流れを良くするとのぼせないことや、数脈の人は置鍼しないこと、体を温めたい場合は跗陽を少し内側に取穴するなど、実際の臨床時のコツを教わりました。

 

 内容の濃い3日間で、あっという間に時間が過ぎ、充実感と疲労感をともなって帰路につきました。実は、昨年の高等科の実技があまりにひどい内容だった(班の全員が不満を訴えていました)ので懸念していたのですが、今年は臨床の糧となるエキスを吸収できて幸いでした。来年も参加します!

 

勉強して飲んで、勉強して飲んでの3日間でした
勉強して飲んで、勉強して飲んでの3日間でした
0 コメント

2015年

5月

10日

第30回 経絡治療学会記念学術大会 東京

3月29日~30日の2日間、東京国際フォーラムB5にて「第30回 経絡治療学会記念学術大会 東京」が行なわれました。今回は首藤先生の会頭講演があり、弦躋塾生も東京に集合しました。また池田政一先生(経絡治療学会)・樋口陽一先生(古典研究会会長)・中田光亮先生(東洋はり医学会会長)による鼎談や、支部長・部会長らによる実技(9名×40分=6時間)など、学びどころが満載の学会でした。参加者は700名と大盛況でした。

首藤先生を囲んで
首藤先生を囲んで
会場の東京国際フォーラム
会場の東京国際フォーラム

首藤先生の会頭講演は、師匠の三浦長彦氏のエピソードから始まり、開業から現在に至るまでの56年間を1時間に凝縮して話されました。

 

「開業して15年が過ぎたころ、経絡治療をやろうと本間祥白先生の『経絡治療講話』を読んだが、脈診の実技になるとさっぱりわからない。これは本の勉強ではなく実物を学ばなくては駄目だと思い、北九州の小倉で行なわれた経絡治療研究会に参加した。丸山衛先生に腎虚証と診断され、復溜に鍼をしてもらったら、なかなか治らないでいた腹の張りがスーッと取れた。これは本当らしい。理屈よりも治ればいい。(この方法で患者が)治るかどうか10年やってみようと思い、40年が経った」。

 

そして患者を治療しながら理解した4つの古典的解釈(①『霊枢経脈十』の小便数而欠の欠は、あくびではなく尿量が少ないということ。②『霊枢九鍼十二原第一』の氣至の具体的な感触。③骨折をしてわかった『難経七十八難』知為鍼者信其左の意味。④『鍼灸甲乙経精神五蔵論第一』精神は五蔵に宿り、鍼灸で心の調律をすると、WHO健康定義であるsocial well-being=ボランティア精神=忘己利他の精神に至る。)や、鍼灸が奏功した疾患(脳卒中・目眩・眼筋麻痺・尿管結石・喘息・抑鬱・アカラシア・緑内障・舌咽神経痛・糖尿病・吃逆)などを紹介しました。最後に首藤先生は、「経絡治療の特徴は本治法1本で様々な症状に対応できること」にあり、鍼灸の理想的な形だとして世界遺産の登録を提言しました。

 

また、五蔵の診断治療点として首藤先生の腹診についても話す予定でしたが、時間の都合で省略されました。スライド画像製作を手伝わせていただいたので私も残念です。次の機会に講義いただけると思います。

懇親会で挨拶する首藤先生
懇親会で挨拶する首藤先生

実技と鼎談については『北米東洋医学誌』の7月号にレポートを書いたので、ここでは全体的な感想を述べます。今学会はボクシング会場のような座席配置だったためか、演者もやりにくそうでしたし、座席によってはスクリーンの文字を見るために無理な姿勢をとらなくてはなりませんでした。首を横上に向けていた私も講演に集中できないことがありました。

 

橋本先生の教育講演「経絡治療75年の経絡観」は、経絡治療の歴史を知る上で大変参考になりました。ただ、背後の画面を見ながら話に追いつくのが精一杯で、メモを残すことができなかったのが残念でした。

※(6/7追記)『経絡治療誌』no.201にスライドも含めて講演内容が掲載されました。これでばっちり復習できます。


実技では9名の先生にそれぞれの技術・学術を披露していただき、四診でのポイントや病理考察、刺鍼の際に気をつけることなど、色々と学べました。会場の4割が初参加と知ってわかりやすい表現に徹した中根先生や、体表観察や脈状の把握から、なぜそこに鍼をするのかという病理考察を丁寧に解説した山口先生など、若い世代ならではの柔軟性と視野の広さに魅力を感じました。また、実技=臨床と考えた場合、馬場先生の実技はシンプルかつ説得力がありました。自然体でいながら観衆を笑顔にさせてしまう、なにか滲み出てくる人間力のようなものも感じました。


鼎談では興味深い話がいくつもありました。坐骨神経痛を古典研では気虚と捉え、池田先生は血虚と捉え、中田先生は気虚も血虚も両方あると話されていたことや、「浅い鍼で治る患者が多いと浅い鍼ばかりになるし、深い鍼をして治ると、ついつい深い鍼をする傾向になる」と話されていたこと。「相性の良く合う患者というのがいて、合わない患者は治りが悪い。これは気の交流だから仕方が無い」など、ベテランの先生同士の本音トークが聞けました。

 

首藤先生と中田光亮先生、新井康弘先生と漢方鍼医会の皆さん
首藤先生と中田光亮先生、新井康弘先生と漢方鍼医会の皆さん
トップオブシナガワで乾杯
トップオブシナガワで乾杯

今学会は懇親会の参加費が無料ということもあり、大変な賑わいでした。2年前の弦躋塾セミナーで講師をしていただいた中田光亮先生や、東京時代にお世話になった東京漢方鍼医会の先生方と話す機会がありました。その後、品川プリンスホテル最上階にあるラウンジにて2次会となりました。ここは首藤先生のお気に入りの場所です。私にとっても先生と4時間半飲み続けたことのある思い出の場所であり、今回も皆さんと楽しい時間を過ごさせていただきました。

4 コメント

2015年

3月

10日

首藤傳明先生講義録9

首藤傳明先生講義録9 P46
首藤傳明先生講義録9 P46

本日、「首藤傳明先生講義録9」をアップしました。画像をクリックするか、こちらからダウンロードページに進んでください。


首藤先生の講義はもちろんですが、取穴や実技の際の「塾生とのやり取り」も非常に参考になります。当時の例会は畳の部屋で行なわれていたので先生との距離が近く、塾生も気軽にどんどん質問していました。首藤先生の答えの中には、私達が臨床で遭遇するであろう様々な問題に対するヒントも含まれており、これは記録しなくては勿体無いと思いました。講義録の1や2と比べるとページ数が倍以上になっているのは、「塾生との対話」を多く収録するようになったからです。13年前の記録ですが、今読んでも、まるで弦躋塾に参加しているような気持ちになります。皆さんの勉強に役立てていただければ幸いです。

 

なお、首藤先生は今月末の経絡治療学会東京大会で会頭講演を行ないます。鍼灸師の皆さん、ぜひご参加下さい。

 

2 コメント

2014年

12月

30日

第42回日本伝統鍼灸学会 香川大会4

今大会のハイライトになったのが、福島哲也・藤井正道・村田渓子・猪飼祥夫の各先生による灸の実技セッションである。福島先生は深谷灸法、藤井先生は督脈通陽法、村田先生は知熱灸と灸頭鍼、猪飼先生は特殊な灸をテーマに、それぞれ臨床で使われているテクニックを披露していただいた。色々なスタイル(流儀・流派)を学べるのが日本伝統鍼灸学会の魅力であり、実技では手技のタイミングや刺激量の塩梅といった「感覚的なもの」を見ることができるので大変勉強になった。

福島哲也先生による「深谷灸法」

・治療は座位で行なう。

・補瀉は考えずに、熱をもって硬結を砕くとする。

・施灸の目安は灸熱が奥まで伝わるまで。

・ツボの状態が減弱するか消えるなど、正常になったら施灸を止める。

・熱くないときは熱くなるまですえる。

・必要があれば重ね焼き、捻り方を堅くするなどして対応する。

・ツボの位置が並ぶということはないし、竹筒を使うのが深谷灸というわけでもない。

・望診と触診をメインにする。手足の冷えや顔色をよく診る。脈診は重視しない。

・体表を軽擦して圧痛硬結を探す。

・ツボを押さえて、どこに響くか聞く。

・督脈は指3本で上から撫でおろし、指の引っかかるところに灸点をつける。

・督脈の際は、指を骨に向けて圧痛を探す。小刻みにバイブレートさせる。

・膏肓などツボが深い場合は、指を立てて、3本重ねて押す。

・座位ができない場合は寝て取穴する。当然、ツボの位置はずれる。

・反応が消えた状態で治療を終了する。

・引き下げは足三里に行なう。

藤井正道先生による「督脈通陽法」

・江戸時代と現代では冬の寒さが違う。日本人の冬の経気は昔ほど深いところを流れてはいない。温暖な大阪ではなおさらであり、焼山火は用いなくなった。

・日本は湿邪の国。秋は長雨で乾燥は少ない。湿邪には灸が有効である。大阪と同じく湿度の高い四川では灸法が発達している。

・通陽には灸頭鍼・台座灸、補陽には棒灸を用いる。命門周辺から大椎にかけては台座灸。よく使うのは灸頭鍼で、督脈にするとズンと気の響きが強まる。側臥位で治療すれば万が一、灰が落ちても安全である。

・側臥位だと膻中付近の圧迫がないので、気虚や気滞の患者に灸法を多用してもドーゼに悩まなくなった。

・任脈が滞ると伏臥位がきつい。側臥位がよい。パニック障害は左上に。理由は心臓の鼓動が聞こえないから。

・灸は発赤するまで行う。冷えが強い人は透熱灸をしてもそれほど熱くないが、熱感が続くので、それを嫌う患者にはやらない。

・上実下虚は湧泉で下げる。膝枕を使って両足同時に棒灸をする。

・督脈をやると眠くなるのは、気が任脈に回っているから。

・神闕には箱灸をする。もぐさは棒灸の端を使う。

・ディスポショーツに着替え、タオルで覆い、棒灸で会陰をあぶる。下焦の流れがよくなる。

・体内時計の乱れによる睡眠障害は、命門・至陽・大椎。

・(実技モデルは)右の薬指と右頭部にアトピーがあり、主訴は首の痛みと鼻炎。瘂門中心にコリがある。脈は滑・数で、数は緊張によるもの。舌先がむくんでいるので上焦に湿がある。アトピーは湿と熱である。経絡上の滞りを見ると、このモデルは頚のところで滞っている。気の推進力をつけるのを目的とし、督脈上に台座灸、命門穴に棒灸(枕で固定)、大椎と身柱に灸頭針(きりもぐさを使い、火は内側からつける)、1番針で迎香に刺鍼。肺兪に針をして膀胱経に利水すれば治る。

村田渓子先生による「知熱灸と灸頭鍼」

・祖脈で陰陽虚実寒熱を判定する。

・五行だけでなく、寒熱の病症を重視する。

・必ずしも69難だけでなく、井栄兪経合を使い分けることもある。

・鍼の効果を高めるために灸を併用する。

・点灸は補法で、膝関節が腫れている場合、患部の周囲に多穴多壮。

・知熱灸は寫法に使うことが多く、患部を冷やす、急性の外傷、患部の炎症、気を散らすなどに用い、後を押さえない。また、硬く捻ってゆっくり燃やすと補法になる。敏感な人や子供に用いる。

・灸頭鍼は補法に使う。冷えをとる、深い部分の虚を補う、瘀血を下す、関節の痛み、経筋が冷えて痛む場合や経脈に冷えが入って気血の運行が滞る場合に用いる。下半身が冷えて虚している場合には関元などにおこなう。

・原則的に上半身には灸頭鍼はしないが、何をしてもコリが軽減しなかった奏者の肩膠に灸頭鍼を行って著効がみられた。

・(実技モデルは)慢性の腰痛と左母指の痛みで、脈は浮でやや数、陰虚内熱とみて1寸0番で太谿を補う。鍼が立つぐらい刺入する。もし冷えている場合には腹にも置鍼する。上脘から中脘にかけて膨らみ、陰交から関元にかけて虚があり、先に下腹部から補う。中脘には寫法の知熱灸を2壮、熱く(あったかくではない)なったら取り去る。経筋の硬いところには灸頭鍼をすることがあるが、陰虚証の人にはやりすぎないこと。大腿から下肢の経筋が張っているので、飛陽付近の硬いところに寸3の2番と、風市付近に2寸で灸頭鍼を行う。灸頭鍼は皮膚からの距離が大事で、皮膚と軸までの半分ぐらいの位置にする。鍼の太さは1寸だと0~1番、寸3は2~3番、寸6は3~5番。艾は丸めて半分に割り、再び鍼をはさんでくっつける。煙が出なくなって一呼吸のときにピンセットで抜鍼する。臀部に深めに刺入鍼をする。もし陽虚で冷えている場合は灸頭鍼をする。背部兪穴は実している場所(三焦兪の外、肓門)に捻鍼で寫法をし、知熱灸をする。右志室に寸3の2番で刺入し、雀啄を加える。座位になり、患部の左母指を経絡のつながりで考え、肺経上の天府あたりと、大腸経の陽谿、合谷、魚際に寫法と知熱灸を行う。汗ばんで赤くなれば、寫法の効果が現れたことになる。のどが痛い場合、合谷に30分置鍼し、症状を繰り返す人には患部にも鍼をする。

猪飼祥夫先生による「特殊な灸治療再現考」

・墨灸は漢方薬をアルコール抽出して墨汁と混ぜたもので、生後1ヶ月から10歳ぐらいまで行う。胃経に印をして、シッカロールをつけておく。

・カマヤミニ、長生灸、せんねん灸は評価すべきであり、伝統となっていくものである。

・米粒灸は米の形にする。(底面がとがっていると熱くない。右手で半捻りを加える)

・塩温灸は底から火をつける。下に紙をひいて熱さの加減をする。水滞に効く。

・味噌灸は赤だし味噌に塩を加えて、もぐさと灰を鉢に入れて混ぜる。灰を入れると粘土のようになる。セイリン・ラック灸の受け皿をつけて用いる。瘀血に効く。

・打膿灸は現在ではほとんど行われなくなり、かつて相撲膏として全国に知られた浅井万金膏も製造を中止し、今では京都の無二膏が残るのみとなっている。打膿灸は免疫付加に役立つと思われ、末期がんなどにも行ってみたい治療だが、膿を生ずるために現代医学の観点からは同意を得られない。

今学会は収穫が多く、貴重な2日間となりました。多くの先生から学んだことを自分なりに消化吸収し、臨床に生かしたいです。


学会終了後、岡山駅で弦躋塾生たちと一緒になり、「博多まで一杯やろうか」と新幹線の自由席に向かったのですが、あいにく満席。それぞれ自分の指定席に戻りました。ちと残念。

翌朝、フェリーで五島に帰りました(写真は行きのときに撮ったもの)
翌朝、フェリーで五島に帰りました(写真は行きのときに撮ったもの)
0 コメント

2014年

12月

06日

第42回 日本伝統鍼灸学会 香川大会3

シンポジウム「灸療法における診察診断と治療」では、鍼と灸の使い分けや、透熱灸と温灸の使い分けについて、大上勝行・中村辰三・戸ヶ崎正男の三先生による発表があり、その後で討論が行なわれた。

 

大上先生は「すべての疾病を経絡の虚実状態として把握し、(治療は)鍼灸を用いて補寫をする。鍼の補寫に大小・迎随・深浅・呼吸・出内・開闔などがあるように、灸の場合も患者の病態に合わせて選択、補寫を行う」と述べた。透熱灸は虚実に関わらず、硬結のあるところに用いる。まれなケースだが、陽虚の際には陥凹部にすることもある。温灸は表面的な熱の停滞に用いる。1センチ大の三角錐にもみ固めた粗艾に火をつけ、九分ほどで取る。ほんのりと発赤させるが、発汗させれば寫法、させなければ補法とする。表に近い浅い部位の陽気や、水の停滞、硬結に有効である。緩やかな熱で軽い寫法となるため失敗が少ない。灸頭鍼は深い部位の硬結に刺し、上から熱を加えることで陽気の発散を抑える作用があるため、深部にある陰実に対して使用する。鍼が立つぐらいまで刺し、2センチほどの大きさに丸めた粗艾に火をつける。鍼の長さは1寸~2寸で、太さは3番~5番を使う。表面が発赤する程度に行う。灸は手技的に鍼よりも簡単であり、硬結、血の停滞、陰実、久病、元気の不足、陽虚、家庭でのセルフケア等に対応する。施灸場所は望診によって察知し、陽先陰後・上先下後に行う。刺激の強弱は年齢・性別・体質によって変えるが、術後・虚弱体質・過敏体質には小さく少なく(弱刺激)を心がける。透熱灸による虚実に対する補寫の手技としては、補は柔らかくひねる・軽くつける・灰に重ねる・熱の穏やかなもの(良質の艾)・小さくすえる等で、寫では反対のことを行う。硬結や圧痛が強い部位は熱さが消えるまですえる(多壮灸)。温灸では虚実よりも硬結の硬軟によって選択をする。たとえば膝の治療の場合、変形や熱感、腫脹、疼痛の場所を確かめて、走行する経絡の目安をつけ、陽輔・三陰交・丘墟などにも圧痛がないか確かめる。炎症性には遠隔治療が有効であり、局所には灸をしない。温灸なら熱感のある所にすえられるが、熱が発散できないと悪化する。患部との境界部分に汗が出るまですえることである。腰部の志室・次膠・環跳などの圧痛も確かめて治療を加える。灸が著効するものは、ものもらい、咽喉痛、膀胱炎、婦人科疾患、逆子などで、禁忌は糖尿病、化膿性疾患、月経中、出血中、患者の不同意等である。上半身の多壮灸では頭痛や眩暈を起こすことがあるため、心臓に近い部分は避けるべきであると語られた。

 

中村先生は、灸の適応には上気道・呼吸器・口腔・胃腸・神経・骨・筋肉疾患などがあり、不適応には寄生虫病・感染症・変成・肥大・腫瘍など皮膚疾患(化膿性疾患と冷え性には効く)があると言われた。灸を行うと白血球が増えた状態になり、好中球が4~5日間持続する。そのため3日に1回ほどすえると病気の予防になる。白血球の遊走速度や貪食機能の亢進、若返り現象がみられる。ある癌の症例では、腹膜が原発で卵巣や肝臓に播種性転移し、開腹手術とシスプラチンを投与したが、2年後に腹水がたまって歩行困難になった。ランダを投与してマーカーが下がり、同時に灸を開始した。3年後に再発したが、灸治療を続けた結果、化学療法による白血球減少が抑えられ、G-CSFの投与が不必要だった。CRPが癌再発時には上昇したが、それ以外は正常値だったことや、吐き気・倦怠・痺れが抑えられたことも灸の効果によるものであると中村先生は述べた。リンパ球が顕著に増加し、寿命1年と言われたが、3年半に延命できた。入院する直前までは灸治療によってダンスも続けられたという。

 

 戸ヶ崎先生灸の適否について、病の軽重によって考えると話された。同じ症状であっても、体力や病態によって灸の使い分けをする。体力があれば透熱灸、なければ温灸を使う。産後の肥立ちが不良で体重が40キロから35キロに減少し、胃もたれと右肩甲間部の痛みを訴えた症例では、下腹部表面が膨隆して内部は空洞化、脾兪周囲が陥凹しており、脾腎両虚として巨闕・脾兪に温灸を30分行った。だんだんと体重が増え、4回目の治療では透熱灸ができるようになった。また右膝関節痛の症例は、69歳女性・肥満・よく喋る・脈はやや数で右寸関が小・臍周囲が弛緩・腎経の復溜と太谿が虚の患者に対し、T3~4に棒灸を10分、L4~5に25分。右陰谷に段階的に1.5センチ刺入して10分置鍼、また左右の環跳にも10分置鍼をした。『霊枢・官能』に「鍼ができなければ灸をする」とあるように、戸ヶ崎先生は患部の状態を4つに区分けしており、灸の刺激量について以下のように解説された。

1.鍼が多い 2.鍼が少し多い 3.鍼か灸頭鍼 4.灸が多い。


1は打撲などの熱実の場合で、糸状灸を1壮すえる。

2は少寒実で、緊張部位のすぐ下の硬結や、陥下部位のすぐ下の硬結。

3は寒実で、表層は陥下し、中層は硬結。

4は虚~虚寒で、陥凹部の下から弛緩。半米粒の透熱灸か小さい知熱灸を多壮。棒灸など。

シンポジウムでは司会の篠原昭二先生も交えて、灸の刺激量や補寫について話し合われた。大上先生は「熱いから寫法ではなくて、熱の量が多くなれば発散が大きくなるということであり、発散が充分でなければ寫法は失敗する。温灸の数や熱量の調整、そのへんの匙加減が重要であり、一定の燃焼温度で灸をすえる技術が非常に大切である」と述べた。

 

戸ヶ崎先生は、「(灸には)熱が通る、熱く感じないという表現がある。インフルエンザで右の肺兪は熱く感じるが、左は感じない。30壮ほどすえると、翌朝は咳が激減した。灸が効いたか効かないかは陰陽のバランスが崩れたことによって熱さが感じなかったり硬結ができるわけだから、気を動かすツボと血を動かすツボがあり、あるいは硬結の強さで判断する」、「軽くなでて、正常な場所と異常な場所の境を見つける。それができなければ産毛があるとか、色が悪いとか、ある程度の予想ができる。だんだんと目から手で判断できるようになる」、「熱実のツボと寒実のツボがある。寒実になると硬結ができる。表面がやわらかい硬結は熱く、それは鍼が効く。表面から硬結で硬くなっている場合は灸で熱くすえる。表が緊張して内部が弛緩しているような場合、緊張が取れるまでは熱いが、それから先は熱くなくなる」と述べた。

 

中村先生は、「熱を通すには透熱灸しかなく、皮膚を焦がさないと効果がない。胸椎の7番が痛くなったが(調べても)異常がなかった。督脈上に灸をすえると(患部の)上や下は3壮で赤くなるのに、患部は赤くならない。そこで赤くなるまで何十壮もすえた。それが、熱が通るということ。おそらく患部が冷えていたためでしょう」、「肝硬変で死にかけた人は8年間、失眠に熱くなくなるまですえた。よく効く。ただし、震えるほど熱い」、「(炎症がある部位に灸をすることについて)よけいに炎症が強くなるといわれているが、オデキの周囲に2~4ヶ所すえることがある。炎症部位にすえたあとで炎症が強くなるということはない。体力が弱く、すぐにオデキができる人に家で灸をしてもらった」と述べた。


篠原先生も、「右肩こりで右の肩外兪に灸をしても熱くなく、左は熱がった。原則に基づいて、熱がる部位に熱くなくなるまですえたら、めまいを起こした」と、灸のオーバードーゼによる失敗例を話された。

今回のシンポジウムを聴講し、体質や症状を見極めて、適切な灸法を施すことの大切さを学びました。臨床では様々なケースに出会います。熱が充分に通って皮膚が発赤しているのに、熱さを感じない場合もありますし、まだそれほど熱くないと思われる時点なのに熱さを訴える場合もあります。術者へ対する信頼度によっても熱さの感覚は変わるでしょうし、治療を続けるうちに灸の熱さに慣れていくということもあります。確かな手技が要求されるのはもちろんのことですが、その患者に対する最適な刺激量を考える際に、各先生の意見がとても参考になりました。

本場のさぬきうどん
本場のさぬきうどん

学会会場から少し歩いた場所に「おか泉」という讃岐うどんの有名店があったので、滞在中に2回食べに行きました。モチモチして美味しかったです。

次回も香川学会のレポートを続けます。

0 コメント

2014年

12月

01日

第42回 日本伝統鍼灸学会 香川大会2

第42回 日本伝統鍼灸学会 香川大会のレポートを続けます。

宇多津の宿から見た瀬戸大橋
宇多津の宿から見た瀬戸大橋

真鍋立夫先生による会頭講演「ボーダーライン症候群の東洋医学治療」を聴講する。ボーダーライン症候群とは境界型人格障害(borderline personality disorder)の一群を指すもので、精神病とも神経症ともつかない境界にある患者をいう。心因性が強く、軽度の不安障害レベルの症状を表し、特に若い人に多く発症する。気分の変動が激しく、衝動的行為を繰り返したり、激しい怒りを抑制できないなど、ヒステリックな行動をとりやすい。近年増加傾向にあるという。精神病が鍼灸で治るかと考えた場合、脳に器質的障害があるものは治りにくいが、明らかに心の問題があるものは治りやすい。東洋医学では精神の疾患を五蔵の病ととらえており、治療の方向性もはっきりしている。世の中の価値観の偏りによって生じた心の病もあり、東洋医学的な自然哲学によるアプローチは患者の心と親和性がある。身体に現れた様々な愁訴を鍼灸でやわらげると予後が良い。

 

患者は鍼灸院に来る前に、すでに薬を服用しており、依存性になっている場合もある。鍼灸治療を信頼し、通院してくれるまでの関係をつくるのが難しい。そのためには蔵象に基づいた弁証による独自のカウンセリングが必要である。治療は経絡の補寫によって調整し、五臓の精気を立て直す。『霊枢・本神』に、両精相うつことを神という(両精相搏謂之神)とある。経絡は気の通路である。神に従いて往来するものを魂といい(随神往来者謂之魂)、精と並びて出入りするものを魄という(並精而出入者謂之魄)。本能的行動と感覚の機能を賦活するが、五神の相互作用によって七情が生じる。脾陰虚で虚熱がこもると狂となり、陽虚では思慮過度、不安焦燥になる。肺陰虚では躁となり、陽虚では憂、悲となる。腎陰虚では驚となり、陽虚では恐となる。肝陰虚では怒りやすいが、肝血が消耗すると恐れやすくなる。心虚熱では暴喜となり、心気を消耗すると神昏となる。脾や腎の陽虚があるときに抗不安薬や抗鬱剤を使うと、ときに強い意欲障害が起きる。また食生活では冷たいものや甘いものの過剰摂取によって脾陽虚や腎陽虚に寄ると、無感動になってしまう。冷たいものは腎を傷め、甘いものは脾を傷める。水分の取りすぎは痰飲となる。重症になると瘀血のものもある。水、痰濁のコントロールをしなくてはならない。水を動かさないと気も血も動かない。若い人の薄着やへそ出しルックも、お腹を冷やす要因である。これらの疾患に対して「へその塩灸」は大変有効であり、遠赤作用で深い部分まで温めることができる。患者さんからも、「よく眠られるようになった」、「メンタルも良くなった」と評判であるという。真鍋先生は「ボーダーライン人格障害こそ東洋医学と西洋医学の併用による統合医療が必要である」と述べ、初の著書である『ボーダーライン症候群と東洋医学臨床』の紹介をされて講演を終えた。

 

一般口演でも、尾崎真哉先生による「棒灸が著効した少陰病証の一例」で、急性に発症した畏寒・食欲不振・失禁・四肢厥冷等の患者に対して神闕とその周囲への棒灸によって劇的に回復がみられたという発表があった。尾崎先生は「棒灸の施術は衛気に作用させ、陽気を強烈に動かした可能性があり、陽虚証には神闕とその周囲への棒灸が有効である」と述べられた。また四診によって脾腎陽虚証とされたのであるが、加齢だけではなく、漢方薬の服用による誤治も重なって少陰病になったであろうことも推測されていた。これは詳細な問診と体表観察をしなければわからないことであり、治療以前に四診がいかに重要かということを感じた口演であった。

 

両先生の発表を聴き、臍を温める大切さがわかりました。最近は若い人でも陽虚証の患者が増えていますし、これから冬の寒さも厳しくなるので、へそ灸がきっと威力を発揮するでしょう。へその塩灸には直接へそに塩を盛るものや、容器に塩を入れ、その上にもぐさを乗せるやり方などがありますが、真鍋先生の「へそ灸」は竹筒の中に塩を入れて、モグサダンゴを燃焼させる方式です。モグサダンゴを作る手間はかかりますが、施術中は煙くなりませんし、ジワーンとしみこんでいく独特の温熱感は心地よいものです。箱灸や棒灸とはまた違った魅力があり、お灸のバリエーションの豊富さに驚かされました。施術時間が長くなってしまうため、今の自分の治療スタイルに取り入れるのは難しいですが、条件が合えば積極的に使っていきたいです。モグサダンゴは用いるもぐさの種類や水と糊の配合、つめ方などによって火力や燃焼時間が変わるので、いろいろ試してみようと思います。


次回もまた、香川学会のレポートをします。

モグサダンゴを作ってみました
モグサダンゴを作ってみました
0 コメント

2014年

11月

20日

第42回 日本伝統鍼灸学会 香川大会1

2014年10月25~26日の2日間、香川県宇多津のユープラザうたづにて第42回日本伝統鍼灸学会香川大会が開催されました。今回のテーマは「日本伝統鍼灸における灸療法の意義」で、灸についての基本的な講義や、歴史的な考察、灸を主に用いた症例報告、ベテランの先生方による灸の実技など、たっぷりと灸について学ぶことができました。

会場にて
会場にて

最初に鈴木幸次郎先生による「手際の良い艾炷の作り方と熱くない灸のすえ方」を受講した。患者さんの体質や病の状態、または環境によって灸を使い分けられるようにしておくためのポイントとして、直接灸は散艾を小さく(米粒8mm・半米粒5mm)持ち、力を入れずにリズム良く示指と母指を往復させて、橈側先端部でよりだすことや、灸熱を緩和させるために8分から9分燃えたところで(すえ手の)母指と示指で押し開くように圧したり、部位によっては皮膚を揺らすようにする。火加減を見ながら空気の量を調整する場合は指が熱くなっても離してはいけないことや、右手で先端をひねる「すえ手捻り」は付着部がよられていないので補の灸になることなど、心地よく灸をすえるための技術を学ぶことが出来た。また艾の保管は空気の通うところで行うのが大切で、ジップロックなどで密閉させてはならない。鈴木先生は桐箱に入れているが、和紙や新聞紙に包んで保管するのも良いそうだ。最後に学生から「手に艾がくっついてしまう」との質問に対し、「手汗は精神性の発汗であり、とにかく沢山すえる(経験を積む)こと。透熱灸をする際は高級もぐさを使い、やさしくより出し、軽くすえられるように練習をすること」が大切で、「アルミの弁当箱の上にティッシュを2枚敷き、2枚目が焼けないようにすえる練習をするのがよい」と答えられていた。


手塚幸忠先生による「灸の種類とその効果」では、鍼と灸の使い分けについて曖昧な先生が多いことを指摘され、灸がどのような場合に適応するのかを、古典の記載を挙げて説明された。『霊枢・経脈篇』には「陥下則灸之」(陥下していればこれに灸をする)とあり、これを張景岳は「陥下則灸之、陽氣内衰、脉不起也」(陽気が内で衰えて、経脈が起きれなくなった)と解説している。同じく『霊枢・禁服』に「陥下者、脉血結于中、中有著血、血寒、故宜灸之」(陥下するとは脈血が中でうっ血し、中で血が付着したり、血が寒えたりすることによるので、このような場合にはこれに灸をするのがよい)とある。そして『本草鋼目・艾』には「純陽也。可以取太陽真火、可以回垂絶元陽」(艾は純陽で、太陽の真火を取ることができ、絶えようとする元陽を回復することができる)とあり、『霊枢・刺節真邪』には厥が足にあるときは鍼を用いてはならず、宗気が下らず脈中の血が凝って留まり止っているときは、火でこれを整える(宗氣不下、脉中之血、凝而留止、弗之火整、弗能取之)とある。これらの記載から、火熱を用いる灸には陽気を補う効果があり、血が寒えて固まって滞ってしまった場合に効果を発揮することがわかる。形態としては、ひどく虚して陥下している穴に向いている。また養生の灸として『千金方』に、「体の上に常に2~3ヶ所、灸をしておくことが必要で、灸の痕を治してはならない。そうしておけば瘴癘、温瘧、毒気は人に付くことができない」(体上常須三両処灸之、勿令瘡暫差、則瘴癘温瘧毒気不能著人也)とあり、灸は病気の予防にも効果的である。まとめとして灸には、気を補う・冷えに効く・養生に良いという特徴がある。

 

透熱灸・知熱灸・灸頭鍼の使い分けについては、透熱灸は補に向き、陥下している所(経穴)に気を集める。虚した背部兪穴や三陰交などによい。寫法は誘導として使い、腫れた患部の周囲や子宮筋腫(治療回数が必要)などによい。知熱灸には底面が円錐形の井上式(根本先生が考案)と、三角錐に作る小野(文恵)式が一般的で、透熱灸の八分灸も知熱灸と考えることができる。補法にはゆっくり燃えたほうがよく、硬くしてすえる。寫法は速く燃えたほうがよい。やわらかくすえるほうが熱いので寫法となる。陽実の部位(炎症や腫脹)は寫法として使い、腰痛、腹痛、下痢などには補法としての知熱灸が適している。灸頭鍼は笹川智興先生が考案し、赤羽幸兵衛先生が広めたもので、冷えによる症状、筋肉の引きつれ、深部の頑固なコリ、腹部瘀血などによい。輻射熱によって骨盤内を温めることができ、「関元・気海に行うと背中まで温かくなり、八膠穴に行うと大腿前部まで温まる」と手塚先生は述べられた。また先生は当日、原文と解説が書かれたレジュメを配られた。これは学ぶ者にとって非常にありがたいことだ。引用された原文や、その前後の文章を読んで復習することができるからである。最近の学会や講習会では著作権の問題から録音や撮影ができず、パワポでスイスイ講演が進むのでメモすら間に合わないことが多い。参加者の立場を考えた計らいだったと思う。

 

 宮川浩也先生の「江戸期の灸療法」では、江戸時代にはそれまでの伝統的な灸法と、後藤艮山によって儒学思想である「仁」を取り入れた灸法の流れがあったことを講演された。仁とは思いやり、慈しみのこころであり、艮山は「医者の本分は身なりではなく誠実な治療である」として、僧衣剃髪に迎合せずに縫腋束髪にもどし、それまで艾炷が大きくて強刺激だった伝統的な灸(大艾炷少壮灸法)を、患者が熱さに耐えられるように小さく(小艾炷多壮灸法)した。また、「医者は治療を商売にしてはならない」と主張し、栽培された本物のモグサ(当時は偽物のモグサが横行していた)を使うよう奨励したという。興味深かったのは、治療は「痛を以って輸と為す」を大原則として、蔵府説・陰陽五行説・運気説などの理論を退け、正当な理論、合理的な効果を目指していたという点である。ということは、当時は理論を振りかざして悪化させる医者や、鍼灸治療と称して金儲けに走る者が多かったということだろう。艮山はそういう現状を憂いて誠実で実直な治療を目指したのではないだろうか。皮膚の接地面をななめにして、少しでも熱くないように灸をすえたというところに、彼の思いやりを感じる。

 

古代の灸には発と膿がかかせなかったという。発とは膿を乾燥させないことで、『資生経』には「死ぬまで足三里と丹田は乾燥させない」とあり、『甲乙経』には「発を望むなら靴底でこする」という記述があるそうだ。また『太平経恵方』には「施灸して1年を経ても治らないのは膿ませないからである」とあり、膿ませ続けておくことが健康維持に必要とされていたと宮川先生は述べた。灸本来の姿がどういうものであったか、またどのようにして日本式の点灸になっていったかを知ることのできる貴重な講演だった。


光澤 弘(ひろむ)先生の「歴史からみる日本の灸の特徴」では、平家物語の橋合戦で負傷した浄妙坊が矢傷(鎧に63本の矢を受けて、5本が体に刺さった)を灸で焼いて応急処置をしたというエピソードを話され、平安時代には軍陣医学として灸があったことや、6世紀に百済から仏教とともに鍼灸が伝来し、神への信仰と仏教の融合によって日本の文化が形成されてきたことなどを紹介された。553年に百済へ使者を遣わし、医・暦・易博士・薬物などの送付を求め、642年(645年?)には新羅に留学していた紀河辺幾男麿が帰国して鍼博士になったという。神とは祟るものであり、祭るにあたり「穢れ」が嫌われたことから、「灸治の者は忌むので祭りや神事に従わない(771年『群書類従』)とされたという。先の宮川先生の講演から推測すると、おそらく打膿灸によって流れ出る膿みや臭いが「穢れ」とされたのだろう。ところが『續群書類従』の「觸穢問答」によると、3ヶ所までは灸をしてもいいけど、4ヵ所以上は神行に差支えがありますよという「妥協案」になっていることから、当時の人々の間で灸治療(いわゆる大艾炷少壮灸法)がいかに盛んであったか想像できる。一方で「弘法の灸」をはじめとして仏教と灸の結びつきは強く、現在でも土用の丑の日には全国各地の寺で「ほうろく灸」が行なわれていることを話された。また、若き日の光澤先生(20年前?)が自ら体験した富山県の瑞龍寺の「ひとつやいと」の動画や、各地の灸にまつわるグッズなどを紹介され、お灸がいかに日本人の保健に寄与してきたかを知ることができた。最後に光澤先生は、「1981年に1000人だった100歳以上は、今や6万人になった。健やかな高齢者が増えれば医療費が減り、介護者の経費削減にもつながる。お灸の普及は活力のある国づくりに貢献する。日本灸国が日本救国につながると思う」と述べて講演を終えられた。鍼灸師としての自覚を促される、そして前向きな気持ちになる講演だった。


今学会は学ぶべきところが多く、メモも膨大な量となりました。続きは次回にレポートします。


2 コメント

2014年

10月

07日

リレー講義「蕁麻疹の鍼灸治療」補足2

講義が長引いてしまい、満足な実技ができませんでした。失礼しました。
講義が長引いてしまい、満足な実技ができませんでした。失礼しました。

諸痛痒瘡、皆属於心

リレー講義の続きです。今度は痒みについて考えてみます。⑤『素問 至真要大論篇 第七十四』のいわゆる病機十九条には、風による掉眩は肝に属すとか、湿による腫満は脾に属すといった条文が書かれていて、ここに「諸痛痒瘡、皆属於心」(諸々の痛み痒み瘡は、皆心に属す)という文があります。その下に小さく書かれている王冰(ひょっとすると林億?)の注釈には「心寂なれば微かに痛み、心躁なれば甚だしく痛む、百端之起は、皆自ずと心より生れる,痛み、癢み、瘡、瘍は心より生まれるなり」と書かれていて、心機能が傷害された程度によって痛みの強さも変わることを述べています。心は君主の官で、神明はこれより出づ(霊蘭秘典論篇)わけですし、精神の舎る所(霊枢・邪客)です。そして心は身の血脉を主る(痿論篇)のですから、心の働きが傷害されると精神に影響を及ぼすだけでなく、人の精神状態によっても血の循環に影響が及ぶということが考えられます。またレジュメの⑥から⑪までは、「諸痛痒瘡、皆属於心」に対する後代の医家の解釈を、時系列にそれぞれの著書から引っ張り出したものです。

 

⑥劉完素1152年『素問玄機原病式』「諸痛痒瘡瘍皆属心火」

⑦張従正1228年『儒門事親』「諸痛癢瘡瘍、皆属於心。丙丁火也、火鬱發之」

⑧呉昆1594年『素問呉注』「熱甚則痛,熱微則癢,瘡則熱灼之所致也。故火燔肌肉,近則痛,遠 則癢,灼于火則爛而瘡也。心爲火,故屬焉」

⑨張介賓1624年『類經』「熱甚則瘡痛,熱微則瘡痒。心屬火,其化熱,故瘡瘍皆屬於心也。然赫 曦之紀、其病瘡瘍、心邪盛也」

⑩李中梓1642年『内経知要』「熱甚則瘡痛、熱微則瘡癢、心主熱火之化,故痛癢諸瘡、皆属於心 也」

⑪高世栻1695年『素問直解』火、舊本訛心、今改。諸痛癢瘡、皆屬於手少陽三焦之火。諸寒厥而 固洩、皆屬於下。下、下焦也。諸痿痹而喘嘔皆屬於上。上、上焦也。是三焦火熱之氣有  餘、則諸瘡痛癢而病於外;三焦火熱之氣不足、則諸厥固洩、諸痿喘嘔、而病於内;以明三 焦之氣遊行於上下、出入於内外也。

 

劉完素と⑦張従正は金元時代の医者です。劉完素は25歳から60歳まで素問の研究を続けて病機十九条を分析し、六気が過ぎれば皆火と化すという「火熱論」を提唱した人です。病のほとんどは火熱によるものだとし、「痛痒瘡瘍はみな心火に属す」と言っています。張従正も寒涼剤を多用した人です。彼の著書『儒門事親』「瘡癮疹一百」で、小児の蕁麻疹や瘡のとき、辛温で発散させる薬(升麻湯)は使うなと言っています。「五寅五申の歳は少陽相火の歳にて、この病を発することが多く、また諸痛痒瘡瘍は皆心火に属すため、辛温之剤で発散させると、熱勢がかえって増し、だんだんと蔵に毒がたまって下血し、ひきつけや痙攣をおこす。白虎加人参湯、凉膈加桔梗当帰湯が良い」と言っています。現在でも蕁麻疹の処方に使われています。⑧呉昆⑨張景岳(介賓⑩李中梓は明代の医者です。三者ともに、熱が甚だしければ痛み、熱が微かならば痒むということと、心は火に属し、火が熱と化して発症するという点は一致しています。張景岳のいう「赫曦之紀は心邪が盛んになり、瘡瘍を病む」とは、戊子、戊午、戊寅、戊申の四年には、火が大過して熱気が流行し、肺も熱を受けて喘咳し、身熱して皮膚痛む、という運気学説です。⑪高世栻(士宗)は清代の医学者です。病機十九条の諸痛癢瘡、皆屬於心の心は誤りとし、「心」を「火」とし、そのひとつ前の条文である諸熱瞀瘛、皆屬於火の「火」を「心」に入れ替えて、諸痛癢瘡は手少陽三焦の火に属すと改めました。痿、痹、喘、嘔などがおこる理由は、三焦の火熱が有餘したために外において病むためであり、反対に三焦の火熱が不足すると、寒、厥、固泄は下焦にて、痿、喘、嘔は内において病むとし、これは三焦の気が上下に遊行し、内外に出入するためであると言っています。

 

『素問』第六十六~七十五篇までの運気七篇は、唐代に素問を整理した王冰が剽窃したとされており、素問の研究者からは素問とは別物として扱われています。『素問訳注』にも省かれていますし、丸山昌朗先生の『素問・鍼経の栞』も同様です。柴崎保三先生の『黄帝内経素問新義解抜粋集』には運気七編も載っていますが、文字量が膨大で通解を読むだけでも大変です。何度も寝落ちして進みませんが、金元四大家や張景岳などの書を理解するのに運気は必要なので少しずつ読んでいます。また、『素問訳注』の第三巻に付録された運気概略には、生気象学としての運気論のしくみが詳しく書かれています。家本誠一先生は、「『素問』、『霊枢』の気象医学は経験的合理性を持ち、その理論的基礎である陰陽四時は日常の経験に合致しており、常識的に納得できる」とし、「運気の気象学説は思弁的観念的であり、五運と六気を基礎として理論的に構築された規格品であり、故に総合的体系的ではあるが、作り物の感は免れない」と述べています。私たち鍼灸師はこの点に注意して物事を見極める必要があるのではないでしょうか。運気学説は五運六気を用いて十干と十二支を組み合わし、気候の変化が自然界と人体に与える影響を説明したものですが、あまり偏ると医療よりも占いの性格が強くなります。とはいえ、『至真要大論篇』に書かれている病機十九条は重要だと思います。今回蕁麻疹の症例を病理考察するにあたり、とても参考になりました。原文を載せておきます。

 

帝曰.願聞病機何如.

岐伯曰.諸風掉眩.皆屬於肝.諸寒收引.皆屬於腎.諸氣膹鬱.皆屬於肺.諸濕腫滿.皆屬於脾.諸熱瞀瘛.皆屬於火.諸痛痒瘡.皆屬於心.諸厥固泄.皆屬於下.諸痿喘嘔.皆屬於上.諸禁鼓慄.如喪神守.皆屬於火.諸痙項強.皆屬於濕.諸逆衝上.皆屬於火.諸脹腹大.皆屬於熱.諸躁狂越.皆屬於火.諸暴強直.皆屬於風.諸病有聲.鼓之如鼓.皆屬於熱.諸病胕腫.疼酸驚駭.皆屬於火.諸轉反戻.水液渾濁.皆屬於熱.諸病水液.澄澈清冷.皆屬於寒.諸嘔吐酸.暴注下迫.皆屬於熱.

 

続く⑫『鍼灸重宝記』で本郷正豊は、「経に曰く、諸痛、痒、瘡瘍は皆心に属す、蓋し心は血を主て、気を行らす、若し、気血凝り滞り、心火の熱を挟んで、癰疽のたぐひを生ず」と言っていますが、この経に曰くとは、正に病機十九条の条文のことを指しています。解説で小野文恵先生は、「心は血を主り血を行らすのであるが、気血の凝滞によって心火の熱を生じてくると癰疽の類を生じる」と述べています。また、「癰、疽、癤、瘡の生ずるのは魚肉や美食をするもの、体が楽すぎて運動不足なもの、色慾を過度して水虚火動等によりて熱毒を生じ、その熱毒が内に攻めて気血を煎りこがして生ずる」と、飲食労倦や房事過多によって腫れ物ができることを言っており、脾虚や腎虚などの陰虚から心の熱になることを説明しています。

 

 以下、レジュメの⑬『経絡治療講話』、⑭『鍼灸臨床弁証論治』、⑮『日本鍼灸医学 臨床篇』における蕁麻疹についての補足は省略しますが、⑬で本間祥白先生は、皮膚は肺が主り、腠理開閉の調節如何によって外邪が侵入することや、痒みは虚で痛みは実であること、血虚によって皮膚を栄しないときに痒みが出ることをのべています。また⑭李世珍先生は蕁麻疹を病理によって6種類の型にわけており、脈状や舌、治療穴を記載しています。風寒による蕁麻疹では脈が沈まずに浮くことが参考になりました。⑮では蕁麻疹を脾虚熱証と脾虚肝実証とし、主に食べものによるものと原因不明によるものとして説明しています。

 

以上でリレー講義の補足を終わります。

 

私見:火熱の原因は食にあり?

腹を冷ます中国人
腹を冷ます中国人

中国では腹を出している人を多く見かけます。それは単に天気が暑いからという理由だけでなく、腹が熱いから冷ましているのだと思います。原因は食生活にありそうです。中国人(漢族)の油の摂取量は日本人より格段に多く、味付けも濃厚です。もちろん地域によって差はあります。福建や広東地方は割りと淡白ですが、和食ほどあっさりはしていません。中国では基本的に火を通したものしか食べないし、炒め物にラードを使います。また食事時に飲む白酒は度数が50度以上もあるので、胃腸には相当に熱が発生するはずです。ましてや、じゃんけんが始まれば一瓶空けてしまう勢いですので、彼らは相当に脾胃が強い民族であることがわかります。だから腹を出して冷ます必要があるのでしょう。

 

一方で、日本人は腹を冷やさないようにと気を使います。腹巻は日本人の胃腸の弱さを象徴する文化と言えるかもしれません。貝原益軒は『養生訓』で、「諸獣の肉は、日本の人、腸胃薄弱なる故に宜しからず、多く食ふべからず」、「肉も菜も大いに切たる物、又、丸ながら煮たるは皆気をふさぎてつかへやすし」と戒めています。また、「中華、朝鮮の人は、脾胃強し。飯多く食し、六畜の肉を多く食つても害なし。日本人は是にことなり、多く穀肉を食すれば、やぶられやすし。是日本人の異国の人より体気よはき故也」と言っていますので、昔から食の習慣によって中国、朝鮮半島の人は熱を持ちやすい傾向にあり、日本人は冷えやすい傾向にあるのだと思います。フーテンの寅さんも、丹下段平も、バカボンのパパも脾胃をしっかりと守っていたわけです。

 

中国では肉の脂身の部分が好まれます。たいてい駅前の食堂に行くと蒸し器から湯気が上がっていて、扣肉(豚の脂身と菜っ葉)が食べられます。とても美味しいのですが、途中からくどくなります。でも周りの中国人はどんぶり飯で平らげてしまうのです。ふと思いついたのですが、日本でも有名な坡肉は11世紀に蘇軾(蘇東)が考案したとされ、中国には蒸留技術も9世紀頃にはあったそうです。火熱論を提唱した劉完素は12世紀の人ですから、その頃には白酒を飲みながら坡肉などを食べて胃腸に熱を持った人が多かった可能性があります。ひょっとしたら当時の中国人も腹を出していたかもしれません。ちなみに蘇軾の故郷、四川省眉山で食べた東坡肘子は忘れられないほど美味しかったです。25年近く経ったけど、また食べに行きたいなと思うほどです。

 

辛い味付けを好む地域(四川・湖南・雲南・貴州等)なら、なおさら体内の熱が旺盛になります。人の声が大きいのも、街中で喧嘩が多いのも納得できます。私は昆明で生活したことがありますが、初めは激辛の米線を食べる人が信じられませんでした。が、だんだんと舌が慣れてしまい、辛くないと物足りなく感じるようになるのです。かといって脾胃は強くないから下痢をする。そういう生活を続けていたら、2年後に痔瘻になってしまいました。東京の病院で手術をしたのですが、そこに偶然にも、私と同じ昆明の学校に1年違いで留学していた人が入院していたのです。彼もまた痔瘻でした。話を聞くと、私と同じように辛さと油っこさのために下痢を繰り返していたそうです。中国の学食では、ホーローのどんぶりにぶっかけ飯(おかず2~3種)でしたが、生徒は歩きながら食べ始めて、自室に戻る頃には半分以上食べ終わっています。その理由は調理にラードを使うので、冷めると油が固まって不味くなるからでした。当然、油の摂取量が多く、脾胃の弱い日本人には向いていませんでした。

 

そう考えると、日本人と中国人では病気の傾向も違うだろうし、鍼の刺激量や薬量も異なって当然です。私たちはその違いを踏まえて中国の書物を読む必要があると思います。

6 コメント

2014年

10月

02日

リレー講義「蕁麻疹の鍼灸治療」の補足1

先日の弦躋塾セミナーで私が行なったリレー講義から、2)の「蕁麻疹と痒みに関する東洋医学の文献」について補足します。この項では、昔から現代に至るまで蕁麻疹や痒みがどのように考えられてきたかということを紹介し、素問の条文から病理考察をして、痒みがなぜ起きるのか、また経絡治療的にはどのような証が立つか考えてみるのが目標でした。レジュメには、①『馬王堆帛書 五十二病方』から⑮『日本鍼灸医学臨床篇 蕁麻疹』まで時系列に原文を載せてあります。ここでは解説と意訳をしますので、原文と照らし合わせて読んで下さい。

リレー講義「蕁麻疹の鍼灸治療」
リレー講義「蕁麻疹の鍼灸治療」

①は『馬王堆医書 五十二病方』から「身疕」について抜粋したものです。15項あるうちの4つの条文を抜き出しました。疕は潰瘍とか乾癬の類とされているようですが、蕁麻疹のことを言っているのではないかという説も中国のサイトにあり、そのような読み方もできると思いました。治療法が原始的で、鍼灸師には大して重要な記述でもありませんが、おそらく前漢初期の長沙国ではこういう治療がされていたようです。石田秀実先生が言われるように、貴族のための家庭用医学書だったのかもしれません。医学竹簡が出てきた3号墓は長沙国の相で軑侯だった利蒼の息子ものとされ、埋葬年は前168年頃なので、五十二病方に書かれた記述はそれより古いことになります。


 疕母(毋)名而养(痒),用陵(菱)敊(枝) 熬,冶之,以犬胆和以傅之。傅之久者,辄停三日,三,疕已,尝试。令四一九。

身体に疕を患い、名無きにして痒きものは、ヒシの実を煮てすりつぶし、犬胆と調合して塗る。塗る時間が長すぎたら三日止める。3クールで治る。名無きにして痒いできものは、このように治療すればよい。419

ここでは蕁麻疹になって痒いときの治療法が書かれている、という読み方ができます。

条文の最後の数字は通し番号です。

 

久疕不已,乾夸(刳)灶,渍以傅之,已422。

長期に疕を患って治らない者は、煙突の中の灰をこそぎ、水を用いて調合し、患部に塗ればよい。422

これは慢性蕁麻疹の治療法と思われます。


行山中而疕出其身,如牛目是胃(谓)日□423。

山に行くと、突然に体が痒くなり、牛の目のように腫れるのは、日光が・・・。423

古代の人は太陽に原因があると考えたようですが、山に行ったのですから、実際はジンマのような、植物の毒による蕁麻疹ではないかと考えられます。


露疕,燔饭焦,冶,以久膏和傅424。 

肌を露出したところにできた疕は、鍋の焦げを砕いて炭とし、長年保管した豚のあぶらと調合し、患部に塗るとよい。424

これは日光性蕁麻疹の治療法と思われます。

② は『素問・四時刺逆從論篇 第六十四』からの抜粋で、蕁麻疹について書かれた条文です。ここから蕁麻疹が出る理由を考えてみます。


少陰有餘病皮痺隱軫。不足病肺痺。

少陰有餘なるときは皮痺を病み隱軫す。不足なるときは肺痺を病む。

癮疹は蕁麻疹のことです。少陰が有餘すると皮痺を病んで蕁麻疹になり、不足すると肺痺を病むと言ってます。では「少陰」とは何のことでしょうか。また皮痺、肺痺とはどんな状態でしょうか。『素問訳注』の説明では、皮痺は「アレルギー性の疾患群」とし、肺痺は「皮痹が治癒せず、さらに風寒湿の邪気が奥に進んで肺を犯した状態、慢性の肺疾患」とあります。そうすると、少陰有餘の状態がさらに亢進して肺痺になるということであり、「不足なるときは肺痺を病む」という条文と矛盾するのではないかと思いました。『素問・痺論篇』によると、痺とは「風寒湿の邪が混合して身体に侵入し、気血の運行が閉塞しておきる病」とあります。とすると、少陰有餘とは風寒湿の邪気が少陰腎経に有餘したために、皮膚において気血の運行が閉塞したということなのかもしれません。これを『素問訳注』では、「少陰腎経は肺の中を通って咽喉に至るので、その障害時には肺の症状が出る」と説明しています。つまり少陰腎経に邪気が盛んで肺が弱った結果、皮痺を病んで蕁麻疹が出るということです。ふつう外邪は体表から中へと侵入するのですが、ここでは寒邪が直中して、すでに少陰病になってしまった状態を言っているのかもしれません。しかし、そうすると蕁麻疹よりも腹痛とか泄瀉といった症状が出るはずです。

 

また不足については、「精気が不足して虚したときは肺痺となる」と書いてあります。先ほどの肺痺の説明では、皮痺が治らず、さらに風寒湿の邪が奥に進んで肺痺になるとありました。少陰病からさらに陽虚が進んで肺が冷えてしまうというケースもあるので、ここでは腎の精気が虚して寒症状となり、肺痺をおこしたケースが考えられます。つまり、少陰有余と不足では少陰の意味が違っているわけです。『素問訳注』では、少陰有餘とは腎経に邪気が盛んな状態で、不足とは腎精が虚してさらに邪気の勢いが強まった状態を表わしているといえます。

 

そこで今度は『素問校釈』(人民衛生出版社)を見てみますと、少陰有餘病皮痺隱軫について、「少陰君火の気が有余して上り、肺を犯し、肺の合である皮が痺となり蕁麻疹がでる」とありました。この説明は張景岳の『類経』の解釈が元ネタになっていて、「少陰者君火之気也、火盛則克金、皮者肺之合、故為皮痺」というのがそれです。ここでの少陰とは腎の陽気を指しているようです。これを病理的に解釈すると、腎の陰虚で虚熱が上がって心熱が亢進し、さらに上にある肺が熱せられた結果、肺の合である皮が痺となり蕁麻疹が出ると考えられます。そうすると、これは風寒湿の外邪の侵入ではなく、内熱によって皮痺が生じたケースを述べているのだという解釈もできます。不足病肺痺については、「君火の熱が不足すると肺金が畏れなくなり、燥邪が独り盛んとなって肺痺になる」とありました。この解釈も『類経』の「火不足則金无所畏、燥邪独勝、故病為肺痺」の注釈と同じです。これを、腎の陽気が足りず、肺の陽気も虚したところに、風寒の邪に犯されて呼吸器疾患と冷えの症状を現した状態と考えると、『素問訳注』の解釈と同じ病理になります。張景岳は燥邪と言ってますが、素問の条文に燥は出てこないですし、風も乾燥させる性質をもっているので、風寒により、冷えて乾燥した状態のことを指していると思われます。

 

余談ですが、秋から冬の北京は冷えと乾燥が厳しく、湿潤な気候に慣れた日本人が行くと、唇はひび割れてガサガサになり、鼻の粘膜も乾ききって鼻血が出ます。きっと紹興で育った張景岳も、冬の北京の冷えと乾燥に苦しめられたのではないでしょうか。そう考えると、カロリー高めで油っこい北京料理が地元の人々に好まれる理由もわかります。寒さと乾燥に耐えるために自然とああいう食生活になったのでしょう。でも、茶漬けと梅干を食べている日本人にはしつこいです。烤鴨や涮羊肉は確かに美味しいけど、一回食べると「もう当分いいや」という気分になりますから。

 

以上、この条文から自分なりに蕁麻疹が出る理由と証について考えてみますと、「少陰有餘なるときは皮痺をやみ隱軫す」とは、腎の津液が虚して虚熱が胸に上がって心熱が亢進し、さらに上にある肺に影響が及んだ結果、肺の合である皮が痺となり蕁麻疹が出るというケースを述べているのだと思います。経絡治療の証でいえば腎虚心熱証になります。この場合、尺中の脈はしまりが無くなって浮いてくるだろうし、左寸口は実で強く打つことが予想できます。単に腎虚証と捉えてもいいのですが、陰虚(腎虚熱証)ですから、治療は水を補ってから熱の及んだ経を寫すことになります。レジュメの3)蕁麻疹の症例で発表した患者さんがこのタイプでした。また、「不足なるときは肺痺を病む」とは、腎陽が不足したために肺の陽気も虚し、風寒(燥)の邪に犯されて肺痺となった状態を言っているのだと思います。病症は肺が乾燥しても、肝虚肺燥証のように陰虚ではないので、肺虚寒証や腎虚寒証が当てはまるのではないでしょうか。

 

『素問・痺論篇』には、「風が強いと行痺、寒が強いと痛痺、湿が強いと著痺になる」とあります。蕁麻疹は遊走性が高いので風邪の影響が強く、寒の影響が著しい場合は筋骨を冷やして血行障害による激しい痛みがあらわれ、リウマチ性関節炎などの固定痛は湿との関係が強いと考えられます。同じく、「秋に風寒湿に遇う者は皮痺となり、肺痺の者は、煩満し喘して嘔す」とあるので、冷えによって蕁麻疹が出るケースも考えられます。『素問・五蔵生成篇』には、酒に酔ってセックスをすると肺痺になって寒熱するという記述もあります。酒の力で陽気を発散しながら房事をし過ぎたために、陽気を消耗して冷えた(風寒湿が侵入して悪寒発熱した)と考えられます。『素問・厥論篇』にも、秋冬に房事をすると陽気を消耗するとあるので、やはり肺痺は腎の精気が虚しておきた寒症状から発症するようです。一方で『素問・腹中論篇』では、酔って房中に入ると気竭き肝を傷るとあり、冷えのことは言っていません。精を消耗して腎虚になるわけですが、おそらくアルコール量が過ぎたために、先に子である肝を悪くする人が多かったのかもしれません。

③は『金匱要略・中風歴節病脉證并治 第五』から蕁麻疹の記述です。

 

寸口脉遲而緩。遲則爲寒。緩則爲虚。榮緩則爲亡血。衞緩則爲中風。邪氣中經。則身痒而癮疹。心氣不足。邪氣入中。則胸滿而短氣。

寸口の脈が遅緩の場合、遅脈は寒証、緩脈は虚証を表わす。栄を診るには重按して緩脈なら亡血、衛は軽按して診て緩脈ならば中風を表わす。邪気が経絡に入ると、身体が痒くなり蕁麻疹がおきる。心気が不足し、邪気が中に入ると、胸満して短気する。

心気が不足して胸満や息切れなど肺の症状をあらわすということは、腎の陽気不足によって心の働きが悪くなり、肺が冷えた結果、発症したと考えられます。蕁麻疹や痒みがでる理由は風が経に中ったためとありますが、これは腎陽が有餘して経に熱が停滞したためにおこるとも考えられます。金匱要略ハンドブックによると、「これは衛気が虚して陽気が発散できない程度を述べていて、陽気が発散できない原因を見つけて適薬を選ぶ」とあります。衛気だけ虚して陽気が発散できない状態(裏和表病)は、桂麻各半湯を用いて発汗させたり、津液が虚して虚熱になった状態は、黄連阿膠湯で津液を増やして、熱を取る。黄連(キンポウゲ科の根)は寒苦の作用、阿膠(ロバの皮を煮詰めて抽出した膠)は補陰の作用があるそうです。また瘀血だったら桂枝茯苓丸、水滞なら麻杏薏甘湯が使われるそうです。

 

『金匱要略』が世に出たのは北宋の時代ですが、その元は後漢末期に張仲景が書いた『傷寒雑病論』ですので、ここでは③として配置しました。ここの条文は、②の『素問』の条文に対する張仲景の解釈といえそうです。

 

またも余談ですが、張仲景は三国志の時代を生きた人で、彼の死後に散逸した書を収集した王叔和は曹操率いる魏の大医令ですし、『鍼灸甲乙経』の序文には張仲景が王粲(王叔和と同じく208年に曹操に随い、侍中となった人物)を望診して病気を予見したエピソードが書かれています。張仲景は二十歳そこそこの若者で、侍中の王粲に対して「あなたは病気で、40歳で眉が落ちて半年で死にます。五石湯を飲めば助かります」と言ったけど、それを嫌った王粲は飲まなかった。3日後に、「まだ飲んでないのですね?」と張仲景が問うので、王粲は「飲んだよ」と嘘をついたが、「薬を飲んだ顔色じゃない、どうして命を軽んじるのですか!」と張仲景は王粲の嘘を見抜いた。結局、王粲は薬を飲まず、20年後に眉が落ち、187日後に死んだという話です。皇甫謐は絶賛していますが、時代背景がちょっと合わないです。王粲は217年(建安二十二年正月二十四日)に、呉の討伐を終えて鄴城に戻る途中に41歳で病死したので、張仲景と会った20年半前は196年の6月頃になり、20歳か21歳です。当然、王粲は魏の侍中であるはずがなく、後のボスの曹操だって鎮東将軍になったばかりの頃です。つまり張仲景も王粲も20歳位の若者同士だったということになり、張仲景が建安年間の初期に長沙の太守だったという説とも時代が合わないです。おそらく張仲景が優れた医者であったということを伝えたいがために、誰かが後で付け加えた文なのでしょう。


④は『諸病源候論』から蕁麻疹に関する記述を3つ載せました。aは『巻二・風病諸侯下 五十一 風瘙隱軫生瘡候』、bは『五十二 風瘙身體隱軫候』、cは『五十三 風瘙癢候』です。

 

a.人皮膚虛,為風邪所折,則起隱軫。寒多則色赤,風多則色白,甚者癢痛,搔之則成瘡。

a.人の皮膚が虚して風邪に侵されると蕁麻疹が発生する。風邪が寒(熱)を伴い、熱が多ければ色は赤く、風が多ければ色が白くなる。甚だしきは痒み痛み、これを掻けば瘡となる。

これは風熱による蕁麻疹です。色の違いによって風と熱の度合いを説明しています。

『太平聖恵方』(992年)による校勘では、寒を熱としました。

 

 b.邪氣客於皮膚,複逢風寒相折,則起風瘙隱軫。若赤軫者,由涼濕折受於肌中之熱,熱結成赤軫也。得天熱則劇,取冷則滅也。白軫者,由風氣折受於肌中熱,熱與風相搏所為。白軫得天陰雨冷則劇,出風中亦劇,得晴暖則滅,著(厚)衣身暖亦瘥也。脈浮而洪,浮即為風,洪則為氣強。風氣相搏,(即為)隱軫,身體為癢。

b.邪気が皮膚に客して留まり、また風寒の邪に逢って侵されると、蕁麻疹が発生して皮膚が痒くなる。膨疹の赤いのは、涼湿の邪が肌中の熱を抑えつけ、熱が結して赤くなったものである。天気が暑いと悪化し、冷えれば自ら消失する。白疹は風気が肌中の熱を抑えつけ、熱と風邪が相争うためにおこる。曇りや雨、気候が寒くなると悪化し、外でカゼにあたっても悪化する。天気が晴れて温暖な気候だと、自ずと消失する。厚着をして体を温めても病は癒える。脈診をして浮洪ならば、浮は風邪であり、洪はすなわち気盛んとなす。風と気が相争うために蕁麻疹になり、体が痒くなる。

邪気によって衛気が虚したところに、さらに風寒の邪を受けて蕁麻疹と痒みがおきることを述べています。膨疹の色が赤い理由を、陰性の邪気が体内の熱を押さえて停滞させているからだと解釈し、冷やせば治ることを説明しています。また膨疹の色が白い理由を、風邪と体内の熱が争うためと述べ、身体を冷やしたりカゼに当たると悪化することや、天気が晴れたり、身体を温めたりすれば治ると説明しています。浮脈は風で洪脈は気盛んとは、風邪と正気が邪正闘争をすることで蕁麻疹とかゆみが出ることを述べています。

また、『外台秘要』(752年)で王燾(おうとう)は、「脈診をして浮大ならば、浮は風虚であり、大はすなわち氣強いとなす」と読みかえています。

 

c.此由游風在於皮膚,逢寒則身體疼痛,遇熱則瘙癢。

c.遊走する風邪が皮膚に在るとき、寒さに逢えば身体が疼痛し、熱さに遇えば掻痒する。

風と寒によって疼痛が発生し、風と熱によって痒みが出るということを述べています。

また、リレー講義では省略しましたが、『巻三十七 婦人雑病諸侯十一 風瘙癢候』にも蕁麻疹の記載があったので紹介します。

 

風瘙痒者,是體虛受風,風入腠理,與血氣相搏,而俱往來,在於皮膚之間。邪氣微,不能衝擊為痛,故但瘙痒也。

風瘙痒とは、体質が虚弱で風邪を受け、風が腠理に入り、血気相搏ち、皮膚の間を往来する。邪気が軽微なら血気を衝撃して痛みとすることができず、故にただ掻痒する。

ここでは風邪が腠理に侵入して邪正闘争がされていることや、邪気の強さの程度によって痒みと痛みとに分けられることを述べています。

 

またまた余談ですが、『諸病源候論』は隋の二代皇帝である煬帝の勅命により国家政策として書かれた医学書で、膨大な内容です。著者(あるいは編者)の巣元方は50巻を著すのに5年かかったと言われています。煬帝は暴君として有名で、残酷な処刑を復活させたり、あちこちの国に貢物をしろと迫って戦争ばかりしたり、無茶な土木工事を行なって人心を失ったことで知られていますが、そんな妥協知らずの人だからこそ完成した書なのだと思います。『諸病源候論』ができた610年は、北京(天津)から杭州までの大運河(全長2500km!)が完成した年でもあります。女性にも容赦なく重労働をさせ、戦ばかりして国が傾くと自分は江南に逃れて酒色にふけり、上奏したものは死刑だ!と命令を出すような鬼畜っぷりですが、一方で優れた詩人として評価が高く、静かな村の風景や、長江の夕暮れといった抒情詩を得意としたというのですから、よくわかりません。また、607年の第2次遣隋使の際、聖徳太子が書いた国書(日出る処の天子、書を日没する処の天子に致す、恙無きや)を読んで煬帝が激怒したという話も有名です。遣隋使は610年、614年にも行っているので、もし聖徳太子が煬帝を怒らせなかったら、当時最先端の医学書だった『諸病源候論』が日本に渡って医学が飛躍的に進んでいたのではないかと勝手に妄想したくなります。結局、隋はすぐに滅んでしまいましたし、中国の医書を土台にした日本最古の医書である『医心方』が書かれたのが984年ですから、『諸病源候論』が書かれてから400年近くが経っていることになります。ちょっと惜しい話です。

長くなってしまったので、続きは次回に書きます。


4 コメント

2014年

9月

28日

第29回弦躋塾セミナー

2014年9月14~15日の2日間、別府亀の井ホテルにて、第29回弦躋塾セミナーが開催されました。今年の特別講師は東京・越前堀鍼灸院院長の犬伏貞夫先生。東京都鍼灸師会常任理事や日本鍼灸師会理事、全日本鍼灸学会常務理事などを歴任されてきた先生です。今回は犬伏先生の45年にわたる鍼灸人生で培われた治療哲学や、鍉鍼による実技をたっぷりと指導していただきました。

安倍先生による開会の言葉
安倍先生による開会の言葉
会場の様子
会場の様子

犬伏貞夫先生
犬伏貞夫先生

治療の目標 

犬伏先生は、「人の仕組みを信頼して治療する。人の仕組みが出てくれば、人は勝手に健康になっていく」と言われた。つまり、人間に本来備わっている自然治癒力が働くようになるまで持っていくのが鍼灸師の目標であり、「人を自然の中の創造物として考えた場合、人の力の及ばぬ自然の力をどう活かして、人を生かすことができるか」というのがテーマであるという。犬伏先生は『素問・上古天真論篇』を例にあげ、生活の仕方によっては両親からもらった精を消耗して早死にしてしまうことや、人の一生を線グラフとして例え、左上(出生)から右下(死)に至るまでの斜め直線(坂道)をどれだけ緩やかに保てるかによって、100歳の寿命を全うできるかという話をされた。具体的にいえば、人は1秒ずつ老化していくが、事故や病気によってダメージを負った時点で、斜め直線がドンッ!と一気に下降(精が消耗)してしまい、坂道を転げ落ちて寿命が縮まるのである。それを鍼や灸、漢方薬を使って、できるだけ事故前、病気前の状態まで近づけるのが犬伏先生の治療目標であるそうだ。時系列で考えると、治療をしても絶対にダメージを受ける前には戻せないが、どうやって緩やかな坂にしようかということはできる。それが養生である。ある一定の幅で落ちたり上がったりしているのが日常で、その幅から落ちたのを戻してやるのが治療である。

自然に合わせて生きる

だからこそ、宇宙の仕組みに従って生きることが大切となる。自分だけで生きていると思うから病気になるのであり、自然界を無視した生き方をしてはならない。ところが東京は24時間型の生活になってしまった。セブンイレブンも24時間営業になり、地下鉄も24時間営業にしようという話が出ているが、これらは自然界のサイクルを無視した行為である。一日にはリズム(陰陽)があり、体のリズムがそれに合致していないと病気になる。薬でも使う時間によって効き目が変わる。肝臓癌の場合、正常な肝細胞は抗がん剤を分解する力は夜に高まることが知られている。夜は陰気を充実させ、昼間に陽気を発動させる元になるのが睡眠である。人は寝ることで体のシステムがリセットされ、元気で一日働けるようになるが、それが上手く行かなくなると気を病む。夜なべが続く環境が日常化したり、仕事の効率を上げるためのスピード化による緊張によって病気になるのである。同じく、夕食は夕方に食べるものであり、翌朝まで12時間程度空腹にさせるからこそ朝食の価値が出る。人間の都合によって生き方を変えてしまえば、長生きは到底望めない。

 

また人間の都合として、犬伏先生は日本が不妊治療大国になっていることについても述べられ、「一億の精子の中で一番元気なものが卵子と受精できる仕組みになっているのに、人間の都合でそれを無視している。命の誕生は父と母のパッションであり、試験管ではない。だからこそ消耗する先天の元気をどう養っていくかは我々の務めである」と強調された。生まれて最初の栄養は母乳、長じては飲食による摂取、取り出された栄養は精気である。生まれながらの真気と胃気と精気の3つによって生かされているのだから、食事のときに手を合わせるのである。我々は生き物の精気をもらって生きており、そこに感謝の気持ちがあってこそ、「いただきます」の言葉が生きてくるのである。同様に、祭りで担ぐ神輿はイベントではなく、神様を乗せて街を練り歩き、どうか私達の暮らす街を見守ってくださいという願いをこめて、皆で心を合わせて「ワッショイ」と掛け声をかけるのである。

 

人は自然の一部

労働の積み重ねやアンバランスの固定化で、気の滞りが血の滞りになってしまう。血の滞りになると西洋医学でもわかるようになるから病名がつく。つまり病気という形になる。形になる前にサインを見つけて対応できるようにするのが我々の仕事である。「この病気はこういう状況だから、このようにやっていったらいいと思う。ですからあなたもこうして欲しい。一緒にコラボしてやりましょう」という話し方をする。こうすれば先が見えるということを伝えれば患者は納得する。ホッとさせることが重要である。任せておけとは言わない。鍼灸師になって10年ぐらい経った人は「任せろ」と言いたくなるので要注意である。

 

初診の患者は不安を抱えながら、思い切って電話してくる。自然の一部として人間を考え、その中で患者に対して手助けできることはどういうことかを常に考えている。そして、その道具として鍉鍼を使っていると犬伏先生は語られた。

 

鍉鍼と知熱灸の適応

『霊枢』九鍼十二原、官鍼、九鍼論における鍉鍼の記載(「主按脈勿陥、以致其氣」、「病在脈、氣少当補之者、取之鍉鍼于井榮分輸」、「主按脈取氣、令邪出」など)や、間中先生による解釈を紹介し、鍉鍼は血虚、気虚ともに有効であることや、補法だけでなく直接的に瀉法にも使えることを説明された。また知熱灸は「施灸後に汗をかくとよく効く。その意味では瀉法である」(井上恵理)の説とともに実痛に効くことや、隔物灸として考えた場合には補法になることと、その場合は腰などにかいていた汗がスーッとひいて肌がサラサラになることを話された。

 

脈はふわっと当てて診る
脈はふわっと当てて診る
腹部の鍼
腹部の鍼
極めて軽微な手技
極めて軽微な手技

実技

犬伏先生はまず患者の足から触れる。脈も静かにそっと当てる。そのどちらも「ご挨拶」だと言われた。足から触り、だんだんと中心部に行って腹を触るのは、緊張させずに体の状態を診るためである。肺経は気の経であり、寸口の部分は気が浅い。触れるということで脈は変化する。一瞬たりとも同じ状態はありえず、常に変化している。触ると変化するのだから、それは良いことであり、だから治せるのだということである。そのために治療前と治療後には必ず脈を診る。また肌に触れる際にも、体表から5センチ位離れた場所で衛気を感じ取ってから、肌を触っているように見えた。後で犬伏先生にそのことをお聞きすると、「そういうことです」という返答があった。診断というのは見えないものを見ようとすることであり、病症病位を判断することである。鍼灸の場合は診断=治療となる。患者に対し、自分の持つ技術のどれが有効であるか判断することが大切となる。治療は痛くなく、最小の刺激で最大の効果をあげることを目標とするのが犬伏先生の治療スタイルである。

 

1.腰痛の女性モデル、靴下を履こうとしたら痛くなったという。腹診をすると上が虚で下が実している。これがゆるまないと腰痛は取れない。腰を治すには腹の治療が大切であるという。犬伏先生は鍉鍼を手で温めてから、関元に鍼を当てた。押手は肌に触れるのみで圧迫せず、刺手も鍉鍼を支えるのみ。少しずつ緩んできたのを確認し、天枢、期門あたりに鍼をしてから、曲泉、復溜に本治法を行なった。伏臥位になり、右志室の硬さを把握し、虚している左志室に鍼をする。ツボは点ではなく、面として捉えて緩める。内委陽にむくみがあるのは、緊張して勉強をしているからと説明して鍼をした。緊張の残った脾兪、三焦兪、志室のあたりに知熱灸を行なう。大きさは母指大よりやや小さめで、軽めに形を整え、6分から7分ぐらい燃えたところでピンセットを使って取り除いていた。これは「もぐさを置いた隔物灸」として行なっているとのことである。ヨモギは水でつけ、アルコールは駄目。より深いところを温めたい場合は、もぐさをピンセットでつかみ、体表から3~4センチほど離して熱を加える。これは灸頭鍼と同様に輻射熱の効果を狙ったやり方であり、遠赤外線の効果で深部まで熱が届くという。見ていて、灸が落ちないかと少し心配になったが、「もぐさの塊をとって掴めば、決して落ちることはない」そうだ。右肩井、天宗が張っているため、押手を少し強めにして鍉鍼を当て、知熱灸をする。右の力心点(腸骨点にあたる部分・硬いところ)も同様に治療する。犬伏先生曰く、これは以前にやったギックリ腰の後始末ができていないために、靴下を履こうとして発症したとのこと。知熱灸をしても血鬱が残った場所にはパイオネクスを貼った。痛みが取れても、血鬱を治さないとならない。10年でも20年でも後を引くので、しっかり治すことを患者に説明することが大切である。ムチウチも事故を起して10日経ってから始まる。小野文恵先生流に言えば、「血に入った」というそうだ。

背部の知熱灸
背部の知熱灸
遠赤効果を狙った知熱灸
遠赤効果を狙った知熱灸

2.右の頚が3週前より痛む男性モデル、胃腸の調子も悪いという。犬伏先生は膝に触れ、「膝の皿が動かないのは緊張が強い」と言われた。冷えが強く入って脈が遅く、陰気が上に上がらない。まず水を解決するために関元、水分に鍼をする。上逆のために右陰谷、これは右の頚を狙っての鍼である。血鬱の色が出ている腰の下のほうを中心に鍼をし、触って緊張のあるところを緩めていく。足を緩めると背中も緩まってくる。左右の三焦兪、腎兪のあたりに知熱灸をすると、血鬱の黒い色が茶色くなってきた。これは3週間前に冷えを受けて、昔の傷が出てきたものだと犬伏先生。モデルは以前にキックボクシングをしていたそうで、頚を診ると頚椎7番が硬い。おそらく頚椎5番あたりが古傷で、それが冷えて出てきたものという。天宗に鍼をし、頚をタオルやスカーフで巻いて寝ることや、窓からの冷気を防ぐためにカーテンを床まで覆うようにすること等のアドバイスをされた。


3.咳と肩こりの女性モデル、脈がやっと触れるぐらい沈んでいる。繊維筋膜症の既往がある。舌を診て、関元に鍼をし、「冷えを疑う」と犬伏先生は言った。冷えの原因は水の代謝が悪いからで、意識して水を取り過ぎないようにしなくてはならない。経渠、復溜に鍼を当てる。腎虚証で、臍の上の水分に虚がある。これを取らないといけない。舌のむくみはそれほどでもない。咳が出るのは尺沢、復溜で治療する場合もあるが、上逆を下げる目的で尺沢にパイオネクスを貼ると咳が止まりやすい。経渠は金穴だから取りやすいが、今回は水毒を考えているので腎虚証とする。肺虚証の場合は商丘を取ると咳が止まりやすい。臍の上に知熱灸をピンセットでかざす。伏臥位になり、犬伏先生は腰部の色の悪さを指摘した。腹の手術をすると腰の色が悪くなるという。志室も硬く、これは水と血の両方に問題があり、慢性化しやすいので毎日のように治療したほうがよいと指導された。血は動きが悪いので、治療を繰り返すことが大切である。産毛の色が見えなくなるまで治療を続けること。また、水分や野菜、果物の摂取を控えめにするようにとのことだった。

 

4.3年前から爪の色が白くなった男性モデル、朝晩だけ鼻水、痰、鼻づまりがあるという。「爪の形状は悪くないので、おそらく皮膚病の類だろう」と犬伏先生。脈は肺虚証で、汗がジトッと出ている。肺虚証の場合はさらに浅い治療でよい。関元、顖会、百会、角孫の付近に鍉鍼を当てていく。モデルは10年以上介護職をしており、気の使い過ぎによって肺虚証になったものと思われるが、体質的に肺虚証でもある。気分転換をすることが大切で、自分でも治療をするとよいと言われ、太淵、太白に鍼をしたのち、臍の上に知熱灸をかざした。伏臥位になり、背中の大椎~身柱の上焦の部分に熱を感じるが、これは尺沢で取れるとのこと。脾と腎の部位(背部を上中下の三部に分けた場合の中、下)に知熱灸を4ヶ所行なう。灸は3つまでで、大体2つで変化が出るという。座位になり、肩井、肩外兪、尺沢に鍼を当て、天宗と尺沢にパイオネクスを貼って治療を終了した。

 

犬伏先生は塾生1人ずつにも鍉鍼の当て方を指導し、鍼を当てるだけで変化が起きることを体験させた。そして最後に大塚敬節先生の「散木になるな」、枝葉にならずに幹になれという言葉を紹介し、「今日の体験をどこかで生かして欲しい。鍼灸ほど素晴らしい仕事はない。毎回治療をして、脈の変化がおきて、やったという自覚が得られる。その積み重ねによって間違いなく患者さんが良くなる。一生の仕事にしていただきたい」と述べて2日間の講演を終えられた。

塾生に鍉鍼を体感させる
塾生に鍉鍼を体感させる
首藤先生、安倍先生と犬伏先生
首藤先生、安倍先生と犬伏先生

感想

「鍼灸は自然体の医学であり、それを実践するためには鍼灸師が自然体の構えを心身ともに作り上げなくてはならない」という犬伏先生の言葉と、移精変気(シャーマニズム)に対して、「現代でも通用する大事な手法」と評価されていたことが印象に残りました。その根拠として天人合一の思想が土台にあることや、自然界の法則に畏敬の念をもって生きる大切さというものが講義の中から感じ取れました。鍼灸師自身が自然の仕組みを尊重し、同化して生きることで、まずは己の健康を獲得し、より感覚も研ぎ澄まされ、患者の虚実寒熱も見えてくる。そういうことを教わった思いがします。

 

シャーマニズムを肯定するということは、「信巫不信医」(『史記扁鵲伝』の六不治)や、鬼神を否定した素霊医学の考え方に反するわけですが、その一方で『素問・移精變氣論篇』では「八風六合という自然現象と位置関係には変わらぬ法則があるように、人の色脈の変化にも微妙な法則がある」ことや、顔色と脈状と自然の関係を知ることの大切さを説いています。また2千年も前の時代でも、「今の世は憂患が内に縁り、苦形その外を傷る」と、精神的ストレスや過度の肉体労働で体を痛めている状況が伺え、手遅れになってから微鍼をしたり湯液で処置することを批判し、人間が四時に本づいて生きていた上古や中古の時代を懐かしんでいるかのようです。ここからは人体生理の日周リズム、月周リズムがしっかりしている人ほど病気にならないことや、精神的ストレスや過労がある人ほど治らないことが見えてきます。そして「治療の要点は唯一、戸を閉じ、窓を塞いで、精神を病人に集中し、繰り返し正確な問診をして、病人の心の中まで把握すること」とあり、これは現代我々が行なっている鍼灸治療でも全く一緒です。

 

同じく『湯液醪醴論篇』に、「上古の聖人は薬を準備するだけで服用はしなかったが、中古の時代になって人々の行動規律が乱れたために邪気が侵入して薬を服用するようになったこと、さらに今世の人は体が疲弊して血も尽き、薬や鍼灸をしても必ずしも治らない」といったことが記されています。ここからも、人が自然の法則に合わせて無理せずに生きれば、病気になりにくいということがわかります。犬伏先生のレジュメタイトル、「寝りゃ治るよ」という言葉は、ここに繋がると思います。

 

鍉鍼で治療をするためには当然、気に敏感であり、鋭い感覚の持ち主でなくてはなりません。しかし能力には個人差がありますし、熟練度も大きく関わってきます。私達も毎日研鑽を続けて、いつか犬伏先生の境地に達するよう頑張りましょう。

懇親会にて、乾杯!
懇親会にて、乾杯!

常講

村田守弘先生のリレー講義では、ドイツセミナーの報告と実技がありました。ケルン市の景観や、ステファン・ブラウン氏と行なったセミナーの様子がスライドで紹介され、続いて村田先生の日常的な臨床と、基本証の立て方、標治法の取穴、刺鍼と施灸の選択をポイントに実技が行なわれました。塾長の首藤傳明先生は、初日に「臨床半世紀」を講義され、2日目には実技を行ない、超旋刺と鍉鍼による治療を披露されました。セミナー参加者も積極的に勉強されていたようで、とても充実した2日間だったと思います。

 

高嶋のリレー講義については、次回に掲載します。

村田守宏先生
村田守宏先生
首藤傳明先生
首藤傳明先生
首藤先生の実技
首藤先生の実技

6 コメント

2014年

7月

15日

第161回弦躋塾

臨床講義をする首藤塾長
臨床講義をする首藤塾長

2014年7月13日、大分ソレイユにて第161回弦躋塾が開催された。塾長の首藤傳明先生による臨床講義「五蔵と腹診」では寒冷蕁麻疹の症例を中心に、患者の右側から行なう腹診によって左側からでは気がつかないような変化を発見できることや、右上腹部と肝臓の関係性、とくにアレルギー性疾患(皮膚病、喘息、RA、花粉症など)においては腹部の変化に注目すべきであることを話された。

 

腹部の診どころについては募穴のほか、『脈経』『黄帝内経明堂』『難経』『夢分流』『経絡治療講話』『鍼灸医術の門』『経絡治療要綱』等の記述を挙げ、手描きの図も交えて、どのような穴が重要視されているかを比較検討した。また首藤先生の臨床では肝虚証なら右季肋部(不容)、脾虚証では左梁門、肺虚証では中府、腎虚証では石門、そして心の変動は巨闕に反応が現れるとし、むしろ膻中には胃や食道、自律神経の症状が反映されると述べられた。

 

首藤先生による腹部の診所
首藤先生による腹部の診所
リレー講義 三浦先生
リレー講義 三浦先生
リレー講義 関先生
リレー講義 関先生

塾生によるリレー講義は、三浦由夫先生と関功芳先生が担当した。三浦先生は「治療家はどの様に自分の体を護るのか?」というテーマで講義をされ、自分の体に鍼をすることで健康を保ち鍼灸の効果を確認することや、自分自身に効果があったことを確認してから患者に鍼をすることが大切であると述べられた。そして癌患者の症例と、激しい腰痛が痔によるものであった症例を報告された。鍉鍼による実技では金を補、銀を寫として用い、大胸筋や側腹部を緩めるために環跳(大転子の後方)、内転筋を緩めるために脾経のツボに鍼を当て、その場で可動域の増大や圧痛が取れることを確認した。

 

関先生は「双胎妊娠の逆子治療」と、「EBウイルス感染症(伝染性単核球症)罹患者への鍼治療」の症例報告をされた。前者では腎虚証で治療をし、三陰交と至陰に透熱灸(半米粒5壮)及び自宅施灸を行い、2回目の鍼灸治療後に、31週の検診で逆子だった第2児が頭位になっていることが確認された。その後も安産を目的に鍼灸治療を継続し、無事に姉妹を出産した。後者は高熱と吐気、黄疸の症状で入院中の患者に対して鍉鍼と井穴刺絡の治療(肺虚証)を2回行なった。EBウイルスによる伝染性単核症は、主に思春期や成人期での初感染が多くなっているとのことだった。症例の報告後、関先生も実技を行なった。

 

肩背部の治療
肩背部の治療
患者の右側から腹診
患者の右側から腹診

首藤先生の実技では、腹診による五蔵の反応点の探り方を披露された。まずは患者の右側に立って右不容、巨闕と反応を診る。右の季肋部は主に中指を用いて、やや深いところまで指を沈めて診察されているようだった。次に患者の左側から左梁門、石門、中府を診る。もちろん両側から診れば、なお正確を得やすいとのこと。これら腹部の反応点を脈証と合わせて診察することで証の決定がしやすくなるし、脈がよく分からないときの判断材料にもなる。

 

たとえ患者が内臓の病症を訴えなくても、腹部に反応があれば内蔵の働きが正常でないことが推定されるし、五精が乱れている(こころの病)場合もある。たとえば肝虚証であれば曲泉だけでなく、季肋部や不容の反応点、また反応がなくても1本の鍼で治未病ができるようになると首藤先生は話された。確かに気がつけば内蔵を病んでいたということも考えられる。内蔵の治療と予防に、明日から本治法と一緒に腹部反応点を活用してみたい。

 

4 コメント

2014年

6月

20日

『経絡治療・第197号』の感想文について訂正とお詫び


先日発行された『経絡治療・第197号』に私が書いた感想文、『第29回経絡治療学術大会「伝統を守る鍼灸治療」九州大会に参加して』に訂正箇所がありました。

 

場所は3ページ、黒岩弦矢先生の講演の部分です。12行目、細脈を大脈に。17行目の太くを細くに。18行目の浮を沈に。18と19行目の濡を軟に訂正してください。

 

訂正箇所
訂正箇所

せっかく素晴らしい講演だったのに、誤った情報を載せてしまい、申し訳ありません。原因は会場で私が聞き間違えたことと、そのメモを病理的に確認しないまま感想文を書いてしまったからです。次号の巻末に訂正が載るということですが、意味が正反対になっている所もあり、少しでも早く読者の混乱を解消できればと思い、ここでも訂正させていただきます。黒岩先生と読者の先生方にお詫びします。

 

0 コメント

2014年

6月

13日

第160回弦躋塾の続編

第160回弦躋塾、塾長の臨床講義は予定外だった腰痛と内臓疾患まで話が及んだので、要点をおさらいしてみる。

腰痛

 

問診の際に、いつから・どういう動作で・自発痛はあるか・耐えられるか・痛む場所はどこか・初めての経験か・病院には行ったか・スポーツはするか等を聞きだすことで鑑別がしやすくなる。望診では、疲れた様子はないか・顔貌や顔色はどうか・動きや姿勢、歩き方はどうか等を素早くチェックする。徒手検査では、母趾の背屈と底屈テスト・足背動脈と後脛骨動脈の拍動を確認し(全く触れない場合は血管外科へ)、SLR、PTR等を行なう。

 

慢性の場合は、朝のこわばり・歩行時に痛むか・中腰で痛むか・痛むポイントがあるかを聞く。リウマチ性には刺入しないこと。朝起きるときが痛む(寝腰)のは瘀血によるもので女性に多い。骨盤臓器の循環障害、ホルモン異常より起こる。浅い鍼でないとならない。骨粗鬆症の場合、特に女性で70歳以上で痩せていて腰が曲がっている人には刺入しないほうがよい。灸はすえていい。急がずに長期間かけて治すことが大切である。

 

局所は軽擦をして硬結が指に引っかかるか、冷えはあるか、熱はあるか、痛む場所は限定しているかを確認する。伏臥位のときは足首を逆ハの字にすると腰のツボがわかりやすい。硬結を探すのが難しい場合は側臥位だとわかる場合もある。 ぎっくり腰で前後屈が痛む場合は仙腸関節に対する腸骨点や腎兪に、体幹を回旋させて痛むのは志室に反応が出やすい。上仙穴(L5)の痛みには多壮灸がよい。棘突起痛には皮内鍼を保定し、好転しなければ灸をすえる。肋間神経下部(T11.12)の痛みはリウマチ性を考える。うつで腰痛が出ることもある。四診により、どの経脈の変動か確かめる。

 

本治法は1穴に全力をいれて1分ぐらい行なう。患側がより凹んでいることが多い。標治法も1穴に全力で刺鍼し、あとは流す。分からない場合は置鍼をするとよい。急性症では効果が見えるか、慢性症ではどの程度全身治療をするかが鍵となる。やり過ぎに注意すること。翌日に痛くなったら、治療が間違っているか、やり過ぎである。 禁忌としては、患部を強くもまない・入浴やアルコールは控える・整体などをしないなど。洗面や動作のときは膝を使うよう注意する。また内臓から来る腰痛として、胆嚢の反応は右腰上部に、膵臓は左腰の上部に反応が出る(左梁門の異常や、便が軟らかいかも確かめること)。突然の疝痛で痛みが激しく、腎兪や志室を軽く叩打してひどく痛む場合は尿管結石を疑う。脾虚証なら太白、肝虚証なら太敦など、本治法が良く効く。前立腺では小野寺臀点の付近が痛む。生理痛など婦人科疾患でも腰痛が出る。子宮ガンによる腰痛もある。専門医を紹介すべきだが、わかっていて鍼灸治療に来る場合は超旋刺、接触鍼、鍉鍼など軽微な刺激を心がけること。


講義中の首藤先生
講義中の首藤先生
弦躋塾の風景
弦躋塾の風景

内臓疾患

 

慢性なので長期の治療が必要。週一回の治療を長続きさせるのが理想だが、臨機応変に。灸を併用する。思いがけない効果がでる。本治法で体力をつける。局所治療は内臓の直接治療となる。腹部の治療は症状がなくてもすべきである。病院の診断・治療の経過を参考にする。

 

肝臓に関する症状に鍼灸はよく効く。右季肋部だけでなく、左にも注意する。よく使う経穴は曲泉・太衝・足三里・中脘・右梁門・肝兪。右不容に皮内鍼。中脘・右不容・太衝(または足三里)に灸。

 

肺に関する症状は腎虚証、肺虚証が多い。経金穴を使う。腋下点に皮内鍼。鎖骨下方、中府・兪府・霊台・肺兪・天宗に治療する。数脈の場合は体温を測り、刺入せず接触鍼にする。大椎に灸。

 

心臓に関する症状には動悸、不整脈、胸痛、胸の圧迫感、少気などがあるが、医療機関で検査を受けてもらい、結果を参考にして鍼灸治療の方針を立てるのがよい。脾虚証で治療することが多い。巨闕・左天宗・左心兪・左労宮・左腋下点。

 

腎臓はクレアチニンの数値を参考にする。本治法は腎虚証なら復溜・尺沢・腎兪、脾虚証なら太白・大陵・脾兪。標治法は石門・水分・志室・失眠などに治療する。

 

その他、臨床に即した話を多く聞けたが、メモを取るのが遅くて記録できなかった。今回分はレジュメが無かったので、『首藤傳明症例集』を併読しながら復習をした。不思議なことに、勉強会から帰ると、学んだ内容の症状を訴える患者が来院するものだ。昨日も症状と部位から、「あっ、これはリウマチ性か」と気づいたケースがあった。

0 コメント

2014年

5月

30日

第63回全日本鍼灸学会愛媛大会

2014年5月16日~18日の3日間、松山にて「第63回全日本鍼灸学会・愛媛大会」が開催された。テーマは「いのちの源をみつめる鍼灸~からだとこころの癒しを求めて」。今回は大分から弦躋塾の先生方と一緒に、佐賀関から早朝のフェリーで四国に向かった。

 

初日は「泌尿器科領域に対する鍼灸治療の効果と現状」のセミナーを受講した。特に邵仁哲(そうじんてつ)先生の講演はとてもわかりやすくて勉強になった。尿のトラブルといっても様々な症状があるが、男性は出にくく(前立腺)女性は漏れやすい、男性は尿道炎で女性は膀胱炎など、それぞれの「下部尿路症状」の特徴について学んだ。T10~L2下腹神経(交感神経)は蓄尿に、S2~S4骨盤神経(副交感神経)は排尿に働く。泌尿器の泌を秘と読み間違え、陰部という場所と相まって恥ずかしい印象をもつ患者が多いことや、それによって症状を我慢してしまうケースがあるということなど、臨床に活かせると感じたセミナーだった。

会場は松山のひめぎんホール
会場は松山のひめぎんホール
一緒に行った弦躋塾の先生方と
一緒に行った弦躋塾の先生方と

 

2日目、村上和雄先生の「こころと遺伝子」は、どう生きるべきであるかということを考えさせる講演だった。ノーベル賞をとるような天才と凡人の遺伝子は99.5%が同じであり、眠っている0.5%の遺伝子をどう動かすか(スイッチ・オン)によって、その人の人生が変わるという。そのためには明るく・前向き・笑いの3要素が必要であり、簡単に説明のつかないものを信じる力が、良い遺伝子のスイッチオンにつながるそうである。精巧な生命の設計図である遺伝子情報は誰が書いたのか。それは人知を超えたもの(サムシング・グレート)の存在であると先生は言う。私たちは生きているのではなく、大自然によって生かされているのであり、目に見える自然よりもデータ化できない自然の働きの方に目を向けるべきであるという話に感銘を受けた。また、西洋医学だけでは人を救えず、これから祈りと医療の研究が増すのではないかと村上先生は言う。アメリカ西海岸から東海岸の患者に対して祈るという実験をしたところ、普通の患者よりも祈られている患者(本人は知らない)の治療効果が高かったそうだ。「祈りは空間と時間を越えるかもしれない」という先生の言葉に、私達が日々行なっている鍼灸治療にもそのこころは働いていると感じた。目の前で痛みや苦しみを訴える患者さんに対して、私たちは鍼をしながら「早く楽になってほしい」と無意識に祈っているはずだからである。これからはさらに、明るく、前向きに、笑いの3つを意識して臨床に取り組もう。

 

moxafricaスタッフの皆さん
moxafricaスタッフの皆さん
勉強を終えて乾杯
勉強を終えて乾杯

その他、山口創先生による「身体接触によるこころの癒し」では、五感のはじまりは皮膚からであり、皮膚の振動が全身に伝わって脳に影響を与えること、1秒間に5センチから10センチの速さで撫でるのが一番リラックスできることなどをお話していただいた。弱い刺激は神経細胞の再生を促すため、鍼も弱い刺激が良い。いろいろな場所の皮膚に触れることで心の状態が良くなり、心の状態が良くなると内臓に影響を与え、皮膚の状態も良くなる。皮膚の触覚機能には知覚機能のほかに感情喚起機能もあり、触れ合うことでオキシトシンが出て不安・抑うつの症状を低下させるという。超旋刺や鍉鍼などがなぜ効くのかということに対して理解が深まる講演だった。

 

moxafricaはアフリカの結核患者を助けるための補助療法として日本式の直接灸を取り入れ、その効果を調査しているチャリティ団体である。スタッフの伊田屋幸子先生は講演で「灸の利点」として、安価であること・パテント化できないこと・支給しやすいこと・安全であること・簡単に教えられること等を挙げ、3千円で一人1年分の灸治療が出来ることと、その援助のための寄付を募った。協力した人には後日、お礼にmoxafricaオリジナルTシャツが贈られた。

 

昨日も今日も、夜は郷土料理の店へ。気温が高かったこともあり、生ビールのうまいこと。それぞれが学んだことを話題に盛り上がり、楽しい時間を過ごした。


帰りに道後温泉へ
帰りに道後温泉へ
学んだあとの温泉は最高!
学んだあとの温泉は最高!

3日目の会頭講演「痛みの不思議」では、痛みの感じ方には個人差があり、育った環境、文化、人種によっても異なることや、侵害受容痛、神経障害痛、関連痛など痛みの種類からそれぞれの特徴を学んだ。続くシンポジウム「超高齢化社会における鍼灸治療の役割と可能性」では、4大認知証であるアルツハイマー型、血管性、レビー小体型、ピック病についての特徴や、地域の現状と課題、各種連携のなかでの鍼灸の取り組みについての発表があった。私の住む島には高齢者が多く、認知証の患者も来院される。鍼灸師としてどのような役割ができるのか、大変参考になるシンポジウムだった。

 

3日間の学会もあっという間に終わり、道後温泉で汗を流してから大分へ向かい、翌日の夕方に五島へ帰宅した。今回は弦躋塾、首藤鍼灸院見学、見学記の作成と投稿、全日本学会と続き、実に内容の豊富な10日間だった。また大分でお世話になった佐藤先生から、夜に別府の山中にある露天温泉や、地元ならではのラーメン屋に連れて行ってもらったことも、楽しい旅の思い出となった。

 

0 コメント

2014年

5月

29日

首藤鍼灸院

殿頂に刺鍼する首藤傳明先生
殿頂に刺鍼する首藤傳明先生

第160回弦躋塾の終了後、五島へは帰らずに大分に4日間滞在し、週末から愛媛で開催される全日本鍼灸学会に参加した。今回は10日間も仕事を休むので、そのぶん貪欲に勉強しなければという気持ちで過ごした。5月12日と13日の2日間は、首藤鍼灸院を見学させていただいた。私にとって8年ぶりのことであり、前夜は緊張であまり眠れなかった。どんな点に注視するべきか、何を質問するべきか、ビデオを撮る際に邪魔にならぬ間合いを保てるか、そんなことを考えながら先生のお宅へお邪魔した。

 

志室
志室
天宗
天宗
缺盆
缺盆

見学した感想を一言でいえば「首藤先生の臨床は今でも変化し続けている」ということだ。もちろん全体的に見れば、確立された首藤先生の治療スタイルに変わりはないのだが、腹診の方法、使用経穴の取捨、刺鍼のアクセント、鍉鍼の活用など、以前よりもより明確でシンプルな治療をされているように感じた。先生は「どうすれば患者がより良く治るか」ということを常に考えており、もしその方法が有効であるならば積極的に臨床に取り入れる。その研究精神が治療の変化として表れているのだろう。

 

鍉鍼の治療
鍉鍼の治療

今回の見学では、以前は気がつかなかったり見えなかったりした部分が理解できた。夜、大分で食事をした際、先生にそのことを伝えると、「そう、すべては経験するしかない」という返事があった。いくら懸命になっても、経験が浅いうちは目の前にあるものが見えない。失敗や成功を繰り返し、臨床のキャリアを積むうちに、先生が何をしようとしているのか、なぜそこに鍼をするのかが自然とわかってくるような気がする。自分がさらに臨床経験を重ねてから見学すれば、もっと色々なことが見えてくるのだろう。今回の見学記事を『北米東洋医学誌』の7月号(Volume21 Number61)に投稿したので、興味のある方は読んで下さい。

古典を書き写したノート
古典を書き写したノート

 東京で開業した頃、先生が上京する際は都内の道案内のために同行していた。電車にしろタクシーにしろ、先生は座席にすわると『太素』や『甲乙経』等を読み始める。講演や理事会などが終わり、羽田空港へ向かう間もずっと読んでいる。少しの時間も惜しいといった感じで、いつでも勉強をされていた。今回も、家から大分へ向かうタクシーの中で『傷寒論』を書き写したノートを読まれていた。いつでもポケットから取り出せるよう、手帳サイズのノートを使っている。暗い車内でもペンライトで照らしながら読書するので、体を心配した奥様から苦情が出ることもある。そうして20~30分の時間も無駄にしない。さすがは先生と思ったものの、ただ感心している場合ではないと気づいた。それは「鍼灸師は一生勉強」と言われる先生の姿であり、「お前も実践しろ」という無言の教えであろう。

 

0 コメント

2014年

5月

28日

第160回弦躋塾

第160回弦躋塾
第160回弦躋塾
講義中の首藤傳明先生
講義中の首藤傳明先生
臨床講義:上肢痙攣
臨床講義:上肢痙攣

2014年5月11日(日)、大分ソレイユにて第160回弦躋塾が開催された。午前中は首藤塾長の臨床講義「上肢痙攣」で、64歳男性の症例(両手指が過伸展して痙攣)や、『霊枢』経筋第十三や『明堂灸経』の記載などから筋肉の痙攣と痛みについて考察された。続いて「治療禁忌」や、次回に予定していた「腰痛」や「内臓疾患」まで講義が及び、非常に内容の濃い2時間となった。私が感じた要点をおさらいしてみる。

 

上肢痙攣の症例

 

患者から「手指の痛みと痙攣で仕事ができない」と電話があった際、首藤先生は頭の中でシュミレーションをしているが、それらは「上肢疾患」を診る際の重要なチェックポイントである。すなわち、

 

・上肢や手指の使い過ぎはないか? 

・脈証は肝虚証か?

・局所や曲池・手三里に反応はあるか?

・背部兪穴の反応はあるか?

・鎖骨上窩の反応はあるか?

・右季肋部の圧痛はあるか?

 

これらの予測に対して実際には以下のような結果がみられた。

 

・10時間続けて魚をさばき続けたところ、両方の指が痙攣をおこした。

・脈証は肝虚証だった。

・異常を訴える指と周囲には反応が無く、第一掌骨基底部に圧痛と、合谷に張りがあった。肘関節では曲池に硬結と圧痛があり、手三里にも圧痛があった。

・背部兪穴にはそれほど反応は無く、天宗に硬結と圧痛があった。

・鎖骨上窩には(刺鍼していないので、おそらく)反応が無かった。

・右季肋部に反応は無く、下腹部が虚していた。

 

首藤先生は下肢痙攣の際に環跳や小野寺氏点の刺鍼が著効することから、「上肢においては天宗が痙攣に対して即効があるのではないか」と予想し、実際に硬結と圧痛を得た天宗を重要な治療点としている。また問診によって血糖値が200であることや、腰痛があること、左の肩こりが特にひどいこと、「このままでは職を失うかもしれない」と、無茶をする割にはあわてていること等の情報が得られた。症状が労倦によるものであり、脈診では曲泉を指で軽擦して脈が好転したこと、腹証では腎虚があったことなどから、肝虚証と診断された。

 

治療順序は前後するが、本治法は曲泉・陰谷を超旋刺で補い、曲池・手三里・天宗には5ミリ刺入して雀啄を5回(曲池は10回)、灸を5壮(天宗は10壮)行なった。これが主訴に対するメインの治療である。また、糖尿病のために中脘・左梁門・脊中・左脾兪に浅置鍼をし、あとは力を抜いて膏肓・肝兪、志室(腰痛の場所)、肩井・風池に超旋刺を行なった。初回の治療に使用した経穴は14穴で、それらには肝の治療(本治法)、局所の治療、局所の補助的治療、糖尿病の治療、腰痛の治療の5つの意味が含まれている。

 

初回の治療後に痙攣が無くなり、2診目以降も同様の治療を行い、左肩凝りに大杼の刺入鍼や、圧痛の強い手三里に皮内鍼、肺兪・厥陰兪の硬結に灸を加えている。首藤先生は結論として、上肢痙攣には天宗を使う価値があることや、的確なポイント(圧痛・硬結)を見つけ出すことと述べられたが、決して局所の治療だけではなく、全体的な治療が加えられている点を見逃してはならないと感じた。

 

治療禁忌

 

鍼灸治療を続けても好転が見られなかった2症例(関節腫脹・頚肩のこりと痛み)に対し、どちらも他所で強刺激が加えられていたことが判明して、患者に指導をしたことが紹介された。鍼灸治療をしているのに、他所でも関節の腫脹に対して気持ちいいほどの揉捏を受けたり、自分で電気マッサージ器を使ったり、整体や療術を受けて悪化させるケースである。首藤先生は、特に頚部は絶対に揉まないこと、入浴や飲酒の禁止、整体などを禁止させ、「なぜいけないのか」を説明して、患者に納得してもらわなくてはならないと述べられた。

 

私の治療院でも腰痛で治療中の患者が悪化したことがある。話をよく聞くと、友人宅で「腰痛にいいから」と乗馬型の運動器具を何度も使用していた。そのときは楽になるのだが、ある朝痛みで動けなくなり、あろうことか本人は「鍼灸で悪くなったのかも」という疑いを持っていた。患者は良かれと思って色々と勝手なことをする場合がある。問診の際にしっかりとチェックして、不必要なことはさせないよう注意しなくてはならない。

 

その他、「腰痛」と「内臓疾患」についての講義感想は次の機会に述べます。

 

頚肩腕症候群

芝原敏一先生
芝原敏一先生
肘を曲げて取穴する
肘を曲げて取穴する
支正の刺鍼
支正の刺鍼

午後は芝原敏一先生による「頚肩腕症候群の症例」と「支正穴の刺鍼指導」が行なわれた。芝原先生は3人の症例を挙げて、それぞれの体質に合わせた治療を行なうことや、いかにお灸が大切であるかということを解説された。

 

20代の男性はパソコンの仕事を10年しており、4年前から頚肩腕の症状が現れた。肩甲間部がパンパンに張っており、病理では風・寒・湿が同時に入った状態である。痛む場所が動かないというのは寒邪の影響が強く、体を温めるために灸を続ける必要がある。72歳の男性は定年退職後に廃棄物を壊す仕事に就いた。頚が動かず、痛み止めを服用している。筋肉の硬い人にはパルスも有効である。筋肉が動くということは血や津液が動くということにつながる。50代の女性はホームヘルパーの仕事をしている。色白で、あまり刺激はできない。いずれの場合も舒筋を目標に治療を行なっている。芝原先生は症状や患者のタイプによって超旋刺や2寸の鍼、パルスも使う。怖がりの人には鍼を使わず、パイオネクスと灸で治療することもある。そうしなければ結果が出ないからで、結果が出なければ患者は来ない。時間が経つと(症状が)後戻りするが、後戻りが無くなれば体は治る。免疫機能を高めるために、また患者に「治らない」と言わせないためにも、家でも朝昼晩と3回お灸をさせる。でないと後戻りすると言い切ることが必要である。我々鍼灸師の仕事は単純だが、単純な仕事ほど心を込めなくてはならないと芝原先生は述べられた。

 

頚肩腕の治療を続けると、症状が小腸経に残る場合が多く、支正穴が有効であるとのこと。芝原先生は塾生を各班に分けて、取穴と刺鍼の指導をして回った。支正は肘を曲げたほうが取穴しやすく、圧痛が出にくいので硬結を目標とすることや、あまりツボの位置にはこだわらずに上下左右をよく探すことが大切と話されていた。実際に刺鍼する際にもモデルの肌を診て、「あなたは敏感なタイプじゃな」、「あなたは硬いから刺入したほうがいい」と、鍼の太さや深さを使い分けられていた。

 

実技

実技中の首藤先生
実技中の首藤先生
腸骨点
腸骨点
跗陽と崑崙
跗陽と崑崙

最後は首藤塾長による実技が行なわれ、数名の塾生がモデルになった。写真は腰下肢痛の治療で、環跳・居髎・殿頂といったツボを取穴、刺鍼された。

 

腸骨点は首藤先生の私方穴で、腸骨稜に沿って内下方へ中指を移動させながら(骨をすくうように)反応を探る。ギックリ腰や慢性腰痛、特に前後屈の痛みに著効がある。跗陽は外踝の上3寸辺りで、母指を腓骨に沿ってゆすっていき、腫れぼったい所に求める。腰痛や腰下肢の神経痛に必須の経穴である。首藤先生は成書よりも骨際に取穴されることが多い。圧痛や擦診痛も出やすいツボだが、「浮腫らしきものが感じられず、ただこれ骨という感じであれば刺鍼施灸は無効であり、他の経穴を探すことになる」と、『超旋刺と臨床のツボ』(p266)に書かれている。また、先にアップした首藤先生の臨床動画の中で、4番目の女性患者(肝虚証・坐骨神経痛)の左跗陽を取穴した際、痛みで声を上げているシーンがあり、腰下肢の神経痛がある場合には跗陽に圧痛が出やすいということがわかる。崑崙は膀胱経に変動がある場合に用いられ、頭痛・背部痛・腰痛に使われる。左右にゆすって硬結と圧痛を求める。腰下肢痛で跗陽に反応がない場合、崑崙や飛揚を探すこともある。いずれのツボも正確に取穴・刺鍼できないと効果は望めない。特に腸骨点はなかなか見つからないと、つい鍼数が増えて失敗しやすく、臨床でヒヤッとしたことが何度もある。繰り返し練習して感覚を磨くのみだ。

 

今回講義に先立ち、鍵小野昌先生が3月6日に逝去されたとの報告があった。鍵小野先生といえば、2003年の仙台学会のときに松島観光をご一緒したこと、ホテルの部屋で取穴指導をしていただいたこと、ツボを圧されて私が痛がるとニッと笑い顔をされたこと、小柄な先生なのに手が大きかったことが思い出される。鍵小野先生は、当時日本伝統鍼灸学会の会長を務めていた首藤先生を応援するために東京の学会にも毎回参加されていた。晩年は「よだきいけん、帰るわ」と言って、初日だけ学会に参加してホテルで休まれたり、先に大分に帰られることもあったが、実に仁義に厚い先生という印象を受けた。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 

安倍清一先生 お祝い

西野・佐藤先生より花束贈呈
西野・佐藤先生より花束贈呈
参加者全員で記念撮影
参加者全員で記念撮影
安倍清一先生
安倍清一先生

弦躋塾の終了後、近くの寿司店にて安倍清一先生91歳の誕生会が行なわれた。なんといっても、91歳という年齢で現役の臨床家であることは驚きの一言、我々鍼灸師の目標である。

安倍先生、どうぞ長生きしてください。

 

5 コメント

2014年

4月

01日

第29回経絡治療学会学術大会 九州大会

朝の船で五島を出発したが・・・
朝の船で五島を出発したが・・・
会場のアクロス福岡
会場のアクロス福岡

 

平成26年3月29日(土)~30日(日)の二日間、福岡市にて第29回経絡治療学会学術大会が開催された。テーマは「伝統を守る鍼灸治療」。久しぶりの勉強会参加で喜び勇んで出発したものの、海が時化て船が大揺れし、嘔吐の連鎖反応に巻き込まれて大ピンチ。欠航にならなかったのは幸いだったが、福岡に着いても気分の悪さが治まらず、会場入りも遅れてしまった。

 

学会の様子

 

自分で鍼治療をしながら聴講開始。教育講演の「六部の脈状からみた薬法と選穴」(黒岩弦矢先生)では、弦脈を例に具体的な考察をされ、実際の臨床においては「病症と脈状を加味して柔軟に判断することが大切」であると述べられた。そして『医宗金鑑』に書かれている「弦細端直、且勁曰弦。緊比弦粗、勁左右弾」(弦は細くて真っ直ぐでかつ強い。緊はやや太くて左右に指をはじく)」の細・直・勁・粗がどのような病理で発生するのかを解説された。

 

「たとえば労傷などで気血両虚になると、肝経の収斂作用が失調し、相克関係である肺経の発散作用や脾経の甘みの作用などが優位になって脈管を太くゆるやかにし、そこに陰虚の熱が加わると弦脈が混ざってくる。大脈は収斂作用の低下によって、気をつなぎ留めておく力が失われたために、右寸口に特徴的に現れることが多い。弦脈は表面はやや緊張し、左側は右側よりも沈み、血虚による少陽経の陽気を反映して弦が強く現れる。弦の強さの度合いで熱の程度を推量することができる。脈が細くて弦の場合は陰虚である。一般的に陰虚というと、浮・弦・大で強く打つ脈を想像しがちだが、それは主に内傷によって体の内側から肝風が生じているような状態の場合である。陰虚では脈管などの水分が少なくなるから脈は当然細くなり、虚熱を反映して沈・数になる。それに加えて脾気の虚があれば左側に軟が現れるし、陰虚で胃経の下降が妨げられて痰が生じれば、右側に軟・滑という脈状が出てくる」等々、脈状から蔵や経の状態を推測するうえでのポイントを講演していただいた。勉強になりました。

 

首藤先生は司会で登場
首藤先生は司会で登場
馬場道敬先生
馬場道敬先生
安井廣迪先生
安井廣迪先生
W.Michel先生
W.Michel先生

 

会頭講演は馬場道敬先生による「伝統を守る臨床実技」。馬場先生は岡部素道、馬場白光という経絡治療の大家に師事され、司会の首藤傳明先生が言われたように「初期の経絡治療のシンプルさを継承している」鍼灸師である。弦躋塾セミナーでも特別講師をしていただいたので、塾生にはお馴染みの先生だ。十二経の虚実を診て、六部定位で最も弱く感じるところを虚、強く感じるところを実として証を決定し、刺鍼は浅くて単刺が基本。無駄な鍼や理屈の無い淡々とした治療からは、長年の臨床から培われた迫力が伝わってきた。うまく言えないが、本当に治せる先生というのは共通した存在感があるものだ。「脈はスーッと入ること、あれこれ考えないこと」、「肺経の弱い人は太淵あたりをつまむとチカチカする」、「肓兪を押さえて硬い側の腰が弱い」、「脈に変化の無い場合は鍼をしない」、「孔最は尺沢寄りに、復溜は一横指下に取る」等々、様々なレベルの受講者がその人なりに学べた講演だったと思う。沢山のヒントをいただきました。

 

特別講演は安井廣迪先生による「鍼灸古流派と経絡治療」で、残された書物から日本鍼灸がどのようなものであったのかを振り返った。古くは562年(遣唐使よりも前)に呉の知総という人が薬書や明堂図などを持って来日し、1536年には日本鍼灸が開花して色々な流派が出現し、百花繚乱の時代を迎えたという。腹部を重視する吉田流や匹地流、経の虚実を補瀉する雲海士流など、古流派が経絡治療の先駆けであったことを紹介された。

 

二日目、ヴォルフガング・ミヒェル先生の教育講演は、「東洋医学:西漸史における日本の貢献」で、日蘭交流時代における医学交流や、南蛮人宣教師が記した和漢医学に対する資料など、豊富なスライドを用いて紹介された。宣教師が灸のことを「火のボタン」と書いたために、本国では焼きゴテと勘違いされたり、当時の日本人が(生活が貧しいにもかかわらず)健康でいたことや、ほとんどの病気は灸で治してしまうといった当時の日本人の医療事情がヨーロッパの文書には残されていた。そして、それらを欧州人の先生から(日本語で!)紹介してもらえるなんて大変ありがたいことである。ヴォルフガング先生によると、19世紀の初頭まで「東洋医学」に関する情報の大半は中国からではなく出島オランダ商館から伝わり、その中には日本独自のものも少なくなかったという。また、ポルトガル人のアルメイダが私財を投じて大分に建てた病院の再現図や、そこで使われた薬は漢方薬であり、薬草は近所の山だけでなく、マカオやコーチンからも輸入していたという話も興味深かった。ただ、時間が押して講演時間が短くなってしまったのが大変残念だった。他所から招いて講演してもらうのだから、会はその前の会長講演を短くするなどして配慮するべきではなかったかと思う。

 

シンポジストの山口・戸田・馬場の各先生
シンポジストの山口・戸田・馬場の各先生

 

その他、気配りと笑顔が印象的だった大木健二先生の実技や、一般発表など盛り沢山の内容で、あっという間に二日間が過ぎた。特に最後に行なわれたシンポジウム「伝統を守る鍼灸治療」では、治療スタイルが異なっても、互いを尊重して学術を共有しようとする姿勢が感じられた。鍼灸界に限ったことではないが、若い世代の人達は柔軟さを持っている。一昔前のように互いに牽制したり、相手を論破しようとするのではなく、先人が育んできた経絡治療を皆で共有して後世に残そうという思いが、シンポジストや司会の先生方から伝わって来ました。

 

0 コメント

2014年

1月

01日

首藤傳明先生講義録 第三弾

首藤傳明先生講義録7 P35
首藤傳明先生講義録7 P35
首藤傳明先生講義録8 P43
首藤傳明先生講義録8 P43

明けましておめでとうございます。

五島列島は青空が広がり、穏やかな新年となりました。

 

本日、「首藤傳明先生講義録」の第三弾をアップロードしました。今回は講義録7と8です。こちらからダウンロードのページに進んでください。この講義録は以前にパソコンがクラッシュして失われたデータだったのですが、このたび再文章化しました。今回、キーボードを打ちながら、当時(12年前)は難しくて意味がわからなかった話や、経験不足で理解できなかったことなどがスーッと入って来て、とても新鮮な気持ちになりました。同じ内容の講義でも、年数が経ってから読むと自分の理解度が高まっているのがわかりますし、首藤先生の講義は古典の受け売りではなく、長年の臨床で裏打ちされた話なので、臨床家にとってこれほど頼もしい存在はありません。

 

臨床家を目指す学生の方や、開業を考えている新卒の方、ぜひ首藤先生の講義録を読んで下さい。きっと勇気と希望が湧いてくると思います。

 

お互い地道に勉強して患者さんを治し、日本の鍼灸界を盛り上げましょう。

 

2014年 元旦

五島の新年
五島の新年
6 コメント

2013年

11月

23日

首藤傳明先生臨床動画 第一弾をアップしました

我が家の編集部屋(man's cave)にて作業中の図
我が家の編集部屋(man's cave)にて作業中の図

 

本日、首藤先生の臨床動画が完成し、youtubeにアップロードしました。また当サイトでも視聴できます。「私の師匠」タブから「臨床動画」に進んで下さい。

 

9月の後半から毎日コツコツと編集作業を続けていたのですが、1時間ちょっとの動画を作るのに2ヶ月もかかってしまいました。患者さんのプライバシーに配慮するため、顔にモザイクを入れたり、余計な音声を消したりするのに時間がかかったためです。また、刺鍼部位や灸点の表記を間違えないように、首藤先生に何度も問い合わせて確認をしました。字幕の間違えも指摘していただいたので、完成度がアップしたと思います。海外の鍼灸師にも見ていただきたいので、注釈には英語も併記しました。

 

共に首藤先生の技術を学び、治せる鍼灸師を目指しましょう!

 

5 コメント

2013年

10月

16日

第9回日本鍼灸師会全国大会inおかやま

晴れの国、岡山に到着
晴れの国、岡山に到着
宇宙に向けた鍼灸
宇宙に向けた鍼灸
弦躋塾の佐藤裕仁先生
弦躋塾の佐藤裕仁先生

10月13日~14日の2日間、岡山コンベンションセンターにて「第9回公益社団法人日本鍼灸師会全国大会inおかやま」が開催された。大会のテーマは『きぼう・・・未来へ!』~宇宙に向けた鍼灸~という壮大なもの。初日の「総合診療医に学ぶ!問診・視診のこつ」(岡山大学院・大塚文男教授)は、内分泌の視点から医療面接をとらえた話で、密度が濃くて分かりやすい講演だった。「副甲状腺の機能が亢進すると、骨が弱くなり、カルシウムが体にたまる。女性で尿路結石を繰り返す人や、口が渇く・吐き気・倦怠感・食欲不振などは副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症を疑う」、「35歳以下におこる高血圧は副腎の腫瘍によるアルドステロン症が多く、その4割が脳卒中をおこす」、「腹に赤い線が出る・中心性肥満・ムーンフェイスはステロイドホルモンが高い」など、我々鍼灸師も普段の問診から、これらのサインを見逃すことなく、的確な判断をしなくてはならないと感じた。

 

一般口演は腰と膝がテーマ。弦躋塾からは佐藤裕仁先生が、「突然起こった膝関節症」を発表された。日鍼会は主に現代医学的な診かたをするため、発表者も会場からの質問も解剖学的な話が多く、証や取穴、手技といったものは焦点にならないのがちょっと残念だったが、その反面、古典的な物の見方ばかりに偏ってはならないという刺激になった。

 

懇親会では小川卓良先生率いる生バンドで、首藤傳明先生が熱唱!
懇親会では小川卓良先生率いる生バンドで、首藤傳明先生が熱唱!

懇親会では、小川卓良先生らによる生バンドの演奏があり、首藤傳明先生も「無錫旅情」を熱唱。会場はすごい歓声に包まれた。

 

また、昔、中野鍼灸師会時代にお世話になった伊集院先生や、岩元先生、飯田先生、村上先生たちと楽しくお話させていただきました。

 

飯田孝道先生・伊集院克先生・岩元健朗先生と
飯田孝道先生・伊集院克先生・岩元健朗先生と
宇宙飛行士の山崎直子氏
宇宙飛行士の山崎直子氏
スペースシャトルから見た地球
スペースシャトルから見た地球

大会2日目は、急用があって午後からの参加となり、4名の先生による「宇宙と鍼灸」の講演を聴講した。宇宙は究極のへき地であり、宇宙で培われた技術はへき地の医療にも役に立つという話や、過疎化で医療体制が不充分な場合や、高齢者で病院まで通えない人のために、TV電話によるアドバイスで患者自身が鍼を打つなどの案が語られた。すでに宇宙で使うためのディスポ鍼も開発されており、そのような使いやすい鍼を用いることによって、過疎地に住む人々の健康問題に対応できるということだった。

 

まあしかし、へき地で往診をしている者からすると、話はそんな簡単ではないと思う。患者さんが抱えている孤独や不安などは苦痛の度合いを左右させるが、それは実際に会わないと伝わりにくいものだ。術者が話を聞きながら、直接肌に触れてツボを探し、正しい刺鍼をするからこそ治療が効くのであって、素人が自分で鍼を打って気が至るほど、鍼灸の技術は易しくない。とはいえ、都会への一極集中がこのまま進めば、やがてそういう時代が来るのかもしれない。

 

講演の最後は、元宇宙飛行士の山崎直子氏が登場し、スペースシャトルから見た地球の写真や、宇宙ステーションでのエピソードを紹介された。乗組員に選ばれてから搭乗するまでに11年も訓練したことや、遺書を提出して宇宙に向かったことなど、華々しい姿の裏に命がけで仕事に取り組んできたことをサラッと笑顔で語ってしまうところは、さすが宇宙に行ける価値のある人物だと思った。

 

今大会は色々な意味で学び、反省することも多かった。これらの教訓をかみしめて、明日に活かしたい。

 

0 コメント

2013年

10月

13日

温かい心

一昨日、往診をしていたMさんが亡くなった。86歳の気丈な女性で、島の北にあるカトリック集落に一人暮らしをしていた。近所の人にも声をかけ、鍼灸治療のために家を提供してくれたので、いつも5~10人の患者さんが集まった。Mさんの家までは車で40~50分かかる。午前中の仕事を終え、昼過ぎに治療院を出発し、13:00から治療を始めることにしているが、私が到着すると、「先生、お茶でも飲まんね」と勧めてなかなか治療をさせてくれない。治療中も「こんな遠か所まで来てくれてありがとう」と感謝の言葉を忘れない人だった。

 

Mさんの家は崖の上にあり、窓からは青く輝く五島灘が見渡せる。こんなに素敵な所で暮らせて羨ましいですと言うと、「どこが羨ましかばいね。毎日同じ者の顔ばかり見て、気がおかしくなるとよ」と患者さんたちに返された。五島の中でも著しく過疎が進み、地域には高齢者しか残っていない。唯一の楽しみである畑もイノシシにやられてしまい、畑をやめてしまう人も増えた。家にこもりがちになれば足腰も萎えてしまうし、気弱にもなる。そんな中でMさんは高齢者の精神的支えとなるような存在だった。治療の合間にも「ちょっと休憩せんね」、「水でも飲まんね」と声をかけてくれた。全員の治療が終わると、うどんやオニギリを出してくれ、おみやげにとジュースやお菓子、芋やたまねぎ等を持たせてくれた。月に2回ほど通っていたが、治療院が忙しくなってきたので最近は月に一度の往診になっていた。初めの頃は会計や問診、健康相談などで妻も同行していたが、狭いカーブが連続する山道で車酔いを起こすため、行かなくなった。Mさんから毎回のように「奥さんは来れんの?会いたかよ」と言われていたので、たまには話をするために連れて行けばよかったと思う。

 

Mさんの家に伺ったとき、こたつに入った患者さん達から一斉に歓迎される瞬間が嬉しかった。笑顔は歳をとらない。パーッと明るい雰囲気の中に入っていくとき、鍼灸師をやっていて良かったと感じたものだ。2週前に往診した帰り際、Mさんが杖をつきながら手を振っていた姿が目に焼きついている。合掌。

 

Mさんの往診から帰る途中に見た夕暮れ
Mさんの往診から帰る途中に見た夕暮れ
2 コメント

2013年

10月

04日

第41回日本伝統鍼灸学会学術大会(京都大会)

前日の昼に五島を出発
前日の昼に五島を出発
学会の開催された京都エミナース
学会の開催された京都エミナース
会場のようす
会場の様子

9月28~29日の2日間、京都エミナースにて第41回日本伝統鍼灸学会が開催された。私は前日の昼に五島を出発、翌朝に神戸港経由で京都入りしたものの、会場までのアクセスが不便で時間をロスしてしまった。楽しみにしていた教育講演(長野仁・穴法図と経絡図のイコロジー)は半分しか聴講できず残念だったけど、その次の会長講演(形井秀一・世界の中の日本鍼灸)は、これからの日本鍼灸がどうなっていくのか、どうあるべきなのかを考えさせる内容だった。

 

形井先生は、東洋の医学と西洋の医学を歴史的に(特に中・韓・日を並列して)振りかえった。日本では19世紀の前半に出島経由で西洋医学が入り、1874年の「医制」で東洋医学が国の医学制度から外され、1911年には「鍼術灸術営業取締規則」が制定され、1947年に「あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法が公布されて現在に至っている。新し物好きな日本人らしく、それまで培ってきた文化や医療技術などをあっさり捨て去ってしまったのが惜しい。「陰陽五行の惑溺を払わざれば窮理の道に入る可ならず」と批判した福沢諭吉に対して、「いい加減なものだ」と言い放つ家本誠一先生みたいな人は当時いなかったのだろうか。「20世紀の中頃から東洋医学が見直されてきたと言われるが、それは西洋医学が基礎・主体となる鍼灸が求められてきたわけであり、国民のほとんどが西洋医学を受けているという現実がある」と形井先生。これからは「西洋医学との統合と模索」をするのか、「独自性の模索」をするべきなのかと問いかける。同時に「これは中医学や現代医学とどのような関係にあるかという問題でもある」と述べた。

 

「このままでは日本の鍼灸はガラパゴス化する」という意見があるけど、だからといって日本の鍼灸が絶えて無くなるわけではないだろう。たとえガラパゴス化しようとも、日本の繊細な鍼灸が価値あるものであれば他国も放っておかないはずだ。なぜなら鍼灸を用いているどの国だって、「治せる鍼灸治療」を目指しているからである。そのうえ日本人は手先が器用だし、漢文だって返り点などを使って読めてしまう民族なのだ。古典を学ぶ上でも、他国の人に比べて圧倒的に有利な立場にいる。

 

とはいえ、現状的には中医学や韓医学に対する日医学は無いし、これからも期待できないだろう。むしろ期待なんかせずに、私たちは目の前にいる患者を治し続けることだ。「薬が使えないのは片手落ち」なんて言う先生もいるけど、むしろ薬を使わずとも治せる日本の鍼灸に誇りを持つべきだし、私のように人口の少ない僻地で細々と鍼灸院をやっていても、それなりの需要はあるものだ。もしも日本の鍼灸が絶えるとすれば、それは臨床家の技術が低下して、患者からそっぽを向かれた時だろう。情報化社会になったせいか、最近は理論ばかり知っていて技術の伴わない鍼灸師が増えていると聞く。また、高い金をかけて免許を取ったのに、挫折してしまう人も多いそうだ。もっとも、私が学んだ専門学校は西洋医学に偏っていて、ほとんど伝統的な鍼灸は学べなかった。今はどうか知らないが、実技では手指を消毒したうえに指サックをはめて刺鍼させたり、痩せて虚証の生徒にも寸6の3番をブスブス刺すような教え方をしていた。学校付属の施術所には「遠隔治療禁止」と張り紙がしてあったし、実際に臨床で必要な体表観察や脈診などは全く学べなかった。そんなことで卒業して臨床に向かっても患者が治せるわけがない。特に、「気の医学」としての技術を伝えてこなかった日本の鍼灸業界(教育機関)の責任は大きいと思う。形井先生は「世界の鍼灸と明確に共存できる関係を築きあげておくべきであろう」と言われたけど、そのためにも鍼灸界はまず足元をしっかり固め、治せる鍼灸師を増やすのが先決ではないかと感じた。

 

懇親会

 

あっという間に初日のプログラムが終わり、懇親会へ参加した。先生方の挨拶のあと、作家の河治和香さんが素敵な着物と日本髪で登場した。『鍼師・おしゃあ』という小説の著者で、かの有名なシルビア・クリステル(エマニエル夫人)が河治さんを恋敵と勘違いして嫉妬したというほど、存在感のある日本美女でした。翌日は販売ブースでサイン会も行なわれ、行列が出来ていた。

 

形井会長の「世界の中の日本鍼灸」
形井会長の「世界の中の日本鍼灸」
懇親会の様子
懇親会の様子
颯爽と登場した小説家・河治和香氏
颯爽と登場した小説家・河治和香氏

 

懇親会は、いわば鍼灸界のオールスターが集まる場であり、憧れの先生方を間近に見れるチャンスでもある。学生や初心者は勉強だけでなく、こういう場所にこそ参加したほうがいい。きっと質問にも答えてくれるし、握手だってしてもらえるだろう。一流の先生はみな柔らかい手をしているし、臨床家としての貫禄も伝わってくるのだ。首藤傳明先生は本学会の前会長であり、親しい間柄の先生も多い。様々な流派・流儀の先生がいるけど、誰に対しても瞬時に話題を合わせて語り合い、笑いあえるというのは、優れた人間力のなせる業だと思う。そして相手の先生方も。歓談する光景を隣で見ながら、懇親会は人間力を磨く場であり、試される場であるなとつくづく感じた。あまり知られていないかもしれないが、首藤先生は会長時代、伝統鍼灸学会を高め、盛り上げるために相当苦慮されてきた。今日、首藤先生が多数の先生から信頼を得ているのは、そのときの賜物だろう。正に「鍼は人なり」。

 

藤本蓮風先生と
藤本蓮風先生と
新井康弘先生と
新井康弘先生と
大和田征男先生、金子宗明先生と
大和田征男先生、金子宗明先生と

宮脇和登先生と
宮脇和登先生と
加賀谷暉彦先生と
加賀谷暉彦先生と
小野博子先生と
小野博子先生と

金井正博先生と
金井正博先生と
丸山治先生と
丸山治先生と
形井秀一先生と
形井秀一先生と

 

今回は久しぶりに首藤先生の隣で杯を酌み交わすことができ、塾生の私にとって最高の時間を過ごすことができた。先生は色々な種類を飲んで楽しむスタイルなので、テーブルの上にはグラスがにぎやかに並ぶ。あっという間に酔いが回るも、貴重な話を逃さないように気合を入れる。しかしビール、熱燗、ワインと飲んだ後に頂いた黒霧のロックは足まで効いた。

首藤先生と乾杯
首藤先生と乾杯
宿に帰ってから太敦に鍼しました
宿に帰ってから太敦に鍼しました
握手をする新井先生と鹿住先生
握手をする新井先生と鹿住先生

 

私の右隣には漢方鍼医会の新井康弘会長と隅田真徳副会長が座っておられ、親しく話をしていただいた。私は東京時代、漢方鍼医会の地方会(東京漢方鍼医会)に参加していたことがあり、素問・霊枢・難経医学をもとにした脈診や病理・病証などを学ばせてもらった。漢方鍼医会の先生方はみな勉強熱心で、勉強会後の飲み会では鍼灸談義が過熱して終電ギリギリになることも多かった。先月の弦躋塾セミナーで講義をしていただいた中田光亮先生と同じく、新井康弘先生も故福島弘道先生の弟子であり、非常に魅力的な先生である。会が分裂した経緯は私も知っているけど、両先生の関係はとても良いそうで、先日の中田先生は「同じ釜の飯を食べた仲間だからね」と話されていたし、新井先生も「兄貴だからね」と話されたのが印象的だった。素晴らしい先生が率いる二つの団体が良好な関係であれば、それは経絡治療界だけでなく、日本鍼灸にとってプラスになることだと思う。そのようなことを考えていたら、東洋はり医学会の鹿住先生が通りかかり、お二人の先生は「ほらね」と力強い握手を交わされた。素晴らしい光景でした。

 

学会2日目

シンポジウム「日本伝統鍼灸における経絡の臨床的意義」
シンポジウム「日本伝統鍼灸における経絡の臨床的意義」
橋本巌・木戸正雄・奥村裕一の三先生
橋本巌・木戸正雄・奥村裕一の三先生

 

2日目のプログラムはどれも内容が充実していて、時間の過ぎるのが早く感じるほどだった。「浅筋膜の役割について」を発表された元慈恵医大の早川敏之先生は、体表から数ミリの世界に照準をあて、その機能と構造から、鍼の刺激がどのように作用しているのかを詳しく説明された。つづく会頭講演(篠原昭二・鍼灸臨床で不可欠な経絡に関する知見)末梢部位に発現したツボに軽微刺激(皮内鍼)をすることで、その経筋上にある炎症症状(炎症部の動作痛)を明らかに減少することができるという発表だった。篠原先生といえば経筋研究の第一人者であるが、末梢に0.5mm程度の皮内鍼刺入をするだけで何でも治るのか疑問に感じたので、休憩時間に質問をしたところ、篠原先生は丁寧に答えて下さった。つまり、「臨床では患者に初めから皮内鍼を入れるのではなく、あなたの治療するように脈を診て本治法をやって標治法をやればいい。しかし経絡が通じても、最後に症状が残るのは経筋であり、その際に末梢の反応点に皮内鍼を入れれば効果は絶大なんだよ」ということだった。納得しました。

 

続くシンポジウムでは「日本伝統鍼灸における経絡の臨床的意義」というテーマで、3名の先生により話が進められた。橋本巌先生は「経絡・経穴は病があって初めて顕現する」(岡部素道)、「経穴の反応を経絡の変動としてみることができる」(岡田明祐)という先達の言葉を引用し、経穴の反応とは経絡の変動であり、経絡の変動を「虚実」として判断すること、病経の虚実を知るということで病証の理解ができる。病証を経絡的にみれば、あらゆる症状に対しても「経絡の変動を調整する」という観点で積極的な治療ができると話された。虚実関係の総体を把握するためには臓腑経絡説に法って考える必要があり、初めに五臓の精気の虚がおこり→そこに病因が加わり→病理状態となって気血津液の虚実がおこり→寒熱が発生し→臓腑経絡に寒熱が波及して病証を現すという因果関係がある。これによって病証からの視点でも、五臓の精気の虚からの視点からも、いずれも経絡を介した見方というところに(経絡治療の)価値があるとまとめられた。

 

木戸正雄先生は、「鍼灸医学の治療システムは、人体を縦にとらえた経絡系統(三陰三陽)と横にとらえた天地人(三才)がある」とし、それぞれの治療法を構築したものがVAMFITと天・地・人治療であり、寒熱の波及は十二経脈の把握だけではなく、十八絡脈、十二経別、十二経筋も含めて把握しなければならないと話された。たとえば耳の疾患に大腸経を使って治療できるが、肺経も大腸経も経脈は耳に通じておらず、是動病・所生病にも記載はないが、絡脈は耳に通じている。また、大腸経を使って頭痛の治療ができるのも、陽明経筋が前頭部を支配していることで理解ができる。経絡は縦の流れのほかに横につながる流れがあり、これらの重層構造が、左右の陰陽、上下の陰陽、前後の陰陽に関わっているとまとめられた。また、奇経治療における二つの体系として八脈交会穴による治療(『鍼経指南』他)と奇経流注上の穴による治療(『素問』他)をあげ、それぞれ新治療システム(縦系:十二経脈、『VAMFIT』)と天地人-奇経治療(横系:天・地・人、『天・地・人治療』に対応するとした。

 

奥村裕一先生は臨床的な観点から、臓腑・臓象と経絡とを有機的に繋げるものとして臓腑経絡学説と位置づけ、素問・霊枢などの古典をはじめ、明代や清代の書物から引用し、これまで経絡がどのように考えられてきたかを説いた。特に奇経の臨床応用として、『素問・痿論篇』、『素問・繆刺論篇』、『鍼経指南』、『難経本義』、『奇経八脈考』、『針方六集』、『医門法律』等の書を参照された。そして、奇経を臨床的に理解・応用するうえで思想的な背景に注目し、この医学独自の宇宙観・生命観・歴史的展開を踏まえた上で、診察診断から治療に至るまでの根幹となるものが臓腑経絡学説であるとまとめられた。

 

 橋本先生は経絡治療の病に対する考え方を、木戸先生は流注からの考察を、奥村先生は歴史的な解釈を紐解き臓腑経絡学説とは何かを語られたと思います。大変勉強になりました。

 

 

「鍼師おしゃあの周辺」
「鍼師おしゃあの周辺」
武田時昌先生
武田時昌先生
大上勝行先生の実技
大上勝行先生の実技
宮脇和登先生の実技
宮脇和登先生の実技

昼のランチョンセミナーは小説家・河治和香氏の「小説『鍼師おしゃあ』の周辺」に参加。ラッキーなことに弁当(お茶つき)まで無料サービスで配られた。幕の内弁当を食べながら、スライドを使った楽しい江戸風俗の話題に耳を傾けた。河治さんの話が面白かったので、講演後は販売ブースに本を買いに行く人が多く、メイン会場が閑散となってしまった。

 

私も『鍼師おしゃあ』を購入後、そのまま向かいの部屋で始まっていた武田時昌先生の教育講演「鍼灸師論-名医、良医の歩んできた道」を途中から聴講したが、まるでスーパーボールのように弾けた内容にビックリ。去年の武田先生の講演は、私には少々話が難しすぎたけど、今回は学生向けのためか雰囲気がガラリと変わり、若い世代の心をつかむキーワードも多かった。「一方」妙観派神医五箇条(一鍼回復の神技、一服平復の妙薬、一看識病の眼力、一金不求の寡欲、一指相伝の秘法)をはじめ、文化認識と脱日常の旅として江ノ島の西浦霊園、弥勒寺、高野山金剛峯寺普門院、江島神社、江島杉山神社への正しい行き方、勝新の『不知火検校』に大山詣、ヘレンケラーに八方睨みの亀、平城京の二条大路木簡、アキバ住民法、鍼灸の科学と魔術、超電磁光仮説、イマジンブレイカー、鍼灸新撰組神無月結成式、按摩の王子様と灸姫メモリーズ等々、会場はその内容に圧倒されたまま時間オーバーとなった。

 

続いて実技「経絡治療の診断治療」を見るためにメイン会場に戻る。大上勝行先生の実技は師匠の池田政一先生にそっくりだった。話し方や問診の進め方、患者の訴えに肯く様子、綿花を指に挟んで刺鍼するところまで、まるで池田先生が実技をしているかのよう。いかに大上先生が努力して学ばれたかが伺える。そして前から楽しみにしていた宮脇和登先生の実技だが、残念ながらフェリーの時間があるために途中までしか見ることが出来なかった。ギリギリまで粘ったけど、解説をしているところで会場を後にした。ああ残念。

翌朝のフェリーから見た空
翌朝のフェリーから見た空

帰りは神戸からフェリーで九州に戻り、JR特急で佐世保へ向かい、再びフェリーに乗って五島に帰宅した。たっぷり時間がかかった(丸一日)ので、移動中に『鍼師おしゃあ』を読み終えた。面白かったです。映画化しないかな。

0 コメント

2013年

10月

02日

第28回弦躋塾セミナー その2

講義をする首藤先生
講義をする首藤先生

首藤傳明先生

 

塾長の首藤先生は初日に「脳卒中の治療」の講義、2日目には実技を行なった。先生が開業された50年前は、脳卒中の患者を診ることが多かったという。当時は絶対安静という考えが主流だったが、首藤先生は効果的な鍼灸治療を考案し、発作直後からの治療を行なっていた。現在、鍼灸師が脳卒中を診る機会はほとんどなくなったが、血栓溶解剤が使えない場合や手術が出来ない場合、あるいは意識の無い患者に鍼灸治療が活用できないか。病院で鍼灸治療ができないならば、退院後のリハビリに鍼灸を使う。往診ができれば、我々鍼灸師が活躍できる場はある。リハビリは病院だけでなく、自宅でも可能である、と話された。(脳卒中に対する具体的な治療法は『首藤傳明症例集』をご覧下さい)

 

もちろん、本当は動脈硬化になる前に、その予防として鍼灸治療をするのが理想である。高血圧はないか?、糖尿はないか?、腎臓クレアチニンの値も聞いておく。鍼灸治療で肝臓にはすぐに効くが、腎臓は治りにくい。頚肩のこりは脳に行く血を減少させる。耳・目・鼻も、脳の疾患も肩こりが原因と言ってよい。肩こりを取るというのは長生きの秘訣のひとつ。肩こりがありながら、それを感じない人は要注意。治療は本治法をやって局所の鍼をすればよい。少陽経の胆経・三焦経、そのもとの肝腎の治療。頚動脈や椎骨動脈の付近を診る。風池に硬結が出た場合は、椎骨動脈の動脈硬化を意味する。足背動脈・後脛骨動脈の硬さを診ること。血圧を下げるには指間穴も有効。一時的なものにはよい。

 

81歳の首藤先生が立ったままで、後学のために自らの経験を伝授されている。私達はとても貴重な講義を受けているのだと実感した。また、中田光亮先生は3時間の講義と実技を終えたあとも席に残り、首藤先生の講義を熱心に聞いておられた。その姿勢から中田先生の鍼灸治療に対する探究心と、首藤先生に対する敬意が伝わって来た。

 

2日目の実技では、モデルの主訴を聞きつつ、脳卒中の治療に応用できる手技を披露された。首藤先生の手技は年々、よりシンプルに進化しているように感じる。無駄な動きが少ないので、学生や初心者の方は「あれ、何やってるんだろう」と思われたかもしれない。取穴・立ち位置・手の形・鍼の角度・回旋・抜鍼と一連の動作で流れるように治療が進むので、場合によってはビデオよりも写真をゆっくり見たほうが学びやすいこともある。ポイントとなりそうなカットを用意したので、参考にして下さい。

 

実技中の首藤先生
実技中の首藤先生
顖会(浮腫んだ感じあり)
顖会(浮腫んだ感じあり)
曲泉に本治法(肝虚証)
曲泉に本治法(肝虚証)

陽輔を寫す
陽輔を寫す
中脘に置鍼(硬さを感じる)
中脘に置鍼(硬さを感じる)
風池に置鍼して、肩井に超旋刺
風池に置鍼して、肩井に超旋刺

指間穴
指間穴(手足で16ヶ所)
腎兪の取穴
腎兪の取穴
座位で肩に刺鍼
座位で肩に刺鍼

 

 最近は金属アレルギーの患者もいるため、竹製の鍉鍼も使われているとのこと。2人目のモデル(腰痛・疲労感)に対しては、竹の鍉鍼を用いて実技を行なった。

竹の鍉鍼を持つ首藤先生
竹の鍉鍼を持つ首藤先生
竹の鍉鍼による超旋刺
竹の鍉鍼による超旋刺
右の中指を用いて腰部の取穴をする
右の中指を用いて腰部の取穴をする

出版祝賀会

 

初日のセミナーが終わったあと、『首藤傳明症例集』の出版祝賀会が行なわれた。来賓の挨拶の後、民謡や三味線が披露され、首藤先生より参加者に「忘己利他てぬぐい」とハンカチが配られた。それぞれの先生が懇親を深める中で、盛り上がったのがカラオケタイムだ。初めに「男の港」を歌った中田先生はプロ並みの歌唱力で会場がざわめくほど。大声援を受けて首藤先生が「無錫旅情」で歌い返す。これほど拍手と歓声に包まれた懇親会は初めて経験した。最後は万歳三唱で会は閉じられたが、首藤先生と中田先生は歌合戦を続けるべくカラオケ店へと向かった。

 

祝賀会の様子
祝賀会の様子
来賓による祝辞
来賓による祝辞
乾杯!
乾杯!

「忘己利他てぬぐい」が参加者に配られた
「忘己利他てぬぐい」が参加者に配られた
三味線と民謡
三味線と民謡
中田先生はプロ並みの歌唱力
中田先生はプロ並みの歌唱力

無錫旅情を熱唱する首藤先生
無錫旅情を熱唱する首藤先生
首藤先生と中田先生のツーショット
首藤先生と中田先生のツーショット

女性鍼灸師に囲まれて指導をする中田先生
女性鍼灸師に囲まれて指導をする中田先生
万歳三唱でにぎやかに閉会
万歳三唱でにぎやかに閉会
「もう一軒行こう」と首藤先生
「もう一軒行こう」と首藤先生

仲良くカラオケ店へ向かう
仲良くカラオケ店へ向かう
両先生の熱唱が続いた
両先生の熱唱が続いた

首藤先生と中田先生には、いくつかの共通点がある。「治療がシンプル」、「生きた経穴を探す」、「ごく浅い鍼で、気至るを感じている」ことなどだ。また、人間的にも懐が深くて度胸がある。鍼灸界にはエゴの強い先生が多いが、両先生には威張った態度が全く無い。「大切なのは患者が治ること」であり、流派や理論が異なっても批判しないという点も一致している。そういう姿勢から人柄が伝わると同時に、己の臨床に絶対的な自信のあることも伺える。瞬時に相手の話に波長を合わせる機敏さと柔軟性を持つところも、思わず引き込まれてしまうような笑顔をもっているところも同じだ。たとえ流儀は違っても、優れた臨床家の姿は似ているのだなと感じた。両先生が海外の鍼灸師から信頼されている理由もそこにあるのではないだろうか。祝賀会が終わって2次会のカラオケに向かう際、首藤先生と中田先生は九州弁で話しながら、腕を組んで歩いていた。首藤先生がこれほど親愛の情を見せるのも珍しく、よほど互いに心が通いあったのだろう。中田先生が2日間の講演を終えて帰られる際、両先生が交わした笑顔は特に印象に残った。

別れ際、握手をする首藤先生と中田先生
別れ際、握手をする首藤先生と中田先生
8 コメント

2013年

9月

24日

第28回弦躋塾セミナー その1

開会の挨拶をする首藤傳明先生
開会の挨拶をする首藤傳明先生
会場の様子
会場の様子
中田光亮先生
中田光亮先生

9月15日~16日、別府亀の井ホテルにて「第28回弦躋塾セミナー」が開催されました。今年は東洋はり医学会会長の中田光亮先生を特別講師としてお招きし、2日間にわたって講義と実技をご指導していただきました。また、初日のセミナー後には、『首藤傳明症例集ー鍼灸臨床50年の物語』(医道の日本社)の出版を記念して、「首藤傳明先生出版祝賀会」が開催されました。セミナー全体の印象や感想は『月刊医道の日本誌』のほうに書いたので(12月号に掲載予定)、こちらでは視点の角度を変えてレポートしたいと思います。

 

中田光亮先生

 

中田先生は19歳のときに福島弘道氏に弟子入りして以来、経絡治療一筋で歩んできた人である。44年のキャリアの中で培われた技術や人間的な魅力が、その姿ににじみ出ている。「九州弁しか話せない田舎者ですからね、(修行時代は)周りから馬鹿にされないよう、もう死ぬ気で頑張りました」と先生は言う。中田先生の手技については後でレポートするが、先に先生の人柄について少し述べます。

 

10年ぐらい前、首藤先生が東洋はり医学会で講演をされたときのこと。当時首藤先生は伝統鍼灸学会の会長をしていて多忙を極めていた。日々の臨床(毎日40人以上)をしながら、月に2回は大分から上京し、講演や理事会などをこなしていた。その日は体調を崩して声の調子が悪かったうえに、「講義のみ」の依頼で、実技はなかった。会場に向かうタクシーの中でも先生は一言も話さず、私は不安になって胸がドキドキ鳴り出したのを覚えている。鍼灸学校や鍼灸師会などで講演するのとは違い、団体に呼ばれて話をするときは独特のアウェー感が漂っていることがある。各団体によって治療理論や手技が異なるのだから仕方が無いのかもしれない。それでも、いったん実技が始まれば、首藤先生の手技に魅せられてベッドの周りに人が集まるという光景を何度も見てきた。しかし、この日は実技はできない。首藤先生はかすれた声で必死に話し始めたが、いつもの名調子のようには行かず、会場は静まりかえっていた。ところが、前のほうに座っていた中田先生は、首藤先生の話しに大きく頷き、ユーモアには声を出して笑い、場の雰囲気を盛り上げてくれたのである。気の調整をする先生方が集まっている会だけあり、良い気が会場に広まっていくのが初心者の私にも感じられたし、東洋はり医学会が国内のみならず、広く海外の鍼灸師に受け入れられている理由がわかった気がした。このときの様子は『医道の日本誌』の連載(2012年12月号)にも書いた。以来、私は中田先生を尊敬している。

 

今回、東洋はり医学会の会長として中田先生が弦躋塾セミナーで講演されることになり、私はこの日が来るのを心待ちにしていた。首藤先生から「イケメンの先生です」と紹介されると、すかさず「私なんかツケメンみたいなもんで」と返したように、中田先生は講義中もダジャレを連発させていた。まじめな話ばかりでは窮屈になるが、大切な話をしている中でダジャレを飛ばすので、適度な緊張感とリラックスを保つことができ、あっという間に講義時間が過ぎた。その治療と同じく、中田先生は陰陽の調整をしながら話を進めていたのかもしれない。また、本題とダジャレが組み合わさることにより、聴講者がキーワードとして記憶しやすいという利点もあったと思う。何よりも九州弁を使って講義されたことが印象深かった。

 

東洋はり医学会は海外に14支部があり、中田先生は海外で指導されることも多い。肉ばかり食べている西洋人は内熱外寒して過敏(気の動きが速い)人が多く、特にアメリカ人は過食過飲のために腎虚脾実で逆気しており、肥満して赤ら顔で、腹や手足が冷たく、感情が激しいという。腎虚で復溜に刺そうと鍼を近づけただけで「Oh!」と声を出すので、どうした?と聞くと、「気が来た」と訴えるほど過敏になっている。また、証を間違えた場合、日本人だと頭痛や気分が悪くなったと言う程度だが、アメリカ人は泣き出したり、わめいたりする人もいるという。そういえば、2010年に首藤先生がドイツで講演をした最終日、参加者に頼まれて私も3~4人に鍼をしていたら、ある西洋人女性からいきなり「I Feel Qi!」とか叫ばれてびっくりしたことがあった。中田先生によると、アメリカ人に続き、イギリス人、ドイツ人は過敏で、オランダやスペインの人は魚を食べるからか、意外と体質が日本人と似ているそうである。

 

そして、「経絡治療はその人の本質である体質を改善ことができ、原因がわからなくても、診断がつかなくても、証を立てれば治療ができる」ことや、「誤治しなければ、必ず良い方向に治る」ことを説明され、「どんな体質の人であっても六部定位で脈を診て、どの経が虚しており、どの経が実しているかを見つけて鍼をすればいい。浅い鍼は世界を制す」と力説された。

 

本治法

補法は素早く鍼を抜く
補法は素早く鍼を抜く
押手に左右圧をかけ、抜鍼と同時に鍼口を閉じる
押手に左右圧をかけ、抜鍼と同時に鍼口を閉じる

中田先生は講義のあと、「皆さんは臨床家だから、話なんかより実技を見せろって顔をしていますね」と言うと、たっぷりとその技術を披露された。東洋はり医学会の特徴とも言える本治法はメリハリがあって迫力を感じたし、補っている際に先生の手が紅潮していくのが確認でき、細かな気の調整をしていることが伝わってきた。また、補的散鍼の手つきは美しく、「浅田真央ちゃんがリンクを滑るように」という中田先生の言葉どおりに円を描いていた。もちろん、これらは長い修行の上に習得した技であって、一回見ただけで真似できるものではない。しかし中田先生は「技」を見せるだけでなく、そのコツを丁寧に指導された。

補的散鍼

1 鍼を寝かせて持ち、右回りさせて押手の人差し指に当てる
1 鍼を寝かせて持ち、右回りさせて押手の人差し指に当てる
2 そのまま鍼をつまんで押手をつくる
2 そのまま鍼をつまんで押手をつくる
3 抜鍼しながら人差し指で鍼痕を閉じる
3 抜鍼しながら人差し指で鍼痕を閉じる

寫的散鍼

1 押手の人差し指を枕にし、その上に鍼を水平に近づける
1 押手の人差し指を枕にし、その上に鍼を水平に近づける
2 押手の母指で鍼を挟みこみ
2 押手の母指で鍼を挟みこみ
3 そのまま鍼先を皮膚に接触させる
3 そのまま鍼先を皮膚に接触させる

補的散鍼も寫的散鍼も、動きが速くて難しいが、初めは3ステップでゆっくり行い、慣れてきたら徐々に速くすればよいとのこと。中田先生のタッチはとても軽くて滑らかで、特に右回りで円を描く補的散鍼は本当にスケートリンクの上を滑っているようだった。

 

実技では鎖骨上窩を中心に行う「ナソ治療」や、鼠径部を中心に行う「ムノ治療」など、東洋はり医学会で行われている手技を披露された。他団体での講演のためか、会の用語である浮実(実邪で気のつかさどり)・弦実(実邪で血のつかさどり)・虚性の邪(体力が無く、邪が客して慢性化)などの説明は詳しくされなかったが、レジュメには虚性の邪である塵(気の変化)・枯(気の変化)・堅(血の変化)、枯骨、キョロ、ゴム粘土などについての解説があった。

背部の刺鍼
背部の刺鍼
腰部の刺鍼
腰部の刺鍼
中田先生の手技
中田先生の手技

東洋はり医学会の治療手順は、四診を行い、69難の法則によって証を立て、陰主陽従、補法優先の原則によって本治法を行なう。刺鍼は本証→副証→陽経の処置→標治法の順に進められる。片方刺しなので、陰陽論によって男性は本証を左側、副証を右側にとり、女性は本証を右側、副証を左側にとる。病症に偏りがあれば健康側にとる。

 

東洋はり独自の施術法である「相剋調整」について質問をすると、中田先生は「相剋的に物の見方をするかしないかということであり、私の臨床では8割ぐらい相剋調整を用いている」と返答された。これは相剋する臓腑経絡が共に虚した場合は両方に補法を行ない、剋する側が虚していれば補方を、剋される側が実していれば寫法を行なう方法である。すなわち肝虚証の場合にまず曲泉・陰谷を補い、相剋経である肺や脾にも補寫を加える場合があるということだ。五行的なバランスを調整しても、たとえば肺と大腸の差が開きすぎている場合もある。鍼を一本打っては相生・相剋関係を診て、最終的には陰陽が整う(整った脈になる)のを目標とする。

 

東洋はり医学会では小里式という脈診の指導・評価システムがあり、どういう脈をしているか、鍼によって脈がどう変化したのかを学べるようになっているが、そのときに主点となるのが正気・邪気の概念である。実際に脈を診て正気を補い、邪気があれば瀉法によって取り除くという手技は感覚的に行なわれるものだ。最近の経絡治療は気血津液の過不足論が主流になりつつあるように感じているが、そのことを中田先生にお聞きすると、「それは中医学の影響があるのかもしれない。しかし臨床においては邪正闘争の概念は欠かせないものです」と話された。鍼灸界には色々な団体があり、それぞれのやり方がある。我々鍼灸師は臨床で使えるものはどんどん吸収し、学んだほうが良い。それが食える鍼灸師を増やすことになるだろうし、日本鍼灸を世界に広める近道にもなるだろう。今回、中田先生の講演を学んで、その思いを強くした。

 

脈診
脈診
頚部の刺鍼
頚部の刺鍼
本治法
本治法

田中清先生

 

眼科医の田中清先生による「眼科鍼灸療法の実際」の発表では、表皮が生命の恒常性を維持するために重要な役割をしており、浅い鍼が副交感神経をするという考えのもとに、「電動式ハンドピース」を使ったデモが行なわれた。セイリン社のJSP鍼を用いて高速回旋させながら皮膚に接触させれば、超旋刺と同様の効果が得られるとのこと。眼科領域の臨床でも好成績を挙げていると田中先生は話された。また、短鍼を攅竹に置鍼して、ホットアイマスクで10分間温めるという実技を行なった。ドライアイや眼精疲労に有効だという。

 

田中先生
田中先生
電動式ハンドピースを用いた刺鍼
電動式ハンドピースを用いた刺鍼
攅竹に短鍼を置鍼する
攅竹に短鍼を置鍼する
置鍼したままホットアイマスクを当てる
置鍼したままホットアイマスクを当てる

 

鍼灸師以外の先生による視点から、皮膚に対して軽く浅い鍼刺激の効果を研究・追試されたことは、我々にとって非常に意義のあることである。これからも専門医からの意見や治験例などをお聞かせ願いたいと思っています。

 

 

弦躋塾セミナーその2に続く

2 コメント

2013年

8月

27日

首藤傳明先生 講義録 第二弾

首藤傳明先生講義録4 P13
首藤傳明先生講義録4 P13
首藤傳明先生講義録5 P37
首藤傳明先生講義録5 P37
首藤傳明先生講義録6 P25
首藤傳明先生講義録6 P25

 

 

「首藤傳明先生講義録」の第二弾をアップロードしました。

 

今回は4から6までです。こちらからダウンロードページに進んで下さい。

 

 

色々な先生方から感想が届いています。ありがとうございます。首藤先生の講義を読み、臨床に生かしていただければ幸いです。もう少し涼しくなったら、動画の作成に取り掛かります。こちらもご期待下さい。

 

 

2 コメント

2013年

8月

01日

首藤傳明先生 講義録 第一弾

首藤傳明先生講義録1 P19
首藤傳明先生講義録1 P19
首藤傳明先生講義録2 P19
首藤傳明先生講義録2 P19
首藤傳明先生講義録3 P28
首藤傳明先生講義録3 P28

「首藤傳明先生講義録」をアップロードしました。

 

これは弦躋塾や学会での首藤先生の講義の様子を、録音から一字一句そのままに文字起こししたものです。

 

第一弾は1から3までです。「私の師匠タブ」から「講義録」をクリックしてダウンロードページに進んでください。

 

これから徐々に続きを作成する予定です。

 

 

4 コメント

2013年

7月

22日

弦躋塾リレー講義・補足2

本の紹介

 

今回の講義で中国の許躍遠(许跃远)先生による『中華脈神』の紹介をしました。現代解剖学や生理学の立場と古典の両方から脈診を研究されている良書だと思います。この先生の考え方は、頭・頚・胸・上肢及びその所属器官は、血液の供給を大動脈弓の第一分枝から受け、寸の部位に感応するとし、その中でも頭部の脈象の状況は寸脈の遠心端に、頚部の状況は寸脈の中部に、胸腔とそこにある臓器は寸脈に状況が現れるとします。同じく人体の中腹部臓器、すなわち肝・胆・すい臓・脾・胃・両側腎臓・副腎・腸管(右結腸曲・空腸・回腸・腸間膜)などは腹腔動脈からの分枝により関脈に反応が現れ、肝・胆・脾胃の脈象は関脈の遠心端に、腎・膵腺・腸などの脈気は関脈の近心端に現れる。そして骨盤内臓器や下肢などの血液は内外の腸骨動脈から供給され、膀胱・前立腺・尿管・子宮・左結腸曲及び直腸・両下肢などは尺脈に反応が現れる。脈圧も上下では一様ではなく、大動脈弓が最も高く、次が中腹部で、腸骨動脈はやや弱くなり、寸・関・尺の脈圧と相応すると考えます。今回のリレー講義用に一部翻訳したので以下に記します。

 

「左脳に梗塞や炎症など病変が出現したとき、左寸の脈力は増強する。右脳ならば右寸が強くなる。ためしに片側の頚動脈を圧迫すると、同側の脈力が増強するはずだ。なぜなら心臓の拍動する力は変わらないため、上肢の動脈内圧が高まって脈が強くなるからである。反対に寸の脈が弱い場合は、心臓疾患の除外を前提にすれば、同側の脳組織への血液供給不足、あるいは循環血液の不足である。同じく関上の脈は中腹部器官、主として消化系統の脈気が現れる。解剖学上、この部分の臓器には動静脈が短粗で血流が速く、下に降りるにつれて動脈内の圧力は低くなるという特徴がある。関脈に弦・緊が出現するときは、微循環が滞り、大動脈弓及び分枝の脈圧も高くなっている。臨床上、肝火旺盛病の患者の血圧が高いのはこのような理由によるものである。事実、そのような患者は血圧が不安定になっているだけで必ずしも高血圧病ではなく、臨床上は中焦をわずかに瀉せば血圧はすぐに落ち着くものだ。人体の遠端臓器、中腹部器官は血圧の作用に調節され、相対する寸脈、関脈の血液運行にも大きな影響を与える。このような現象も脈象を研究する着眼点になる。」

 

このように許先生の脈診は古典の解釈と現代医学をミックスしており、とても興味深いです。脈状についても詳しく説明されており、たとえば浮脈ならば、なぜ浮くのかという病理・解剖、その特徴(浮脈の感触は、労働者の前腕部の怒張した静脈に触れた感じ、緊脈は切れたばかりのヤモリの尾、散脈はチューブから出した歯磨き粉を押さえた感触など、チャイナ風の表現が満載)、浮脈の現代的臨床意義、浮脈の鑑別、脈の特徴を覚えるための歌(脈訣)なども載っています。まだ翻訳されていないのが残念ですが、許先生は中国では非常に知名度の高い先生であり、本書は脈診を学ぶ方の参考になるでしょう。

 

 


 

『心の治癒力』はチベット仏教とチベット医学の教えを用いて、主に瞑想によって己の内面をコントロールし、自分自身を癒す方法が書かれた本です。宗教臭さがなく、誰もが読みやすく書かれていると思います。私はこの書のお陰で過去への執着、劣等感、嫉妬心などから逃れることが出来ました。いつも実践するのは簡単ではないけど、座右の書として手元に置いています。『北米東洋医学誌』の58号にこの本の紹介を載せてあるので、興味のある方はそちらも読んで下さい。

 

『図解黄帝内経全集』は時間の都合で紹介できませんでした。豊富な図や表を用いて、運気論まで含めた素問・霊枢をわかりやすく解説した本です(ただし中国語)。昼休みに質問に来ていただいた先生方には話したのですが、経済発展に伴い、最近は中医学も進化を続けています。80年代や90年代の中国とは比べ物にならぬほど書物も豊富です。我々はこれを利用するべきです。当然、中医学を実践している人と患者の数が膨大であり、中国人民の頭の中には常識として瘀血、痰飲、疏泄、陰虚、陽虚、天人合一などの概念が入っています。本当は浦山きか先生が言われるように、古典は学生の頃から原文で読むべきというのが理想的かもしれません。首藤先生も「原文を読むほうが解説本よりも身に付く」といっています。しかし何も知らない者がいきなり漢字(それも古代文)の羅列に立ち向かえば、よほどのオタクでない限り飽きて眠くなるのが当然です。それよりも先に全体像を把握し、広く浅く知るということも大切だと思います。何しろ、日本の新卒鍼灸師よりも、中国の一般人のほうがはるかに東洋医学の知識を持っているのが現実です。この本は専門書ではなく一般向けですが、日本の鍼灸師がこのような本を読んだら、「えっ、中国の人にはこんなに古典医学の思想が根付いているのか」と驚くはずです。

 

そして、できれば中国に飛んで、新華書店などに行くことをお勧めします。毎回といっていいほど良い本が見つかるものです。それに安い。この本だって797ページもあって68元(1000円ちょっと)です。もちろん古典の専門書だって安く手に入ります。素問や霊枢の校釈、太素、甲乙経をはじめ、日本では知られていない様々な先生の治療法や臨床録などが並んでいます(変なのもあるけど...)。今ならLCC航空券を使えば格安で中国に行けます。20年前だったらビザ代に加えて10倍以上の交通費がかかったうえ、旅は不便で服務員の態度も悪く、どこに行っても「没有!」ばかりでした。良い時代になりました。

 

そうやって古典世界の概要を知った上で、家本誠一先生の『素問訳注』『霊枢訳注』などを読めば横のつながりも分かりやすくなるし、古典が楽しくなったら日本内経学会から出ている『素問』や『霊枢』などに進めばいいと思います。その時は浦山きか先生の『漢文で読む霊枢』で勉強法を学ぶ事ができます。そのように段階を踏めば古典に挫折しないで済むのではないでしょうか。たとえば高尾山には誰でも登れるけれども、素人が北岳バットレスに行ったら死にます。そうならないように、まずは登山の経験を積んで北アルプスなどを楽しみ、さらに興味があれば日和田山などで岩登りを講習してからクライミングに向かえばいいのです。とはいえ、そういう私も岩登り教室から先へ進まない状況が続いています。頭が悪いのか、古典を学ぶ才能が無いのか。たぶん、どっちもです。

 


 

『養生訓』は江戸時代の儒学者である貝原益軒が83歳のときに著した「養生の書」です。自らが長生きできた秘訣や、健康を損なう物を排除することの大切さが書かれています。一言でいえば、欲望を我慢して感情的にならないことです。「養生の道を実行することは、ただ飲食を少なくし、病気を助長するものを食べず、色欲を慎み、精気をもらさず、怒り・悲しみ・憂い・思いなどの感情に激しないことである」と益軒は述べています。身体を損なうものは内から生ずる飲食の欲、好色の欲、眠りの欲、言語をほしいままにする欲、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七情と、外からやってくる邪気である風・寒・暑・湿の天の四気(日本の気候ゆえか、燥は入っていない)であり、これらを防ぐことができれば、たえず元気はつらつとして、天寿を全うすることができるというのです。

 

この本の魅力は、分かりやすい文章で書かれていることと、日常生活上のちょっとした注意による「養生の実践法」が書かれていることです。寝る前に熱い茶に塩を入れてうがいをすると口中を清潔に保ち歯を堅固にするが、「茶は番茶で十分」とか、「40歳以上は、用事が無かったら目をつむっておけ」とか、読んでいると益軒のストイックな人柄が伺えます。「孫思邈が養生の祖であり、養生法も治療法も『千金方』を本にすべきである」とあり、儒学者の益軒が老荘思想を好んだ孫思邈を評価している点も興味深いです。とにかく欲を慎めと繰り返し述べています。彼がもし現代に生きていたら、今の日本人は不養生でけしからんと嘆くことでしょう。一節が短いので、遠野物語を読んでいるような趣もあります。鍼の話は2つだけですが、灸の話は結構あります。さらに巻末の原文を読めば、気分は江戸時代にワープできます。ポケットやかばんに入れて、通勤や通学の際にチョット読みできます。

 

『首藤傳明症例集』については、ここで取り上げるまでもないですが、首藤三部作の最新刊であり、50年の臨床から導きだされた治療法が満載された本です。当サイト、〔私の師匠〕タブから、右横にある〔著作の紹介〕でも、首藤先生の本やDVDについて紹介しています。

 

ジャンルを超える

 

鍼灸の流儀に限らず、ジャンルの違う治療法でも、人間の体を診るという点は同じです。運動器疾患はそれが著明です。たとえば頭痛や肩こりなどで後頭部にアプローチする場合、経絡治療ならば天柱や上天柱・風池・柳谷風池・完骨などを、トリガーポイント(TP)なら半棘筋や板状筋、後頭下筋群を狙い、オステオパシーなら項靭帯をゆるめて後頭環椎間をリリースします。同じく腰へのアプローチならば、TPなら多裂筋・腸肋筋・最長筋・大腰筋・腰方形筋、あるいは小・中臀筋の責任TPを探し、オステならば仙腸関節や腰仙関節をゆるめ、経絡治療ならば大腸兪・腸骨点・上仙・志室・殿圧・殿頂といったツボに刺鍼します。スタイルは違えども、狙いはだいたい同じ場所です。但しそれぞれの解釈には相違があるため、自分の中で都合の良いように咀嚼することが大切です。その際、リスクは回避すべきです。たとえば黒岩共一先生の書いたTPの本には後頭下筋群にアプローチするには50ミリの刺鍼が必要と書いてありますが、それはあくまでも指標であり、体格や体型によって差異があるのは当然のことです。それを考えずに刺鍼をすると事故が発生する恐れがあります。先月、福岡で行われた全日本鍼灸学会のポスター発表に「天柱・風池に5センチ近く刺入して硬膜下血腫を起こしたと思われる例」というのがありましたが、正にそういうケースです。東京時代、日鍼会の伊集院先生からも深鍼による事故が増加していると聞いたことがあります。気胸なども含め、刺鍼事故が起きれば鍼灸師としての信用を一気に失うことになるばかりでなく、鍼灸治療全体の評判も悪くなります。臨床家は細心の注意を払うべきです。リスクのある深い刺鍼をするならば、ちょっと本をかじっただけでなく、しっかりと勉強会に参加して学ぶべきです。黒岩先生の主催する「トリ研」は、深鍼をする人や、解剖学的に人体を把握したい人にとって最良の研修会となるでしょう。

 

経絡治療をしている者は刺激に敏感になっていく傾向があります。ある経絡治療の研修会に参加したら、異常と思えるほど神経質な人たちがいて驚いたことがあります。集団ヒステリーに近いと感じました。その反対にTPにはドーゼという発想が無く、責任トリガーポイントに当たるまでは何度も刺鍼を繰り返すべきと考えます。鍼は太くて、置鍼する本数も多い。私はTP研究会の帰りに、鍼を刺された腰が痛くて足を引きずったことがありました。あまり局所に照準を合わせすぎると、相手は人間ではなく筋肉だと勘違いする恐れが生じるのではないでしょうか。そういう意味からも、五蔵のもつ精神性を念頭に置いて治療にあたることが大切だと思います。一方で、古典派の治療家は衛生面の配慮に欠けている場合が多いです。何度も使いまわしたような鍼を消毒もせずに刺したり、口にくわえたりするのを見るとゾッとするし、そういう鍼を膝や肩などの関節包に刺入するのは問題外です。

 

我々は安全で効果的な方法を追求するべきで、それは「患者さんにとって一番の利益」になるはずです。古典系の勉強会に参加すると、古典を絶対視していて、まるで原理主義者のような人たちがいます。古典に書いてあることを無理やり人体に押しつけようとする傾向があり、「体を冷やすから消毒はダメだ」とか、「飲み薬はすべて湿邪になる」などとベテランの先生が平気で言うのです。そのような会に出入りしている学生は「古典脳」にかかりやすく、西洋医学を軽視するようになる恐れがあります。『首藤傳明症例集』のp153、「治療とは古典のためではない。病を治すための古典理解・利用であって、西洋医学からの疾病理解も必要である」の通りだと思います。

 

私は経絡治療もトリガーポイントも中医学も、あるいはオステオパシーなど鍼灸以外のテクニックでも、使える部分を吸収して自分のものにすればいいと考えています。目的は患者さんを治せるようになることであって、流儀や流派などにこだわる必要もない。首藤先生だって若い頃から色々と試されて、「効果があったものが残った」と言われているし、そういう積み重ねをした結果、優れた臨床家となったのであり、我々はそういう過程をも学ぶべきではないでしょうか。

筋の弾力を診る
筋の弾力を診る
10 コメント

2013年

7月

20日

弦躋塾リレー講義・補足1

弦躋塾リレー講義の続きです。当日は言いたいことがいっぱいありすぎて、うまくまとめて講義ができませんでした。昼休みには熱心な先生方から質問があり、もっと詳しく伝えなければいけないと痛感しました。そこで、2回にわけて「講義内容の補足」をします。塾に参加した方の参考になれば幸いです。

質問をする勉強熱心な先生方
質問をする勉強熱心な先生方

私の治療と勉強方法

 

私の治療は「蔵と経絡の調整」をすることを目標とし、四診によって証を決めます。同時に筋骨格系や頭蓋仙骨系からのアプローチも視野に入れ、骨盤や椎骨のゆがみ、筋の弾力性、後頭部の緊張や脆弱、骨盤隔膜・横隔膜・胸郭隔膜などの緊張度などをみます。これらは運動器疾患だけでなく、精神面の把握をするうえでも有効だと考えています。

 

望診は患者が治療室に入ってきたとき、本人が気づかないうちに素早く行う必要があります。神の状態を診るには、眼光、顔の表情、色つやを観察して判断します。聞診は主に患者の口臭や体臭を、往診のときには病室の臭いも参考にします。問診は他の三診で得られないデータを得ることができ、最も重要です。主訴、現病歴、既往歴、痛み、睡眠、食事、二便、情緒は必ず問います。また、予診表に正しく記入しない人、名前や住所を書かない人は、術者を信頼していないサインです。反対にビッシリと症状を書き込んでいる人は心の病を疑います。切経では、肌のつやと筋肉の弾力(背部がわかりやすい)に注目します。健康ならば、その人なりに弾力があります。ベタッとして跳ね返す力がなければ、自律神経が失調しています。衛気が不足しているとも考えられます。そのような人に深い鍼や強い刺激を与えるのは禁物です。

 

骨格模型を用いることで、骨の形状を視覚的にも触覚的にも理解することができます。首藤先生の本にも解剖学用語がよく出てきます。たとえば、『症例集』p241肘の治療で、「外側上顆をさぐり、へこみが見つかればしめたもの」と。この場合も肘関節の形状を把握することが大切であり、骨格模型を使って勉強すれば立体的に、そして感覚的に学ぶことができます。厚手のタオルを何重にも巻きつけて触診し、自分がどこに触れているのか確認する練習をします。同時に『触診解剖アトラス上肢・下肢』(医学書院)があれば理解が進みます。さらに筋の把握をするには『骨格筋の形と触察法』(大峰閣)が参考になります。

骨格模型を活用する
骨格模型を活用する

脈診とツボ

 

脈診は現在のところ、シンプルなものほど迷いが少なく実践的であると考えています。脈差と脈状の両方を参考にしますが、脈状は細分化するほど判断が難しく、客観性に乏しくなっていきます。そもそも一本の橈骨動脈から3箇所(両手で6箇所)に蔵府を配当させて、浮沈の陰陽、脈の形状やリズム、強弱を感じ取るには、相当のイマジネーションを働かせなければなりません。誰もが同じように脈を診るためにはシンプルに把握できるような方法がよく、その上で各々が推察力や想像力を磨いていけばいいと思います。脈がわかりにくいときは、脈以外の望聞問切をしっかり診れば証は決められます。脈だけに固執する必要も無いです。

 

東京時代、脈診が主体の研修会で勉強をしていた頃の話ですが、自分がモデルになって鍼を受けたとき、どんなに「良い脈になった」と言われようが、実際に楽になることは少なかったです。もちろん上手い先生もいましたが、あちこちといじくり回されて具合が悪くなることが多かったです。いくら脈が整ったと言われても体調が悪くなったら治療としては失敗です。結局、脈を診ることだけに囚われていてはダメだというのが、その会で一番学んだことでした。いま私が行っている脈診は、虚した経の要穴に触れて、脈が良い方向に変わる経と蔵をターゲットとするシンプルなものです。

『首藤傳明症例集』は宝の山
『首藤傳明症例集』は宝の山

本治法における五行穴の運用は思考錯誤を繰り返しており、現状では感覚にたよって選穴することが多いです。しかし、『首藤傳明症例集』p206にあるように、尿管結石で腰の激痛が止まらないような場合は、話はそう簡単には行かないでしょう。首藤先生が「なぜ曲泉でなく太敦なのか」と書かれていたように、症状によってツボの効き方も変動するようです。私はまだ治療中の患者が突然発作性の痛みを訴えたという経験がありません。首藤先生は長年の経験から、結石は脾虚証が多く太白が奏効し、痛みが止まらぬ場合は地機の硬結を見つけて刺鍼することで止まった例があると記しています。また、反関の脈の患者、太白に刺鍼で一向に治まらず、肝虚証とみて大敦に刺鍼したとたんに鎮痛したとあります。穴性から考えると自経の自穴を、つまり脾虚証の場合は土経の土穴、肝虚証の場合は木経の木穴を使用しています。当然、腎虚証ならば水経の水穴である陰谷を使うのではと思うところですが、首藤先生は腎虚証のときは金穴である復溜を、同じく肺虚証のときは土穴である太淵を使っています。ただし症例は少ないそうです。この場合はどちらも母経の母穴を用いていることになります。最も性格の強い「自経の自穴」という理屈を押し付ければ腎虚は水穴であり、肺虚は金穴であってほしいところですが、実際の臨床ではそのような選穴が効果的だったということです。我々はここから「なぜ、そうなったのか」ということを推測、研究するべきであり、その答えを探すために古典を利用するのだと思います。このように、『首藤傳明症例集』には我々臨床鍼灸師にとって研究材料がたくさん埋まっています。

 

ベテラン臨床家は使い慣れたツボというのを持っています。もちろん証によりますが、首藤先生は復溜や太淵といったツボを愛用しているようです。それはおそらく、先生ご自身が若い頃に復溜の刺鍼によって経絡治療の効果を体感されたことや、肺虚証体質で気分がすぐれないときに、何度も太淵の鍼によって救われてきたことと関連があるのかもしれません。私(高嶋)にもそういうツボがあります。2008年に飛行機内で急患に治療をしたとき、腎虚証で陰谷を使おうとしたのですが、ズボンが上がらず刺鍼できませんでした。かわりに最も冷えていた原穴の太谿に刺鍼したところ、かなりの手応えを感じたのです。それ以来、太谿は愛着のあるツボとなりました。今では脈を診ながら選経するときも、腎虚証のときの第一候補としても、自然に太谿に手が行くようになりました。50年も臨床を続けてきた首藤先生のことですから、よく使うツボには色々なエピソードがあるはずです。きっとその一穴が、過去に様々な場面を乗り越えてきたに違いありません。だからこそ痛みをパッと止めることができるのだと思います。私のような経験の浅い者には、日々臨床を積み重ねてツボをものにしていくしかありません。早く先生のように上手になりたいけど、経験だけは急ぐことが出来ないです。

 

(リレー講義・補足2に続く)

2 コメント

2013年

7月

16日

第158回弦躋塾 リレー講義

金曜日に大分へ
金曜日に大分へ
いつも仲良し、首藤先生と奥様
いつも仲良し、首藤先生と奥様
弦躋塾の受講風景
弦躋塾の受講風景

714日(日)、大分の全労済ソレイユにて「第158回弦躋塾」が開催されました。数日前に台風が発生したので、大事をとって金曜日に島を出発。今回は私がリレー講義の担当のため、「海がしけて船が欠航」という事態は避けたく、早めに大分に到着することにした。ゆっくりとホテルで講演の予習をして過ごす。土曜の夜は首藤先生夫妻より食事に誘っていただき、奥様から「明日はあんたの応援に行くで」と言われてビックリ。酒の席だから冗談だと思ったけど、当日は本当に来て頂いたので感激しました。ありがとうございました。

離島鍼灸師の臨床と生活
「離島鍼灸師の臨床と生活」
講義中の私
講義中の私
「ビデオ首藤鍼灸院治療風景」
「ビデオ首藤鍼灸院治療風景」

弦躋塾午前のスケジュールは、塾長による「これからの臨床家たちへ」と、私(高嶋)による「離島鍼灸師の臨床と生活」。午後は高嶋の「実技」、塾長による「ビデオ首藤鍼灸院治療風景」と「実技」が行われた。私の実力で2コマ(2時間)は厳しかったけど、いま出来ることを全力でやりました。症例発表では患者に許可をもらって島での臨床や往診の動画、写真を見てもらうことができたし、日々の臨床で感じていることや研究方法、勉強となる書物の紹介もできた。あれこれと詰め込みすぎて話が散漫になってしまいました。参加者が取捨選択して参考にしてくれたら幸いです。実をいうと、骨格模型とビニールテープを使った「筋と骨の動き」を把握する方法や、頭蓋骨模型を使った「誰でもすぐに使える頭痛治療のデモ」も考えていたけど、省きました。

実技中の私
実技中の私
塾長による実技
塾長による実技

また、私と首藤先生の実技が続いたので、臨床12年と50年の違いを見ていただけたと思います。首藤先生の域に到達できる鍼灸師が世の中にどれだけいるかわかりませんが、私程度なら10年やれば誰でもなれます。学生や初心者の方、自信を持って臨床を続けてください。そしてお互いに慢心せず、首藤先生を目指して頑張りましょう!

月曜の午後、島に帰りました
月曜の午後、五島に帰りました
4 コメント

2013年

6月

14日

第62回全日本鍼灸学会学術大会 九州大会

太古丸で博多へ
太古丸で博多へ
学会は2日目より参加
学会は2日目より参加
特別講演をする島田先生
特別講演をする島田先生

67日~9日の3日間、博多のアクロス福岡で第62回全日本鍼灸学会学術大会 九州大会が開催された。私も太古丸で博多入りし、学会には2日目の朝から参加。今回は首藤先生による「若者に向けるランチョンセミナー」と、「超旋刺」の実技講演があり、塾長を応援するつもりで参加を決めたが、学会の充実した演題の数々に勉強意欲が高まり、とても充実した2日間となった。

 

教育講演は久留米大学医学部教授・内村直尚先生による「ストレスや睡眠とからだやこころの疲労」。寝不足はストレスを解放できず、血圧がコレステロールの値が上がり、糖尿病のリスクが高まることや、睡眠時間が6時間を切るとこころの病をおこし、反対に9時間以上寝ると睡眠の質が低下して早死にする。質の良い睡眠をとるためには、まず早起きをすることが早寝につながること、そして脳の疲れを取るためには睡眠しかないという。質の良い睡眠をとれば成長ホルモンが分泌され、頭が良くなり、肥満にならず、肌がきれいになるそうだ。やはり古典に書いてあるように、自然界に同調して生きるのが正しいのだと納得。

 

特別講演Ⅰは大分大学医学部 名誉教授の島田達生先生による「電子顕微鏡が捉えた皮膚の不思議な世界」。鍼灸が皮膚を刺激することによって、体にどのような影響を与えているのかということを細胞の世界から解説された。スライドには「超旋刺の謎に迫る」とあり、浅い鍼を高速回旋させる首藤先生の鍼がなぜ効くのかということを、極小の世界から観察した画期的な発表だった。超旋刺の刺激が、表皮内にあるランゲルハンス細胞やTリンパ球を活性化させて免疫力を高め、真皮にある自由神経終末、マイスネル触覚小体等の刺激が脳幹を通じて間脳や大脳皮質に通じ、それは自律神経系の調節や体知覚にも関与していることが予想されるそうだ。経絡との関連では表皮直下の密な網目の細網繊維板が体全域に広がり、消化管、気道系、尿路系ともつながっているのだという。とすれば、証によって経絡を使い分ける意味とどんな関連があるのかという興味が湧く。島田先生の今後の研究を期待したい。

 

首藤先生の講演は大人気
首藤先生の講演は大人気
首藤先生のランチョンセミナー
首藤先生のランチョンセミナー
サインの求めに応じる首藤先生
サインの求めに応じる首藤先生

実技セッションでは、山崎浩一郎先生の「太極治療の基礎と実技」、朝日山一男先生による「スポーツ現場における鍼施術」を受講、朝日山先生の治療は解剖学だけでなく経絡も考えたもので、病態に合わせて局所への強刺激からパイオネクス(円皮鍼)の添付までおこなう。現代医学と古典医学のどちらにも偏らない柔軟な姿勢は理想的であり、スマートな講演に感銘を受けた。

 

そして実技セッションの最後は首藤傳明先生の「超旋刺」。今回の実技セッションはビデオによる実技の閲覧であり、特に首藤先生の実技はぜひとも生で見ていただきたいので少々残念だったが、81歳になられた先生の手技はとても素早く、私が見学していた10数年前と全く変わっておらず、動画からもその迫力は充分に伝わってきた。隣に座っていた若い女性鍼灸師、暗い部屋の中で熱心にメモを取っていたのは感心したが、曲池、肩井、足三里などとツボの名前ばかり書き込んでいて、肝心の取穴をする場面や刺鍼をする様子は見ていなかった。「そこが大切なのに」とも思ったけど、おせっかいオヤジは嫌われるので黙っていました。

 

それにしても、81歳という年齢で全日本学会の講演を2コマ(2時間)こなしたうえに、2日目の夜は経絡治療学会の馬場先生らと1時頃まで飲んでいたというのだから驚きだ。弟子が言うのも何だけど、こんなすごい先生は他にいない。首藤先生は今学会の目玉だったと思います。

 

実技セッション・超旋刺~私の臨床
実技セッション・超旋刺~私の臨床
   首藤先生と弦躋塾生
   首藤先生と弦躋塾生
ポスター発表をする伴先生
ポスター発表をする伴先生

ポスター発表では、伴尚志先生の「難経は仏教の身体観を包含していた」が興味深かった。難経の脈診における思想配分は22難中に黄老18難、仏教3難、讖緯説1難とし、「『難経』は黄老的な身体観を基本としながら、仏教の身体観を多く取り入れてると言える」という内容の発表で、とても勉強になった。残念だったのは質疑応答のとき、この学会の特徴なのか、単に頭の良い先生が自分の知識をひけらかしたいのか、発表に対して否定的と感じる質問・意見があったことだ。物の言い方ひとつで随分と印象が変わるのだから、聴講者は発表者に対して敬意を表しつつ質問するべきであると思う。インテリの嫌な部分を見たようで不快だった。伴先生は『難経鉄鑑』を始め様々な古典を訳して、ネットで(無料で)提供されている奇特な方である。我々後学の味方であり、その度量の大きさに心から敬意を表したい。私も(レベルは全然違うけど)そういう姿勢で鍼灸界に貢献していきたい。

 

仕方がないことだが、学会は複数の演題が同時進行するため、全ての発表を聞くことはできない。会頭講演の「がんの患者さんと共に歩んできた日々」や、シンポジウム「緩和ケアと鍼灸」など、聞きたいのに聞けない講演や発表も少なからずあったが、それは贅沢な悩みかもしれない。久々に参加した全日本大会、とても勉強になりました。

 

翌朝五島に着く頃、巻網船が出航していった
翌朝五島に着く頃、巻網船が出航していった
0 コメント

2013年

5月

27日

猫でもわかる東洋医学講座

昨日(5月26日)、佐賀のわくわくセミナースタジオにて、「猫でもわかる東洋医学講座」をしてきました。鍼灸師以外(柔整・あんま指圧マッサージ・整体)の先生方が対象のため、できるだけわかりやすく解説しようと必死だったが、皆さんの顔にはてなマークが浮かんでしまう場面もあり、自分の力量不足を思い知らされた。時間もずれこみ、せっかくケータリングで美味しい「陰陽・重ね煮カレー」を用意してくれていたのに、昼食の時間が遅れたためにチキンウイングが崩れてしまった。ごめんなさい。

 

午前10時から17時近くまで真剣に講義を聞いてくださった参加者の皆様、本当にお疲れ様でした。先生方のご協力に感謝します。ぜひ臨床で東洋医学の考え方を役立てていただければと思います。


セミナーに参加した先生方と昼食
セミナーに参加した先生方と昼食
今朝のフェリーで五島に帰宅
今朝のフェリーで五島に帰宅

追記

お配りした資料に誤字がありました。P10の11行目、痰陰を痰飲に、P15の中段3行目、「から足趾末端」を削除してください。

 

また今回の資料の病理・病証は(理解しやすいので)中医学の理論を記しました。P26の寒熱のところで、「寒邪を受けるなどして絶対的に陰が強い状態を陰実証といい、悪寒、畏寒、顔面蒼白、冷え、舌淡・・・」とありますが、冷えが盛んな状態は陰盛証であり、陰実証は陰のものが実して熱を持つ(肝実)という考え方もあることを覚えておいてください。

4 コメント

2013年

5月

13日

第157回弦躋塾と安部清一先生の卒寿祝い

会場の様子
会場の様子
講義中の首藤先生
講義中の首藤先生
実技
実技

2013年5月12日、大分の弦躋塾に参加した。100名以上の参加者があり、会場は満員。私も久しぶりに先生方と話が出来て、よい刺激になった。

 

午前中は首藤先生の頭痛の講義と塾生のリレー講義、芝原先生による「肩こりの一穴・極泉」の実技があり、午後は取穴論(天牖・翳風・天柱・上天柱・風池・柳谷風池)と実技が行なわれた。

安部先生のお祝い
安部先生のお祝い
役者がそろった!
役者がそろった!
楽しく飲んで話が弾む
楽しく飲んで話が弾む

弦躋塾の終了後は近くの寿司屋にて、副塾長の安部清一先生の卒寿のお祝いが開かれた。

久しぶりに野上先生が来られ、上尾先生、芝原先生と共に「弦躋塾三羽烏」が揃い、安倍先生、首藤先生の嬉しそうな笑顔が印象的だった。

 

安部先生は90歳になった今も現役の鍼灸師です。いつまでもお元気で、ご指導よろしくお願いします。

 

フェリー太古から見た中通島
フェリー太古から見た中通島

 

帰りは博多から太古丸で五島へ。

青方港に6時に着くので、早起きして甲板から島の風景を撮りました。

 

今朝の日の出
今朝の日の出

2 コメント

2013年

5月

10日

一段落

必死に勉強中の図
必死に勉強中の図

この一ヶ月間、勉強漬けで頭がパーになりそうだったが、ようやく東洋医学講座の資料が完成した。

 

陰陽・五行・気血津液・蔵象・経絡・四診が主な内容で、易から天人合一の話なども入れて58ページになった。これをわかりやすく伝えられるように、まだまだ勉強しなくてはならないけど、とりあえず一段落。

 

また、カナダの水谷潤治先生が主宰されている『北米東洋医学誌』2013年7月号用の原稿も書き終えて、ホッとしたところ。

 

明日は大分に向けて出発し、明後日(5月12日)に行なわれる弦躋塾(師匠の首藤傳明先生が主宰する鍼灸の勉強会)に参加します。とても楽しみ。

 

 

 

 

0 コメント

2013年

4月

12日

東洋医学、おさらい中

往診に向かう途中で見た風景
往診に向かう途中で見た風景

手技療法の先生に頼まれて、東洋医学についての講義をすることになった。

自分の学びになると思い気軽に引き受けたものの、人に教えるとなると難しい。

解っているつもりのことがあやふやだったり、自分の理解が浅いものだと反省する。毎日少しづつ古典や経絡治療、中医学の本などをひっぱり出しては読んで、まとめる作業を続けている。

あと一ヶ月、

あー、時間が足りない。

 

0 コメント

2013年

4月

07日

明倫堂のWEBサイトを開設しました

頭ヶ島にて
頭ヶ島にて

3日前、妻がjimdoの無料ホームページを見つけてきた。

 

「簡単そうだから治療院のWEBサイトを作ろうよ」と言われ、面倒くさいなと思いつつも着手。本当にあっという間に出来てしまったので驚いた。

 

HTMLやCSSなど何も考えずにドンドン作成して完成。これが無料だなんてすごい時代になったなー。ブログまでついてるなんて、ありがたいことです。

 

今日は暴風と高波で大荒れの五島列島ですが、心は晴々としたので爽やかな写真をアップします。

 

これから鍼灸の勉強や治療のこと、趣味や日常のことなど色々と書いていきます。

気楽におつきあい下さい。

 

                    それではブログのスタートです!

 

 

0 コメント