2014年

5月

30日

第63回全日本鍼灸学会愛媛大会

2014年5月16日~18日の3日間、松山にて「第63回全日本鍼灸学会・愛媛大会」が開催された。テーマは「いのちの源をみつめる鍼灸~からだとこころの癒しを求めて」。今回は大分から弦躋塾の先生方と一緒に、佐賀関から早朝のフェリーで四国に向かった。

 

初日は「泌尿器科領域に対する鍼灸治療の効果と現状」のセミナーを受講した。特に邵仁哲(そうじんてつ)先生の講演はとてもわかりやすくて勉強になった。尿のトラブルといっても様々な症状があるが、男性は出にくく(前立腺)女性は漏れやすい、男性は尿道炎で女性は膀胱炎など、それぞれの「下部尿路症状」の特徴について学んだ。T10~L2下腹神経(交感神経)は蓄尿に、S2~S4骨盤神経(副交感神経)は排尿に働く。泌尿器の泌を秘と読み間違え、陰部という場所と相まって恥ずかしい印象をもつ患者が多いことや、それによって症状を我慢してしまうケースがあるということなど、臨床に活かせると感じたセミナーだった。

会場は松山のひめぎんホール
会場は松山のひめぎんホール
一緒に行った弦躋塾の先生方と
一緒に行った弦躋塾の先生方と

 

2日目、村上和雄先生の「こころと遺伝子」は、どう生きるべきであるかということを考えさせる講演だった。ノーベル賞をとるような天才と凡人の遺伝子は99.5%が同じであり、眠っている0.5%の遺伝子をどう動かすか(スイッチ・オン)によって、その人の人生が変わるという。そのためには明るく・前向き・笑いの3要素が必要であり、簡単に説明のつかないものを信じる力が、良い遺伝子のスイッチオンにつながるそうである。精巧な生命の設計図である遺伝子情報は誰が書いたのか。それは人知を超えたもの(サムシング・グレート)の存在であると先生は言う。私たちは生きているのではなく、大自然によって生かされているのであり、目に見える自然よりもデータ化できない自然の働きの方に目を向けるべきであるという話に感銘を受けた。また、西洋医学だけでは人を救えず、これから祈りと医療の研究が増すのではないかと村上先生は言う。アメリカ西海岸から東海岸の患者に対して祈るという実験をしたところ、普通の患者よりも祈られている患者(本人は知らない)の治療効果が高かったそうだ。「祈りは空間と時間を越えるかもしれない」という先生の言葉に、私達が日々行なっている鍼灸治療にもそのこころは働いていると感じた。目の前で痛みや苦しみを訴える患者さんに対して、私たちは鍼をしながら「早く楽になってほしい」と無意識に祈っているはずだからである。これからはさらに、明るく、前向きに、笑いの3つを意識して臨床に取り組もう。

 

moxafricaスタッフの皆さん
moxafricaスタッフの皆さん
勉強を終えて乾杯
勉強を終えて乾杯

その他、山口創先生による「身体接触によるこころの癒し」では、五感のはじまりは皮膚からであり、皮膚の振動が全身に伝わって脳に影響を与えること、1秒間に5センチから10センチの速さで撫でるのが一番リラックスできることなどをお話していただいた。弱い刺激は神経細胞の再生を促すため、鍼も弱い刺激が良い。いろいろな場所の皮膚に触れることで心の状態が良くなり、心の状態が良くなると内臓に影響を与え、皮膚の状態も良くなる。皮膚の触覚機能には知覚機能のほかに感情喚起機能もあり、触れ合うことでオキシトシンが出て不安・抑うつの症状を低下させるという。超旋刺や鍉鍼などがなぜ効くのかということに対して理解が深まる講演だった。

 

moxafricaはアフリカの結核患者を助けるための補助療法として日本式の直接灸を取り入れ、その効果を調査しているチャリティ団体である。スタッフの伊田屋幸子先生は講演で「灸の利点」として、安価であること・パテント化できないこと・支給しやすいこと・安全であること・簡単に教えられること等を挙げ、3千円で一人1年分の灸治療が出来ることと、その援助のための寄付を募った。協力した人には後日、お礼にmoxafricaオリジナルTシャツが贈られた。

 

昨日も今日も、夜は郷土料理の店へ。気温が高かったこともあり、生ビールのうまいこと。それぞれが学んだことを話題に盛り上がり、楽しい時間を過ごした。


帰りに道後温泉へ
帰りに道後温泉へ
学んだあとの温泉は最高!
学んだあとの温泉は最高!

3日目の会頭講演「痛みの不思議」では、痛みの感じ方には個人差があり、育った環境、文化、人種によっても異なることや、侵害受容痛、神経障害痛、関連痛など痛みの種類からそれぞれの特徴を学んだ。続くシンポジウム「超高齢化社会における鍼灸治療の役割と可能性」では、4大認知証であるアルツハイマー型、血管性、レビー小体型、ピック病についての特徴や、地域の現状と課題、各種連携のなかでの鍼灸の取り組みについての発表があった。私の住む島には高齢者が多く、認知証の患者も来院される。鍼灸師としてどのような役割ができるのか、大変参考になるシンポジウムだった。

 

3日間の学会もあっという間に終わり、道後温泉で汗を流してから大分へ向かい、翌日の夕方に五島へ帰宅した。今回は弦躋塾、首藤鍼灸院見学、見学記の作成と投稿、全日本学会と続き、実に内容の豊富な10日間だった。また大分でお世話になった佐藤先生から、夜に別府の山中にある露天温泉や、地元ならではのラーメン屋に連れて行ってもらったことも、楽しい旅の思い出となった。

 

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2014年

5月

29日

首藤鍼灸院

殿頂に刺鍼する首藤傳明先生
殿頂に刺鍼する首藤傳明先生

第160回弦躋塾の終了後、五島へは帰らずに大分に4日間滞在し、週末から愛媛で開催される全日本鍼灸学会に参加した。今回は10日間も仕事を休むので、そのぶん貪欲に勉強しなければという気持ちで過ごした。5月12日と13日の2日間は、首藤鍼灸院を見学させていただいた。私にとって8年ぶりのことであり、前夜は緊張であまり眠れなかった。どんな点に注視するべきか、何を質問するべきか、ビデオを撮る際に邪魔にならぬ間合いを保てるか、そんなことを考えながら先生のお宅へお邪魔した。

 

志室
志室
天宗
天宗
缺盆
缺盆

見学した感想を一言でいえば「首藤先生の臨床は今でも変化し続けている」ということだ。もちろん全体的に見れば、確立された首藤先生の治療スタイルに変わりはないのだが、腹診の方法、使用経穴の取捨、刺鍼のアクセント、鍉鍼の活用など、以前よりもより明確でシンプルな治療をされているように感じた。先生は「どうすれば患者がより良く治るか」ということを常に考えており、もしその方法が有効であるならば積極的に臨床に取り入れる。その研究精神が治療の変化として表れているのだろう。

 

鍉鍼の治療
鍉鍼の治療

今回の見学では、以前は気がつかなかったり見えなかったりした部分が理解できた。夜、大分で食事をした際、先生にそのことを伝えると、「そう、すべては経験するしかない」という返事があった。いくら懸命になっても、経験が浅いうちは目の前にあるものが見えない。失敗や成功を繰り返し、臨床のキャリアを積むうちに、先生が何をしようとしているのか、なぜそこに鍼をするのかが自然とわかってくるような気がする。自分がさらに臨床経験を重ねてから見学すれば、もっと色々なことが見えてくるのだろう。今回の見学記事を『北米東洋医学誌』の7月号(Volume21 Number61)に投稿したので、興味のある方は読んで下さい。

古典を書き写したノート
古典を書き写したノート

 東京で開業した頃、先生が上京する際は都内の道案内のために同行していた。電車にしろタクシーにしろ、先生は座席にすわると『太素』や『甲乙経』等を読み始める。講演や理事会などが終わり、羽田空港へ向かう間もずっと読んでいる。少しの時間も惜しいといった感じで、いつでも勉強をされていた。今回も、家から大分へ向かうタクシーの中で『傷寒論』を書き写したノートを読まれていた。いつでもポケットから取り出せるよう、手帳サイズのノートを使っている。暗い車内でもペンライトで照らしながら読書するので、体を心配した奥様から苦情が出ることもある。そうして20~30分の時間も無駄にしない。さすがは先生と思ったものの、ただ感心している場合ではないと気づいた。それは「鍼灸師は一生勉強」と言われる先生の姿であり、「お前も実践しろ」という無言の教えであろう。

 

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2014年

5月

28日

第160回弦躋塾

第160回弦躋塾
第160回弦躋塾
講義中の首藤傳明先生
講義中の首藤傳明先生
臨床講義:上肢痙攣
臨床講義:上肢痙攣

2014年5月11日(日)、大分ソレイユにて第160回弦躋塾が開催された。午前中は首藤塾長の臨床講義「上肢痙攣」で、64歳男性の症例(両手指が過伸展して痙攣)や、『霊枢』経筋第十三や『明堂灸経』の記載などから筋肉の痙攣と痛みについて考察された。続いて「治療禁忌」や、次回に予定していた「腰痛」や「内臓疾患」まで講義が及び、非常に内容の濃い2時間となった。私が感じた要点をおさらいしてみる。

 

上肢痙攣の症例

 

患者から「手指の痛みと痙攣で仕事ができない」と電話があった際、首藤先生は頭の中でシュミレーションをしているが、それらは「上肢疾患」を診る際の重要なチェックポイントである。すなわち、

 

・上肢や手指の使い過ぎはないか? 

・脈証は肝虚証か?

・局所や曲池・手三里に反応はあるか?

・背部兪穴の反応はあるか?

・鎖骨上窩の反応はあるか?

・右季肋部の圧痛はあるか?

 

これらの予測に対して実際には以下のような結果がみられた。

 

・10時間続けて魚をさばき続けたところ、両方の指が痙攣をおこした。

・脈証は肝虚証だった。

・異常を訴える指と周囲には反応が無く、第一掌骨基底部に圧痛と、合谷に張りがあった。肘関節では曲池に硬結と圧痛があり、手三里にも圧痛があった。

・背部兪穴にはそれほど反応は無く、天宗に硬結と圧痛があった。

・鎖骨上窩には(刺鍼していないので、おそらく)反応が無かった。

・右季肋部に反応は無く、下腹部が虚していた。

 

首藤先生は下肢痙攣の際に環跳や小野寺氏点の刺鍼が著効することから、「上肢においては天宗が痙攣に対して即効があるのではないか」と予想し、実際に硬結と圧痛を得た天宗を重要な治療点としている。また問診によって血糖値が200であることや、腰痛があること、左の肩こりが特にひどいこと、「このままでは職を失うかもしれない」と、無茶をする割にはあわてていること等の情報が得られた。症状が労倦によるものであり、脈診では曲泉を指で軽擦して脈が好転したこと、腹証では腎虚があったことなどから、肝虚証と診断された。

 

治療順序は前後するが、本治法は曲泉・陰谷を超旋刺で補い、曲池・手三里・天宗には5ミリ刺入して雀啄を5回(曲池は10回)、灸を5壮(天宗は10壮)行なった。これが主訴に対するメインの治療である。また、糖尿病のために中脘・左梁門・脊中・左脾兪に浅置鍼をし、あとは力を抜いて膏肓・肝兪、志室(腰痛の場所)、肩井・風池に超旋刺を行なった。初回の治療に使用した経穴は14穴で、それらには肝の治療(本治法)、局所の治療、局所の補助的治療、糖尿病の治療、腰痛の治療の5つの意味が含まれている。

 

初回の治療後に痙攣が無くなり、2診目以降も同様の治療を行い、左肩凝りに大杼の刺入鍼や、圧痛の強い手三里に皮内鍼、肺兪・厥陰兪の硬結に灸を加えている。首藤先生は結論として、上肢痙攣には天宗を使う価値があることや、的確なポイント(圧痛・硬結)を見つけ出すことと述べられたが、決して局所の治療だけではなく、全体的な治療が加えられている点を見逃してはならないと感じた。

 

治療禁忌

 

鍼灸治療を続けても好転が見られなかった2症例(関節腫脹・頚肩のこりと痛み)に対し、どちらも他所で強刺激が加えられていたことが判明して、患者に指導をしたことが紹介された。鍼灸治療をしているのに、他所でも関節の腫脹に対して気持ちいいほどの揉捏を受けたり、自分で電気マッサージ器を使ったり、整体や療術を受けて悪化させるケースである。首藤先生は、特に頚部は絶対に揉まないこと、入浴や飲酒の禁止、整体などを禁止させ、「なぜいけないのか」を説明して、患者に納得してもらわなくてはならないと述べられた。

 

私の治療院でも腰痛で治療中の患者が悪化したことがある。話をよく聞くと、友人宅で「腰痛にいいから」と乗馬型の運動器具を何度も使用していた。そのときは楽になるのだが、ある朝痛みで動けなくなり、あろうことか本人は「鍼灸で悪くなったのかも」という疑いを持っていた。患者は良かれと思って色々と勝手なことをする場合がある。問診の際にしっかりとチェックして、不必要なことはさせないよう注意しなくてはならない。

 

その他、「腰痛」と「内臓疾患」についての講義感想は次の機会に述べます。

 

頚肩腕症候群

芝原敏一先生
芝原敏一先生
肘を曲げて取穴する
肘を曲げて取穴する
支正の刺鍼
支正の刺鍼

午後は芝原敏一先生による「頚肩腕症候群の症例」と「支正穴の刺鍼指導」が行なわれた。芝原先生は3人の症例を挙げて、それぞれの体質に合わせた治療を行なうことや、いかにお灸が大切であるかということを解説された。

 

20代の男性はパソコンの仕事を10年しており、4年前から頚肩腕の症状が現れた。肩甲間部がパンパンに張っており、病理では風・寒・湿が同時に入った状態である。痛む場所が動かないというのは寒邪の影響が強く、体を温めるために灸を続ける必要がある。72歳の男性は定年退職後に廃棄物を壊す仕事に就いた。頚が動かず、痛み止めを服用している。筋肉の硬い人にはパルスも有効である。筋肉が動くということは血や津液が動くということにつながる。50代の女性はホームヘルパーの仕事をしている。色白で、あまり刺激はできない。いずれの場合も舒筋を目標に治療を行なっている。芝原先生は症状や患者のタイプによって超旋刺や2寸の鍼、パルスも使う。怖がりの人には鍼を使わず、パイオネクスと灸で治療することもある。そうしなければ結果が出ないからで、結果が出なければ患者は来ない。時間が経つと(症状が)後戻りするが、後戻りが無くなれば体は治る。免疫機能を高めるために、また患者に「治らない」と言わせないためにも、家でも朝昼晩と3回お灸をさせる。でないと後戻りすると言い切ることが必要である。我々鍼灸師の仕事は単純だが、単純な仕事ほど心を込めなくてはならないと芝原先生は述べられた。

 

頚肩腕の治療を続けると、症状が小腸経に残る場合が多く、支正穴が有効であるとのこと。芝原先生は塾生を各班に分けて、取穴と刺鍼の指導をして回った。支正は肘を曲げたほうが取穴しやすく、圧痛が出にくいので硬結を目標とすることや、あまりツボの位置にはこだわらずに上下左右をよく探すことが大切と話されていた。実際に刺鍼する際にもモデルの肌を診て、「あなたは敏感なタイプじゃな」、「あなたは硬いから刺入したほうがいい」と、鍼の太さや深さを使い分けられていた。

 

実技

実技中の首藤先生
実技中の首藤先生
腸骨点
腸骨点
跗陽と崑崙
跗陽と崑崙

最後は首藤塾長による実技が行なわれ、数名の塾生がモデルになった。写真は腰下肢痛の治療で、環跳・居髎・殿頂といったツボを取穴、刺鍼された。

 

腸骨点は首藤先生の私方穴で、腸骨稜に沿って内下方へ中指を移動させながら(骨をすくうように)反応を探る。ギックリ腰や慢性腰痛、特に前後屈の痛みに著効がある。跗陽は外踝の上3寸辺りで、母指を腓骨に沿ってゆすっていき、腫れぼったい所に求める。腰痛や腰下肢の神経痛に必須の経穴である。首藤先生は成書よりも骨際に取穴されることが多い。圧痛や擦診痛も出やすいツボだが、「浮腫らしきものが感じられず、ただこれ骨という感じであれば刺鍼施灸は無効であり、他の経穴を探すことになる」と、『超旋刺と臨床のツボ』(p266)に書かれている。また、先にアップした首藤先生の臨床動画の中で、4番目の女性患者(肝虚証・坐骨神経痛)の左跗陽を取穴した際、痛みで声を上げているシーンがあり、腰下肢の神経痛がある場合には跗陽に圧痛が出やすいということがわかる。崑崙は膀胱経に変動がある場合に用いられ、頭痛・背部痛・腰痛に使われる。左右にゆすって硬結と圧痛を求める。腰下肢痛で跗陽に反応がない場合、崑崙や飛揚を探すこともある。いずれのツボも正確に取穴・刺鍼できないと効果は望めない。特に腸骨点はなかなか見つからないと、つい鍼数が増えて失敗しやすく、臨床でヒヤッとしたことが何度もある。繰り返し練習して感覚を磨くのみだ。

 

今回講義に先立ち、鍵小野昌先生が3月6日に逝去されたとの報告があった。鍵小野先生といえば、2003年の仙台学会のときに松島観光をご一緒したこと、ホテルの部屋で取穴指導をしていただいたこと、ツボを圧されて私が痛がるとニッと笑い顔をされたこと、小柄な先生なのに手が大きかったことが思い出される。鍵小野先生は、当時日本伝統鍼灸学会の会長を務めていた首藤先生を応援するために東京の学会にも毎回参加されていた。晩年は「よだきいけん、帰るわ」と言って、初日だけ学会に参加してホテルで休まれたり、先に大分に帰られることもあったが、実に仁義に厚い先生という印象を受けた。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 

安倍清一先生 お祝い

西野・佐藤先生より花束贈呈
西野・佐藤先生より花束贈呈
参加者全員で記念撮影
参加者全員で記念撮影
安倍清一先生
安倍清一先生

弦躋塾の終了後、近くの寿司店にて安倍清一先生91歳の誕生会が行なわれた。なんといっても、91歳という年齢で現役の臨床家であることは驚きの一言、我々鍼灸師の目標である。

安倍先生、どうぞ長生きしてください。

 

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