首藤鍼灸院

殿頂に刺鍼する首藤傳明先生
殿頂に刺鍼する首藤傳明先生

第160回弦躋塾の終了後、五島へは帰らずに大分に4日間滞在し、週末から愛媛で開催される全日本鍼灸学会に参加した。今回は10日間も仕事を休むので、そのぶん貪欲に勉強しなければという気持ちで過ごした。5月12日と13日の2日間は、首藤鍼灸院を見学させていただいた。私にとって8年ぶりのことであり、前夜は緊張であまり眠れなかった。どんな点に注視するべきか、何を質問するべきか、ビデオを撮る際に邪魔にならぬ間合いを保てるか、そんなことを考えながら先生のお宅へお邪魔した。

 

志室
志室
天宗
天宗
缺盆
缺盆

見学した感想を一言でいえば「首藤先生の臨床は今でも変化し続けている」ということだ。もちろん全体的に見れば、確立された首藤先生の治療スタイルに変わりはないのだが、腹診の方法、使用経穴の取捨、刺鍼のアクセント、鍉鍼の活用など、以前よりもより明確でシンプルな治療をされているように感じた。先生は「どうすれば患者がより良く治るか」ということを常に考えており、もしその方法が有効であるならば積極的に臨床に取り入れる。その研究精神が治療の変化として表れているのだろう。

 

鍉鍼の治療
鍉鍼の治療

今回の見学では、以前は気がつかなかったり見えなかったりした部分が理解できた。夜、大分で食事をした際、先生にそのことを伝えると、「そう、すべては経験するしかない」という返事があった。いくら懸命になっても、経験が浅いうちは目の前にあるものが見えない。失敗や成功を繰り返し、臨床のキャリアを積むうちに、先生が何をしようとしているのか、なぜそこに鍼をするのかが自然とわかってくるような気がする。自分がさらに臨床経験を重ねてから見学すれば、もっと色々なことが見えてくるのだろう。今回の見学記事を『北米東洋医学誌』の7月号(Volume21 Number61)に投稿したので、興味のある方は読んで下さい。

古典を書き写したノート
古典を書き写したノート

 東京で開業した頃、先生が上京する際は都内の道案内のために同行していた。電車にしろタクシーにしろ、先生は座席にすわると『太素』や『甲乙経』等を読み始める。講演や理事会などが終わり、羽田空港へ向かう間もずっと読んでいる。少しの時間も惜しいといった感じで、いつでも勉強をされていた。今回も、家から大分へ向かうタクシーの中で『傷寒論』を書き写したノートを読まれていた。いつでもポケットから取り出せるよう、手帳サイズのノートを使っている。暗い車内でもペンライトで照らしながら読書するので、体を心配した奥様から苦情が出ることもある。そうして20~30分の時間も無駄にしない。さすがは先生と思ったものの、ただ感心している場合ではないと気づいた。それは「鍼灸師は一生勉強」と言われる先生の姿であり、「お前も実践しろ」という無言の教えであろう。

 

網上にある鍼灸院です
網上にある鍼灸院です