2014年

12月

30日

第42回日本伝統鍼灸学会 香川大会4

今大会のハイライトになったのが、福島哲也・藤井正道・村田渓子・猪飼祥夫の各先生による灸の実技セッションである。福島先生は深谷灸法、藤井先生は督脈通陽法、村田先生は知熱灸と灸頭鍼、猪飼先生は特殊な灸をテーマに、それぞれ臨床で使われているテクニックを披露していただいた。色々なスタイル(流儀・流派)を学べるのが日本伝統鍼灸学会の魅力であり、実技では手技のタイミングや刺激量の塩梅といった「感覚的なもの」を見ることができるので大変勉強になった。

福島哲也先生による「深谷灸法」

・治療は座位で行なう。

・補瀉は考えずに、熱をもって硬結を砕くとする。

・施灸の目安は灸熱が奥まで伝わるまで。

・ツボの状態が減弱するか消えるなど、正常になったら施灸を止める。

・熱くないときは熱くなるまですえる。

・必要があれば重ね焼き、捻り方を堅くするなどして対応する。

・ツボの位置が並ぶということはないし、竹筒を使うのが深谷灸というわけでもない。

・望診と触診をメインにする。手足の冷えや顔色をよく診る。脈診は重視しない。

・体表を軽擦して圧痛硬結を探す。

・ツボを押さえて、どこに響くか聞く。

・督脈は指3本で上から撫でおろし、指の引っかかるところに灸点をつける。

・督脈の際は、指を骨に向けて圧痛を探す。小刻みにバイブレートさせる。

・膏肓などツボが深い場合は、指を立てて、3本重ねて押す。

・座位ができない場合は寝て取穴する。当然、ツボの位置はずれる。

・反応が消えた状態で治療を終了する。

・引き下げは足三里に行なう。

藤井正道先生による「督脈通陽法」

・江戸時代と現代では冬の寒さが違う。日本人の冬の経気は昔ほど深いところを流れてはいない。温暖な大阪ではなおさらであり、焼山火は用いなくなった。

・日本は湿邪の国。秋は長雨で乾燥は少ない。湿邪には灸が有効である。大阪と同じく湿度の高い四川では灸法が発達している。

・通陽には灸頭鍼・台座灸、補陽には棒灸を用いる。命門周辺から大椎にかけては台座灸。よく使うのは灸頭鍼で、督脈にするとズンと気の響きが強まる。側臥位で治療すれば万が一、灰が落ちても安全である。

・側臥位だと膻中付近の圧迫がないので、気虚や気滞の患者に灸法を多用してもドーゼに悩まなくなった。

・任脈が滞ると伏臥位がきつい。側臥位がよい。パニック障害は左上に。理由は心臓の鼓動が聞こえないから。

・灸は発赤するまで行う。冷えが強い人は透熱灸をしてもそれほど熱くないが、熱感が続くので、それを嫌う患者にはやらない。

・上実下虚は湧泉で下げる。膝枕を使って両足同時に棒灸をする。

・督脈をやると眠くなるのは、気が任脈に回っているから。

・神闕には箱灸をする。もぐさは棒灸の端を使う。

・ディスポショーツに着替え、タオルで覆い、棒灸で会陰をあぶる。下焦の流れがよくなる。

・体内時計の乱れによる睡眠障害は、命門・至陽・大椎。

・(実技モデルは)右の薬指と右頭部にアトピーがあり、主訴は首の痛みと鼻炎。瘂門中心にコリがある。脈は滑・数で、数は緊張によるもの。舌先がむくんでいるので上焦に湿がある。アトピーは湿と熱である。経絡上の滞りを見ると、このモデルは頚のところで滞っている。気の推進力をつけるのを目的とし、督脈上に台座灸、命門穴に棒灸(枕で固定)、大椎と身柱に灸頭針(きりもぐさを使い、火は内側からつける)、1番針で迎香に刺鍼。肺兪に針をして膀胱経に利水すれば治る。

村田渓子先生による「知熱灸と灸頭鍼」

・祖脈で陰陽虚実寒熱を判定する。

・五行だけでなく、寒熱の病症を重視する。

・必ずしも69難だけでなく、井栄兪経合を使い分けることもある。

・鍼の効果を高めるために灸を併用する。

・点灸は補法で、膝関節が腫れている場合、患部の周囲に多穴多壮。

・知熱灸は寫法に使うことが多く、患部を冷やす、急性の外傷、患部の炎症、気を散らすなどに用い、後を押さえない。また、硬く捻ってゆっくり燃やすと補法になる。敏感な人や子供に用いる。

・灸頭鍼は補法に使う。冷えをとる、深い部分の虚を補う、瘀血を下す、関節の痛み、経筋が冷えて痛む場合や経脈に冷えが入って気血の運行が滞る場合に用いる。下半身が冷えて虚している場合には関元などにおこなう。

・原則的に上半身には灸頭鍼はしないが、何をしてもコリが軽減しなかった奏者の肩膠に灸頭鍼を行って著効がみられた。

・(実技モデルは)慢性の腰痛と左母指の痛みで、脈は浮でやや数、陰虚内熱とみて1寸0番で太谿を補う。鍼が立つぐらい刺入する。もし冷えている場合には腹にも置鍼する。上脘から中脘にかけて膨らみ、陰交から関元にかけて虚があり、先に下腹部から補う。中脘には寫法の知熱灸を2壮、熱く(あったかくではない)なったら取り去る。経筋の硬いところには灸頭鍼をすることがあるが、陰虚証の人にはやりすぎないこと。大腿から下肢の経筋が張っているので、飛陽付近の硬いところに寸3の2番と、風市付近に2寸で灸頭鍼を行う。灸頭鍼は皮膚からの距離が大事で、皮膚と軸までの半分ぐらいの位置にする。鍼の太さは1寸だと0~1番、寸3は2~3番、寸6は3~5番。艾は丸めて半分に割り、再び鍼をはさんでくっつける。煙が出なくなって一呼吸のときにピンセットで抜鍼する。臀部に深めに刺入鍼をする。もし陽虚で冷えている場合は灸頭鍼をする。背部兪穴は実している場所(三焦兪の外、肓門)に捻鍼で寫法をし、知熱灸をする。右志室に寸3の2番で刺入し、雀啄を加える。座位になり、患部の左母指を経絡のつながりで考え、肺経上の天府あたりと、大腸経の陽谿、合谷、魚際に寫法と知熱灸を行う。汗ばんで赤くなれば、寫法の効果が現れたことになる。のどが痛い場合、合谷に30分置鍼し、症状を繰り返す人には患部にも鍼をする。

猪飼祥夫先生による「特殊な灸治療再現考」

・墨灸は漢方薬をアルコール抽出して墨汁と混ぜたもので、生後1ヶ月から10歳ぐらいまで行う。胃経に印をして、シッカロールをつけておく。

・カマヤミニ、長生灸、せんねん灸は評価すべきであり、伝統となっていくものである。

・米粒灸は米の形にする。(底面がとがっていると熱くない。右手で半捻りを加える)

・塩温灸は底から火をつける。下に紙をひいて熱さの加減をする。水滞に効く。

・味噌灸は赤だし味噌に塩を加えて、もぐさと灰を鉢に入れて混ぜる。灰を入れると粘土のようになる。セイリン・ラック灸の受け皿をつけて用いる。瘀血に効く。

・打膿灸は現在ではほとんど行われなくなり、かつて相撲膏として全国に知られた浅井万金膏も製造を中止し、今では京都の無二膏が残るのみとなっている。打膿灸は免疫付加に役立つと思われ、末期がんなどにも行ってみたい治療だが、膿を生ずるために現代医学の観点からは同意を得られない。

今学会は収穫が多く、貴重な2日間となりました。多くの先生から学んだことを自分なりに消化吸収し、臨床に生かしたいです。


学会終了後、岡山駅で弦躋塾生たちと一緒になり、「博多まで一杯やろうか」と新幹線の自由席に向かったのですが、あいにく満席。それぞれ自分の指定席に戻りました。ちと残念。

翌朝、フェリーで五島に帰りました(写真は行きのときに撮ったもの)
翌朝、フェリーで五島に帰りました(写真は行きのときに撮ったもの)
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2014年

12月

06日

第42回 日本伝統鍼灸学会 香川大会3

シンポジウム「灸療法における診察診断と治療」では、鍼と灸の使い分けや、透熱灸と温灸の使い分けについて、大上勝行・中村辰三・戸ヶ崎正男の三先生による発表があり、その後で討論が行なわれた。

 

大上先生は「すべての疾病を経絡の虚実状態として把握し、(治療は)鍼灸を用いて補寫をする。鍼の補寫に大小・迎随・深浅・呼吸・出内・開闔などがあるように、灸の場合も患者の病態に合わせて選択、補寫を行う」と述べた。透熱灸は虚実に関わらず、硬結のあるところに用いる。まれなケースだが、陽虚の際には陥凹部にすることもある。温灸は表面的な熱の停滞に用いる。1センチ大の三角錐にもみ固めた粗艾に火をつけ、九分ほどで取る。ほんのりと発赤させるが、発汗させれば寫法、させなければ補法とする。表に近い浅い部位の陽気や、水の停滞、硬結に有効である。緩やかな熱で軽い寫法となるため失敗が少ない。灸頭鍼は深い部位の硬結に刺し、上から熱を加えることで陽気の発散を抑える作用があるため、深部にある陰実に対して使用する。鍼が立つぐらいまで刺し、2センチほどの大きさに丸めた粗艾に火をつける。鍼の長さは1寸~2寸で、太さは3番~5番を使う。表面が発赤する程度に行う。灸は手技的に鍼よりも簡単であり、硬結、血の停滞、陰実、久病、元気の不足、陽虚、家庭でのセルフケア等に対応する。施灸場所は望診によって察知し、陽先陰後・上先下後に行う。刺激の強弱は年齢・性別・体質によって変えるが、術後・虚弱体質・過敏体質には小さく少なく(弱刺激)を心がける。透熱灸による虚実に対する補寫の手技としては、補は柔らかくひねる・軽くつける・灰に重ねる・熱の穏やかなもの(良質の艾)・小さくすえる等で、寫では反対のことを行う。硬結や圧痛が強い部位は熱さが消えるまですえる(多壮灸)。温灸では虚実よりも硬結の硬軟によって選択をする。たとえば膝の治療の場合、変形や熱感、腫脹、疼痛の場所を確かめて、走行する経絡の目安をつけ、陽輔・三陰交・丘墟などにも圧痛がないか確かめる。炎症性には遠隔治療が有効であり、局所には灸をしない。温灸なら熱感のある所にすえられるが、熱が発散できないと悪化する。患部との境界部分に汗が出るまですえることである。腰部の志室・次膠・環跳などの圧痛も確かめて治療を加える。灸が著効するものは、ものもらい、咽喉痛、膀胱炎、婦人科疾患、逆子などで、禁忌は糖尿病、化膿性疾患、月経中、出血中、患者の不同意等である。上半身の多壮灸では頭痛や眩暈を起こすことがあるため、心臓に近い部分は避けるべきであると語られた。

 

中村先生は、灸の適応には上気道・呼吸器・口腔・胃腸・神経・骨・筋肉疾患などがあり、不適応には寄生虫病・感染症・変成・肥大・腫瘍など皮膚疾患(化膿性疾患と冷え性には効く)があると言われた。灸を行うと白血球が増えた状態になり、好中球が4~5日間持続する。そのため3日に1回ほどすえると病気の予防になる。白血球の遊走速度や貪食機能の亢進、若返り現象がみられる。ある癌の症例では、腹膜が原発で卵巣や肝臓に播種性転移し、開腹手術とシスプラチンを投与したが、2年後に腹水がたまって歩行困難になった。ランダを投与してマーカーが下がり、同時に灸を開始した。3年後に再発したが、灸治療を続けた結果、化学療法による白血球減少が抑えられ、G-CSFの投与が不必要だった。CRPが癌再発時には上昇したが、それ以外は正常値だったことや、吐き気・倦怠・痺れが抑えられたことも灸の効果によるものであると中村先生は述べた。リンパ球が顕著に増加し、寿命1年と言われたが、3年半に延命できた。入院する直前までは灸治療によってダンスも続けられたという。

 

 戸ヶ崎先生灸の適否について、病の軽重によって考えると話された。同じ症状であっても、体力や病態によって灸の使い分けをする。体力があれば透熱灸、なければ温灸を使う。産後の肥立ちが不良で体重が40キロから35キロに減少し、胃もたれと右肩甲間部の痛みを訴えた症例では、下腹部表面が膨隆して内部は空洞化、脾兪周囲が陥凹しており、脾腎両虚として巨闕・脾兪に温灸を30分行った。だんだんと体重が増え、4回目の治療では透熱灸ができるようになった。また右膝関節痛の症例は、69歳女性・肥満・よく喋る・脈はやや数で右寸関が小・臍周囲が弛緩・腎経の復溜と太谿が虚の患者に対し、T3~4に棒灸を10分、L4~5に25分。右陰谷に段階的に1.5センチ刺入して10分置鍼、また左右の環跳にも10分置鍼をした。『霊枢・官能』に「鍼ができなければ灸をする」とあるように、戸ヶ崎先生は患部の状態を4つに区分けしており、灸の刺激量について以下のように解説された。

1.鍼が多い 2.鍼が少し多い 3.鍼か灸頭鍼 4.灸が多い。


1は打撲などの熱実の場合で、糸状灸を1壮すえる。

2は少寒実で、緊張部位のすぐ下の硬結や、陥下部位のすぐ下の硬結。

3は寒実で、表層は陥下し、中層は硬結。

4は虚~虚寒で、陥凹部の下から弛緩。半米粒の透熱灸か小さい知熱灸を多壮。棒灸など。

シンポジウムでは司会の篠原昭二先生も交えて、灸の刺激量や補寫について話し合われた。大上先生は「熱いから寫法ではなくて、熱の量が多くなれば発散が大きくなるということであり、発散が充分でなければ寫法は失敗する。温灸の数や熱量の調整、そのへんの匙加減が重要であり、一定の燃焼温度で灸をすえる技術が非常に大切である」と述べた。

 

戸ヶ崎先生は、「(灸には)熱が通る、熱く感じないという表現がある。インフルエンザで右の肺兪は熱く感じるが、左は感じない。30壮ほどすえると、翌朝は咳が激減した。灸が効いたか効かないかは陰陽のバランスが崩れたことによって熱さが感じなかったり硬結ができるわけだから、気を動かすツボと血を動かすツボがあり、あるいは硬結の強さで判断する」、「軽くなでて、正常な場所と異常な場所の境を見つける。それができなければ産毛があるとか、色が悪いとか、ある程度の予想ができる。だんだんと目から手で判断できるようになる」、「熱実のツボと寒実のツボがある。寒実になると硬結ができる。表面がやわらかい硬結は熱く、それは鍼が効く。表面から硬結で硬くなっている場合は灸で熱くすえる。表が緊張して内部が弛緩しているような場合、緊張が取れるまでは熱いが、それから先は熱くなくなる」と述べた。

 

中村先生は、「熱を通すには透熱灸しかなく、皮膚を焦がさないと効果がない。胸椎の7番が痛くなったが(調べても)異常がなかった。督脈上に灸をすえると(患部の)上や下は3壮で赤くなるのに、患部は赤くならない。そこで赤くなるまで何十壮もすえた。それが、熱が通るということ。おそらく患部が冷えていたためでしょう」、「肝硬変で死にかけた人は8年間、失眠に熱くなくなるまですえた。よく効く。ただし、震えるほど熱い」、「(炎症がある部位に灸をすることについて)よけいに炎症が強くなるといわれているが、オデキの周囲に2~4ヶ所すえることがある。炎症部位にすえたあとで炎症が強くなるということはない。体力が弱く、すぐにオデキができる人に家で灸をしてもらった」と述べた。


篠原先生も、「右肩こりで右の肩外兪に灸をしても熱くなく、左は熱がった。原則に基づいて、熱がる部位に熱くなくなるまですえたら、めまいを起こした」と、灸のオーバードーゼによる失敗例を話された。

今回のシンポジウムを聴講し、体質や症状を見極めて、適切な灸法を施すことの大切さを学びました。臨床では様々なケースに出会います。熱が充分に通って皮膚が発赤しているのに、熱さを感じない場合もありますし、まだそれほど熱くないと思われる時点なのに熱さを訴える場合もあります。術者へ対する信頼度によっても熱さの感覚は変わるでしょうし、治療を続けるうちに灸の熱さに慣れていくということもあります。確かな手技が要求されるのはもちろんのことですが、その患者に対する最適な刺激量を考える際に、各先生の意見がとても参考になりました。

本場のさぬきうどん
本場のさぬきうどん

学会会場から少し歩いた場所に「おか泉」という讃岐うどんの有名店があったので、滞在中に2回食べに行きました。モチモチして美味しかったです。

次回も香川学会のレポートを続けます。

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