第42回日本伝統鍼灸学会 香川大会4

今大会のハイライトになったのが、福島哲也・藤井正道・村田渓子・猪飼祥夫の各先生による灸の実技セッションである。福島先生は深谷灸法、藤井先生は督脈通陽法、村田先生は知熱灸と灸頭鍼、猪飼先生は特殊な灸をテーマに、それぞれ臨床で使われているテクニックを披露していただいた。色々なスタイル(流儀・流派)を学べるのが日本伝統鍼灸学会の魅力であり、実技では手技のタイミングや刺激量の塩梅といった「感覚的なもの」を見ることができるので大変勉強になった。

福島哲也先生による「深谷灸法」

・治療は座位で行なう。

・補瀉は考えずに、熱をもって硬結を砕くとする。

・施灸の目安は灸熱が奥まで伝わるまで。

・ツボの状態が減弱するか消えるなど、正常になったら施灸を止める。

・熱くないときは熱くなるまですえる。

・必要があれば重ね焼き、捻り方を堅くするなどして対応する。

・ツボの位置が並ぶということはないし、竹筒を使うのが深谷灸というわけでもない。

・望診と触診をメインにする。手足の冷えや顔色をよく診る。脈診は重視しない。

・体表を軽擦して圧痛硬結を探す。

・ツボを押さえて、どこに響くか聞く。

・督脈は指3本で上から撫でおろし、指の引っかかるところに灸点をつける。

・督脈の際は、指を骨に向けて圧痛を探す。小刻みにバイブレートさせる。

・膏肓などツボが深い場合は、指を立てて、3本重ねて押す。

・座位ができない場合は寝て取穴する。当然、ツボの位置はずれる。

・反応が消えた状態で治療を終了する。

・引き下げは足三里に行なう。

藤井正道先生による「督脈通陽法」

・江戸時代と現代では冬の寒さが違う。日本人の冬の経気は昔ほど深いところを流れてはいない。温暖な大阪ではなおさらであり、焼山火は用いなくなった。

・日本は湿邪の国。秋は長雨で乾燥は少ない。湿邪には灸が有効である。大阪と同じく湿度の高い四川では灸法が発達している。

・通陽には灸頭鍼・台座灸、補陽には棒灸を用いる。命門周辺から大椎にかけては台座灸。よく使うのは灸頭鍼で、督脈にするとズンと気の響きが強まる。側臥位で治療すれば万が一、灰が落ちても安全である。

・側臥位だと膻中付近の圧迫がないので、気虚や気滞の患者に灸法を多用してもドーゼに悩まなくなった。

・任脈が滞ると伏臥位がきつい。側臥位がよい。パニック障害は左上に。理由は心臓の鼓動が聞こえないから。

・灸は発赤するまで行う。冷えが強い人は透熱灸をしてもそれほど熱くないが、熱感が続くので、それを嫌う患者にはやらない。

・上実下虚は湧泉で下げる。膝枕を使って両足同時に棒灸をする。

・督脈をやると眠くなるのは、気が任脈に回っているから。

・神闕には箱灸をする。もぐさは棒灸の端を使う。

・ディスポショーツに着替え、タオルで覆い、棒灸で会陰をあぶる。下焦の流れがよくなる。

・体内時計の乱れによる睡眠障害は、命門・至陽・大椎。

・(実技モデルは)右の薬指と右頭部にアトピーがあり、主訴は首の痛みと鼻炎。瘂門中心にコリがある。脈は滑・数で、数は緊張によるもの。舌先がむくんでいるので上焦に湿がある。アトピーは湿と熱である。経絡上の滞りを見ると、このモデルは頚のところで滞っている。気の推進力をつけるのを目的とし、督脈上に台座灸、命門穴に棒灸(枕で固定)、大椎と身柱に灸頭針(きりもぐさを使い、火は内側からつける)、1番針で迎香に刺鍼。肺兪に針をして膀胱経に利水すれば治る。

村田渓子先生による「知熱灸と灸頭鍼」

・祖脈で陰陽虚実寒熱を判定する。

・五行だけでなく、寒熱の病症を重視する。

・必ずしも69難だけでなく、井栄兪経合を使い分けることもある。

・鍼の効果を高めるために灸を併用する。

・点灸は補法で、膝関節が腫れている場合、患部の周囲に多穴多壮。

・知熱灸は寫法に使うことが多く、患部を冷やす、急性の外傷、患部の炎症、気を散らすなどに用い、後を押さえない。また、硬く捻ってゆっくり燃やすと補法になる。敏感な人や子供に用いる。

・灸頭鍼は補法に使う。冷えをとる、深い部分の虚を補う、瘀血を下す、関節の痛み、経筋が冷えて痛む場合や経脈に冷えが入って気血の運行が滞る場合に用いる。下半身が冷えて虚している場合には関元などにおこなう。

・原則的に上半身には灸頭鍼はしないが、何をしてもコリが軽減しなかった奏者の肩膠に灸頭鍼を行って著効がみられた。

・(実技モデルは)慢性の腰痛と左母指の痛みで、脈は浮でやや数、陰虚内熱とみて1寸0番で太谿を補う。鍼が立つぐらい刺入する。もし冷えている場合には腹にも置鍼する。上脘から中脘にかけて膨らみ、陰交から関元にかけて虚があり、先に下腹部から補う。中脘には寫法の知熱灸を2壮、熱く(あったかくではない)なったら取り去る。経筋の硬いところには灸頭鍼をすることがあるが、陰虚証の人にはやりすぎないこと。大腿から下肢の経筋が張っているので、飛陽付近の硬いところに寸3の2番と、風市付近に2寸で灸頭鍼を行う。灸頭鍼は皮膚からの距離が大事で、皮膚と軸までの半分ぐらいの位置にする。鍼の太さは1寸だと0~1番、寸3は2~3番、寸6は3~5番。艾は丸めて半分に割り、再び鍼をはさんでくっつける。煙が出なくなって一呼吸のときにピンセットで抜鍼する。臀部に深めに刺入鍼をする。もし陽虚で冷えている場合は灸頭鍼をする。背部兪穴は実している場所(三焦兪の外、肓門)に捻鍼で寫法をし、知熱灸をする。右志室に寸3の2番で刺入し、雀啄を加える。座位になり、患部の左母指を経絡のつながりで考え、肺経上の天府あたりと、大腸経の陽谿、合谷、魚際に寫法と知熱灸を行う。汗ばんで赤くなれば、寫法の効果が現れたことになる。のどが痛い場合、合谷に30分置鍼し、症状を繰り返す人には患部にも鍼をする。

猪飼祥夫先生による「特殊な灸治療再現考」

・墨灸は漢方薬をアルコール抽出して墨汁と混ぜたもので、生後1ヶ月から10歳ぐらいまで行う。胃経に印をして、シッカロールをつけておく。

・カマヤミニ、長生灸、せんねん灸は評価すべきであり、伝統となっていくものである。

・米粒灸は米の形にする。(底面がとがっていると熱くない。右手で半捻りを加える)

・塩温灸は底から火をつける。下に紙をひいて熱さの加減をする。水滞に効く。

・味噌灸は赤だし味噌に塩を加えて、もぐさと灰を鉢に入れて混ぜる。灰を入れると粘土のようになる。セイリン・ラック灸の受け皿をつけて用いる。瘀血に効く。

・打膿灸は現在ではほとんど行われなくなり、かつて相撲膏として全国に知られた浅井万金膏も製造を中止し、今では京都の無二膏が残るのみとなっている。打膿灸は免疫付加に役立つと思われ、末期がんなどにも行ってみたい治療だが、膿を生ずるために現代医学の観点からは同意を得られない。

今学会は収穫が多く、貴重な2日間となりました。多くの先生から学んだことを自分なりに消化吸収し、臨床に生かしたいです。


学会終了後、岡山駅で弦躋塾生たちと一緒になり、「博多まで一杯やろうか」と新幹線の自由席に向かったのですが、あいにく満席。それぞれ自分の指定席に戻りました。ちと残念。

翌朝、フェリーで五島に帰りました(写真は行きのときに撮ったもの)
翌朝、フェリーで五島に帰りました(写真は行きのときに撮ったもの)
網上にある鍼灸院です
網上にある鍼灸院です