2013年

7月

22日

弦躋塾リレー講義・補足2

本の紹介

 

今回の講義で中国の許躍遠(许跃远)先生による『中華脈神』の紹介をしました。現代解剖学や生理学の立場と古典の両方から脈診を研究されている良書だと思います。この先生の考え方は、頭・頚・胸・上肢及びその所属器官は、血液の供給を大動脈弓の第一分枝から受け、寸の部位に感応するとし、その中でも頭部の脈象の状況は寸脈の遠心端に、頚部の状況は寸脈の中部に、胸腔とそこにある臓器は寸脈に状況が現れるとします。同じく人体の中腹部臓器、すなわち肝・胆・すい臓・脾・胃・両側腎臓・副腎・腸管(右結腸曲・空腸・回腸・腸間膜)などは腹腔動脈からの分枝により関脈に反応が現れ、肝・胆・脾胃の脈象は関脈の遠心端に、腎・膵腺・腸などの脈気は関脈の近心端に現れる。そして骨盤内臓器や下肢などの血液は内外の腸骨動脈から供給され、膀胱・前立腺・尿管・子宮・左結腸曲及び直腸・両下肢などは尺脈に反応が現れる。脈圧も上下では一様ではなく、大動脈弓が最も高く、次が中腹部で、腸骨動脈はやや弱くなり、寸・関・尺の脈圧と相応すると考えます。今回のリレー講義用に一部翻訳したので以下に記します。

 

「左脳に梗塞や炎症など病変が出現したとき、左寸の脈力は増強する。右脳ならば右寸が強くなる。ためしに片側の頚動脈を圧迫すると、同側の脈力が増強するはずだ。なぜなら心臓の拍動する力は変わらないため、上肢の動脈内圧が高まって脈が強くなるからである。反対に寸の脈が弱い場合は、心臓疾患の除外を前提にすれば、同側の脳組織への血液供給不足、あるいは循環血液の不足である。同じく関上の脈は中腹部器官、主として消化系統の脈気が現れる。解剖学上、この部分の臓器には動静脈が短粗で血流が速く、下に降りるにつれて動脈内の圧力は低くなるという特徴がある。関脈に弦・緊が出現するときは、微循環が滞り、大動脈弓及び分枝の脈圧も高くなっている。臨床上、肝火旺盛病の患者の血圧が高いのはこのような理由によるものである。事実、そのような患者は血圧が不安定になっているだけで必ずしも高血圧病ではなく、臨床上は中焦をわずかに瀉せば血圧はすぐに落ち着くものだ。人体の遠端臓器、中腹部器官は血圧の作用に調節され、相対する寸脈、関脈の血液運行にも大きな影響を与える。このような現象も脈象を研究する着眼点になる。」

 

このように許先生の脈診は古典の解釈と現代医学をミックスしており、とても興味深いです。脈状についても詳しく説明されており、たとえば浮脈ならば、なぜ浮くのかという病理・解剖、その特徴(浮脈の感触は、労働者の前腕部の怒張した静脈に触れた感じ、緊脈は切れたばかりのヤモリの尾、散脈はチューブから出した歯磨き粉を押さえた感触など、チャイナ風の表現が満載)、浮脈の現代的臨床意義、浮脈の鑑別、脈の特徴を覚えるための歌(脈訣)なども載っています。まだ翻訳されていないのが残念ですが、許先生は中国では非常に知名度の高い先生であり、本書は脈診を学ぶ方の参考になるでしょう。

 

 


 

『心の治癒力』はチベット仏教とチベット医学の教えを用いて、主に瞑想によって己の内面をコントロールし、自分自身を癒す方法が書かれた本です。宗教臭さがなく、誰もが読みやすく書かれていると思います。私はこの書のお陰で過去への執着、劣等感、嫉妬心などから逃れることが出来ました。いつも実践するのは簡単ではないけど、座右の書として手元に置いています。『北米東洋医学誌』の58号にこの本の紹介を載せてあるので、興味のある方はそちらも読んで下さい。

 

『図解黄帝内経全集』は時間の都合で紹介できませんでした。豊富な図や表を用いて、運気論まで含めた素問・霊枢をわかりやすく解説した本です(ただし中国語)。昼休みに質問に来ていただいた先生方には話したのですが、経済発展に伴い、最近は中医学も進化を続けています。80年代や90年代の中国とは比べ物にならぬほど書物も豊富です。我々はこれを利用するべきです。当然、中医学を実践している人と患者の数が膨大であり、中国人民の頭の中には常識として瘀血、痰飲、疏泄、陰虚、陽虚、天人合一などの概念が入っています。本当は浦山きか先生が言われるように、古典は学生の頃から原文で読むべきというのが理想的かもしれません。首藤先生も「原文を読むほうが解説本よりも身に付く」といっています。しかし何も知らない者がいきなり漢字(それも古代文)の羅列に立ち向かえば、よほどのオタクでない限り飽きて眠くなるのが当然です。それよりも先に全体像を把握し、広く浅く知るということも大切だと思います。何しろ、日本の新卒鍼灸師よりも、中国の一般人のほうがはるかに東洋医学の知識を持っているのが現実です。この本は専門書ではなく一般向けですが、日本の鍼灸師がこのような本を読んだら、「えっ、中国の人にはこんなに古典医学の思想が根付いているのか」と驚くはずです。

 

そして、できれば中国に飛んで、新華書店などに行くことをお勧めします。毎回といっていいほど良い本が見つかるものです。それに安い。この本だって797ページもあって68元(1000円ちょっと)です。もちろん古典の専門書だって安く手に入ります。素問や霊枢の校釈、太素、甲乙経をはじめ、日本では知られていない様々な先生の治療法や臨床録などが並んでいます(変なのもあるけど...)。今ならLCC航空券を使えば格安で中国に行けます。20年前だったらビザ代に加えて10倍以上の交通費がかかったうえ、旅は不便で服務員の態度も悪く、どこに行っても「没有!」ばかりでした。良い時代になりました。

 

そうやって古典世界の概要を知った上で、家本誠一先生の『素問訳注』『霊枢訳注』などを読めば横のつながりも分かりやすくなるし、古典が楽しくなったら日本内経学会から出ている『素問』や『霊枢』などに進めばいいと思います。その時は浦山きか先生の『漢文で読む霊枢』で勉強法を学ぶ事ができます。そのように段階を踏めば古典に挫折しないで済むのではないでしょうか。たとえば高尾山には誰でも登れるけれども、素人が北岳バットレスに行ったら死にます。そうならないように、まずは登山の経験を積んで北アルプスなどを楽しみ、さらに興味があれば日和田山などで岩登りを講習してからクライミングに向かえばいいのです。とはいえ、そういう私も岩登り教室から先へ進まない状況が続いています。頭が悪いのか、古典を学ぶ才能が無いのか。たぶん、どっちもです。

 


 

『養生訓』は江戸時代の儒学者である貝原益軒が83歳のときに著した「養生の書」です。自らが長生きできた秘訣や、健康を損なう物を排除することの大切さが書かれています。一言でいえば、欲望を我慢して感情的にならないことです。「養生の道を実行することは、ただ飲食を少なくし、病気を助長するものを食べず、色欲を慎み、精気をもらさず、怒り・悲しみ・憂い・思いなどの感情に激しないことである」と益軒は述べています。身体を損なうものは内から生ずる飲食の欲、好色の欲、眠りの欲、言語をほしいままにする欲、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七情と、外からやってくる邪気である風・寒・暑・湿の天の四気(日本の気候ゆえか、燥は入っていない)であり、これらを防ぐことができれば、たえず元気はつらつとして、天寿を全うすることができるというのです。

 

この本の魅力は、分かりやすい文章で書かれていることと、日常生活上のちょっとした注意による「養生の実践法」が書かれていることです。寝る前に熱い茶に塩を入れてうがいをすると口中を清潔に保ち歯を堅固にするが、「茶は番茶で十分」とか、「40歳以上は、用事が無かったら目をつむっておけ」とか、読んでいると益軒のストイックな人柄が伺えます。「孫思邈が養生の祖であり、養生法も治療法も『千金方』を本にすべきである」とあり、儒学者の益軒が老荘思想を好んだ孫思邈を評価している点も興味深いです。とにかく欲を慎めと繰り返し述べています。彼がもし現代に生きていたら、今の日本人は不養生でけしからんと嘆くことでしょう。一節が短いので、遠野物語を読んでいるような趣もあります。鍼の話は2つだけですが、灸の話は結構あります。さらに巻末の原文を読めば、気分は江戸時代にワープできます。ポケットやかばんに入れて、通勤や通学の際にチョット読みできます。

 

『首藤傳明症例集』については、ここで取り上げるまでもないですが、首藤三部作の最新刊であり、50年の臨床から導きだされた治療法が満載された本です。当サイト、〔私の師匠〕タブから、右横にある〔著作の紹介〕でも、首藤先生の本やDVDについて紹介しています。

 

ジャンルを超える

 

鍼灸の流儀に限らず、ジャンルの違う治療法でも、人間の体を診るという点は同じです。運動器疾患はそれが著明です。たとえば頭痛や肩こりなどで後頭部にアプローチする場合、経絡治療ならば天柱や上天柱・風池・柳谷風池・完骨などを、トリガーポイント(TP)なら半棘筋や板状筋、後頭下筋群を狙い、オステオパシーなら項靭帯をゆるめて後頭環椎間をリリースします。同じく腰へのアプローチならば、TPなら多裂筋・腸肋筋・最長筋・大腰筋・腰方形筋、あるいは小・中臀筋の責任TPを探し、オステならば仙腸関節や腰仙関節をゆるめ、経絡治療ならば大腸兪・腸骨点・上仙・志室・殿圧・殿頂といったツボに刺鍼します。スタイルは違えども、狙いはだいたい同じ場所です。但しそれぞれの解釈には相違があるため、自分の中で都合の良いように咀嚼することが大切です。その際、リスクは回避すべきです。たとえば黒岩共一先生の書いたTPの本には後頭下筋群にアプローチするには50ミリの刺鍼が必要と書いてありますが、それはあくまでも指標であり、体格や体型によって差異があるのは当然のことです。それを考えずに刺鍼をすると事故が発生する恐れがあります。先月、福岡で行われた全日本鍼灸学会のポスター発表に「天柱・風池に5センチ近く刺入して硬膜下血腫を起こしたと思われる例」というのがありましたが、正にそういうケースです。東京時代、日鍼会の伊集院先生からも深鍼による事故が増加していると聞いたことがあります。気胸なども含め、刺鍼事故が起きれば鍼灸師としての信用を一気に失うことになるばかりでなく、鍼灸治療全体の評判も悪くなります。臨床家は細心の注意を払うべきです。リスクのある深い刺鍼をするならば、ちょっと本をかじっただけでなく、しっかりと勉強会に参加して学ぶべきです。黒岩先生の主催する「トリ研」は、深鍼をする人や、解剖学的に人体を把握したい人にとって最良の研修会となるでしょう。

 

経絡治療をしている者は刺激に敏感になっていく傾向があります。ある経絡治療の研修会に参加したら、異常と思えるほど神経質な人たちがいて驚いたことがあります。集団ヒステリーに近いと感じました。その反対にTPにはドーゼという発想が無く、責任トリガーポイントに当たるまでは何度も刺鍼を繰り返すべきと考えます。鍼は太くて、置鍼する本数も多い。私はTP研究会の帰りに、鍼を刺された腰が痛くて足を引きずったことがありました。あまり局所に照準を合わせすぎると、相手は人間ではなく筋肉だと勘違いする恐れが生じるのではないでしょうか。そういう意味からも、五蔵のもつ精神性を念頭に置いて治療にあたることが大切だと思います。一方で、古典派の治療家は衛生面の配慮に欠けている場合が多いです。何度も使いまわしたような鍼を消毒もせずに刺したり、口にくわえたりするのを見るとゾッとするし、そういう鍼を膝や肩などの関節包に刺入するのは問題外です。

 

我々は安全で効果的な方法を追求するべきで、それは「患者さんにとって一番の利益」になるはずです。古典系の勉強会に参加すると、古典を絶対視していて、まるで原理主義者のような人たちがいます。古典に書いてあることを無理やり人体に押しつけようとする傾向があり、「体を冷やすから消毒はダメだ」とか、「飲み薬はすべて湿邪になる」などとベテランの先生が平気で言うのです。そのような会に出入りしている学生は「古典脳」にかかりやすく、西洋医学を軽視するようになる恐れがあります。『首藤傳明症例集』のp153、「治療とは古典のためではない。病を治すための古典理解・利用であって、西洋医学からの疾病理解も必要である」の通りだと思います。

 

私は経絡治療もトリガーポイントも中医学も、あるいはオステオパシーなど鍼灸以外のテクニックでも、使える部分を吸収して自分のものにすればいいと考えています。目的は患者さんを治せるようになることであって、流儀や流派などにこだわる必要もない。首藤先生だって若い頃から色々と試されて、「効果があったものが残った」と言われているし、そういう積み重ねをした結果、優れた臨床家となったのであり、我々はそういう過程をも学ぶべきではないでしょうか。

筋の弾力を診る
筋の弾力を診る
10 コメント

2013年

7月

20日

弦躋塾リレー講義・補足1

弦躋塾リレー講義の続きです。当日は言いたいことがいっぱいありすぎて、うまくまとめて講義ができませんでした。昼休みには熱心な先生方から質問があり、もっと詳しく伝えなければいけないと痛感しました。そこで、2回にわけて「講義内容の補足」をします。塾に参加した方の参考になれば幸いです。

質問をする勉強熱心な先生方
質問をする勉強熱心な先生方

私の治療と勉強方法

 

私の治療は「蔵と経絡の調整」をすることを目標とし、四診によって証を決めます。同時に筋骨格系や頭蓋仙骨系からのアプローチも視野に入れ、骨盤や椎骨のゆがみ、筋の弾力性、後頭部の緊張や脆弱、骨盤隔膜・横隔膜・胸郭隔膜などの緊張度などをみます。これらは運動器疾患だけでなく、精神面の把握をするうえでも有効だと考えています。

 

望診は患者が治療室に入ってきたとき、本人が気づかないうちに素早く行う必要があります。神の状態を診るには、眼光、顔の表情、色つやを観察して判断します。聞診は主に患者の口臭や体臭を、往診のときには病室の臭いも参考にします。問診は他の三診で得られないデータを得ることができ、最も重要です。主訴、現病歴、既往歴、痛み、睡眠、食事、二便、情緒は必ず問います。また、予診表に正しく記入しない人、名前や住所を書かない人は、術者を信頼していないサインです。反対にビッシリと症状を書き込んでいる人は心の病を疑います。切経では、肌のつやと筋肉の弾力(背部がわかりやすい)に注目します。健康ならば、その人なりに弾力があります。ベタッとして跳ね返す力がなければ、自律神経が失調しています。衛気が不足しているとも考えられます。そのような人に深い鍼や強い刺激を与えるのは禁物です。

 

骨格模型を用いることで、骨の形状を視覚的にも触覚的にも理解することができます。首藤先生の本にも解剖学用語がよく出てきます。たとえば、『症例集』p241肘の治療で、「外側上顆をさぐり、へこみが見つかればしめたもの」と。この場合も肘関節の形状を把握することが大切であり、骨格模型を使って勉強すれば立体的に、そして感覚的に学ぶことができます。厚手のタオルを何重にも巻きつけて触診し、自分がどこに触れているのか確認する練習をします。同時に『触診解剖アトラス上肢・下肢』(医学書院)があれば理解が進みます。さらに筋の把握をするには『骨格筋の形と触察法』(大峰閣)が参考になります。

骨格模型を活用する
骨格模型を活用する

脈診とツボ

 

脈診は現在のところ、シンプルなものほど迷いが少なく実践的であると考えています。脈差と脈状の両方を参考にしますが、脈状は細分化するほど判断が難しく、客観性に乏しくなっていきます。そもそも一本の橈骨動脈から3箇所(両手で6箇所)に蔵府を配当させて、浮沈の陰陽、脈の形状やリズム、強弱を感じ取るには、相当のイマジネーションを働かせなければなりません。誰もが同じように脈を診るためにはシンプルに把握できるような方法がよく、その上で各々が推察力や想像力を磨いていけばいいと思います。脈がわかりにくいときは、脈以外の望聞問切をしっかり診れば証は決められます。脈だけに固執する必要も無いです。

 

東京時代、脈診が主体の研修会で勉強をしていた頃の話ですが、自分がモデルになって鍼を受けたとき、どんなに「良い脈になった」と言われようが、実際に楽になることは少なかったです。もちろん上手い先生もいましたが、あちこちといじくり回されて具合が悪くなることが多かったです。いくら脈が整ったと言われても体調が悪くなったら治療としては失敗です。結局、脈を診ることだけに囚われていてはダメだというのが、その会で一番学んだことでした。いま私が行っている脈診は、虚した経の要穴に触れて、脈が良い方向に変わる経と蔵をターゲットとするシンプルなものです。

『首藤傳明症例集』は宝の山
『首藤傳明症例集』は宝の山

本治法における五行穴の運用は思考錯誤を繰り返しており、現状では感覚にたよって選穴することが多いです。しかし、『首藤傳明症例集』p206にあるように、尿管結石で腰の激痛が止まらないような場合は、話はそう簡単には行かないでしょう。首藤先生が「なぜ曲泉でなく太敦なのか」と書かれていたように、症状によってツボの効き方も変動するようです。私はまだ治療中の患者が突然発作性の痛みを訴えたという経験がありません。首藤先生は長年の経験から、結石は脾虚証が多く太白が奏効し、痛みが止まらぬ場合は地機の硬結を見つけて刺鍼することで止まった例があると記しています。また、反関の脈の患者、太白に刺鍼で一向に治まらず、肝虚証とみて大敦に刺鍼したとたんに鎮痛したとあります。穴性から考えると自経の自穴を、つまり脾虚証の場合は土経の土穴、肝虚証の場合は木経の木穴を使用しています。当然、腎虚証ならば水経の水穴である陰谷を使うのではと思うところですが、首藤先生は腎虚証のときは金穴である復溜を、同じく肺虚証のときは土穴である太淵を使っています。ただし症例は少ないそうです。この場合はどちらも母経の母穴を用いていることになります。最も性格の強い「自経の自穴」という理屈を押し付ければ腎虚は水穴であり、肺虚は金穴であってほしいところですが、実際の臨床ではそのような選穴が効果的だったということです。我々はここから「なぜ、そうなったのか」ということを推測、研究するべきであり、その答えを探すために古典を利用するのだと思います。このように、『首藤傳明症例集』には我々臨床鍼灸師にとって研究材料がたくさん埋まっています。

 

ベテラン臨床家は使い慣れたツボというのを持っています。もちろん証によりますが、首藤先生は復溜や太淵といったツボを愛用しているようです。それはおそらく、先生ご自身が若い頃に復溜の刺鍼によって経絡治療の効果を体感されたことや、肺虚証体質で気分がすぐれないときに、何度も太淵の鍼によって救われてきたことと関連があるのかもしれません。私(高嶋)にもそういうツボがあります。2008年に飛行機内で急患に治療をしたとき、腎虚証で陰谷を使おうとしたのですが、ズボンが上がらず刺鍼できませんでした。かわりに最も冷えていた原穴の太谿に刺鍼したところ、かなりの手応えを感じたのです。それ以来、太谿は愛着のあるツボとなりました。今では脈を診ながら選経するときも、腎虚証のときの第一候補としても、自然に太谿に手が行くようになりました。50年も臨床を続けてきた首藤先生のことですから、よく使うツボには色々なエピソードがあるはずです。きっとその一穴が、過去に様々な場面を乗り越えてきたに違いありません。だからこそ痛みをパッと止めることができるのだと思います。私のような経験の浅い者には、日々臨床を積み重ねてツボをものにしていくしかありません。早く先生のように上手になりたいけど、経験だけは急ぐことが出来ないです。

 

(リレー講義・補足2に続く)

2 コメント

2013年

7月

16日

第158回弦躋塾 リレー講義

金曜日に大分へ
金曜日に大分へ
いつも仲良し、首藤先生と奥様
いつも仲良し、首藤先生と奥様
弦躋塾の受講風景
弦躋塾の受講風景

714日(日)、大分の全労済ソレイユにて「第158回弦躋塾」が開催されました。数日前に台風が発生したので、大事をとって金曜日に島を出発。今回は私がリレー講義の担当のため、「海がしけて船が欠航」という事態は避けたく、早めに大分に到着することにした。ゆっくりとホテルで講演の予習をして過ごす。土曜の夜は首藤先生夫妻より食事に誘っていただき、奥様から「明日はあんたの応援に行くで」と言われてビックリ。酒の席だから冗談だと思ったけど、当日は本当に来て頂いたので感激しました。ありがとうございました。

離島鍼灸師の臨床と生活
「離島鍼灸師の臨床と生活」
講義中の私
講義中の私
「ビデオ首藤鍼灸院治療風景」
「ビデオ首藤鍼灸院治療風景」

弦躋塾午前のスケジュールは、塾長による「これからの臨床家たちへ」と、私(高嶋)による「離島鍼灸師の臨床と生活」。午後は高嶋の「実技」、塾長による「ビデオ首藤鍼灸院治療風景」と「実技」が行われた。私の実力で2コマ(2時間)は厳しかったけど、いま出来ることを全力でやりました。症例発表では患者に許可をもらって島での臨床や往診の動画、写真を見てもらうことができたし、日々の臨床で感じていることや研究方法、勉強となる書物の紹介もできた。あれこれと詰め込みすぎて話が散漫になってしまいました。参加者が取捨選択して参考にしてくれたら幸いです。実をいうと、骨格模型とビニールテープを使った「筋と骨の動き」を把握する方法や、頭蓋骨模型を使った「誰でもすぐに使える頭痛治療のデモ」も考えていたけど、省きました。

実技中の私
実技中の私
塾長による実技
塾長による実技

また、私と首藤先生の実技が続いたので、臨床12年と50年の違いを見ていただけたと思います。首藤先生の域に到達できる鍼灸師が世の中にどれだけいるかわかりませんが、私程度なら10年やれば誰でもなれます。学生や初心者の方、自信を持って臨床を続けてください。そしてお互いに慢心せず、首藤先生を目指して頑張りましょう!

月曜の午後、島に帰りました
月曜の午後、五島に帰りました
4 コメント