弦躋塾リレー講義・補足1

弦躋塾リレー講義の続きです。当日は言いたいことがいっぱいありすぎて、うまくまとめて講義ができませんでした。昼休みには熱心な先生方から質問があり、もっと詳しく伝えなければいけないと痛感しました。そこで、2回にわけて「講義内容の補足」をします。塾に参加した方の参考になれば幸いです。

質問をする勉強熱心な先生方
質問をする勉強熱心な先生方

私の治療と勉強方法

 

私の治療は「蔵と経絡の調整」をすることを目標とし、四診によって証を決めます。同時に筋骨格系や頭蓋仙骨系からのアプローチも視野に入れ、骨盤や椎骨のゆがみ、筋の弾力性、後頭部の緊張や脆弱、骨盤隔膜・横隔膜・胸郭隔膜などの緊張度などをみます。これらは運動器疾患だけでなく、精神面の把握をするうえでも有効だと考えています。

 

望診は患者が治療室に入ってきたとき、本人が気づかないうちに素早く行う必要があります。神の状態を診るには、眼光、顔の表情、色つやを観察して判断します。聞診は主に患者の口臭や体臭を、往診のときには病室の臭いも参考にします。問診は他の三診で得られないデータを得ることができ、最も重要です。主訴、現病歴、既往歴、痛み、睡眠、食事、二便、情緒は必ず問います。また、予診表に正しく記入しない人、名前や住所を書かない人は、術者を信頼していないサインです。反対にビッシリと症状を書き込んでいる人は心の病を疑います。切経では、肌のつやと筋肉の弾力(背部がわかりやすい)に注目します。健康ならば、その人なりに弾力があります。ベタッとして跳ね返す力がなければ、自律神経が失調しています。衛気が不足しているとも考えられます。そのような人に深い鍼や強い刺激を与えるのは禁物です。

 

骨格模型を用いることで、骨の形状を視覚的にも触覚的にも理解することができます。首藤先生の本にも解剖学用語がよく出てきます。たとえば、『症例集』p241肘の治療で、「外側上顆をさぐり、へこみが見つかればしめたもの」と。この場合も肘関節の形状を把握することが大切であり、骨格模型を使って勉強すれば立体的に、そして感覚的に学ぶことができます。厚手のタオルを何重にも巻きつけて触診し、自分がどこに触れているのか確認する練習をします。同時に『触診解剖アトラス上肢・下肢』(医学書院)があれば理解が進みます。さらに筋の把握をするには『骨格筋の形と触察法』(大峰閣)が参考になります。

骨格模型を活用する
骨格模型を活用する

脈診とツボ

 

脈診は現在のところ、シンプルなものほど迷いが少なく実践的であると考えています。脈差と脈状の両方を参考にしますが、脈状は細分化するほど判断が難しく、客観性に乏しくなっていきます。そもそも一本の橈骨動脈から3箇所(両手で6箇所)に蔵府を配当させて、浮沈の陰陽、脈の形状やリズム、強弱を感じ取るには、相当のイマジネーションを働かせなければなりません。誰もが同じように脈を診るためにはシンプルに把握できるような方法がよく、その上で各々が推察力や想像力を磨いていけばいいと思います。脈がわかりにくいときは、脈以外の望聞問切をしっかり診れば証は決められます。脈だけに固執する必要も無いです。

 

東京時代、脈診が主体の研修会で勉強をしていた頃の話ですが、自分がモデルになって鍼を受けたとき、どんなに「良い脈になった」と言われようが、実際に楽になることは少なかったです。もちろん上手い先生もいましたが、あちこちといじくり回されて具合が悪くなることが多かったです。いくら脈が整ったと言われても体調が悪くなったら治療としては失敗です。結局、脈を診ることだけに囚われていてはダメだというのが、その会で一番学んだことでした。いま私が行っている脈診は、虚した経の要穴に触れて、脈が良い方向に変わる経と蔵をターゲットとするシンプルなものです。

『首藤傳明症例集』は宝の山
『首藤傳明症例集』は宝の山

本治法における五行穴の運用は思考錯誤を繰り返しており、現状では感覚にたよって選穴することが多いです。しかし、『首藤傳明症例集』p206にあるように、尿管結石で腰の激痛が止まらないような場合は、話はそう簡単には行かないでしょう。首藤先生が「なぜ曲泉でなく太敦なのか」と書かれていたように、症状によってツボの効き方も変動するようです。私はまだ治療中の患者が突然発作性の痛みを訴えたという経験がありません。首藤先生は長年の経験から、結石は脾虚証が多く太白が奏効し、痛みが止まらぬ場合は地機の硬結を見つけて刺鍼することで止まった例があると記しています。また、反関の脈の患者、太白に刺鍼で一向に治まらず、肝虚証とみて大敦に刺鍼したとたんに鎮痛したとあります。穴性から考えると自経の自穴を、つまり脾虚証の場合は土経の土穴、肝虚証の場合は木経の木穴を使用しています。当然、腎虚証ならば水経の水穴である陰谷を使うのではと思うところですが、首藤先生は腎虚証のときは金穴である復溜を、同じく肺虚証のときは土穴である太淵を使っています。ただし症例は少ないそうです。この場合はどちらも母経の母穴を用いていることになります。最も性格の強い「自経の自穴」という理屈を押し付ければ腎虚は水穴であり、肺虚は金穴であってほしいところですが、実際の臨床ではそのような選穴が効果的だったということです。我々はここから「なぜ、そうなったのか」ということを推測、研究するべきであり、その答えを探すために古典を利用するのだと思います。このように、『首藤傳明症例集』には我々臨床鍼灸師にとって研究材料がたくさん埋まっています。

 

ベテラン臨床家は使い慣れたツボというのを持っています。もちろん証によりますが、首藤先生は復溜や太淵といったツボを愛用しているようです。それはおそらく、先生ご自身が若い頃に復溜の刺鍼によって経絡治療の効果を体感されたことや、肺虚証体質で気分がすぐれないときに、何度も太淵の鍼によって救われてきたことと関連があるのかもしれません。私(高嶋)にもそういうツボがあります。2008年に飛行機内で急患に治療をしたとき、腎虚証で陰谷を使おうとしたのですが、ズボンが上がらず刺鍼できませんでした。かわりに最も冷えていた原穴の太谿に刺鍼したところ、かなりの手応えを感じたのです。それ以来、太谿は愛着のあるツボとなりました。今では脈を診ながら選経するときも、腎虚証のときの第一候補としても、自然に太谿に手が行くようになりました。50年も臨床を続けてきた首藤先生のことですから、よく使うツボには色々なエピソードがあるはずです。きっとその一穴が、過去に様々な場面を乗り越えてきたに違いありません。だからこそ痛みをパッと止めることができるのだと思います。私のような経験の浅い者には、日々臨床を積み重ねてツボをものにしていくしかありません。早く先生のように上手になりたいけど、経験だけは急ぐことが出来ないです。

 

(リレー講義・補足2に続く)

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    山本 (月曜日, 22 7月 2013 00:03)

    とても勉強になります、ありがとう御座います。
    リレー講義・補足2を楽しみに致しております。

  • #2

    高嶋 (月曜日, 22 7月 2013 09:39)

    山本先生

    補足2、もうすぐ書き終えますので、
    しばしお待ち下さい。

網上にある鍼灸院です
網上にある鍼灸院です