第63回全日本鍼灸学会愛媛大会

2014年5月16日~18日の3日間、松山にて「第63回全日本鍼灸学会・愛媛大会」が開催された。テーマは「いのちの源をみつめる鍼灸~からだとこころの癒しを求めて」。今回は大分から弦躋塾の先生方と一緒に、佐賀関から早朝のフェリーで四国に向かった。

 

初日は「泌尿器科領域に対する鍼灸治療の効果と現状」のセミナーを受講した。特に邵仁哲(そうじんてつ)先生の講演はとてもわかりやすくて勉強になった。尿のトラブルといっても様々な症状があるが、男性は出にくく(前立腺)女性は漏れやすい、男性は尿道炎で女性は膀胱炎など、それぞれの「下部尿路症状」の特徴について学んだ。T10~L2下腹神経(交感神経)は蓄尿に、S2~S4骨盤神経(副交感神経)は排尿に働く。泌尿器の泌を秘と読み間違え、陰部という場所と相まって恥ずかしい印象をもつ患者が多いことや、それによって症状を我慢してしまうケースがあるということなど、臨床に活かせると感じたセミナーだった。

会場は松山のひめぎんホール
会場は松山のひめぎんホール
一緒に行った弦躋塾の先生方と
一緒に行った弦躋塾の先生方と

 

2日目、村上和雄先生の「こころと遺伝子」は、どう生きるべきであるかということを考えさせる講演だった。ノーベル賞をとるような天才と凡人の遺伝子は99.5%が同じであり、眠っている0.5%の遺伝子をどう動かすか(スイッチ・オン)によって、その人の人生が変わるという。そのためには明るく・前向き・笑いの3要素が必要であり、簡単に説明のつかないものを信じる力が、良い遺伝子のスイッチオンにつながるそうである。精巧な生命の設計図である遺伝子情報は誰が書いたのか。それは人知を超えたもの(サムシング・グレート)の存在であると先生は言う。私たちは生きているのではなく、大自然によって生かされているのであり、目に見える自然よりもデータ化できない自然の働きの方に目を向けるべきであるという話に感銘を受けた。また、西洋医学だけでは人を救えず、これから祈りと医療の研究が増すのではないかと村上先生は言う。アメリカ西海岸から東海岸の患者に対して祈るという実験をしたところ、普通の患者よりも祈られている患者(本人は知らない)の治療効果が高かったそうだ。「祈りは空間と時間を越えるかもしれない」という先生の言葉に、私達が日々行なっている鍼灸治療にもそのこころは働いていると感じた。目の前で痛みや苦しみを訴える患者さんに対して、私たちは鍼をしながら「早く楽になってほしい」と無意識に祈っているはずだからである。これからはさらに、明るく、前向きに、笑いの3つを意識して臨床に取り組もう。

 

moxafricaスタッフの皆さん
moxafricaスタッフの皆さん
勉強を終えて乾杯
勉強を終えて乾杯

その他、山口創先生による「身体接触によるこころの癒し」では、五感のはじまりは皮膚からであり、皮膚の振動が全身に伝わって脳に影響を与えること、1秒間に5センチから10センチの速さで撫でるのが一番リラックスできることなどをお話していただいた。弱い刺激は神経細胞の再生を促すため、鍼も弱い刺激が良い。いろいろな場所の皮膚に触れることで心の状態が良くなり、心の状態が良くなると内臓に影響を与え、皮膚の状態も良くなる。皮膚の触覚機能には知覚機能のほかに感情喚起機能もあり、触れ合うことでオキシトシンが出て不安・抑うつの症状を低下させるという。超旋刺や鍉鍼などがなぜ効くのかということに対して理解が深まる講演だった。

 

moxafricaはアフリカの結核患者を助けるための補助療法として日本式の直接灸を取り入れ、その効果を調査しているチャリティ団体である。スタッフの伊田屋幸子先生は講演で「灸の利点」として、安価であること・パテント化できないこと・支給しやすいこと・安全であること・簡単に教えられること等を挙げ、3千円で一人1年分の灸治療が出来ることと、その援助のための寄付を募った。協力した人には後日、お礼にmoxafricaオリジナルTシャツが贈られた。

 

昨日も今日も、夜は郷土料理の店へ。気温が高かったこともあり、生ビールのうまいこと。それぞれが学んだことを話題に盛り上がり、楽しい時間を過ごした。


帰りに道後温泉へ
帰りに道後温泉へ
学んだあとの温泉は最高!
学んだあとの温泉は最高!

3日目の会頭講演「痛みの不思議」では、痛みの感じ方には個人差があり、育った環境、文化、人種によっても異なることや、侵害受容痛、神経障害痛、関連痛など痛みの種類からそれぞれの特徴を学んだ。続くシンポジウム「超高齢化社会における鍼灸治療の役割と可能性」では、4大認知証であるアルツハイマー型、血管性、レビー小体型、ピック病についての特徴や、地域の現状と課題、各種連携のなかでの鍼灸の取り組みについての発表があった。私の住む島には高齢者が多く、認知証の患者も来院される。鍼灸師としてどのような役割ができるのか、大変参考になるシンポジウムだった。

 

3日間の学会もあっという間に終わり、道後温泉で汗を流してから大分へ向かい、翌日の夕方に五島へ帰宅した。今回は弦躋塾、首藤鍼灸院見学、見学記の作成と投稿、全日本学会と続き、実に内容の豊富な10日間だった。また大分でお世話になった佐藤先生から、夜に別府の山中にある露天温泉や、地元ならではのラーメン屋に連れて行ってもらったことも、楽しい旅の思い出となった。

 

網上にある鍼灸院です
網上にある鍼灸院です