第57回経絡治療学会夏期大学

 2015年8月8日~10日の3日間、東京有明医療大学にて開催された「第57回経絡治療夏期大学」に参加しました。今年は研究科で、脈状と病理病症を理解し、手技(選経・選穴・補寫)によって脈状や体表などがどのように変化するかを学びました。

 

 大上勝行先生の講義(総論・各論)はスライドを用いて、脈状の分類から選経・選穴・補寫に至るまでの解説をされました。気血津液がどの部分でどのような状況になっているのか、可視化をすることで寒熱の偏在や脈状の構成要素について理解しやすかったです。また山口誓己先生は肝虚証と肺虚証の病理病症を担当しました。両先生ともに池田政一先生の理論をより噛み砕いて講義されていると感じました。

 

 実技の担当は渡部一雄先生でした。渡部先生は3日間で班の全員に治療を行ない、受講者はそれを見学するというスタイルで勉強しました。はじめの脈状が刺鍼によってどのように変化したかを皆で確認しつつ、刺鍼や体表観察のポイントを学びました。渡部先生の鍼は単刺でしばらく保持し、気が至れば抜くという手技で、顔面の鍼もよく用いていました。また、鍼管に入れたままの散鍼もします。どのようなタイプのモデルであれ、自然体のまま相手に同調し、患者との共同作業としての土台を作る技術に長けている先生だと思いました。雑談をしてるようでも、さりげなく問診に結びつけ、他の診断項目と照らし合わせて証を立てるというベッドサイドでのテクニックを学ばせていただきました。理論を振りかざすわけでもなく、受講生を萎縮させるような言動(残念ですがベテラン講師でもいます)をするわけでもなく、淡々と鍼の効果を出して見せてもらえたことは素晴らしい経験でした。

 

 個人的には肝実の把握と治療について勉強になりました。左関上の沈実で子宮筋腫がある方に、脾虚肝実として手三里・太白・曲泉・陽輔と鍼をすると、ややくすんだ暗い顔に赤みが出て、目が大きく輝きを増し、沈んだ硬い脈に丸みと柔らかさが現れました。同じ肝実でも曲泉の寫法は瘀血、行間の寫法は肝実熱と使い分けるとのこと。また、倦怠感・肩こり・目の疲れが主訴で沈弦の脈を打っているモデルで、私なら肝虚でとったであろうケースを、渡部先生は尺沢・復溜と本治法をされたので質問をしたところ、関元のへこみが決め手になって腎虚にしたとのことでした。このへんの匙加減は臨床経験を重ねないとなかなか難しいのでしょうが、自分はもっと体表観察をしっかり行なわなくてはならないと実感しました。

 10代の頃から難病や潰瘍に苦しめられてきた方の場合は数脈が顕著で、脾虚肝実で治療をしました。太白を長めにしっかりと補い、行間を寫(経に逆らうが手技は補法)し、下腿膀胱経に鍼をしてから背部へ鍼をし、少し時間を置いてから頚肩、特に頚を丁寧に刺鍼しました。頚をするまえに胆経や膀胱経の流れを良くするとのぼせないことや、数脈の人は置鍼しないこと、体を温めたい場合は跗陽を少し内側に取穴するなど、実際の臨床時のコツを教わりました。

 

 内容の濃い3日間で、あっという間に時間が過ぎ、充実感と疲労感をともなって帰路につきました。実は、昨年の高等科の実技があまりにひどい内容だった(班の全員が不満を訴えていました)ので懸念していたのですが、今年は臨床の糧となるエキスを吸収できて幸いでした。来年も参加します!

 

勉強して飲んで、勉強して飲んでの3日間でした
勉強して飲んで、勉強して飲んでの3日間でした
網上にある鍼灸院です
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