第30回弦躋塾セミナーの3回目です。今回は実技についてレポートします。首藤先生は2日間で10名のモデル患者に実技を行ないました。主訴は以下のとおりです。
モデル1男性:足の痺れ、腰痛。
モデル2男性:右膝痛。
モデル3女性:顎関節症・左耳閉感。
モデル4男性:左腰の痺れ・左わき腹がつる。
モデル5男性:疲労感・気分が悪い。
モデル6女性:肩こり。
モデル7男性:背部痛・動悸・不眠症。
モデル8男性:視力低下・背腰痛。
モデル9女性:頭痛・肩こり。
モデル10女性:咳。
首藤先生はモデルに対して、基本的には1寸02番の鍼を単刺で用い、ケースによっては鍉鍼を使いました。また耳めまい点、腋下点、内膝眼などには皮内鍼を保定しました。先生の手技はとても速く、あっという間に治療が進んでしまいます。初めて弦躋塾に参加された方や学生の方には、そのスピードに追いつけず、細かな治療ポイントが分からなかったかもしれません。ここではモデル1の治療について、写真を見ながら詳しく復習してみます。以下の写真はクリックすると大きくなります。
はじめに仰臥位で足背動脈、後脛骨動脈の拍動を触診する(写真1~2)。どちらも陰性である。次にSLR、PTRテストを行なう(写真3~4)。ともに陰性である。腹診では腎の部位である石門が虚して陥凹しており(写真5)、脾の部位である左梁門をつまむと少し皮膚が厚く(写真6)、押さえると少し硬い(写真7)。こういう人は飲みすぎの傾向がある。同様に肝の部位である不容、心の部位である巨闕、肺の部位である中府に腹診をするが問題はない(写真8~10)。
脈診では腎虚証か肝虚証のどちらかが疑われた(写真11)。切経では左の曲泉が虚しており、復溜や太白に反応は出ていない(写真12)。そこで脈をはっきりさせるために、※石門・中脘・左梁門に超旋刺を行なう(写真13~15)。※石門は長めに(約20秒)、中脘と左梁門は短く(約0.5秒)補った。腹部の鍼をしてから、もう一度脈診をする。証決定は肝虚証とする(写真16)。
左の曲泉付近を軽くさすり、最も凹んだところに取穴する(写真17)。本治法は時間をかけて入念に行なう(写真18)。片側の1本が大切である。初心者は鍉鍼を使ってもよい。気が至り(約20秒)、さらに回旋を続ける(着地から抜鍼まで1分ほど)。脈を診て、虚が補えたのを確認する(写真19)。あとは力を抜いて治療をする。左陰谷、右曲泉、右陰谷(写真20~22)を補い(0.5~1秒ほど)、相克経を補う意味で足三里、曲池(写真23~26)に刺鍼(0.5秒以下)する。脈を確認して(写真27)、石門と右足三里に灸点をつける(写真28~29)。大腿部の胃経と胆経に触れ、叩打痛を調べ(写真30)、胆経側(風市付近)に圧痛が強いことを確認する(写真31)。右上側臥位になる。左足は伸ばし、右股関節は屈曲して右膝をベッドにつける。このときに痛みを訴えれば股関節の異常を疑う(写真32)。
臀部の叩打痛と圧痛を診て、殿頂を取穴する(写真33~34)。ここは非常に大事なツボになる。殿頂を刺鍼する(写真35)。この姿勢だと深く入れなくてよい。1cm少々。置鍼をしてもよい。ちょっと置鍼をする間に、今の人は頭を使い過ぎるので、後頭部の鍼をする。柳谷風池、風池と触診し、風池(硬い)に刺鍼する(写真36)。肩井に刺鍼(写真37)。殿頂に灸点(写真38)。胆経の痛み・痺れがあるので、環跳に1cm刺入し、雀啄を5回する(写真38~39)。環跳は足の痙攣によく効く。
伏臥位になり、右大腸兪(硬い)、跗陽、飛陽、至陽、左肝兪を取穴する(写真40~44)。督脈も診て、反応のある人は必ず使う。超旋刺でよい。大腸兪に1.5cm刺入、回旋をする(写真45)。右跗陽に刺鍼(写真46)。跗陽はかなり有用なツボで、足の痛み、背中、頚、頭、目など膀胱経の症状を取るのにいい。場所は腓骨の骨際にとる。置鍼をしてもよい。右飛陽に刺鍼する(写真47)。
至陽に刺鍼(写真48)。左肝兪は鍼柄を弾いて、やや入念に補う(写真49~50)。左大腸兪、右肝兪、左右の心兪付近に一瞬だけ刺鍼(写真51~52)。座位になり、素早く斜角筋や僧帽筋の反応を探り、肩井、天膠に刺鍼し、散鍼して終了(写真53~55)する。
首藤先生は、「これが腰痛、ヘルニアの治療。あとは反応を診てツボを決めるが、これが標準の形です」と述べた。
以上、モデル1の治療から、取穴や刺鍼のポイントを復習してみました。写真で見るとツボの位置、刺鍼の角度、手の形といったことが理解しやすいと思います。また、実際は流れるように治療が進んでいきますが、手技をひとつひとつ分割すると、実はこれだけ正確な取穴と刺鍼を繰り返していたということも分かります。もちろん治療の舵取りは観察力や診断力であり、正確な四診ができるからこそ、治療がスムーズに進むわけです。首藤先生は瞬間的な見極めができるので動作に無駄がなく、素早い治療ができるのでしょう。これが56年の臨床で培われた「技」なのだと思います。
今セミナーは首藤先生の技術をしっかりと学べる最後の機会であり、何とか良い記録を残したいと思いました。いつも先生の手技を撮影する際は手元のアップが多いのですが、同時に少し引いたアングルがあれば、刺鍼時の姿勢など全体的な状況を把握しやすいと考え、超広角で撮れるアクションカメラを併用しました。何しろ買ったばかりでぶっつけ本番でしたが、フリープレートや一脚、自由雲台などを使い、どうにか上手くいきました(水谷先生のアイデアで小型ライトも使いました)。ここに載せた写真の多くもアクションカメラの映像から切り出したものです。セミナーに参加した人のおさらいに、また参加しなかった人にも、首藤先生の技術を学ぶ参考になれば幸いです。
また今回、第30回弦躋塾セミナー記念として、首藤先生から参加者全員に『鍼灸治療銘銘』という小冊子がプレゼントされました。先生曰く、「私の秘伝が全部書いてある。これだけやれば7割~8割は治る。治らないところは皆さんが工夫すればよろしい」とのことです。読み込んで、実践あるのみです。
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