第30回 経絡治療学会記念学術大会 東京

3月29日~30日の2日間、東京国際フォーラムB5にて「第30回 経絡治療学会記念学術大会 東京」が行なわれました。今回は首藤先生の会頭講演があり、弦躋塾生も東京に集合しました。また池田政一先生(経絡治療学会)・樋口陽一先生(古典研究会会長)・中田光亮先生(東洋はり医学会会長)による鼎談や、支部長・部会長らによる実技(9名×40分=6時間)など、学びどころが満載の学会でした。参加者は700名と大盛況でした。

首藤先生を囲んで
首藤先生を囲んで
会場の東京国際フォーラム
会場の東京国際フォーラム

首藤先生の会頭講演は、師匠の三浦長彦氏のエピソードから始まり、開業から現在に至るまでの56年間を1時間に凝縮して話されました。

 

「開業して15年が過ぎたころ、経絡治療をやろうと本間祥白先生の『経絡治療講話』を読んだが、脈診の実技になるとさっぱりわからない。これは本の勉強ではなく実物を学ばなくては駄目だと思い、北九州の小倉で行なわれた経絡治療研究会に参加した。丸山衛先生に腎虚証と診断され、復溜に鍼をしてもらったら、なかなか治らないでいた腹の張りがスーッと取れた。これは本当らしい。理屈よりも治ればいい。(この方法で患者が)治るかどうか10年やってみようと思い、40年が経った」。

 

そして患者を治療しながら理解した4つの古典的解釈(①『霊枢経脈十』の小便数而欠の欠は、あくびではなく尿量が少ないということ。②『霊枢九鍼十二原第一』の氣至の具体的な感触。③骨折をしてわかった『難経七十八難』知為鍼者信其左の意味。④『鍼灸甲乙経精神五蔵論第一』精神は五蔵に宿り、鍼灸で心の調律をすると、WHO健康定義であるsocial well-being=ボランティア精神=忘己利他の精神に至る。)や、鍼灸が奏功した疾患(脳卒中・目眩・眼筋麻痺・尿管結石・喘息・抑鬱・アカラシア・緑内障・舌咽神経痛・糖尿病・吃逆)などを紹介しました。最後に首藤先生は、「経絡治療の特徴は本治法1本で様々な症状に対応できること」にあり、鍼灸の理想的な形だとして世界遺産の登録を提言しました。

 

また、五蔵の診断治療点として首藤先生の腹診についても話す予定でしたが、時間の都合で省略されました。スライド画像製作を手伝わせていただいたので私も残念です。次の機会に講義いただけると思います。

懇親会で挨拶する首藤先生
懇親会で挨拶する首藤先生

実技と鼎談については『北米東洋医学誌』の7月号にレポートを書いたので、ここでは全体的な感想を述べます。今学会はボクシング会場のような座席配置だったためか、演者もやりにくそうでしたし、座席によってはスクリーンの文字を見るために無理な姿勢をとらなくてはなりませんでした。首を横上に向けていた私も講演に集中できないことがありました。

 

橋本先生の教育講演「経絡治療75年の経絡観」は、経絡治療の歴史を知る上で大変参考になりました。ただ、背後の画面を見ながら話に追いつくのが精一杯で、メモを残すことができなかったのが残念でした。

※(6/7追記)『経絡治療誌』no.201にスライドも含めて講演内容が掲載されました。これでばっちり復習できます。


実技では9名の先生にそれぞれの技術・学術を披露していただき、四診でのポイントや病理考察、刺鍼の際に気をつけることなど、色々と学べました。会場の4割が初参加と知ってわかりやすい表現に徹した中根先生や、体表観察や脈状の把握から、なぜそこに鍼をするのかという病理考察を丁寧に解説した山口先生など、若い世代ならではの柔軟性と視野の広さに魅力を感じました。また、実技=臨床と考えた場合、馬場先生の実技はシンプルかつ説得力がありました。自然体でいながら観衆を笑顔にさせてしまう、なにか滲み出てくる人間力のようなものも感じました。


鼎談では興味深い話がいくつもありました。坐骨神経痛を古典研では気虚と捉え、池田先生は血虚と捉え、中田先生は気虚も血虚も両方あると話されていたことや、「浅い鍼で治る患者が多いと浅い鍼ばかりになるし、深い鍼をして治ると、ついつい深い鍼をする傾向になる」と話されていたこと。「相性の良く合う患者というのがいて、合わない患者は治りが悪い。これは気の交流だから仕方が無い」など、ベテランの先生同士の本音トークが聞けました。

 

首藤先生と中田光亮先生、新井康弘先生と漢方鍼医会の皆さん
首藤先生と中田光亮先生、新井康弘先生と漢方鍼医会の皆さん
トップオブシナガワで乾杯
トップオブシナガワで乾杯

今学会は懇親会の参加費が無料ということもあり、大変な賑わいでした。2年前の弦躋塾セミナーで講師をしていただいた中田光亮先生や、東京時代にお世話になった東京漢方鍼医会の先生方と話す機会がありました。その後、品川プリンスホテル最上階にあるラウンジにて2次会となりました。ここは首藤先生のお気に入りの場所です。私にとっても先生と4時間半飲み続けたことのある思い出の場所であり、今回も皆さんと楽しい時間を過ごさせていただきました。

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コメント: 4
  • #1

    北海道なごみ (水曜日, 20 5月 2015 14:02)

    学術大会、ブログ更新お疲れ様でした。意義のある大会でしたね。高嶋先生やA先生にお会いできたことも良かったです。札幌に戻り、何人かの先生の手技を真似ています。ただ、それが良いのか悪いのかは患者さんの顔を見て判断しています(汗)鼎談も参考になりました。重鎮と言われる先生たちも、紆余曲折しながら今があるのですね。本筋を外さず、自由な視野を広げる必要を感じました。揚げ足を取るような質問があったので、なおさらですが・・・話は変わりますが、僕の母校H鍼灸専門学校も今は、経絡治療を教えているそうです。在学中は脈診の「み」の字も教えなかったのに(笑)
    10年ぶりに東洋はり医学会に参加したり、『経絡治療のすすめ』を読み返したり、社会の中で鍼灸師としてできることを模索したりと、治療院開設を前にいろいろ動き回っています。
    くれぐれもお身体には気をつけて、今度お会いできる日を楽しみにしています。

  • #2

    高嶋 (金曜日, 22 5月 2015 08:34)

    北海道なごみさん
    学会、お疲れ様でした。やはり学会や勉強会に参加すると鍼灸師としての志気が高まりますね。私も今回学んだことをいろいろ試しています。いくら理想的な理論であっても自分の臨床で結果を出せないと意味が無いし、かといってそう簡単にいくほど甘くないのが現実です。地道に勉強あるのみです。

    鼎談の中で「なぜ、東はりには肺虚証が多く、経絡治療学会には肝虚証が多いのか?」という問いに対し、井上先生と岡部先生の治療スタイルの違いではないかと推測されていたのが印象に残りました。それぐらい師匠の治療には影響を受けるものだし、その治療に合った患者が来るのだと思います。また、素問・霊枢など理論の元となっている古典は同じなのに、流派によって(あるいは経絡治療であっても)考え方は様々なのが興味深いです。そういう意味で視野を広げる必要があると私も感じました。

    先生もどうぞお元気で。またお会いできる日を楽しみにしています。

  • #3

    稲村 (火曜日, 30 6月 2015 18:56)

    高嶋先生
    いつも詳細なレポートをありがとうございます。
    ところで、場違いかもしれませんが首藤先生の2010年ドイツセミナーのDVDなんとか見終えることが出来ました。
    全3巻DVD5枚はやっぱり長いのですが、未編集ならではの緊張感や気迫がビシビシと伝わってきました。初めてのヨーロッパでのセミナーということで、実技の際のカメラの位置や座る向きなども考慮しながらの撮影で、手技もとても見やすかったです。こうしてDVDで勉強させていただけることに感謝しています。内容の方は①経絡治療の概要と超旋刺②頭痛・めまい・頸椎症の治療③こころの治療・心身症とタイトルは付いていますが、超旋刺の時の気の感じや体の使い方?(指先だけだと上手くいかない。上半身が軽い感覚で、腹式呼吸を練習すると良い)、自己治療の仕方や妊婦さんやパーキンソン病の治療など首藤先生の臨床が溢れ出てくるような感じですね。また取穴の時の親指の使い方など、文字で読んでも少しピンとこなかったのですが、この映像でよく分かりました。取穴についても大敦を例に生きたツボを解説付きで取穴されていて、とても勉強になりました。全体を通して会場の雰囲気もとても良く、特に最後の希望者全員に超琁刺を体験してもらう様子を定点カメラで撮っている映像がセミナーの良い雰囲気を表しているように思いました。名人への道はとてつもなく遠いのですがですが、時間は待ってくれないですね。学も術も身につけてより良い治療家になれるように励んでいきたいと思います。9月の弦躋塾も楽しみにしています。

  • #4

    高嶋 (水曜日, 01 7月 2015 22:04)

    稲村先生

    こんにちは。
    ドイツセミナーのDVD、見終えたんですね。長時間の視聴、お疲れ様でした。きっと勉強になったことでしょう。私も気合入れて撮ったビデオなので、感想を聞かせてもらえて嬉しいです。稲村先生が感じ取った様々なポイントを意識しながらyoutubeの臨床動画を見ると、さらに理解が深まると思います。そして、どんどん自分の臨床に取り入れてみることです。きっと治療がワンステップ向上するはずです。

    首藤先生の治療はシンプルに見えますし、先生ご自身もシンプルだと言ってますが、実はシンプルなものほど難しいです。それに先生が長年かけて培った感覚的なものは、文章や言葉に表わしきれない部分もあるのです。たとえば、私が去年ナジョムに書いた首藤鍼灸院見学記の押手の記述もそのひとつです。弦躋塾に通いはじめた14年前は気づきもしませんでしたが、14年前のビデオをいま見ると、やっぱり先生の押手は立体的にツボを把握していることがわかる。自分もそのように意識して鍼をすると、超旋刺でも効きが違う。それに気づいたこの1年は患者数も自然と増えている。臨床ってそんな世界なのだと思います。時間は待ってくれませんが、時間をかけないとわからないこともあります。だから焦らずに、お互い良い治療家をめざして日々頑張りましょう。9月の弦躋塾セミナー、楽しみですね!

網上にある鍼灸院です
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