第28回弦躋塾セミナー その2

講義をする首藤先生
講義をする首藤先生

首藤傳明先生

 

塾長の首藤先生は初日に「脳卒中の治療」の講義、2日目には実技を行なった。先生が開業された50年前は、脳卒中の患者を診ることが多かったという。当時は絶対安静という考えが主流だったが、首藤先生は効果的な鍼灸治療を考案し、発作直後からの治療を行なっていた。現在、鍼灸師が脳卒中を診る機会はほとんどなくなったが、血栓溶解剤が使えない場合や手術が出来ない場合、あるいは意識の無い患者に鍼灸治療が活用できないか。病院で鍼灸治療ができないならば、退院後のリハビリに鍼灸を使う。往診ができれば、我々鍼灸師が活躍できる場はある。リハビリは病院だけでなく、自宅でも可能である、と話された。(脳卒中に対する具体的な治療法は『首藤傳明症例集』をご覧下さい)

 

もちろん、本当は動脈硬化になる前に、その予防として鍼灸治療をするのが理想である。高血圧はないか?、糖尿はないか?、腎臓クレアチニンの値も聞いておく。鍼灸治療で肝臓にはすぐに効くが、腎臓は治りにくい。頚肩のこりは脳に行く血を減少させる。耳・目・鼻も、脳の疾患も肩こりが原因と言ってよい。肩こりを取るというのは長生きの秘訣のひとつ。肩こりがありながら、それを感じない人は要注意。治療は本治法をやって局所の鍼をすればよい。少陽経の胆経・三焦経、そのもとの肝腎の治療。頚動脈や椎骨動脈の付近を診る。風池に硬結が出た場合は、椎骨動脈の動脈硬化を意味する。足背動脈・後脛骨動脈の硬さを診ること。血圧を下げるには指間穴も有効。一時的なものにはよい。

 

81歳の首藤先生が立ったままで、後学のために自らの経験を伝授されている。私達はとても貴重な講義を受けているのだと実感した。また、中田光亮先生は3時間の講義と実技を終えたあとも席に残り、首藤先生の講義を熱心に聞いておられた。その姿勢から中田先生の鍼灸治療に対する探究心と、首藤先生に対する敬意が伝わって来た。

 

2日目の実技では、モデルの主訴を聞きつつ、脳卒中の治療に応用できる手技を披露された。首藤先生の手技は年々、よりシンプルに進化しているように感じる。無駄な動きが少ないので、学生や初心者の方は「あれ、何やってるんだろう」と思われたかもしれない。取穴・立ち位置・手の形・鍼の角度・回旋・抜鍼と一連の動作で流れるように治療が進むので、場合によってはビデオよりも写真をゆっくり見たほうが学びやすいこともある。ポイントとなりそうなカットを用意したので、参考にして下さい。

 

実技中の首藤先生
実技中の首藤先生
顖会(浮腫んだ感じあり)
顖会(浮腫んだ感じあり)
曲泉に本治法(肝虚証)
曲泉に本治法(肝虚証)

陽輔を寫す
陽輔を寫す
中脘に置鍼(硬さを感じる)
中脘に置鍼(硬さを感じる)
風池に置鍼して、肩井に超旋刺
風池に置鍼して、肩井に超旋刺

指間穴
指間穴(手足で16ヶ所)
腎兪の取穴
腎兪の取穴
座位で肩に刺鍼
座位で肩に刺鍼

 

 最近は金属アレルギーの患者もいるため、竹製の鍉鍼も使われているとのこと。2人目のモデル(腰痛・疲労感)に対しては、竹の鍉鍼を用いて実技を行なった。

竹の鍉鍼を持つ首藤先生
竹の鍉鍼を持つ首藤先生
竹の鍉鍼による超旋刺
竹の鍉鍼による超旋刺
右の中指を用いて腰部の取穴をする
右の中指を用いて腰部の取穴をする

出版祝賀会

 

初日のセミナーが終わったあと、『首藤傳明症例集』の出版祝賀会が行なわれた。来賓の挨拶の後、民謡や三味線が披露され、首藤先生より参加者に「忘己利他てぬぐい」とハンカチが配られた。それぞれの先生が懇親を深める中で、盛り上がったのがカラオケタイムだ。初めに「男の港」を歌った中田先生はプロ並みの歌唱力で会場がざわめくほど。大声援を受けて首藤先生が「無錫旅情」で歌い返す。これほど拍手と歓声に包まれた懇親会は初めて経験した。最後は万歳三唱で会は閉じられたが、首藤先生と中田先生は歌合戦を続けるべくカラオケ店へと向かった。

 

祝賀会の様子
祝賀会の様子
来賓による祝辞
来賓による祝辞
乾杯!
乾杯!

「忘己利他てぬぐい」が参加者に配られた
「忘己利他てぬぐい」が参加者に配られた
三味線と民謡
三味線と民謡
中田先生はプロ並みの歌唱力
中田先生はプロ並みの歌唱力

無錫旅情を熱唱する首藤先生
無錫旅情を熱唱する首藤先生
首藤先生と中田先生のツーショット
首藤先生と中田先生のツーショット

女性鍼灸師に囲まれて指導をする中田先生
女性鍼灸師に囲まれて指導をする中田先生
万歳三唱でにぎやかに閉会
万歳三唱でにぎやかに閉会
「もう一軒行こう」と首藤先生
「もう一軒行こう」と首藤先生

仲良くカラオケ店へ向かう
仲良くカラオケ店へ向かう
両先生の熱唱が続いた
両先生の熱唱が続いた

首藤先生と中田先生には、いくつかの共通点がある。「治療がシンプル」、「生きた経穴を探す」、「ごく浅い鍼で、気至るを感じている」ことなどだ。また、人間的にも懐が深くて度胸がある。鍼灸界にはエゴの強い先生が多いが、両先生には威張った態度が全く無い。「大切なのは患者が治ること」であり、流派や理論が異なっても批判しないという点も一致している。そういう姿勢から人柄が伝わると同時に、己の臨床に絶対的な自信のあることも伺える。瞬時に相手の話に波長を合わせる機敏さと柔軟性を持つところも、思わず引き込まれてしまうような笑顔をもっているところも同じだ。たとえ流儀は違っても、優れた臨床家の姿は似ているのだなと感じた。両先生が海外の鍼灸師から信頼されている理由もそこにあるのではないだろうか。祝賀会が終わって2次会のカラオケに向かう際、首藤先生と中田先生は九州弁で話しながら、腕を組んで歩いていた。首藤先生がこれほど親愛の情を見せるのも珍しく、よほど互いに心が通いあったのだろう。中田先生が2日間の講演を終えて帰られる際、両先生が交わした笑顔は特に印象に残った。

別れ際、握手をする首藤先生と中田先生
別れ際、握手をする首藤先生と中田先生
コメント: 8 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    矢間浩之 (金曜日, 04 10月 2013 20:24)

    こんばんわ、高知の矢間です。今回はスタッフ2名がお世話になりました。
    高嶋先生のお人柄に触れ、首藤先生や中田先生の講義・実技を観て一線でご活躍されている臨床家の心構えと氣を感じた事と思います。
    私達、夫婦は諸事情により参加できませんでしたが来年は弦サイ塾を受講します。いつも臨場感ある文章と、臨床家である高嶋先生が撮られる写真は、鍼灸専門書のどの本の写真よりも一線を画す秀逸の写真ばかりです。
    写真を観るだけでも勉強になりますし、場の雰囲気が伝わってきて実技の写真では緊張し、懇親会や首藤先生と中田先生が握手している写真は和みます。首藤先生と奥様のツーショットも和みます。
    臨場感溢れる文章や写真を本当に有難うございました。

  • #2

    meirindo (土曜日, 05 10月 2013 19:32)

    矢間先生

    コメントをありがとうございます。
    「場の雰囲気が伝わった」のなら、私も頑張って作成した甲斐があります。
    今回は特に、両先生の絆とその人柄を伝えたいと思いました。

    来年はぜひご夫妻で弦躋塾に参加してください。

  • #3

    山本 (日曜日, 06 10月 2013 22:52)

    何時もお世話になっております。

    とても詳細で臨場感のあるセミナーレポートをありがとう御座います。
    今回、残念ながら出席出来ませんでしたが、まるで参加した様な気持ちになれました。

    今回のレポートを拝読し感じた事は、首藤先生と中田先生は治療技術が素晴らしいのは当然として、そのお人柄から発せられる気自体に治療効果があるのだなと思いました。
    まさに「鍼は人なり」ですね。
    この様な気が出るようになるにはどうしたら良いのかと考えましたら、既に首藤先生が何度も回答を教えて下さっている事を思い出しました。
    忘己利他ですね。
    精進しなくてはと思います。

    忘己利他てぬぐいとハンカチ、メチャ欲しかったです!

  • #4

    meirindo (水曜日, 09 10月 2013 09:29)

    山本先生

    私も同感です。両先生も長年精進を積み重ねて来た結果が今の姿なのでしょう。今回のセミナーを学んでいて、もう流派だとかスタイルとかにこだわる必要も意味も無いという思いを強くしました。良いものは良いということです。

    私たちも、貪欲に学び、目の前に来た患者さんを一生懸命治療しましょう。たとえ狭い地域であれ、我々鍼灸師が地元の人々に頼られる存在となれば、それは日本の鍼灸界を底上げすることになるはずです。それに臨床家は治せてなんぼの世界ですからね。私たちの世代はかっこいい理想像よりも現実を直視しないとなりません。たとえが変ですが、三誠時代のロマンに浸っていた私たちが、フィリョや黒澤(俺は大怪我させたイゴールを絶対に許さん)の惨敗を見せつけられたように、古いものが伝統として受け継がれるのではなく、治療の技術も使えるものが伝統として受け継がれていくのだと思います。このへんの話は、いつか飲みながらしましょう。押忍。

  • #5

    山下 (水曜日, 09 10月 2013 16:23)

    9月の弦サイ塾でお世話になりました、
    高知県の山下真紀と申します。
    当日は不慣れで急だった私たちに対し、とても丁寧な対応していただき、
    本当にありがとうございました。直前のお忙しい中にもかかわらず、首藤先生にまで取り次ぎをしていただき、心より感謝致します。

    それに加え、先日のお手紙です。矢間先生と一緒に拝見致しました。
    駆け出しの自分たちにまで、その細やかな配慮とお心遣いに、とても心が温まりました!!ありがとうございました。
    今回、高嶋先生の人柄にふれられた事は、人として、治療家として、大切な部分を感じる事が出来、自分にとってとても貴重な出会いをいただいたと感じています。


    そして、ブログの内容とても勉強になりました。
    臨場感たっぷりの画像はとても分かりやすく!記録をとりきれなかった内容も再確認出来るなど、より実践的な内容をまとめて下さっている事、本当にありがたい事だとかんじました。
    何より、講義や実技の内容だけでなく、講師をつとめて下さった先生方のお人柄が伝わってくる文章が印象的でした。
    視点の違った内容、読んでいるだけで、その場を思い出すような。
    大御所の先生方の、強く、でも気どらない温かい魅力が、伝わってくるように思いました。そして、先生方に対する敬意と感謝の気持ちに溢れている文章なのだと感じました。

    日々のお仕事と並行して、常に記録に残し、文章にしていくには、
    大変なご苦労があると思います。
    患者さんと向き合う現場の人間として、本当に感謝いたします。
    貴重な記録を、本当にありがとうございます。

    この機会に感じたことを大切に、
    日々患者さんと向き合っていきたいと思います。

  • #6

    岡林 (水曜日, 09 10月 2013 16:56)

    こんにちは。高知県五台山接骨院の岡林星河です。
    先月の弦サイ塾セミナーではお世話になりました。
    首藤先生、田中先生の講義と実技は大変素晴らしく一生記憶に残る経験をさせて頂きました。
    経絡治療の奥の深さ、先生方やセミナーに参加されている皆さんの熱意のすごさも体感でき自分に足らない物、技術的な面もそうですが心の面でも学ばさせて頂く事ができ充実した2日間でした。
    高嶋先生と挨拶した際とても優しいオーラを感じました。機会があればお話だけでなく是非実技の方も学ばさせて下さい。よろしくお願いします。
    カメラ撮影だけでなくセミナーのレポートまでお疲れ様でした。
    2日間ありがとうございました。

  • #7

    meirindo (金曜日, 11 10月 2013 23:26)

    山下先生

    先日は弦躋塾セミナー参加、お疲れ様でした。また、ブログの感想をありがとうございます。今回の記事は作るのに数日かかったので、参考になれば嬉しいです。

    山下先生はとても感性が鋭い人ですね。お互い、今回の経験を臨床で生かせるように頑張りましょう。また、いつでも気軽にコメントをして下さい。

  • #8

    meirindo (金曜日, 11 10月 2013 23:36)

    岡林先生

    コメントをありがとうございます。
    先日は弦躋塾セミナー、お疲れ様でした。心の面を学べたとは、素晴らしい収穫がありましたね。それは手先の技術よりも効果があるかもしれません。きっと臨床で生かすことができると思います。これからもお互い頑張りましょう。

網上にある鍼灸院です
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