WFAS(世界鍼灸学会連合会学術大会) 東京/つくば2016

WFAS世界鍼灸学会連合会学術大会(東京/つくば)2016
WFAS世界鍼灸学会連合会学術大会(東京/つくば)2016

11月5~6日につくば国際会議場で行われた、WFAS(世界鍼灸学会連合会学術大会)東京/つくば 2016に参加してきました。日本の鍼灸界にとって今年最大のイベントであり、32か国から1733名の参加者があったそうです。抄録だけでも1.2㎏という圧倒的なボリューム感があり、各講演やポスター発表など、とても2日間では全体の内容把握ができないほど盛大な学会でした。会場も素晴らしく、ホテルへも直結という、快適な環境の中で学ぶことができました。

メイン会場の様子
メイン会場の様子

ランチョン実技セミナーについて

今回は首藤傳明先生のランチョン実技セミナーがあるため、元弦躋塾生や、首藤先生を慕う先生方が各地から集まりました。おそらく表舞台で先生の実技を見ることができる最後のチャンスであり、私も客席からじっくり見て学ぶつもりでいました。ところが私も実技モデルをすることになったため、ここでは実際に首藤先生から鍼を受けた感想を述べてみます。先生からは常に「俺のことを持ち上げるようなことは書くな」と言われているので、客観的に述べます。

首藤傳明先生
首藤傳明先生

私が先生の鍼を受けて感じたことは、まず手が温かくて柔らかかったことです。腹診は軽く浅く探り、背候診はときに強めの圧を感じました。刺鍼はごく軽く、ほとんど刺激がありません。刺鍼部位がふわーっと気持ちよくなる感じです。ただ、本治法の左曲泉は内ももに沿って心地良さが上がっていく感覚がはっきりあり、脈が変化したのを自分でも感じ取れました。もうひとつ、左の柳谷風池は刺入しての回旋で、ジワーンという響きが局所から目のほうに広がりました。この頃から眠気を感じてしまい、背部の鍼はどこに刺鍼しているのかよくわからなくなり、下肢膀胱経の鍼は押手の圧はわかっても、鍼をされているという感覚はありませんでした。実技が終わった後は体がホワーンとして、視界が明るくなりスッキリしました。以上が鍼を受けた感想です。

 

もし客席から見ていたら、解説をしながら実技を行っているという印象だったと思うのですが、モデルの立場からいえば、最初から最後までが全て実際の治療でした。私は左目の調子を悪くしていますが、そのことは首藤先生には伝えていません。治療の流れの中で、触診によって異常部位を発見し、正しい取穴と刺鍼を行ったということになります。大勢の観客が見ている舞台の上で、テーマに沿った話をしながら、そのように的確な治療ができるのは、やはり名人のなせる業だと思います。弟子の分際で言うのも僭越ですが、首藤先生の技にはさらに磨きがかかり、円熟さが増していると思います。たとえばYouTubeにアップしている臨床動画(12年前)と比較しても、より軽く、より優しく、よりシンプルになっている印象を受けました。そして、一見簡単に見えるものほど、実は奥深くて難しいということも再認識しました。

 

脈の変化を捉える
脈の変化を捉える
超旋刺
超旋刺

今回、実技モデルになって得たものは少なくありませんが、最も衝撃的だったのは、ふだん自分がわかったつもりでいながら全然わかっていなかったということです。もう、取穴も刺鍼も、配穴の取捨選択もリズムも全く違う。「俺は今まで何をやっていたんだろう」と、少々凹みました。たとえば攅竹の取穴はかなり外側にずれていたり、柳谷風池の刺鍼はずいぶん乱暴に回旋していたり、体の力を抜かずに治療をしていること等々、気づかされることが多かったです。この経験を無駄にせぬよう、基本的なものを学びなおし、日々の臨床に活かしていきたいです。

懇親会にて

首藤先生を囲んで
首藤先生を囲んで
ステファン・ブラウン氏と
ステファン・ブラウン氏と

懇親会では元弦躋塾生の方々と久々に酒を酌み交わしました。また、首藤先生や積聚会などで通訳をされているステファン・ブラウン氏とも久しぶりに再会しました。彼は6年前に夫人と一緒に五島に遊びに来たことがあります。今回、弦躋塾動画(第30回のパート3)の英語翻訳をしていただきました。これからも協力していただけるということで感謝しています。そして、先日発刊されたばかりの『北米東洋医学誌(NAJOM)』最新号(68号)でも、私の書いた原稿「鍼灸とCSTにおける一考察」の翻訳をしていただきました。重ねてお礼申し上げます。

鍼灸界の偉人たち

今回のように大きな学会には鍼灸界のオールスター達が集まるため、憧れの先生方に会える絶好の機会でもあります。実際に面と向かって話しをすると、著作や講演するイメージとは全然違ったということはよくあります。一言でも二言でも話をしてみて、その先生の人柄に触れるのは楽しいし、臨床家として為になる話が聞けるものです。懇親会ではもちろんのこと、会場のロビーなどでも声をかけ、その手に触らせていただきました。名人クラスの先生になると、首藤先生と同様に赤ちゃんのような柔らかい手をしていました。スタイルや流派が違っても、優れた臨床家は似たような手になるんですね。筋トレで豆をこさえた自分の手が情けなかったです。近寄りがたい雰囲気の先生に思い切って話しかけてみると、意外にお茶目だったり、反対にいつもは親切そうなイメージの先生が結構素っ気なかったりして、やっぱり人とは実際に会って話してみないとわからないなと思いました。

 

小林詔司先生
小林詔司先生
中田光亮先生
中田光亮先生
兵頭明先生・石原克己先生
兵頭明先生・石原克己先生

弦躋塾アーカイブスの動画に登場された、小林詔司先生と中田光亮先生とも話をすることができました。小林先生はセミナー動画に対して、「よくぞ、やってくれたね!」と言って、力強く握手をしてくれました。その手がもうマシュマロか、つきたての餅のような感触で温かかったです。小林先生が言われる「意識」については、私も感銘を受けて自分なりに臨床に取り入れているのですが、小林先生は「このことを言う人は私の他にいないよ」と語っておられました。とても情熱を感じる先生でした。

 

中田先生からも、「あの動画はよく出来てますよ、どうもありがとう」と声をかけていただきました。実技のときの迫力ある中田先生とは違って、実に朴訥としたお人柄です。きっとオンオフを使い分けられているのでしょう。でないと疲れてしまうはずです。それぐらい、鍼をしているときの中田先生には圧倒的なものを感じます。これは聞き忘れてしまったのですが、先生が本治法をするときに立禅のような姿勢になるのは意識してそうしているのか、自然になのか、興味があります。ご存知の方がいたら教えて下さい。

 

兵頭明先生は第22回弦躋塾セミナーで講演していただきました。実はこのセミナーに私は不参加で、兵頭先生とお話しさせていただくのは今日が初めてでした。弦躋塾セミナー講演の動画公開をお願いしたところ、「どんどん、やってください」と快諾をしていただきました。非常に気さくな先生で、文革中に中国留学をされた経験から貴重なエピソードもいくつか聞かせていただきました。まだかなり先になってしまいそうですが、弦躋塾セミナーで披露していただいた老中医直伝の技、ネットで公開させていただきます。ありがとうございました。石原克己先生からはオーラというか、明るさを感じました。手を触らせてもらうと、やはり柔らかくて温かかったです。各先生とも団体の代表なのに、威張ったところがなくて気さくな方たちでした。やっぱ大物は違います。一緒に写真も撮らせていただき、貴重な時間を過ごすことができました。

つくばの夕陽
つくばの夕陽

開催を心待ちにしていたWFAS学会も、あっという間に終わってしまいました。気がつけば、いつもの臨床生活ですが、今学会で学んだことを追試して、治療技術の向上につなげたいです。今回は自分自身に変革をもたらす出来事もありました。毎日、目の前の患者さんに対して慢心の無いよう、真摯に向き合っていきたいと思います。

 

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コメント: 5
  • #1

    山本卓 (水曜日, 16 11月 2016 00:08)

    何時もながら学会のレポート、ありがとう御座います。
    とても行きたかった学会でしたので写真付きで雰囲気が味わえとても有り難いです。
    文を拝読してますと、それぞれの先生方の気が伝わってくるかの様でした。
    首藤先生の実技のご解説を読み、改めて手の感覚を磨く大事さを痛感いたしました。

    余談ですが名人の手が赤ちゃんの様に柔らかいのは、臨床で気を使ってしまって虚してしまい柔らかくなるのかなと恥ずかしながら考えておりましが、最近たくさんの子供達と接する機会があり子供達の手を触ると名人と同じ様な柔らかい手である事が解り、自分の認識が間違っていた事に気が付きました。虚するのではなく、気が集まっている事で起こる変化なのでしょうか?

    いずれにせよ多くの先生方が開いて下さった道を、今度は自分達が開いて行かなくてはならないと感じました。
    高嶋先生のブログで何時も勉強させて頂き感謝しております。調子を崩されておられる目の事もありますので、くれぐれも無理をなさらぬ様にご自愛下さい、宜しくお願い致します。

  • #2

    呉竹OG (木曜日, 17 11月 2016 14:15)

    いつも貴重な記事、有難うございます。
    ご周知の事とは存じますが、セイリン社さんが、YouTubeに動画をアップロードされています。その中に首藤先生の動画がありました。タイトルは『首藤傳明 取穴の極意』です。
    https://www.youtube.com/watch?v=A1zjg8RKQ7M

    取り急ぎお知らせまで

  • #3

    高嶋 (木曜日, 17 11月 2016 23:09)

    山本先生
    名人の手が柔らかいのは、それだけ沢山の肌に触れてきた証だと思います。中村師範の拳ダコと一緒で、長年その道に精進して作られるものではないでしょうか。wfasの懇親会で谷岡先生のご息女が、「小児に対する場合は絶対に柔らかい手が必要になるため、普段から手を守る努力が欠かせない」と話しておられました。洗い物をするにも手袋を二重にするそうです。そのくらい敏感な手じゃないと、体表の変化を捉えることはできないのでしょう。それができるからこそ名人なのだと思います。

    特に男の手は力作業をするとすぐに硬くなるので大変ですよね。五島も寒くなってきて、もう灯油タンク運ぶだけでも豆ができそう。(石油ストーブ派)
    ----------------------------------------------------------------------------------------
    呉竹OGさん
    ありがとうございます。
    このビデオは去年、海外の鍼灸師も対象にグローバル規模でつくられたものです。
    私も少しだけ制作に関わりました。
    やっぱプロが撮ると映りが良いですね!

  • #4

    鈴木 (月曜日, 21 11月 2016 14:39)

    初めてコメントします。
    いつも、内容の濃いブログをありがとうございます。
    私は(呉竹学園・四谷校)出身で、高嶋先生と同じ卒業年度です。
    ブログの内容をはじめ、首藤先生の動画を参考に臨床に役立てております。
    私事で恐縮ですが、諸般の事情ではり医会に入会出来ず、他流(澤田流)に進んだ
    経緯があるため、中田先生の動画をある種の懐かしさを感じながら拝見しました。
    在学中、実技時間に(学生会員になっていた)級友達が楽しそうに再現していた
    (脈診、徐刺・速抜の手技、ナソ治療など)の意味が初めて理解でき、
    年甲斐もなく感極まって落涙してしまった次第です。
    今後も、貴ブログが、“迷える子羊”にとって一条の光明でありますよう、
    多摩の空の下からご祈念申し上げます。

    お身体ご自愛下さい。では、また。

    追伸:PCメガネと点眼薬(初音ミクのイラスト入り)を併用しながら閲覧しております

  • #5

    高嶋 (月曜日, 21 11月 2016 23:45)

    鈴木先生
    はじめまして、コメントありがとうございます。
    私も呉竹・四谷出身(専科・午後)ですので、同級生ですね。
    クラスの雰囲気、私も覚えています。学校がモロに現代医学寄りでしたから、東洋はりや経絡治療学会で学んでいる学生が、随分マニアックに見えたものです。まあ私も長野式に傾倒していたので、話がかみ合いませんでした(笑)。今思えば、知識も経験も乏しい学生同士だからかみ合わなかっただけで、実際の臨床からすれば補完できることのほうが多いです。だからこそ、私は流派とかスタイルとかにこだわりたくありません。そんな垣根は取っ払って、自分の臨床に役立つものはどんどん吸収するべきだと思っています。

    今回の動画で中田先生が話されている中には、流派はおろか、鍼灸というジャンルを越えてオステオパシーの理論に通じる部分さえあります。それらの吸収すべきヒントを拾えるかどうかは受講者次第であり、一回で過ぎ去ってしまったはずの講演を繰り返し見ることができるという点で、動画は非常に有用だと思います。ぜひ鈴木先生の臨床に役立てていただければ幸いです。

    現在、続きの動画作成にとりかかっていますが、PC画面を見ているとすぐにドラキュラの目のようになってしまうので、なかなか作業が捗りません。少しずつ進めますので、気長にお待ちください。

網上にある鍼灸院です
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